人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

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第一章

29 ロビー

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 エミリーとエリックと別れてから、玲那は帰りに桶をいくつか購入した。
 重ねて別サイズを購入すれば、何個か持って帰れるはずだと自分に言い聞かせ、店主にも持って帰れるのかと何度も聞かれたが、根性で持って帰ったら、腕や足腰が大変なことになった。

 筋肉痛。湿布がほしい、今日この頃である。

 帰り際、皮のなめし方をエミリーに聞いたのだが、とてもショックなことがわかった。
 なめし方はわかった。わかったが、それに使われるのが、なんと、

「魔法とか、チートすぎでしょ」

 エミリーは、皮をきれいにできるとか、よくわからない魔法が使えるというのだ。
 正確には、水を操り、風を操る力を持っており、狩人から皮を購入すると、すぐに魔法で洗い、乾燥させているそうだ。しかもその風の使い方が乾燥機レベルで、強い熱を発し、皮をなめすことができるという、意味不明さ。

 聞いていて、なにそれ。と呟けば、そのための魔法を習得するために師匠のもとで学んだというのだから、そういう魔法があるとしか言いようがない。
 結局、手作業で行う皮のなめし方はわからなかった。

「魔法使わないと物ができないってことある? 材木屋さんも風で木を切るとか、わけわかんないこと言ってたもんね」
 そのせいで、物作りが停滞するのではないのか。なんてことを言いたくなる。できない人間のただの愚痴だ。

「聖女も魔法で全部物作りしてたのかな。魔法の効果を付けてるだけじゃなくて、なんでも魔法で物作り。手は使わない。炎出すみたいに、ぺって手を振るだけ。だったら納得。みんな手を動かさず魔法を学ぶんだ。機械みたいなものなのかねえ。古い時代から誰でも魔法が使えるの? 使えなかった時代はないの?」

 そんな時代がなければ、原始的な皮のなめし方をしていたのではないだろうか。していてほしい。そして、教えてほしい。

「はー。もー、塩漬けして、次は石灰に漬けようかなあ。灰汁でもきれいになったんだけどさ」
 灰汁はアルカリ性だと聞いたことがある。漂白ができたはずだ。そして、灰汁はたけのこなどを茹でる時に使うのだから、柔らかくする性質があるのだろう。
 灰汁を使ったのだから、きれいになって、皮が柔らかくなったかもしれない。そうであってほしい。

 塩に漬ける手もある。生物には塩。それだけである。どうにか皮によいものであってほしい。もしかしたら、余分な水を出すためかもしれない。肉に使うと汁が出るので、それ系だと思う。多分。
 そして、石灰は強いアルカリ性だ。灰汁と同じく漂白にも使えるのだから、きっと皮なめしの方法に使われるはず。そうであってくれ。

「石灰はー、貝殻を集めて作るので、また取りに行きます。とりあえず、今日は塩漬けじゃい」
 一番大きな桶に、ラッカとリトリトの皮を入れ、水を張り、塩を大量に入れた。これで放置しておく。そして、本来の目的、肉の塩漬けをする。

 たっぷりの塩に、ラッカの肉を乗せてまぶし、放置する。水を抜くためだ。肉を手に入れてから一日経ってしまったが、冷暗所に置いておいたので問題ないだろう。
 汁気が出たら天干しして、保存できるようになればいい。
 そして、購入したガラス瓶を使う。

「耐熱ガラスであることを祈ろう。はい。お湯に入れます!」
 沸騰した鍋に、買ってきたガラス瓶を一つ、入れてみる。煮沸消毒だ。棒で作った菜箸で取り出してみたが、割れた感じはない。
「いけるのでは?」

 それから塩漬けしていないラッカの肉と、刻んだ野菜を炒める。塩と胡椒、生姜で味付けをし、それらをガラス瓶に交互に入れ、買ってきた生の麦も入れる。麦はゴミなどが入っていたので、丁寧に取り除いた。そうして再び肉、野菜、麦の順で入れて、蓋の近くまでお湯を注ぎ、瓶の蓋をする。
 瓶の蓋はしっかり閉まる物ではなく、ただ蓋として置くだけのものだったので、紐で蓋と瓶を縛り、取れたりずれたりしないようにした。

「はい。煮ますよ。沸騰しないようにして、何時間くらい? 時間わからないの、困るなあ。やっぱり日時計作っとかないと」
 庭に長い棒を立て、線を引き、大体の時間を測る。この適当な日時計より、自分の腹の音の方が正確かもしれない。先ほど食事をしたので、お腹が減るまで瓶を煮る。成功するといいのだが。

「さて、その間に、お楽しみ、手織り機を作りますー!」
 待望の手織り機の材料ができたのだ。テーブルに部品を並べ、ウキウキと組み立てはじめる。

 サイズは横の長さがA3判程度。縦の長さは肩から指先の長さくらいあるだろうか。おもちゃの手織り機より大きめに作ってもらったつもりだ。組み立ては簡単にできるようにしてもらったため、そこまで苦労はない。
 基礎となる台を作り、手回しで布を巻き取る円筒の板をはめ込む。糸を分ける櫛のようなものは、櫛の部分をすべてはめ込む必要がある。一つ一つ細長い棒を板にはめ込み、長い櫛を二つ完成させて、台につける。

 木材屋の店主が織り機の仕組みを理解していたため、まともに組み立てられそうだ。玲那の記憶にある、適当な手織り機にならなくてよかった。
 組み立てるのは簡単だったが、面倒なのは糸をセットすることだ。

 小さな穴に糸を入れて、縦糸を作る。先ほど組み立てた櫛にも糸を通し、四本ずつ結ぶ。縦糸と横糸が同じなので、模様もなにもなく単純な布になってしまうが、この際文句は言っていられない。
 やっと縦糸を付け終えて、シャトルという横に糸を入れる板に横糸を絡め、ゆっくりと編みはじめた。

「わああ。できてる。ちょっと、できてるよ! 材木屋さん、ありがとう! これで下着が作れる!」
 やっと布作りが始まった。これで新しい下着が新調できるのだ。紐で結んで固定する程度のパンツとブラトップくらい、楽勝で縫える。リトリトの針は殊の外有能で、キリで穴を開ければ布針になり、まち針にもなった。
 あの針のおかげで、縫い物も楽々予定だ。

「よしゃー。織るぞー!」
 この後には縫い物と、そして今後必要だとわかった、紙作りが待っている。

 瓶を煮ている間に、トントン、トントン。織り機のような音は出ないが、手作業で縦糸を上げ下げすると、小さな音が出る。横糸をその隙間に入れ、櫛で横糸を手前に押して糸を平行にすれば、少しずつ布が出来上がっていった。
 ブラトップなので厚めに作りたい。糸が細いので、布は二重にして作った方がいいだろう。そして長さが必要だ。かぼちゃパンツも同じ。厚く作りたい。

「織り機は足使うのわかるなあ。手織りだといちいち上げ下げしなきゃいけないから面倒くさい。でもすごいよ。ちゃんと布になってる」
 三十分ほどで十センチメートルは作れるだろうか。慣れてくればもっと早く作れるだろう。一日中織っていれば、下着一着くらい作れる。

 布で作りたいものは、いくつもある。
 まず下着。服。窓の網戸。トイレの仕切り。雑巾、布巾。タオル。冬に向けて、上着、ズボン、靴下。布団カバー、シーツ。手袋に帽子。
「あと、なにがあるかなあ。糸がたくさんいるね。ザザの草は大量にあるとはいえ、全部作るのに足りるかどうか」

 念の為、種などを取って、草を増やすことも考えた方が良いだろう。なにかあって枯れるようなことがあれば、布作りが終わってしまう。育てる方法は知っていた方がいい。
 ザザの花はもう終わっている。種があったので集めてはいるが、この時期に取れるのだし、その辺にばら撒いても良いだろうか。大抵の草は夏の終わりには花を咲かせ、種を作るのだから、今時期は種や実ができはじめている。

「森に畑作ったら、怒られるやつ。森の所有者って領主になるでしょ? 勝手に森の糧取ってて怒られないのかな」
 至極当たり前のことを思いながら、カタカタトントン。独り言を言いつつ布を織っていると、ガツン、となにかがぶつかる音がした。
 ガツガツ。庭の柵を蹴るような音だ。
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