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22−2 視察
「王はなんと? もちろん、話はされてこられたのですよね?」
「おじい様にそのことを話したら、喜んで見送ってくださいましたわ」
それを聞いて、王がなんと言ったのか想像が付いた。渋っていても、マルスランの生き写しのようだとでも言って、セシーリアを見送ったのだろう。マルスランの娘なのだから、何の問題もないと。
現実の見えていない王。いつでも変わらず愚かだ。
「わかりました。城からの移動、お疲れでしょう。屋敷に戻り、どうぞお休みください」
だからパルシネン家の屋敷に帰れと、騎士を促す。いいからさっさと、この女を連れて行け。
「あの、共同で行う予定なんですよね?」
「クライエン王国との討伐の話ですか」
「え、ええ。私も挨拶しなきゃって。あちらの偉い人とか来てらっしゃるんでしょ?」
「現在のところ、その予定はありません」
「え? でも、」
セシーリアは困惑の表情を浮かべる。
「増加があるかどうか、確認のために来たのです。クライエン王国と討伐を共同で行うとしても、一度城に戻ってからになります。装備をまとめ多くの騎士や魔法使いたちを連れてこなければなりませんから」
「そ、そうなの……?」
何を気にしているのか。セシーリアはやけに気の抜けた顔をする。
(クライエン王国の王族に会えると期待していたのか?)
いや、拍子抜けしたとしても、今にも舌打ちしそうな顔をした。不機嫌に、話が違うと言いたげだった。
(なんだ? 何を気にしているんだ?)
セシーリアを馬に乗せさせて、パルシネン家の屋敷へ向かう。セシーリアは騎士の前で、口元をぴくぴくと吊り上げて、爪を噛んでいた。エダンが横目で見ても気付かないほど、苛ついた雰囲気だった。
「マーサ、説明をしろ。なぜあの女がここまで来たんだ」
セシーリアにマーサをつけている意味がない。エダンはマーサを呼び出し、ことの詳細を問うた。セシーリアがおかしな動きをするならば連絡くらいしろと言いたいが、早馬を出しても間に合わなかったのだと、マーサは深く頭を下げた。
「申し訳ありません。お止めしたのですが」
「言い訳はいい。何があった」
マーサの話によると、城にいたセシーリアの部屋にヤーコブ・メッツァラが訪れた。
二人で話した後、セシーリアがエダンが向かった領地へ行くと言い出したのだ。
「理由は?」
「部屋を出されていたので、話の内容まではわかりません。申し訳ありません」
「他に気になったことはないのか」
「メッツァラを追い出せとお怒りでした。その後しきりに、急いでこちらに行かなければと言っていました。その理由はわかりませんが、ベルリオーズ様に会わなければならないと」
エダンに会って何だと言うのか。セシーリアが気にしていたのは、討伐は共同で行う。挨拶をしたい。その程度しか話をしていない。エダンに会いたかったと言っていたが、エダンに会うために来たわけではないのは明白だ。
(クライエン王国の王子に会いたがった? それならばそう言うか。あの女は欲望に正直だからな)
王子に会いたいと思っていたならば、王子はどこだと聞いただろう。共同で討伐云々の前に、王子に挨拶をしなければならないと思ったと、セシーリアは言うはずだ。
「もしかしたら、アンリエット様が来ると思ったのかもしれません」
セシーリアが何を考えたのか、想像ができた。アンリエットが来ていると聞いて、急いでこちらに来たと言うならば、アンリエットを牽制するためだろう。
討伐になど興味はなく、襲われた経験から魔物に恐怖を持っているはずなのに、そんなことのためにわざわざ来たとなると、よほどメッツァラが脅したのだろうか。
(だが、なぜだ? メッツァラがあの女を城へ連れてきた。それなのに、アンリエットが来ると言う必要があるか?)
王女の後ろ盾となりたければ、セシーリアを危険にさらす必要はない。そんなことをすればむしろ王の怒りをかうだろう。今は王に恩をうった状況であるのに、わざわざ王に反する真似をする意味はない。
セシーリアを牽制させて、領地に向かわせては、王に気付かれた時叱責されるのはメッツァラだ。
(メッツァラが失言でもしたか?)
アンリエットを褒めるようなことを言った? そうだとして、その程度で怒りを持って追い出せと言うだろうか。焦ってこちらに来ることはあり得ても、追い出すほど怒るとなると、別の理由が考えられる。
だが、それが思い付かなかった。
「あの女から目を離すな。何か気付くことがあれば、些細なことでも報告を」
「承知しました」
マーサを見送って、エダンは大きく息を吐く。この場所にセシーリアが来るのは予定外にも程があった。これでセシーリアに何かあれば、エダンの命が危ない。ほんの少しの怪我でも王は大声でエダンを糾弾するだろう。その傷が、ただ転んだだけでできた傷でもだ。
(うんざりするな)
無能たちに振り回されることが、何よりもストレスだ。
「メッツァラか……」
メッツァラ家領地に済む平民の魔法使いたちに、メッツァラとセシーリアに関わりはないか調べさせているところだ。それからマルスランの遺体の捜査。セシーリアは幼い頃、一体誰と一緒にいたのか。そもそもそんな男などいなかったのか。ならばどこであのブローチを手に入れたのか。
とにかくそれがわからなければ、セシーリアの素性は明らかにできない。それだけで、セシーリアが本物か偽物かわかるのだ。
「ベルリオーズ様。散歩ですかな」
屋敷の中で声をかけて来たのは、パルシネン家当主だ。身長が低く、小太りで、人の良さそうな顔をしている。アンリエットと二人の時に、まるで雪だるまのようだな。と言ったら、アンリエットは、だから可愛らしくて素敵な人なんですね。と返してきたのを思い出す。
(アンリエットは時折ずれているからな)
雪だるまそっくりのパルシネン当主は、にこにこ笑んで、お茶の用意をさせると部屋へ呼んだ。なにか話があるようだ。それにのって、促されたままソファーに座る。
「何か不便はございませんか」
「いや。今のところは何も」
「王女様がいらっしゃるとは思わなかったので、満足のいくお部屋をご用意できず申し訳ありません。何かご不便がありましたらお知らせください。すぐに対処させていただきます」
「気にすることはない。予定はなかった」
そんな話のために呼び止めたのか。アンリエットについて何か問うてくると思ったが。マルスランのブローチを持っていた娘を見付けた。王からすれば朗報だ。だが、アンリエットにとっては。それは想像できていただろう。ここでアンリエットについて謝罪を口にする方が偽善か。臣下としては当然の行いなのだから。エダンでもそうする。それでアンリエットに謝罪などしない。ただ、その後の消息は気になるだろう。
パルシネン当主はメイドたちを外に出し、そのニコニコ顔をやめた。
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