彼女が死んだ理由は、誰も知らない

MIRICO

文字の大きさ
20 / 26

SIDE コンラッド4

 俺が騎士になるにも、騎士団長の相当な説得が必要だった。平民で騎士になるなんてとんでもない。当初、旦那様の反対は激しいものだった。平民で両親がおらず、馬番として働いていたのに、剣の腕があるからといって騎士になるのはあり得ないとまで言われていた。

 それでも騎士になれたのは、騎士団長の説得もそうだが、領地で俺がこの腕を使い、功績を得たからでもある。
 俺は領地に現れた盗賊を、一人でのしたことがあった。まだ子供だった時に大人を六人倒した。もちろん剣で戦ったわけではなく、森の中で一人ずつあらゆる手で倒したのだが、それのおかげで騎士団の末端として働かせてもらった。騎士ではなく、見習いだ。ほとんど小間使いだが、剣を持って練習に混ぜてもらえるようになった。

 その後、シャルリーヌ様とクロディーヌ様をその盗賊たちが狙った。俺は恨まれていたため、俺と一緒に狙われたわけだが、剣を持っていた俺が逃げることはなかった。
 大怪我をして、シャルリーヌ様には泣かれたけれど、それらを一網打尽にできて、娘二人を助けたという功績で騎士になれたのだ。

 そんなことがなければ、許されたりしない。そこにシャルリーヌ様とクロディーヌ様の推挙があったことも後押しになった。

 シャルリーヌ様の子供の父親が俺だと分かれば、旦那様は俺を処刑するだろう。
 ならば、この手しかないのかもしれない。多くの恩を仇で返すことになるが、もうシャルリーヌ様と離れることなど考えられない。

 計画を考えなければ。四人で計画して行動に移さなければならない。
 俺と、シャルリーヌ様扮するクロディーヌ様が出掛けて、どこかで死ぬ。死体が確認できない場所で。
 そしてクロディーヌ様はシャルリーヌ様に扮して、エヴァリスト様と結婚する。

 俺たちが死んだふりをするならば、街では無理だ。死体が確認できない場所と言えば、思い当たるところがある。領地にある道だ。

「領地へ、行く必要があります」
「そうよ。ただ今、つわりで吐いてばかりでしょ。現状は動けないわ。でも、お腹が出てきたら、隠すのは難しくなる。だから、安定期に入って、馬車に乗れるようになったら、すぐに領地に戻るの。それまで体調が悪いのだから、療養と称すれば問題ないと思うわ。でも、逃亡だけ考えていても駄目よ。逃げた後のことも決めておかなきゃ」

 逃げる場所。それから住む場所。二人で生きていく場所。それを決めなければならない。綿密に。気付かれることなく。
 そこで生きていく仕事も必要だ。逃げるだけで終わりではない。

「逃げる場所など、あるのでしょうか」
「少し遠くなるけれど、場所はエヴァの領地よ。ごまかしが効くからね。家も用意してくれるわ。そこで子供を産んで、あなたは仕事を探さなきゃいけない。仕事は自分で見付ける必要がある。もちろん援助はするわ。どうする?」
「……考えさせてください」

 すぐには返事ができなかった。
 俺は平民で、どこでも生活できる。それなりにできることは増えているし、野宿が続いても問題ない。
 だが、シャルリーヌ様は?

 身重で、貴族の令嬢で、大切に育てられたお嬢様を、そんな危険な旅に連れていけるのか? 体調が悪くなったら? お腹の子供になにかあったら?
 考えるだけで震えてくる。

 俺の決断は正しいのか? また考えて、振り出しに戻る。
 ならば、他に手があるのか?
 本当に、俺が決めていいのか?







 木からベランダに足をかけて、隣の部屋のベランダに入り込む。窓は閉まっていたので、コツン、と一度だけノックした。
 部屋の中は暗い。もう眠っているだろう。けれど、かちりと窓が開いた。

「シャルリーヌ様」
「コンラッド。どうやって」
「木から登ってきただけです」
「なんて危険なことを」
「本当にいいんですか?」

 主語を言わずそう問うと、シャルリーヌ様は俺を招き入れる手を止めて、俺を見つめた。

「嫌だと思うの?」
 思っていない。あなたならば行きたいと言うだろう。けれど、本当にそれでいいのか、俺は自信を持って一緒に行こうとは言えない。

「覚悟しているわ」
 なにを言わず、シャルリーヌ様がきっぱりと言い放った。

「だって、私たちが出ていけば、あの二人も幸せになれるのよ?」
「そうかもしれませんが」
「なにを恐れているの。上手くいけば、四人が幸せになれるのよ」

 シャルリーヌ様は俺を瞬きもせず見つめる。
 恐れていることなんて、たくさんありすぎて、なにから話せばいいのかわからない。
 受け入れる覚悟も責任も、俺は持てるけれど、でも、あなたの体のことや、心のこと、考えれば考えるほど、不安でたまらなくなる。

「コンラッド」
「あなたが後悔しないのか、それだけが心配なんです」

 そうだ。一番心配なのはそれだ。
 俺と一緒に家を出て、一緒に暮らせるようになって、けれど、それが幸福と感じず、後悔するのではないかと、それが心配でたまらない。

 ついてきたことを後悔して、俺を罵るのはいい。ただ、その後悔を聞くのは苦しい。
 俺を選んだことを、後悔されるのは、苦しい。

「後悔しないように、私を大事にして」
「シャルリーヌ様……」
「言っても信じないのでしょう。だったら、私が後悔しないように、私を大事にすればいいのよ」

 シャルリーヌ様は自信ありげに、堂々と、そんな注文をつけてくる。

「します。大事に」
 だから、どうか、あなたが後悔しないことを。
 この熱を、いつまでも持ち続けてくれることを。

「大事にしますから」
「ええ。約束よ」

 俺はただ、祈るように、シャルリーヌ様を抱きしめた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。