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SIDE エヴァリスト4
ハンネスを陥れるには、この女性の証言が必要だ。女性に連絡を取り、愚行を世間に広める。
こういった汚い真似は、俺が行えば済むこと。そう思っていたが、クロディーヌは俺の考えは見抜いていると、手紙を書くから、女性に渡してほしいと言ってきた。十分な援助をするから、手助けしたいという内容だ。
断られたら、別の手を考える。傷付いた女性をそれ以上傷付けたくないから。それがクロディーヌの要望だった。
「はあ。クロディーヌならそう言うと思っていたが、彼女の証言がない場合、他の手を考えなければならないからな」
それでは、間に合わないかもしれない。シャルリーヌとの結婚までに、いや、シャルリーヌの妊娠に気付かれる前に、なんとかしなければ。
女性に会うために、一人貧民街へ足を踏み入れ、女性の家へ来たが、それは末端貴族でも考えられないような家だった。
隙間風の入る扉。床は砂だらけ。赤ん坊は綺麗なベッドで寝ていたが、ベッドとは思えないソファーが一つだけ。彼女はどこで眠っているのか。これでは体調を崩すだろう。それよりも驚いたのが、その女性の容貌だった。気の弱そうな柔らかい雰囲気の女性と聞いていたが、まったく違う。目の下はこそげ、くまがひどく、頬がこけてやけに痩せていた。
女性は俺を見るなり怯えた顔をした。しかし、俺の顔を知っているのか、思い出したように、高貴な方がこんな所になんの用があるのかと、怪訝な顔をして問うてきた。俺はハンネスとの婚約破棄について協力してほしいという話をした。
驚きの中に、興味深げな色が見える。だから、俺はクロディーヌの手紙を渡した。
「証言をするだけでよいのですか?」
「ああ。パーティ会場で馬車を降りる時にでも、声をかけてくれればいい。そこでハンネスとあったことを大声で訴えてくれれば」
「パーティ……」
「もちろん礼はするし、家も提供する。医者も」
言いながら、焦るような気持ちになってきた。女性に穏やかな雰囲気はなく、冷めた目つきで俺を見上げたからだ。
このような状況になっていながら、ハンネスを恨んでいなかったらどうなるか。クロディーヌの手紙を渡さなければよかったと後悔した。
「ベルティエ家の令嬢の手紙には、ドレスを着て現れてほしいと書いてありますが」
「なに?」
女性は俺に手紙を見せてくれた。クロディーヌの手紙には、証言についてだけ書かれていたのではなかったのか。
読めば、女性の言う通り、パーティに出席し、あの男を捕まえていてほしいとまで書かれていた。招待状はなんとかする。苦痛かもしれないが、あの男に暴言を吐いてもいいから、私の両親が現れるまで、恋人のように振る舞ってほしいと。
「なにを考えているんだ」
「ベルティエ家の令嬢は強い方なんですね。私がハンネスの恋人で、子供がいると言えば、令嬢はたちまちハンネスに浮気された女だと言われるでしょう。それでもいいから、両親にハンネスがどれだけ最悪な男か知らせたいんです。私もまた恥をかくでしょう。けれど、あとでハンネスを殴ってもいい。必ず守るから。というところは、さすがベルティエ家の令嬢ですよね」
最後に、たとえあなたがハンネスを殺したいとしても、殺してはいけない。あなたが罪に問われるから。けれど、殴りたいのならば殴っていい。私があなたを必ず守るから。と書かれていた。
女性から女性へ言う言葉ではない。しかもこれを手紙に書いたということは、俺がクロディーヌを守ろうとすることは、しっかり気付かれていたということだ。クロディーヌが後ろ指差されるのはごめんだ。できるだけ狭い範囲で終わらせたい。その気持ちを、当たり前のように察して、この手紙を渡してくれと言ったのだろう。
俺が読まないと信じて。
「はあ。ドレスなどは用意させる。その前に家を変えよう。あなたの子供が居心地良く住める場所で休んで、パーティに出席してほしい」
「やります。やらせてください。もう二度とハンネスには会えないと思っていました。子供ができて屋敷に行ったら、会うことすら許されなかった。手紙を出していたから、私に会おうともしなかったんです。あんな男に騙されて、自分を恨んだけれど、仕返そうなんて考えませんでした。私の心が弱かったから。でも、」
女性は顔を上げる。先ほどの疲れた目ではなく、生気を持った目で、俺を見上げた。
「ハンネスの社会的地位を落とす機会をくれるのならば、喜んでやります!」
恨みを晴らしたい。女性は嬉々として、そう口にした。
女性たちの強さに、自分の弱さを思い知った気がする。
クロディーヌを守りたいと言いながら、彼女の覚悟をわかっていなかったのだろうか。
そこまでしても、ハンネスと婚約破棄したいのだ。周囲が白い目で見るほどハンネスを陥れれば、ベルティエ家としては婚約話を進めようなどという考えは起きない。そしてそれ以上無理強いしてこないと、父親の心理も理解している。理解していなかったのは、俺だけか。わかっていても、そこまでクロディーヌを貶めたくなかった。
また後悔を思い出す。
首を振って、パーティでハンネスを完全に陥れる方法を考える。
再び後悔などしたくない。
「パーティに迎えに来させないというのはどうだ? 先に行かせて、会場で鉢合わせる。女性と一緒にいるハンネスを両親に見せ、そこで子供の話などを大声でしてもらう。紹介状はこちらで手に入れよう」
「ハンネスにパーティに先に行かせる方法なら、私が手紙を書くわ。体調が悪く、パーティには行けないと。あの男はコケにされたことを恨むから、うちには迎えに来ず、一人でパーティに行くはずよ」
「書かない方がいい。書くならば彼女に書いてもらう。君は証拠を残しては駄目だ」
「でも、」
「君は一切関わりがなく、ハンネスには別のパートナーがいて、会場で揉めた。それが一番いい。俺が彼女と接触しても、気になって調べたと言うだけで済むが、迎えにくるなと君が書いた手紙が証拠として残っては、理由が必要になる」
クロディーヌはなるほどと頷いた。どんな些細なことでも、証拠は残さない方がいい。
ハンネスには女性からではなく、匿名で手紙を出すつもりだ。彼女のことを知っている。黙っていてほしければ、一人で来いという内容だ。女性から出したような封筒で出せば、あの男は読むだろう。女性にモテると勘違いするような男に違いない。
お前のやってきたことを全て知っている。その内容で、ハンネスは食いつく。二重人格のような腐った性格だと知らされるのが、ハンネスにとって一番衝撃だからだ。
こうなれば、とことん陥れてやる。
俺はさりげなくベルティエ家の両親に、ハンネスの話を振った。クロディーヌの婚約者はどうしているのかと問い、学院では気になる噂があると口が滑ったように、気になるような言い方で止める。姑息だと思われてもいい。できる限り追い打ちをかけられるようにしたかった。
卑怯な真似だろうか。だが、それ以上に、クロディーヌをあの男に渡すのが許せなかった。
「まだいらっしゃらないの?」
「ええ、お母様。迎えにくるとおっしゃっていたのだけれど。もう少し待ってみます。お父様とお母様は先に出発してください。シャルリーヌも難しそうだし、彼が迎えにくるまで一緒にいますね」
クロディーヌは用意を終えて待つだけだと言って、両親を見送る。
その後、やはりハンネスは迎えに来ないと、俺と一緒に出発することにする。
パーティに行かなければ、クロディーヌが注目を浴びることもないだろう。しかし、ハンネスがベルティエ家の両親に反論するのを止めるために、クロディーヌは自分で行くと決心している。ハンネスに言い訳する隙を与えないため、クロディーヌは自ら動きたいのだ。俺もできることだが、注目を浴びることによって、その衝撃を強めたいに違いない。
俺では守れないのか。などと愚痴っている場合ではない。クロディーヌの思うまま、その手伝いを俺がすることに決めたのだから、彼女の補佐を徹底するしかない。
「仕方がないね。今日は一緒に行くかい?」
これ以上待ってはパーティに遅刻してしまう。時間が遅すぎると彼女が見つかってしまうかもしれない。いい加減出る必要がある。
ハンネスは本当に迎えに来なかった。今頃手紙を握りしめておののいているのだろう。いったい誰が、こんな手紙を送ってきたのだと、戦々恐々としているはずだ。
こういった汚い真似は、俺が行えば済むこと。そう思っていたが、クロディーヌは俺の考えは見抜いていると、手紙を書くから、女性に渡してほしいと言ってきた。十分な援助をするから、手助けしたいという内容だ。
断られたら、別の手を考える。傷付いた女性をそれ以上傷付けたくないから。それがクロディーヌの要望だった。
「はあ。クロディーヌならそう言うと思っていたが、彼女の証言がない場合、他の手を考えなければならないからな」
それでは、間に合わないかもしれない。シャルリーヌとの結婚までに、いや、シャルリーヌの妊娠に気付かれる前に、なんとかしなければ。
女性に会うために、一人貧民街へ足を踏み入れ、女性の家へ来たが、それは末端貴族でも考えられないような家だった。
隙間風の入る扉。床は砂だらけ。赤ん坊は綺麗なベッドで寝ていたが、ベッドとは思えないソファーが一つだけ。彼女はどこで眠っているのか。これでは体調を崩すだろう。それよりも驚いたのが、その女性の容貌だった。気の弱そうな柔らかい雰囲気の女性と聞いていたが、まったく違う。目の下はこそげ、くまがひどく、頬がこけてやけに痩せていた。
女性は俺を見るなり怯えた顔をした。しかし、俺の顔を知っているのか、思い出したように、高貴な方がこんな所になんの用があるのかと、怪訝な顔をして問うてきた。俺はハンネスとの婚約破棄について協力してほしいという話をした。
驚きの中に、興味深げな色が見える。だから、俺はクロディーヌの手紙を渡した。
「証言をするだけでよいのですか?」
「ああ。パーティ会場で馬車を降りる時にでも、声をかけてくれればいい。そこでハンネスとあったことを大声で訴えてくれれば」
「パーティ……」
「もちろん礼はするし、家も提供する。医者も」
言いながら、焦るような気持ちになってきた。女性に穏やかな雰囲気はなく、冷めた目つきで俺を見上げたからだ。
このような状況になっていながら、ハンネスを恨んでいなかったらどうなるか。クロディーヌの手紙を渡さなければよかったと後悔した。
「ベルティエ家の令嬢の手紙には、ドレスを着て現れてほしいと書いてありますが」
「なに?」
女性は俺に手紙を見せてくれた。クロディーヌの手紙には、証言についてだけ書かれていたのではなかったのか。
読めば、女性の言う通り、パーティに出席し、あの男を捕まえていてほしいとまで書かれていた。招待状はなんとかする。苦痛かもしれないが、あの男に暴言を吐いてもいいから、私の両親が現れるまで、恋人のように振る舞ってほしいと。
「なにを考えているんだ」
「ベルティエ家の令嬢は強い方なんですね。私がハンネスの恋人で、子供がいると言えば、令嬢はたちまちハンネスに浮気された女だと言われるでしょう。それでもいいから、両親にハンネスがどれだけ最悪な男か知らせたいんです。私もまた恥をかくでしょう。けれど、あとでハンネスを殴ってもいい。必ず守るから。というところは、さすがベルティエ家の令嬢ですよね」
最後に、たとえあなたがハンネスを殺したいとしても、殺してはいけない。あなたが罪に問われるから。けれど、殴りたいのならば殴っていい。私があなたを必ず守るから。と書かれていた。
女性から女性へ言う言葉ではない。しかもこれを手紙に書いたということは、俺がクロディーヌを守ろうとすることは、しっかり気付かれていたということだ。クロディーヌが後ろ指差されるのはごめんだ。できるだけ狭い範囲で終わらせたい。その気持ちを、当たり前のように察して、この手紙を渡してくれと言ったのだろう。
俺が読まないと信じて。
「はあ。ドレスなどは用意させる。その前に家を変えよう。あなたの子供が居心地良く住める場所で休んで、パーティに出席してほしい」
「やります。やらせてください。もう二度とハンネスには会えないと思っていました。子供ができて屋敷に行ったら、会うことすら許されなかった。手紙を出していたから、私に会おうともしなかったんです。あんな男に騙されて、自分を恨んだけれど、仕返そうなんて考えませんでした。私の心が弱かったから。でも、」
女性は顔を上げる。先ほどの疲れた目ではなく、生気を持った目で、俺を見上げた。
「ハンネスの社会的地位を落とす機会をくれるのならば、喜んでやります!」
恨みを晴らしたい。女性は嬉々として、そう口にした。
女性たちの強さに、自分の弱さを思い知った気がする。
クロディーヌを守りたいと言いながら、彼女の覚悟をわかっていなかったのだろうか。
そこまでしても、ハンネスと婚約破棄したいのだ。周囲が白い目で見るほどハンネスを陥れれば、ベルティエ家としては婚約話を進めようなどという考えは起きない。そしてそれ以上無理強いしてこないと、父親の心理も理解している。理解していなかったのは、俺だけか。わかっていても、そこまでクロディーヌを貶めたくなかった。
また後悔を思い出す。
首を振って、パーティでハンネスを完全に陥れる方法を考える。
再び後悔などしたくない。
「パーティに迎えに来させないというのはどうだ? 先に行かせて、会場で鉢合わせる。女性と一緒にいるハンネスを両親に見せ、そこで子供の話などを大声でしてもらう。紹介状はこちらで手に入れよう」
「ハンネスにパーティに先に行かせる方法なら、私が手紙を書くわ。体調が悪く、パーティには行けないと。あの男はコケにされたことを恨むから、うちには迎えに来ず、一人でパーティに行くはずよ」
「書かない方がいい。書くならば彼女に書いてもらう。君は証拠を残しては駄目だ」
「でも、」
「君は一切関わりがなく、ハンネスには別のパートナーがいて、会場で揉めた。それが一番いい。俺が彼女と接触しても、気になって調べたと言うだけで済むが、迎えにくるなと君が書いた手紙が証拠として残っては、理由が必要になる」
クロディーヌはなるほどと頷いた。どんな些細なことでも、証拠は残さない方がいい。
ハンネスには女性からではなく、匿名で手紙を出すつもりだ。彼女のことを知っている。黙っていてほしければ、一人で来いという内容だ。女性から出したような封筒で出せば、あの男は読むだろう。女性にモテると勘違いするような男に違いない。
お前のやってきたことを全て知っている。その内容で、ハンネスは食いつく。二重人格のような腐った性格だと知らされるのが、ハンネスにとって一番衝撃だからだ。
こうなれば、とことん陥れてやる。
俺はさりげなくベルティエ家の両親に、ハンネスの話を振った。クロディーヌの婚約者はどうしているのかと問い、学院では気になる噂があると口が滑ったように、気になるような言い方で止める。姑息だと思われてもいい。できる限り追い打ちをかけられるようにしたかった。
卑怯な真似だろうか。だが、それ以上に、クロディーヌをあの男に渡すのが許せなかった。
「まだいらっしゃらないの?」
「ええ、お母様。迎えにくるとおっしゃっていたのだけれど。もう少し待ってみます。お父様とお母様は先に出発してください。シャルリーヌも難しそうだし、彼が迎えにくるまで一緒にいますね」
クロディーヌは用意を終えて待つだけだと言って、両親を見送る。
その後、やはりハンネスは迎えに来ないと、俺と一緒に出発することにする。
パーティに行かなければ、クロディーヌが注目を浴びることもないだろう。しかし、ハンネスがベルティエ家の両親に反論するのを止めるために、クロディーヌは自分で行くと決心している。ハンネスに言い訳する隙を与えないため、クロディーヌは自ら動きたいのだ。俺もできることだが、注目を浴びることによって、その衝撃を強めたいに違いない。
俺では守れないのか。などと愚痴っている場合ではない。クロディーヌの思うまま、その手伝いを俺がすることに決めたのだから、彼女の補佐を徹底するしかない。
「仕方がないね。今日は一緒に行くかい?」
これ以上待ってはパーティに遅刻してしまう。時間が遅すぎると彼女が見つかってしまうかもしれない。いい加減出る必要がある。
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