彼女が死んだ理由は、誰も知らない

MIRICO

文字の大きさ
19 / 26

SIDE コンラッド3

 どうすればいいのか。ずっと考えていても、頭が悪い俺には、いい案なんてこれっぽっちも浮かばなかった。
 日にちだけが過ぎていく。

 エヴァリスト様から紹介を受けた医者が、シャルリーヌ様の体調を診てくれるだけましか。シャルリーヌ様は何度か診断を受けている。体調は良く、お腹の子供も問題ないと聞いた。その話を直接聞けないのは残念だけれど、これも自業自得だ。

「喜んでいるのに、それを表に出せないなんて」
 なんて虚しいものだろう。それも、シャルリーヌ様に負担をかけるのだから、最低なんてものではない。

「最悪だ」
「なにがよ」
「お嬢様!?」

 後ろから気配を消して来ないでほしい。今日はクロディーヌ様が剣を持ってやってきた。シャルリーヌ様は無理ができないので、負担を減らすために弓の練習にしていた。少しは動いた方がいいとは言え、剣を使うなど言語道断だ。だから、剣を持っていればクロディーヌ様である。そんなものを見ないでも分かるけれど。

「なんだか、顔色がいいですね」
「そう?」

 このところシャルリーヌ様だけでなく、クロディーヌ様も顔色が悪かった。ハンネスとの婚約を破棄するために、エヴァリスト様とあれこれやっていたが、不安もあったのだろう。やっと婚約破棄が決まって、喜びたいが暗い顔をしていなければならないとは言っていたが、その暗さはまったく見えない。吹っ切れたふりをしているのかもしれないが、血色がいいというより、機嫌が良いように思えた。

「いいことでもあったんですか?」
「えっ!? わ、わかる?」

 やっぱりあったのか。恥ずかしそうに両手で頬を包み込むが、良いことを思い出したのか顔が赤くなった。なんとなくだが、想像が付いて、気が抜ける気がした。安堵したのだ。

 そうか。通じ合えたんだな。

「私たち、私と、エヴァ、両想いだったの」
「おめでとうございます。良かったですね」
「反応薄くない?」
「いつになったらお互い気持ちを確かめ合うのか、気になってたんですよ」
「……なによそれ。知ってたの?」
「見てれば分かりますよ。お二人とも、すれ違ってばかりだったから。どうにか丸く収まらないかって、心配してたんです」

 想いがあっても、婚約があるから言えないのだろうと察していた。お互い想い合っていても、状況が悪すぎた。それもひとまずは落ち着いたから、エヴァリスト様が想いを伝えたのだろう。本当に良かった。
 クロディーヌ様は不服そうな顔をしたが。お互い気付いていなかったようだ。側から見ていれば分かるのに。いや、俺たちもそうだったか。

「それでだけど、これからのことをどうするか」
「まだ、いい案が浮かんでいなくて」
「本当に平民として生きていく気ならば、一つだけ手があるって言ったら、どうする?」
「あるんですか!?」

 早く教えてほしい。できることならばなんでもやると前のめりになれば、クロディーヌ様は少しだけ間を置いた。

「死ぬのよ」
「は?」

 つまり死ねってことか? 俺に? 父親となる俺を亡き者に??

「本当に死ぬわけじゃないわよ。バカね。死んだことにするのよ」
「死んだことに??」

 頭が回らない。なにをどうする気なのか、俺には想像できなかった。
 クロディーヌ様はその方法を教えてくれる。聞いていくうちに、俺は自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。
 この方法ならば、逃げられる。クロディーヌ様とエヴァリスト様に多大な迷惑を掛けることになるが、これが可能ならば、逃げることはできる。

 駆け落ちに、現実味が増した。

「これは、シャルリーヌが考えたのよ」
「シャルリーヌ様が、ですか? エヴァリスト様が考えたのかと」
「エヴァはあまりいい顔をしなかったわ」

 それもそうか。クロディーヌ様に、シャルリーヌ様のふりを、一生しろというのだ。そう考えれば、エヴァリスト様がこんな案を出すはずがない。けれど、シャルリーヌ様だって、考えたくない案だったに違いない。重い決断になる。クロディーヌ様にとって、エヴァリスト様にとって。

「言えずに悩んでいたようだけれど、話を聞いて、いい案だと思ったの」
「入れ替わって生きるんですよ? お嬢様はそれでいいんですか?」
「もともと、いつも入れ替わってたでしょ。名前が変わるのは慣れるまで時間が掛かるかもしれないけど、入れ替わってた時と変わらないと思えば問題ないわ」
「ですが」
「他に案があるの?」
「それは、ありませんけれど」

 一度、正直に打ち開ければ良いのではないかと考えた。正直に打ち開ければ、旦那様も自分の孫を思って、許してくれるのではないかと。きっと、シャルリーヌ様は許してもらえる。だが、俺は? 許されないとなれば、死ぬことになるかもしれない。シャルリーヌ様もそれを危惧していた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。