18 / 36
13① ー婚約者ー
「騒ぎがあったと聞いた」
次の日の夕方、ファビアンが一日遅れでそんな話をしに部屋にやってきた。
「部屋に勝手に入り込んだ警備の騎士たちが、部屋の中を荒らしたのです。私が何か悪いことをしたのだという情報が入ったとかで。冤罪でしたので、厳重に抗議しました」
「そうらしいな。女子寮が騒がしかったという話を聞いた。騒いだだけですぐに追い払われたと聞いている」
女子寮の話を誰から聞いたのか。それはつまり、マリエルに聞いたということだろうか。
言葉に気を付けた方が良いだろうに。うっかりが過ぎる。
「お前も、護衛騎士を付けた方がいいんじゃないか? 前からそう思っていたが、ラグランジュ家の問題ゆえ、口にしなかったが」
そんなこと思ったことあるのか? 聞き返しそうになるが、あまりに今さらな言葉で、どうでもいいとスルーする。
「ファビアンにはしっかりとした騎士が付いておりますからね。そういえば、街でも連れておりましたし」
「ああ。いつも側にいるからな」
問われたことを理解していないか、いつも通りアメリーの紅茶を啜って、ふと顔を上げる。
「街? どこの話をしているのだ?」
「ファビアン、聞きたいことがあったのですけれど、このままいけばファビアンは王位継承権第一。王に何かあればすぐにあなたが王です。どう思われます?」
ファビアンの浮気話などどうでもいい。ヴィオレットはファビアンに一番聞きたかったことを問うた。
「何だ。急に。王になりたいかと言われれば、なる気なんてない。俺は、兄上に従う者だとばかり思っていたから。兄上の代わりに王になるなどと」
「ですが、あなたが次の王です」
「お前は、そんなことしか言えないのか?」
「では、王位を軽んじていると?」
「そういう意味ではない!」
「ですが、もうジョナタン王子はいらっしゃいません。その気概はないということですか?」
「————っ。それとこれとは話が別だ!」
ファビアンは怒鳴りつけてカップを叩きつけるようにテーブルに置いた。がちゃりと大きな音と共に紅茶が床にまでこぼれる。突然自分の嫌いな王位の話をされて、顔が真っ赤だ。
何か捲し立ててくるかと思ったが、ファビアンは憤慨した顔を見せたまま立ち上がると、何も言わず部屋を出ていった。
護衛騎士のコームがこちらに頭を下げて後を追う。
(コームは、やっぱりただの監視なのね……)
ファビアンを諌めることのない護衛騎士だと思っていたが、ファビアンに付いて歩く盗聴魔法のようだ。彼の情報は王妃に届いているのか、王に届いているのか。
あの騎士だけではない。学院には王妃のスパイがたくさんいるのだから、自分が調べる以上に王妃が知っていて当然だった。エディとは別に協力者がうろついている。
「毒は、マリエルの仕業かしら……」
「あの女が、カミーユ様の暗殺未遂を行って、それをヴィオレット様になすりつけたってことですか?」
「その可能性も出てきたわね。私の部屋と彼女の部屋は階も違うし、近くもないのにわざわざ見学に来ていたのなら、何か起きることを知っていたかもしれないわ」
「でも、どうやって部屋に毒を入れられたんでしょう」
「それよね……」
エディは魔導士が移動して侵入したか、警備騎士が毒を隠したのではないかと疑っていた。部屋に入り込んだ時にこっそり落として別の者に探させた。警備騎士の中に犯人の仲間がいるのかもしれない。
エディは次がないように、ネックレス以外にも部屋の防犯グッズなどをくれて、今は窓や扉を壊して勝手に入り込めないように結界が張られている。魔導士が移動して入られないような結界も作られていた。
そんな結界が張れる魔法グッズなど、その辺の貴族では手に入れられないのだが、王妃の知り合いだけあるか簡単にそんな物をよこしてくる。
(使わずに済めば良いとは言われたけれど……)
ブレスレットやネックレスだけでもありがたかったのに、エディへの礼が膨らむばかりだ。
「それにしても、ファビアン王子はまだ王になる気がないんですね」
「未だ理解していないのよ。ジョナタン王子が亡くなってもうすぐ二年だというのに、自分は継ぎたくないからいつまでも駄々をこねてもいいと思っているの」
既にファビアンに権利が移っている。その重要さを理解していないのだから。
よほどカミーユの方が国について考えている。
カミーユがデキュジ族の血を持っていても、王になる方法があれば良いのだが。
次の日の夕方、ファビアンが一日遅れでそんな話をしに部屋にやってきた。
「部屋に勝手に入り込んだ警備の騎士たちが、部屋の中を荒らしたのです。私が何か悪いことをしたのだという情報が入ったとかで。冤罪でしたので、厳重に抗議しました」
「そうらしいな。女子寮が騒がしかったという話を聞いた。騒いだだけですぐに追い払われたと聞いている」
女子寮の話を誰から聞いたのか。それはつまり、マリエルに聞いたということだろうか。
言葉に気を付けた方が良いだろうに。うっかりが過ぎる。
「お前も、護衛騎士を付けた方がいいんじゃないか? 前からそう思っていたが、ラグランジュ家の問題ゆえ、口にしなかったが」
そんなこと思ったことあるのか? 聞き返しそうになるが、あまりに今さらな言葉で、どうでもいいとスルーする。
「ファビアンにはしっかりとした騎士が付いておりますからね。そういえば、街でも連れておりましたし」
「ああ。いつも側にいるからな」
問われたことを理解していないか、いつも通りアメリーの紅茶を啜って、ふと顔を上げる。
「街? どこの話をしているのだ?」
「ファビアン、聞きたいことがあったのですけれど、このままいけばファビアンは王位継承権第一。王に何かあればすぐにあなたが王です。どう思われます?」
ファビアンの浮気話などどうでもいい。ヴィオレットはファビアンに一番聞きたかったことを問うた。
「何だ。急に。王になりたいかと言われれば、なる気なんてない。俺は、兄上に従う者だとばかり思っていたから。兄上の代わりに王になるなどと」
「ですが、あなたが次の王です」
「お前は、そんなことしか言えないのか?」
「では、王位を軽んじていると?」
「そういう意味ではない!」
「ですが、もうジョナタン王子はいらっしゃいません。その気概はないということですか?」
「————っ。それとこれとは話が別だ!」
ファビアンは怒鳴りつけてカップを叩きつけるようにテーブルに置いた。がちゃりと大きな音と共に紅茶が床にまでこぼれる。突然自分の嫌いな王位の話をされて、顔が真っ赤だ。
何か捲し立ててくるかと思ったが、ファビアンは憤慨した顔を見せたまま立ち上がると、何も言わず部屋を出ていった。
護衛騎士のコームがこちらに頭を下げて後を追う。
(コームは、やっぱりただの監視なのね……)
ファビアンを諌めることのない護衛騎士だと思っていたが、ファビアンに付いて歩く盗聴魔法のようだ。彼の情報は王妃に届いているのか、王に届いているのか。
あの騎士だけではない。学院には王妃のスパイがたくさんいるのだから、自分が調べる以上に王妃が知っていて当然だった。エディとは別に協力者がうろついている。
「毒は、マリエルの仕業かしら……」
「あの女が、カミーユ様の暗殺未遂を行って、それをヴィオレット様になすりつけたってことですか?」
「その可能性も出てきたわね。私の部屋と彼女の部屋は階も違うし、近くもないのにわざわざ見学に来ていたのなら、何か起きることを知っていたかもしれないわ」
「でも、どうやって部屋に毒を入れられたんでしょう」
「それよね……」
エディは魔導士が移動して侵入したか、警備騎士が毒を隠したのではないかと疑っていた。部屋に入り込んだ時にこっそり落として別の者に探させた。警備騎士の中に犯人の仲間がいるのかもしれない。
エディは次がないように、ネックレス以外にも部屋の防犯グッズなどをくれて、今は窓や扉を壊して勝手に入り込めないように結界が張られている。魔導士が移動して入られないような結界も作られていた。
そんな結界が張れる魔法グッズなど、その辺の貴族では手に入れられないのだが、王妃の知り合いだけあるか簡単にそんな物をよこしてくる。
(使わずに済めば良いとは言われたけれど……)
ブレスレットやネックレスだけでもありがたかったのに、エディへの礼が膨らむばかりだ。
「それにしても、ファビアン王子はまだ王になる気がないんですね」
「未だ理解していないのよ。ジョナタン王子が亡くなってもうすぐ二年だというのに、自分は継ぎたくないからいつまでも駄々をこねてもいいと思っているの」
既にファビアンに権利が移っている。その重要さを理解していないのだから。
よほどカミーユの方が国について考えている。
カミーユがデキュジ族の血を持っていても、王になる方法があれば良いのだが。
あなたにおすすめの小説
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
私を陥れる様な婚約者はいりません!彼と幸せになりますから邪魔しないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアントアーネは、根も葉もない噂に苦しんでいた。完全に孤立し、毎日暴言や陰口を吐かれ、無視され睨まれ、まさに地獄の日々を送っていた。
どうして私が、こんなに苦しまなければいけないのだろう…あの男のせいで…
そう、彼女に関する悪い噂を流していたのは、最愛の婚約者、ラドルだったのだ。そんなラドルは、周りの噂を気にせず、いつもアントアーネに優しく接していた。だが事実を知っているアントアーネは、彼に優しくされればされるほど、嫌悪感が増していく。
全ての証拠をそろえ、婚約を解消する事を夢見て、日々歯を食いしばり必死に生きてきたのだ。やっと証拠がそろい、両親と一緒にラドルの家へと向かった。
予想に反し、婚約解消をしないと突っぱねるラドルだったが、アントアーネは悪い噂を流しているのがラドルだという証拠を突き付け、婚約解消を迫った。その結果、無事婚約解消までこぎつけたアントアーネだったが、彼女を待っていたのは、残酷な現実だったのだ。
※小説家になろう様、カクヨム様でも同時投稿しています
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。