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私はパーティの間、使用人たちが集まる部屋で待機していました。
シャルリーヌ様が体調を崩しているので、そこまで遅くはならないだろう。そう思って待っていれば、それ以上に早くお呼びがかかったのです。
戻ってきたのはクロディーヌ様だけでなく、旦那様と奥様も一緒でした。しかも旦那様はお怒りになっているようで、無言で馬車に乗り込みます。私は来た時と同じく、クロディーヌ様と一緒の馬車に乗りました。
「なにかあったのですか?」
旦那様や奥様に聞けるような雰囲気はありませんでした。それは物々しく感じるほどで、ただ事ではありません。
その理由はすぐにわかりました。
「あの男が、別の女性を連れていたのよ」
「べ、別の女性!? 王族主催のパーティでですか??」
あまりに無礼すぎる所業に、私は聞き返してしまいました。
望んだ婚約ではないとはいえ、お互いの家での約束です。その辺のパーティならまだしも、いえそれでも問題ですが、王族主催のパーティで婚約者を蔑ろにするなど、考えられないことでした。クロディーヌ様を愚弄するにも程があります。クロディーヌ様だけでなく、旦那様にも泥を被せたことになります。家同士の問題に発展しても良いと思っているのでしょうか。
「想像していたことだわ。お父様はそんなことに今さらお怒りなの」
クロディーヌ様は怒る気にもなれないと、ため息混じりにおっしゃられました。
旦那様のお怒りは治まることはなく、それからすぐに婚約破棄がなされました。
王宮で行われるパーティに迎えにこないのですから、当然と言えば当然の話です。
相手側の不義により婚約破棄となったのですから、違約金などの話にもなりました。しかも、ハンネスには隠し子がおり、パーティにはその相手の女性と一緒にいたのです。
とんでもない話に、旦那様は憤りを隠せません。そんな男を娘の婚約者にしたのかと、クロディーヌ様の言葉を信じなかったことに謝罪をされました。
その代わり、クロディーヌ様は晴れて婚約破棄となりましたが、シャルリーヌ様とエヴァリスト様との婚約が破棄されるわけではありません。
クロディーヌ様が不憫なのは変わりませんでした。
エヴァリスト様がシャルリーヌ様の見舞いに来ると、それを避けるように、クロディーヌ様はますますコンラッドとの剣の練習に身を置くようになりました。
最近は剣ではなく、弓の練習です。そのうち狩りに行こうかと、相談もしていました。
コンラッドも気を紛らわせたいのか、クロディーヌ様のわがままとも言える行動に引き連れ回されても、嫌な顔ひとつしませんでした。
婚約破棄が決まって自由になられたクロディーヌ様でしたが、顔色の悪い時があり、時折木陰でしゃがむ姿も見られました。コンラッドが焦ってハンカチを渡していたのを見たことがあります。私が駆け寄ろうとすると、コンラッドが首を振りました。人には見せたくないのだろうと、後で言われたことに衝撃を受けたものです。
クロディーヌ様が弱さを見せられるのがコンラッドだけだと思うと悔しいですが、古い仲間のような相手だからこそ話せるのだろうというコンラッドの言葉に、頷くしかありません。コンラッドはずっと幼い頃からクロディーヌ様の相手をしてきたのですから。
クロディーヌ様は望まぬ婚約をしましたが、それでも婚約破棄はクロディーヌ様の心に傷を残したのです。
そのせいでしょう。旦那様はそれ以上口を出すことはしなくなりました。ハンネスが不義を犯したとしても、あの男を選んだのは旦那様だからです。なにか言えるわけがありません。クロディーヌ様の将来を潰したようなものでした。
他に良い人はいないかと躍起になるかと思っていましたが、旦那様はクロディーヌ様を今しばらくそっとしておくつもりのようです。
なんと言っても、そこには理由がありました。
シャルリーヌ様の体調が芳しくなかったのです。
クロディーヌ様は、シャルリーヌ様のために街へ買い物に行ったり、エヴァリスト様の紹介してくれた医者に話を聞いたり、献身的にシャルリーヌ様を支えていました。
時にはエヴァリスト様に会いに行き、現状を話すまでしました。もちろんコンラッドを伴ってです。私がついていくより、男性をつけた方が良いと思っているのでしょう。婚約破棄は自分のせいではないと証明するためではありましたが、屋敷の者たちからすれば、コンラッドを連れて行くのはまずいのではないかという話になっていました。クロディーヌ様とコンラッドとの交流が増えていたからです。
「いつもクロディーヌ様と一緒にいて、大丈夫なの?」
私はコンラッドに聞きました。間違ってもクロディーヌ様がコンラッドを想いはじめているとは思いませんが、しがない噂をする者たちはいるのです。
しかしコンラッドは、そんなことは大した問題ではないと一掃しました。
「クロディーヌ様は素晴らしい方だよ。俺は尊敬している。シャルリーヌ様にとってかけがえのない人だろう。俺も役に立たなければ。俺にできることはなんでもするつもりだ。使えると思われるならば、俺は喜んで使ってもらうよ。そんなくだらない噂をする奴らは、俺がはっきり注意してやる」
コンラッドは決心したかのように口にしました。
シャルリーヌ様を好きだからこそ、シャルリーヌ様のために動いているクロディーヌ様を助けたいのでしょう。
その気持ちはよくわかりました。
しかし、その後もシャルリーヌ様の病が良くなることはありませんでした。
シャルリーヌ様が体調を崩しているので、そこまで遅くはならないだろう。そう思って待っていれば、それ以上に早くお呼びがかかったのです。
戻ってきたのはクロディーヌ様だけでなく、旦那様と奥様も一緒でした。しかも旦那様はお怒りになっているようで、無言で馬車に乗り込みます。私は来た時と同じく、クロディーヌ様と一緒の馬車に乗りました。
「なにかあったのですか?」
旦那様や奥様に聞けるような雰囲気はありませんでした。それは物々しく感じるほどで、ただ事ではありません。
その理由はすぐにわかりました。
「あの男が、別の女性を連れていたのよ」
「べ、別の女性!? 王族主催のパーティでですか??」
あまりに無礼すぎる所業に、私は聞き返してしまいました。
望んだ婚約ではないとはいえ、お互いの家での約束です。その辺のパーティならまだしも、いえそれでも問題ですが、王族主催のパーティで婚約者を蔑ろにするなど、考えられないことでした。クロディーヌ様を愚弄するにも程があります。クロディーヌ様だけでなく、旦那様にも泥を被せたことになります。家同士の問題に発展しても良いと思っているのでしょうか。
「想像していたことだわ。お父様はそんなことに今さらお怒りなの」
クロディーヌ様は怒る気にもなれないと、ため息混じりにおっしゃられました。
旦那様のお怒りは治まることはなく、それからすぐに婚約破棄がなされました。
王宮で行われるパーティに迎えにこないのですから、当然と言えば当然の話です。
相手側の不義により婚約破棄となったのですから、違約金などの話にもなりました。しかも、ハンネスには隠し子がおり、パーティにはその相手の女性と一緒にいたのです。
とんでもない話に、旦那様は憤りを隠せません。そんな男を娘の婚約者にしたのかと、クロディーヌ様の言葉を信じなかったことに謝罪をされました。
その代わり、クロディーヌ様は晴れて婚約破棄となりましたが、シャルリーヌ様とエヴァリスト様との婚約が破棄されるわけではありません。
クロディーヌ様が不憫なのは変わりませんでした。
エヴァリスト様がシャルリーヌ様の見舞いに来ると、それを避けるように、クロディーヌ様はますますコンラッドとの剣の練習に身を置くようになりました。
最近は剣ではなく、弓の練習です。そのうち狩りに行こうかと、相談もしていました。
コンラッドも気を紛らわせたいのか、クロディーヌ様のわがままとも言える行動に引き連れ回されても、嫌な顔ひとつしませんでした。
婚約破棄が決まって自由になられたクロディーヌ様でしたが、顔色の悪い時があり、時折木陰でしゃがむ姿も見られました。コンラッドが焦ってハンカチを渡していたのを見たことがあります。私が駆け寄ろうとすると、コンラッドが首を振りました。人には見せたくないのだろうと、後で言われたことに衝撃を受けたものです。
クロディーヌ様が弱さを見せられるのがコンラッドだけだと思うと悔しいですが、古い仲間のような相手だからこそ話せるのだろうというコンラッドの言葉に、頷くしかありません。コンラッドはずっと幼い頃からクロディーヌ様の相手をしてきたのですから。
クロディーヌ様は望まぬ婚約をしましたが、それでも婚約破棄はクロディーヌ様の心に傷を残したのです。
そのせいでしょう。旦那様はそれ以上口を出すことはしなくなりました。ハンネスが不義を犯したとしても、あの男を選んだのは旦那様だからです。なにか言えるわけがありません。クロディーヌ様の将来を潰したようなものでした。
他に良い人はいないかと躍起になるかと思っていましたが、旦那様はクロディーヌ様を今しばらくそっとしておくつもりのようです。
なんと言っても、そこには理由がありました。
シャルリーヌ様の体調が芳しくなかったのです。
クロディーヌ様は、シャルリーヌ様のために街へ買い物に行ったり、エヴァリスト様の紹介してくれた医者に話を聞いたり、献身的にシャルリーヌ様を支えていました。
時にはエヴァリスト様に会いに行き、現状を話すまでしました。もちろんコンラッドを伴ってです。私がついていくより、男性をつけた方が良いと思っているのでしょう。婚約破棄は自分のせいではないと証明するためではありましたが、屋敷の者たちからすれば、コンラッドを連れて行くのはまずいのではないかという話になっていました。クロディーヌ様とコンラッドとの交流が増えていたからです。
「いつもクロディーヌ様と一緒にいて、大丈夫なの?」
私はコンラッドに聞きました。間違ってもクロディーヌ様がコンラッドを想いはじめているとは思いませんが、しがない噂をする者たちはいるのです。
しかしコンラッドは、そんなことは大した問題ではないと一掃しました。
「クロディーヌ様は素晴らしい方だよ。俺は尊敬している。シャルリーヌ様にとってかけがえのない人だろう。俺も役に立たなければ。俺にできることはなんでもするつもりだ。使えると思われるならば、俺は喜んで使ってもらうよ。そんなくだらない噂をする奴らは、俺がはっきり注意してやる」
コンラッドは決心したかのように口にしました。
シャルリーヌ様を好きだからこそ、シャルリーヌ様のために動いているクロディーヌ様を助けたいのでしょう。
その気持ちはよくわかりました。
しかし、その後もシャルリーヌ様の病が良くなることはありませんでした。
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