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第一章
9 町
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「シーラさん。この辺りって、雪は降りますか?」
「降るよー。今年は暑いからね、まだ冬には遠いけれど、急に寒くなって、どっさり降るもんだから、驚くかもしれないね」
「食料とか、買い込んどいた方がいいですか?」
「そうだね。吹雪くことも多いから。地下倉庫があるだろ? ちゃんと備蓄しておくんだよ? 冬になる前に、みんなで薪を取りに行くから、声をかけるよ」
「助かります。よろしくお願いします」
地下倉庫はどの家もあるようだ。それが広いということは、相当な備蓄が必要な気がする。一人暮らしであの広さだ。かなりのものだろう。
声を掛けてもらえるならありがたい。それでも、今から用意はしておいた方が良いだろう。
日本人たるもの、災害に対しての準備は怠らない。
「ほら、見えてきたよ」
「わあ」
小山を登り切ったところで、シーラがリヤカーを止めた。そこから見えた景色は、まるでおとぎ話に出てくる城壁に囲まれた町で、中心には筒のような形をした石造りの城があった。
町と聞いて、少しずつ建物が増えて、集まった場所を言うのかと思っていたが、そこは壁に囲まれた場所だった。
丘陵地で、ぽつぽつ野原が膨らんだように小さな山があり、その山に木々が固まって立っている。それを避けて道が通る。坂を上がったところに広がる町を囲った壁は、飾り気のない石を積んだものだった。大きな門は開いており、門兵がいたが、特に何かを見せたりはしなかった。シーラと顔見知りなのか、挨拶をして、門をくぐる。
「わあー」
感嘆の声、と言いたいところだが、玲那は拍子抜けしたような声を出した。
想像した城下町とは、なんだか違う気がする。
もっと煌びやかで、色とりどりの壁や屋根をした家が並び、たくさんの人が道を行き交い、騒がしくも賑やかな雰囲気だと思ったのだが。
「結構、人少ないんですね」
「そうかい? いつもこんなもんだよ」
「ですかー」
玲那はリヤカーを押しながら、キョロキョロと周囲を見回した。
門の前は広場のようになっていた。補整されていると言って良いのかどうか。硬くなった土だが、でこぼこはある。石も転がっている。今まで歩いてきた道と、あまり大差ない。少々埃っぽいか。歩いていると砂が舞う。
どれだけ埃っぽいかと言うと、風の強い日の小学校のグラウンドくらい、埃っぽい。玲那の小学校は土のグラウンドだった。人口のふにふにした地面ではなく、土で固められたグラウンドだ。風の日は最悪である。ビル風に吹かれて、校舎まで砂が舞った。乾燥が続けば、体育の時間、グラウンド一周で靴が薄茶色になる。
まさに今、玲那の足元は、砂にまみれていた。ワンピースのスカートの裾も茶色くなりそうだ。
少し歩いて広場から小道に入る。建物は、壁のような飾り気のないまっすぐな建物だ。階数は三階から五階くらい。基礎は石だが、壁は薄いベージュ色をしており、土壁のようだった。三角屋根、木組みの窓。煙突が壁に張り付いている。
そんな建物が、幾つも建っていた。まるでマンションのようだ。ビル街である。
ある程度の場所まではそんな感じだ。少し進めば、若干町の壁の色が変わった。ベージュから、黄色。色が濃くなる。建物の質が変わった。店なのか、扉の上に看板がある。文字はなく、イラストの描かれた看板だ。そこを行き交う人はいたが、そちらには用はないようだ。シーラは道を逸れる。
「あれは、お城ですか?」
「ああ、領主の城だよ」
遠目に筒のような形をした城のようなものが見えた。さらに高いところにあるのか、木に囲まれた城壁が見える。町を囲むための壁の中に、城を囲む壁があるのだ。見た感じ、そこまで規模はない。
田舎町の領主の城といったところだろうか。
そちらには行かず、細い道を横に進むと、小さな広場へ辿り着いた。そこには数人が一緒に水を汲めるような井戸があり、女性たちが集まっていた。共同井戸なのだろう。洗い場もあり、布を踏み付けながら話をしている。
服装は、上はクリーム色で、下は薄茶やくすんだ茶色のズボンやスカート。靴は木の靴の人が多い。全体的に、地味な服装に思える。
子供たちや、猫のような動物もおり、下町の生活を見ているようだった。
城壁近くまで歩くと、動物の鳴き声が聞こえてきた。壁に沿って馬房のような小屋があり、そこで鶏のような鳥が騒いでいる。
「荷物を持ってきたから、確認してくださいよ」
シーラはその家の裏口を叩いて、出てきた三十代くらいの男に鳥三羽を見せた。男は上から下まで確認して、小屋に入れるように指示する。鳥たちを房に入れると、男はコインを三枚、シーラに渡した。
「急で悪かったなあ。城に偉い客が来るらしいんだよ」
「構いませんよ。お代も増やしてもらいましたからね」
シーラはコインを確認する。
くすんだ鉛色の、五百円くらいのサイズをしたお金二枚と、くすんだ薄い銀色で、同じサイズのお金一枚だ。
「丁度、百二十ドレですね」
ダチョウもどき二羽と、鶏くらいの鳥一羽。日本円でいくらくらいだろうか。十二万円ほどだろうか。わからない。
「今日は新しい人を連れてきたのか?」
「あの子は臨時で手伝ってもらったんですよ。レナっていうんです」
急に紹介されて、玲那はわたわたとお辞儀をした。してから、しまったと思いつつ、名前を名乗る。
「レナと言います。よろしくお願いします」
「やあ。ゲードだ。よろしくな。異国の人かい?」
問われて頷く。こちらの人と、顔の雰囲気が違うのだろう。じーっと見つめて、軽く笑った。
「珍しい靴を履いているな。他国の異世界人が考えたのかい?」
「へ? ち、違います。違います」
ドキリどころか、心臓が飛び出しそうになった。なんだ。その話は。
使徒は言っていた。異世界人が余計なことをして、この国の人々に良い印象はない。他国でも異世界人がやらかしているのだろうか。
「降るよー。今年は暑いからね、まだ冬には遠いけれど、急に寒くなって、どっさり降るもんだから、驚くかもしれないね」
「食料とか、買い込んどいた方がいいですか?」
「そうだね。吹雪くことも多いから。地下倉庫があるだろ? ちゃんと備蓄しておくんだよ? 冬になる前に、みんなで薪を取りに行くから、声をかけるよ」
「助かります。よろしくお願いします」
地下倉庫はどの家もあるようだ。それが広いということは、相当な備蓄が必要な気がする。一人暮らしであの広さだ。かなりのものだろう。
声を掛けてもらえるならありがたい。それでも、今から用意はしておいた方が良いだろう。
日本人たるもの、災害に対しての準備は怠らない。
「ほら、見えてきたよ」
「わあ」
小山を登り切ったところで、シーラがリヤカーを止めた。そこから見えた景色は、まるでおとぎ話に出てくる城壁に囲まれた町で、中心には筒のような形をした石造りの城があった。
町と聞いて、少しずつ建物が増えて、集まった場所を言うのかと思っていたが、そこは壁に囲まれた場所だった。
丘陵地で、ぽつぽつ野原が膨らんだように小さな山があり、その山に木々が固まって立っている。それを避けて道が通る。坂を上がったところに広がる町を囲った壁は、飾り気のない石を積んだものだった。大きな門は開いており、門兵がいたが、特に何かを見せたりはしなかった。シーラと顔見知りなのか、挨拶をして、門をくぐる。
「わあー」
感嘆の声、と言いたいところだが、玲那は拍子抜けしたような声を出した。
想像した城下町とは、なんだか違う気がする。
もっと煌びやかで、色とりどりの壁や屋根をした家が並び、たくさんの人が道を行き交い、騒がしくも賑やかな雰囲気だと思ったのだが。
「結構、人少ないんですね」
「そうかい? いつもこんなもんだよ」
「ですかー」
玲那はリヤカーを押しながら、キョロキョロと周囲を見回した。
門の前は広場のようになっていた。補整されていると言って良いのかどうか。硬くなった土だが、でこぼこはある。石も転がっている。今まで歩いてきた道と、あまり大差ない。少々埃っぽいか。歩いていると砂が舞う。
どれだけ埃っぽいかと言うと、風の強い日の小学校のグラウンドくらい、埃っぽい。玲那の小学校は土のグラウンドだった。人口のふにふにした地面ではなく、土で固められたグラウンドだ。風の日は最悪である。ビル風に吹かれて、校舎まで砂が舞った。乾燥が続けば、体育の時間、グラウンド一周で靴が薄茶色になる。
まさに今、玲那の足元は、砂にまみれていた。ワンピースのスカートの裾も茶色くなりそうだ。
少し歩いて広場から小道に入る。建物は、壁のような飾り気のないまっすぐな建物だ。階数は三階から五階くらい。基礎は石だが、壁は薄いベージュ色をしており、土壁のようだった。三角屋根、木組みの窓。煙突が壁に張り付いている。
そんな建物が、幾つも建っていた。まるでマンションのようだ。ビル街である。
ある程度の場所まではそんな感じだ。少し進めば、若干町の壁の色が変わった。ベージュから、黄色。色が濃くなる。建物の質が変わった。店なのか、扉の上に看板がある。文字はなく、イラストの描かれた看板だ。そこを行き交う人はいたが、そちらには用はないようだ。シーラは道を逸れる。
「あれは、お城ですか?」
「ああ、領主の城だよ」
遠目に筒のような形をした城のようなものが見えた。さらに高いところにあるのか、木に囲まれた城壁が見える。町を囲むための壁の中に、城を囲む壁があるのだ。見た感じ、そこまで規模はない。
田舎町の領主の城といったところだろうか。
そちらには行かず、細い道を横に進むと、小さな広場へ辿り着いた。そこには数人が一緒に水を汲めるような井戸があり、女性たちが集まっていた。共同井戸なのだろう。洗い場もあり、布を踏み付けながら話をしている。
服装は、上はクリーム色で、下は薄茶やくすんだ茶色のズボンやスカート。靴は木の靴の人が多い。全体的に、地味な服装に思える。
子供たちや、猫のような動物もおり、下町の生活を見ているようだった。
城壁近くまで歩くと、動物の鳴き声が聞こえてきた。壁に沿って馬房のような小屋があり、そこで鶏のような鳥が騒いでいる。
「荷物を持ってきたから、確認してくださいよ」
シーラはその家の裏口を叩いて、出てきた三十代くらいの男に鳥三羽を見せた。男は上から下まで確認して、小屋に入れるように指示する。鳥たちを房に入れると、男はコインを三枚、シーラに渡した。
「急で悪かったなあ。城に偉い客が来るらしいんだよ」
「構いませんよ。お代も増やしてもらいましたからね」
シーラはコインを確認する。
くすんだ鉛色の、五百円くらいのサイズをしたお金二枚と、くすんだ薄い銀色で、同じサイズのお金一枚だ。
「丁度、百二十ドレですね」
ダチョウもどき二羽と、鶏くらいの鳥一羽。日本円でいくらくらいだろうか。十二万円ほどだろうか。わからない。
「今日は新しい人を連れてきたのか?」
「あの子は臨時で手伝ってもらったんですよ。レナっていうんです」
急に紹介されて、玲那はわたわたとお辞儀をした。してから、しまったと思いつつ、名前を名乗る。
「レナと言います。よろしくお願いします」
「やあ。ゲードだ。よろしくな。異国の人かい?」
問われて頷く。こちらの人と、顔の雰囲気が違うのだろう。じーっと見つめて、軽く笑った。
「珍しい靴を履いているな。他国の異世界人が考えたのかい?」
「へ? ち、違います。違います」
ドキリどころか、心臓が飛び出しそうになった。なんだ。その話は。
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