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この領地に慣れはじめた頃、エヴァリスト様が旦那様たちよりも先にやってきました。シャルリーヌ様の病が良くなっていることを喜ばれ、二人で庭園などを散歩されました。前に比べて、仲が睦まじくなった気がしました。ただ、二人が歩いている後ろで、クロディーヌ様とコンラッドが眺めているのを見て、私の胸の方が苦しくなりました。
エヴァリスト様がいらっしゃる間は、気を利かせるように、クロディーヌ様とコンラッドは出かけていきました。馬で駆けることもありましたが、馬車で出かけることも増えました。そういう時はシャルリーヌ様になにかしらお買いになる時です。お土産を買って帰ってくると、四人で楽しげに話をしたりしていました。
お忙しいでしょうに、都から長い時間をかけて領地にやってきながら、エヴァリスト様は滞在も少なく帰られました。療養を続けるシャルリーヌ様に早く治るよう祈りながら。
そして、エヴァリスト様を見送った後、事件は起きたのです。
出かけていったクロディーヌ様とコンラッドがいつまでも帰ってこず、屋敷の騎士たちが探しに行きました。事件に巻き込まれるような危険な街ではないので、シャルリーヌ様は心配されていませんでした。しかし、残念なことに、街への道途中、崖から落ちた馬車が見つかったのです。
シャルリーヌ様は涙にくれました。エヴァリスト様が帰り途中に報を聞き、急いで戻ってきました。
どうして、クロディーヌ様とコンラッドが馬車を使ってあの道を進んだのか。あの道は危険だと知っているのに、事故に遭ったのか。誰もが原因を掴めませんでした。
買い物に行くと言って出かけていった二人は、そのまま帰らぬ人となったのです。
「シャルリーヌ様。とてもお美しいです」
結婚式はそれから一年も経たずに行われました。
シャルリーヌ様の体調が良くなったのです。顔色も良く、元気な姿を見せてくれました。
クロディーヌ様がいなくなっても、シャルリーヌ様の世話をする者はいませんでした。私が名乗り出ましたが、シャルリーヌ様は断られました。その時はまだ発疹があるとおっしゃっていましたが、最近ではその痕も消えてきたと喜んでいました。それだからと言うわけではありませんが、結婚式の衣装を合わせるため、私がお手伝いをしました。
「こちら、ブレスレットをどうぞ」
私がブレスレットをつけて差し上げている時、私は気付いたことがありました。
「ありがとう。アビー」
「いえ、……よく、お似合いです」
シャルリーヌ様はにこやかに微笑まれました。
「シャルリーヌ、綺麗だ」
エヴァリスト様が感無量だと、眉を下げて笑顔を見せました。旦那様も奥様も、シャルリーヌ様の花嫁衣装に涙を流されています。
クロディーヌ様の分までと思っていらっしゃるのでしょう。
誓いの口付けに、皆が拍手をして祝福をしました。
エヴァリスト様の幸せ溢れんばかりの笑顔に、シャルリーヌ様も涙ぐみます。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます、お二人とも!」
「シャルリーヌ様! エヴァリスト様!」
幸せそうなお二人に、みなが祝福を口にしました。
せめて、あの二人だけでも、幸せならば、と。
ですが、あの二人は、愛し合っていないはずなのです。けれど私から見ても、お二人は結婚を喜ばれていました。
私は、少し前に、クロディーヌ様とシャルリーヌ様が幼い頃にお互いを入れ替えていたということを、領地の者に教えてもらいました。
クロディーヌ様は幼い頃でも剣の練習を行なってばかりでしたが、針仕事も行っていました。それはシャルリーヌ様も同じ。入れ替わって、各々のやることを真似していたそうです。
今はそんなことはしないのだろうね。という言葉に。それはそうですよ。あの二人は正反対の性格です。と伝えていました。
シャルリーヌ様は、クロディーヌ様のように、今は剣を持ったりはしない。そう思っていたからです。
幼い頃、シャルリーヌ様は剣を持った時に、指の付け根を大きく切ってしまったことがあったそうです。そのせいで、奥様から剣を持つなと言われたそうです。
私はその傷を見たことがあります。シャルリーヌ様が、子供の頃はお転婆だったのよ、と言っていたのを思い出しました。
ですが、ブレスレットをつけたとき、シャルリーヌ様の指にその傷がなかったのです。
あるはずの、親指の付け根にある、手のひらの傷が。
本来ならシャルリーヌ様の手のひらにあるはずの、傷が。
クロディーヌ様はエヴァリスト様が好きでした。シャルリーヌ様とコンラッドはお互いを想い合っていました。
では、エヴァリスト様は? エヴァリスト様には誰か好きな人がいたのでしょうか?
クロディーヌ様とコンラッドはもういません。崖下に二人で落ちたから。
崖上から見ても、二人の遺体は確認できませんでした。馬車を操っていたコンラッドの姿もありません。落ちた時に草むらへ入ってしまったのだろうと言われています。
クロディーヌ様はきっと馬車の中。だから二人の遺体は、お墓にありません。
どちらもの遺体も、引き上げられていないのです。
コンラッドは騎士でしたが、元は平民で、市井の暮らしには慣れています。馬の扱いには慣れているため、危険な真似をしない限り、誤って崖下に落ちるような腕ではありません。
まさかという思いがあります。
クロディーヌ様とシャルリーヌ様は、顔はそっくりです。性格は違いますが、見分けが付かないほど似ています。普段は髪型が違うため見分けが付きます。ポニーテールと流した髪。それだけ。
同じ格好、同じ髪型にすれば、誰もわからないかもしれません。昔から、お互いを入れ替えていたのならば、癖なども知っていれば、今でも入れ替われば気付かれないかもしれません。
ですが、シャルリーヌ様は本当に体調が悪かったのです。領地に戻ることを決めたのは、シャルリーヌ様の療養のためです。
実際何度も吐いて、食事もできないほどでした。
食べられるものと食べられないものがあり、食べられる時は同じものばかり食べていました。
「同じものばかり?」
まさか。
医者は女性で、エヴァリスト様からの紹介でした。
体調が少し良くなった頃、領地に戻り、それから少しずつ体調をよくしていきました。
顔色も良く、散歩もして、
けれど、クロディーヌ様から発疹があり、触らない方がいいと言われたのです。
まさか。
二人は同じ顔。幼い頃は入れ替わりもしていた。
私はシャルリーヌ様とエヴァリスト様を見つめます。
笑顔の二人。まるで、クロディーヌ様とコンラッドのことは忘れたかのように。
「シャルリーヌ様、幸せそう」
「ほんとにね、色々あったけど、とっても嬉しそう」
メイドたちの言葉に、私はもう一度二人を見つめます。
ほんのりと目を潤わすシャルリーヌ様。親指に傷のない、双子の妹。
「どうか、お幸せに」
私はただ、四人の幸せを願うばかりです。
エヴァリスト様がいらっしゃる間は、気を利かせるように、クロディーヌ様とコンラッドは出かけていきました。馬で駆けることもありましたが、馬車で出かけることも増えました。そういう時はシャルリーヌ様になにかしらお買いになる時です。お土産を買って帰ってくると、四人で楽しげに話をしたりしていました。
お忙しいでしょうに、都から長い時間をかけて領地にやってきながら、エヴァリスト様は滞在も少なく帰られました。療養を続けるシャルリーヌ様に早く治るよう祈りながら。
そして、エヴァリスト様を見送った後、事件は起きたのです。
出かけていったクロディーヌ様とコンラッドがいつまでも帰ってこず、屋敷の騎士たちが探しに行きました。事件に巻き込まれるような危険な街ではないので、シャルリーヌ様は心配されていませんでした。しかし、残念なことに、街への道途中、崖から落ちた馬車が見つかったのです。
シャルリーヌ様は涙にくれました。エヴァリスト様が帰り途中に報を聞き、急いで戻ってきました。
どうして、クロディーヌ様とコンラッドが馬車を使ってあの道を進んだのか。あの道は危険だと知っているのに、事故に遭ったのか。誰もが原因を掴めませんでした。
買い物に行くと言って出かけていった二人は、そのまま帰らぬ人となったのです。
「シャルリーヌ様。とてもお美しいです」
結婚式はそれから一年も経たずに行われました。
シャルリーヌ様の体調が良くなったのです。顔色も良く、元気な姿を見せてくれました。
クロディーヌ様がいなくなっても、シャルリーヌ様の世話をする者はいませんでした。私が名乗り出ましたが、シャルリーヌ様は断られました。その時はまだ発疹があるとおっしゃっていましたが、最近ではその痕も消えてきたと喜んでいました。それだからと言うわけではありませんが、結婚式の衣装を合わせるため、私がお手伝いをしました。
「こちら、ブレスレットをどうぞ」
私がブレスレットをつけて差し上げている時、私は気付いたことがありました。
「ありがとう。アビー」
「いえ、……よく、お似合いです」
シャルリーヌ様はにこやかに微笑まれました。
「シャルリーヌ、綺麗だ」
エヴァリスト様が感無量だと、眉を下げて笑顔を見せました。旦那様も奥様も、シャルリーヌ様の花嫁衣装に涙を流されています。
クロディーヌ様の分までと思っていらっしゃるのでしょう。
誓いの口付けに、皆が拍手をして祝福をしました。
エヴァリスト様の幸せ溢れんばかりの笑顔に、シャルリーヌ様も涙ぐみます。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます、お二人とも!」
「シャルリーヌ様! エヴァリスト様!」
幸せそうなお二人に、みなが祝福を口にしました。
せめて、あの二人だけでも、幸せならば、と。
ですが、あの二人は、愛し合っていないはずなのです。けれど私から見ても、お二人は結婚を喜ばれていました。
私は、少し前に、クロディーヌ様とシャルリーヌ様が幼い頃にお互いを入れ替えていたということを、領地の者に教えてもらいました。
クロディーヌ様は幼い頃でも剣の練習を行なってばかりでしたが、針仕事も行っていました。それはシャルリーヌ様も同じ。入れ替わって、各々のやることを真似していたそうです。
今はそんなことはしないのだろうね。という言葉に。それはそうですよ。あの二人は正反対の性格です。と伝えていました。
シャルリーヌ様は、クロディーヌ様のように、今は剣を持ったりはしない。そう思っていたからです。
幼い頃、シャルリーヌ様は剣を持った時に、指の付け根を大きく切ってしまったことがあったそうです。そのせいで、奥様から剣を持つなと言われたそうです。
私はその傷を見たことがあります。シャルリーヌ様が、子供の頃はお転婆だったのよ、と言っていたのを思い出しました。
ですが、ブレスレットをつけたとき、シャルリーヌ様の指にその傷がなかったのです。
あるはずの、親指の付け根にある、手のひらの傷が。
本来ならシャルリーヌ様の手のひらにあるはずの、傷が。
クロディーヌ様はエヴァリスト様が好きでした。シャルリーヌ様とコンラッドはお互いを想い合っていました。
では、エヴァリスト様は? エヴァリスト様には誰か好きな人がいたのでしょうか?
クロディーヌ様とコンラッドはもういません。崖下に二人で落ちたから。
崖上から見ても、二人の遺体は確認できませんでした。馬車を操っていたコンラッドの姿もありません。落ちた時に草むらへ入ってしまったのだろうと言われています。
クロディーヌ様はきっと馬車の中。だから二人の遺体は、お墓にありません。
どちらもの遺体も、引き上げられていないのです。
コンラッドは騎士でしたが、元は平民で、市井の暮らしには慣れています。馬の扱いには慣れているため、危険な真似をしない限り、誤って崖下に落ちるような腕ではありません。
まさかという思いがあります。
クロディーヌ様とシャルリーヌ様は、顔はそっくりです。性格は違いますが、見分けが付かないほど似ています。普段は髪型が違うため見分けが付きます。ポニーテールと流した髪。それだけ。
同じ格好、同じ髪型にすれば、誰もわからないかもしれません。昔から、お互いを入れ替えていたのならば、癖なども知っていれば、今でも入れ替われば気付かれないかもしれません。
ですが、シャルリーヌ様は本当に体調が悪かったのです。領地に戻ることを決めたのは、シャルリーヌ様の療養のためです。
実際何度も吐いて、食事もできないほどでした。
食べられるものと食べられないものがあり、食べられる時は同じものばかり食べていました。
「同じものばかり?」
まさか。
医者は女性で、エヴァリスト様からの紹介でした。
体調が少し良くなった頃、領地に戻り、それから少しずつ体調をよくしていきました。
顔色も良く、散歩もして、
けれど、クロディーヌ様から発疹があり、触らない方がいいと言われたのです。
まさか。
二人は同じ顔。幼い頃は入れ替わりもしていた。
私はシャルリーヌ様とエヴァリスト様を見つめます。
笑顔の二人。まるで、クロディーヌ様とコンラッドのことは忘れたかのように。
「シャルリーヌ様、幸せそう」
「ほんとにね、色々あったけど、とっても嬉しそう」
メイドたちの言葉に、私はもう一度二人を見つめます。
ほんのりと目を潤わすシャルリーヌ様。親指に傷のない、双子の妹。
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