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45 言い訳
エダンのあの顔が忘れられない。あんな風に照れるのは初めて見た。そもそも照れたところを見たことがない。ドキドキしたままパーティを過ごし、パーティ後にエダンを探そうと思ったが、シメオンが笑顔でアンリエットの側にいたので、エダンを探すことができなかった。
「体調は問題ないのかい?」
「ええ、元気でやっています。お父様」
「アンリエット。こき使うだけならば、さっさと帰ってくるだけでいいのよ。気にすることなんてないからね」
「お母様。大丈夫です。伯父様は色々気にしてくださっています。もちろん忙しくはしていますが」
「それはこき使われているって言うんじゃないかな?」
「お兄様ったら」
アンリエットは午前、両親とシメオンと一緒に、王宮でお茶をしていた。
シメオンが計画したのだが、家族水入らずと言われては断れない。
「こんなに痩せて。疲労が祟っているんじゃないか? 食事をちゃんととっていないのでは?」
「お兄様。痩せていませんし、食事もちゃんとっていますから。昨日は遅かったので少し眠いだけです」
パーティの後、アンリエットは会場で問題が起きていないかの確認をしていた。警備はもちろんだが、招待客が問題なく会場を後にしたのかなどの、総括的な確認だ。
エダンはマルスランについていたので、個別に王と話したがる客をさばいていただろう。宰相たちと夜遅くまで働いていたようだ。
エダンは今日もマルスランの側にいる。昨日は帰っていなそうだった。戴冠式での出来事をまとめているに違いない。
(私も手伝いたいけれど)
マルスランから家族といるように言われてしまった。その好意に甘えてお茶をしているが、落ち着かない。
「お父様とお母様は、この後町へ行かれるのですか?」
「ええ。久しぶりにね。友人にお茶を誘われているから、そちらにも顔を出して」
落ち着いてスファルツ王国に来るのは久し振りだからと、予定があるようだ。前に来た時はすぐに帰ってしまったが、今回は予定を空けて来たのだろう。
ヴィクトルはすぐに帰国してしまった。王太子なのだから当然だ。
その王太子殿下の騎士でもあるシメオンだが、帰らなくていいのだろうか。シメオンを横目で見れば、ニコリと微笑む。昨夜のシメオンは引きつった顔で微笑を浮かべていたが、今日は普段の笑顔だ。
「そろそろ私たちは行くわね。明日は朝食を一緒にしましょう」
「はい、お母様」
「シメオン、あまりアンリエットを困らせるのではないよ」
父親は何をと言わず釘を刺す。しかしシメオンは返事をせずに笑んだまま。若干嘘くさい笑みで、少しばかり怒りが混じるような笑いだ。
それが誰に対してかは、アンリエットはよくわかっている。
「お兄様は、本日は?」
「庭園でも回ろうか。僕はこの城をあまり覚えていないから、案内してくれるかい?」
シメオンの圧力に、アンリエットは頷く。
(お説教でもされるかしら)
これで、自国には戻らないと言ったら、間違いなく激怒されるだろう。何と説得すべきか。
「おや、伯父上、と」
「エダン!」
声を上げて、アンリエットはすぐに口を閉じる。シメオンが微笑みを深くしたからだ。
マルスランは散歩をしているわけではなく、エダンと外で何かを話していたようだ。こちらに気付き、笑顔で近付いてくる。
「王にご挨拶を申し上げます」
「なれないなあ。二人ともかしこまらなくていいよ。両親は一緒ではないの?」
「お友だちとお会いになるので、先ほど出て行かれました」
「そうか。まだしばらく滞在するのだよね。いる間に会えるように言っておいてくれるかな」
「承知しました」
シメオンが頷く。マルスランはにこやかにしてアンリエットに微笑みかけた。
「ところで、昨日のパーティは素敵だったよ、アンリエット。よく似合っていた」
「あ、ありがとうございます」
「何人かにねえ、アンリエットはこちらに滞在したままなのか、どなたか相手はいるのかと聞かれて困ったよ」
「どこのどの奴でしょうか」
「何だい。シメオン。気になるの?」
「当然です。端からお断りを入れませんと」
シメオンはにこやかだ。マルスランも空笑いをする。
「ドレス姿が目立っていたから、仕方がないよ。素敵だっただろう? エダンの見立ては正解だったよ」
「は?」
マルスランの言葉に、アンリエットは宙を仰ぎたい気持ちになった。眉を寄せたシメオンが、アンリエットを見てからエダンを凝視する。
「あのドレスは、もしかして」
「エダンが贈ったものだよ?」
「伯父上ではなかったのですか!?」
「うーん、最初はそのつもりだったんだけどー、エダンが贈るからってね」
「お、伯父様」
「知らなかったのかあ。でもよく似合っていたのだから、問題ないだろう?」
「問題ありまくりですよ、伯父上! この男は、アンリエットを一人で追い出したのですよ!? 何年も前に婚約しておきながら、王に命令されたというだけで、アンリエットを捨てたのです!」
「お兄様、おやめくださいっ」
アンリエットはシメオンを止めようとしたが、シメオンは顔を赤くして怒鳴るほど、ひどく憤っていた。アンリエットの手を振り払うようにして、エダンを指差す。
「やっと帰ったと思ったら、またアンリエットの側にやってきて、またこの男と執務ですか!?」
「それについては悪いと思っているよ。討伐が終わってすぐにこちらに連れて来てしまったからね」
「この男がアンリエットの側にいると思うと、いつまで経っても心配でなりません」
「お兄様、私が望んでお仕事をしているのですから」
「アンリエット、お前は優しすぎるんだ。よくあの祖父の言うことを聞いて耐えていた。でももう無理しなくていいし、こんな裏切り者の側にいなくていいんだ」
「お兄様!」
「うーん、その話は聞いているけれどね」
シメオンの怒りの前に、マルスランが間の開いた声を出した。チラリと周囲を見て、衆目があるねえ。と呟く。シメオンはそれに気付いて、不服そうに口を閉じたが、もっと言いたいことがあるのだろう。拳を握ることで耐えていた。
「シメオン、ちょっと二人で話そうか。エダンはアンリエットを頼むね」
「お断りですよ!」
「まあまあ、落ち着いて、落ち着いて」
「伯父上!」
マルスランが手招きしてシメオンを促す。伯父とはいえ王に言われたため、エダン睨みをきかせてから、仕方なくシメオンはついていく。
遠のいて、姿が見えなくなると、エダンがアンリエットを促した。
「エダン、ごめんなさい。お兄様が失礼を」
「事実だから、謝る必要はない。お怒りはもっともだから」
シメオンが怒っていることはアンリエットも承知だ。こちらに残ることを両親たちに伝えるつもりだったが、まだマルスランに伝えていないので、決定してから伝えようと思ったのがバカだった。シメオンはきっと怒りの矛先をエダンに向けるとわかっていたのだから、もっと早く説得しておくべきだったのだ。
「エダン、あの」
「あちらへ行こうか」
エダンはゆっくりと歩き出す。自然と手を伸ばされて、おそるおそるその手に触れた。手を繋いで庭園を歩くなんて、あの日以来だ。
あの日、エダンの言葉に一喜一憂した、帰り道。
「昨日の話だが」
「え?」
「昨日の、愛の、話、だが」
エダンが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。言いにくそうに、またも顔を赤らめた。昨夜のエダンが思い出される。急に真っ赤になって、いつものように冷静に話すことのできないエダンが、とても新鮮だった。
「ちゃんと、覚えている。場所も、ここだった」
歩いていて気付かなかった。確かにこの場所で、立っているところですら同じかもしれない。ここで、エダンとアンリエットが向き合っていた。
「結婚が待ち遠しいと言ったのを覚えているか?」
もちろん覚えている。その言葉に歓喜したから、アンリエットが抱き付いたのだ。
「最初、自分でも驚いたんだ。ここを歩いていて、そんなことを口走って、自分で何を言っているのかと。けれど、アンリエットの喜んだ顔を見て、言ってよかったのかと」
エダンはアンリエットに向き直る。耳までほんのり赤い。
「愛していると言ったのは、その時はそう思ったからだ」
しかし、エダンはすぐにその顔を歪めた。
「ただ、その後すぐに、流されるように口にしてしまったのだと思った。アンリエットの雰囲気に流されて、そんなことまで口走ってしまったのだと」
「じゃあ、あの時は私に合わせてくれただけだったのね」
やはり、その時のその場任せの言葉だったのか。アンリエットは納得しながらも、心にどすんと重石が乗ったような気がした。あの時のエダンならば、そうだったのだろうと理解しながら。
「アンリエット、言い訳をするが、その時はそう思っていたんだ。嬉しそうな笑顔につられただけなのだと。けれど、今考えればわかる。私は、自分でわかっていなかっただけで、そう思っていたのだろうと。口走ったのではなくて、勝手に言葉が漏れるくらい、あの時間が幸福だったんだ。二人でゆっくり庭園を歩いて、のんびりとして、他愛のない話をする。隣でアンリエットが微笑んで、それを眺めて、ただそれだけが、心安らぐのだと。だから結婚が待ち遠しいと、当たり前に口にした。アンリエットの喜びを知って、愛していると気持ちを言葉にした。それに気付いたのが最近なんだ。そんな自分の気持ちがわかっていなくて、なんて愚かなのだろうと」
エダンはアンリエットを照れることなく直視する。
「愛している、アンリエット。この気持ちは嘘ではない。雰囲気に流されているわけでもない。本当の自分の気持ちだ。あの時の自分を呪ってやりたい。どうしてあそこまで、お前を大切にできなかったのか」
アンリエットの頬に雫が流れた。ポツリと地面に落ちて、滲んで消える。
「もう一回言って」
「……愛している」
「うん」
「嘘じゃない。傷付けたことを、後悔している」
「うん」
「愛しているんだ。アンリエット」
「エダン、私もよ」
瞳から雫がいくつも落ちてきた。
エダンがアンリエットの濡れた頬を拭う。それでも溢れてきて、エダンが頬に口付けた。
「私も愛しているわ。エダン」
近付いたエダンの瞳が、わずかに潤んだのが見えた気がした。
瞼を下ろしてしまったから、エダンが泣いているかはわからなかった。
「体調は問題ないのかい?」
「ええ、元気でやっています。お父様」
「アンリエット。こき使うだけならば、さっさと帰ってくるだけでいいのよ。気にすることなんてないからね」
「お母様。大丈夫です。伯父様は色々気にしてくださっています。もちろん忙しくはしていますが」
「それはこき使われているって言うんじゃないかな?」
「お兄様ったら」
アンリエットは午前、両親とシメオンと一緒に、王宮でお茶をしていた。
シメオンが計画したのだが、家族水入らずと言われては断れない。
「こんなに痩せて。疲労が祟っているんじゃないか? 食事をちゃんととっていないのでは?」
「お兄様。痩せていませんし、食事もちゃんとっていますから。昨日は遅かったので少し眠いだけです」
パーティの後、アンリエットは会場で問題が起きていないかの確認をしていた。警備はもちろんだが、招待客が問題なく会場を後にしたのかなどの、総括的な確認だ。
エダンはマルスランについていたので、個別に王と話したがる客をさばいていただろう。宰相たちと夜遅くまで働いていたようだ。
エダンは今日もマルスランの側にいる。昨日は帰っていなそうだった。戴冠式での出来事をまとめているに違いない。
(私も手伝いたいけれど)
マルスランから家族といるように言われてしまった。その好意に甘えてお茶をしているが、落ち着かない。
「お父様とお母様は、この後町へ行かれるのですか?」
「ええ。久しぶりにね。友人にお茶を誘われているから、そちらにも顔を出して」
落ち着いてスファルツ王国に来るのは久し振りだからと、予定があるようだ。前に来た時はすぐに帰ってしまったが、今回は予定を空けて来たのだろう。
ヴィクトルはすぐに帰国してしまった。王太子なのだから当然だ。
その王太子殿下の騎士でもあるシメオンだが、帰らなくていいのだろうか。シメオンを横目で見れば、ニコリと微笑む。昨夜のシメオンは引きつった顔で微笑を浮かべていたが、今日は普段の笑顔だ。
「そろそろ私たちは行くわね。明日は朝食を一緒にしましょう」
「はい、お母様」
「シメオン、あまりアンリエットを困らせるのではないよ」
父親は何をと言わず釘を刺す。しかしシメオンは返事をせずに笑んだまま。若干嘘くさい笑みで、少しばかり怒りが混じるような笑いだ。
それが誰に対してかは、アンリエットはよくわかっている。
「お兄様は、本日は?」
「庭園でも回ろうか。僕はこの城をあまり覚えていないから、案内してくれるかい?」
シメオンの圧力に、アンリエットは頷く。
(お説教でもされるかしら)
これで、自国には戻らないと言ったら、間違いなく激怒されるだろう。何と説得すべきか。
「おや、伯父上、と」
「エダン!」
声を上げて、アンリエットはすぐに口を閉じる。シメオンが微笑みを深くしたからだ。
マルスランは散歩をしているわけではなく、エダンと外で何かを話していたようだ。こちらに気付き、笑顔で近付いてくる。
「王にご挨拶を申し上げます」
「なれないなあ。二人ともかしこまらなくていいよ。両親は一緒ではないの?」
「お友だちとお会いになるので、先ほど出て行かれました」
「そうか。まだしばらく滞在するのだよね。いる間に会えるように言っておいてくれるかな」
「承知しました」
シメオンが頷く。マルスランはにこやかにしてアンリエットに微笑みかけた。
「ところで、昨日のパーティは素敵だったよ、アンリエット。よく似合っていた」
「あ、ありがとうございます」
「何人かにねえ、アンリエットはこちらに滞在したままなのか、どなたか相手はいるのかと聞かれて困ったよ」
「どこのどの奴でしょうか」
「何だい。シメオン。気になるの?」
「当然です。端からお断りを入れませんと」
シメオンはにこやかだ。マルスランも空笑いをする。
「ドレス姿が目立っていたから、仕方がないよ。素敵だっただろう? エダンの見立ては正解だったよ」
「は?」
マルスランの言葉に、アンリエットは宙を仰ぎたい気持ちになった。眉を寄せたシメオンが、アンリエットを見てからエダンを凝視する。
「あのドレスは、もしかして」
「エダンが贈ったものだよ?」
「伯父上ではなかったのですか!?」
「うーん、最初はそのつもりだったんだけどー、エダンが贈るからってね」
「お、伯父様」
「知らなかったのかあ。でもよく似合っていたのだから、問題ないだろう?」
「問題ありまくりですよ、伯父上! この男は、アンリエットを一人で追い出したのですよ!? 何年も前に婚約しておきながら、王に命令されたというだけで、アンリエットを捨てたのです!」
「お兄様、おやめくださいっ」
アンリエットはシメオンを止めようとしたが、シメオンは顔を赤くして怒鳴るほど、ひどく憤っていた。アンリエットの手を振り払うようにして、エダンを指差す。
「やっと帰ったと思ったら、またアンリエットの側にやってきて、またこの男と執務ですか!?」
「それについては悪いと思っているよ。討伐が終わってすぐにこちらに連れて来てしまったからね」
「この男がアンリエットの側にいると思うと、いつまで経っても心配でなりません」
「お兄様、私が望んでお仕事をしているのですから」
「アンリエット、お前は優しすぎるんだ。よくあの祖父の言うことを聞いて耐えていた。でももう無理しなくていいし、こんな裏切り者の側にいなくていいんだ」
「お兄様!」
「うーん、その話は聞いているけれどね」
シメオンの怒りの前に、マルスランが間の開いた声を出した。チラリと周囲を見て、衆目があるねえ。と呟く。シメオンはそれに気付いて、不服そうに口を閉じたが、もっと言いたいことがあるのだろう。拳を握ることで耐えていた。
「シメオン、ちょっと二人で話そうか。エダンはアンリエットを頼むね」
「お断りですよ!」
「まあまあ、落ち着いて、落ち着いて」
「伯父上!」
マルスランが手招きしてシメオンを促す。伯父とはいえ王に言われたため、エダン睨みをきかせてから、仕方なくシメオンはついていく。
遠のいて、姿が見えなくなると、エダンがアンリエットを促した。
「エダン、ごめんなさい。お兄様が失礼を」
「事実だから、謝る必要はない。お怒りはもっともだから」
シメオンが怒っていることはアンリエットも承知だ。こちらに残ることを両親たちに伝えるつもりだったが、まだマルスランに伝えていないので、決定してから伝えようと思ったのがバカだった。シメオンはきっと怒りの矛先をエダンに向けるとわかっていたのだから、もっと早く説得しておくべきだったのだ。
「エダン、あの」
「あちらへ行こうか」
エダンはゆっくりと歩き出す。自然と手を伸ばされて、おそるおそるその手に触れた。手を繋いで庭園を歩くなんて、あの日以来だ。
あの日、エダンの言葉に一喜一憂した、帰り道。
「昨日の話だが」
「え?」
「昨日の、愛の、話、だが」
エダンが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。言いにくそうに、またも顔を赤らめた。昨夜のエダンが思い出される。急に真っ赤になって、いつものように冷静に話すことのできないエダンが、とても新鮮だった。
「ちゃんと、覚えている。場所も、ここだった」
歩いていて気付かなかった。確かにこの場所で、立っているところですら同じかもしれない。ここで、エダンとアンリエットが向き合っていた。
「結婚が待ち遠しいと言ったのを覚えているか?」
もちろん覚えている。その言葉に歓喜したから、アンリエットが抱き付いたのだ。
「最初、自分でも驚いたんだ。ここを歩いていて、そんなことを口走って、自分で何を言っているのかと。けれど、アンリエットの喜んだ顔を見て、言ってよかったのかと」
エダンはアンリエットに向き直る。耳までほんのり赤い。
「愛していると言ったのは、その時はそう思ったからだ」
しかし、エダンはすぐにその顔を歪めた。
「ただ、その後すぐに、流されるように口にしてしまったのだと思った。アンリエットの雰囲気に流されて、そんなことまで口走ってしまったのだと」
「じゃあ、あの時は私に合わせてくれただけだったのね」
やはり、その時のその場任せの言葉だったのか。アンリエットは納得しながらも、心にどすんと重石が乗ったような気がした。あの時のエダンならば、そうだったのだろうと理解しながら。
「アンリエット、言い訳をするが、その時はそう思っていたんだ。嬉しそうな笑顔につられただけなのだと。けれど、今考えればわかる。私は、自分でわかっていなかっただけで、そう思っていたのだろうと。口走ったのではなくて、勝手に言葉が漏れるくらい、あの時間が幸福だったんだ。二人でゆっくり庭園を歩いて、のんびりとして、他愛のない話をする。隣でアンリエットが微笑んで、それを眺めて、ただそれだけが、心安らぐのだと。だから結婚が待ち遠しいと、当たり前に口にした。アンリエットの喜びを知って、愛していると気持ちを言葉にした。それに気付いたのが最近なんだ。そんな自分の気持ちがわかっていなくて、なんて愚かなのだろうと」
エダンはアンリエットを照れることなく直視する。
「愛している、アンリエット。この気持ちは嘘ではない。雰囲気に流されているわけでもない。本当の自分の気持ちだ。あの時の自分を呪ってやりたい。どうしてあそこまで、お前を大切にできなかったのか」
アンリエットの頬に雫が流れた。ポツリと地面に落ちて、滲んで消える。
「もう一回言って」
「……愛している」
「うん」
「嘘じゃない。傷付けたことを、後悔している」
「うん」
「愛しているんだ。アンリエット」
「エダン、私もよ」
瞳から雫がいくつも落ちてきた。
エダンがアンリエットの濡れた頬を拭う。それでも溢れてきて、エダンが頬に口付けた。
「私も愛しているわ。エダン」
近付いたエダンの瞳が、わずかに潤んだのが見えた気がした。
瞼を下ろしてしまったから、エダンが泣いているかはわからなかった。
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