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第二章
57 雪の中
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どうしてこうなった。
雪。雪。雪。暗闇なのに、銀色がキラキラ光って、幻想的だけれども、あまりに暗闇すぎて、雪男か雪女が出てくるシチュエーション。それ以上の化け物、魔物の雄叫びが遠くから聞こえてきて、びくりと肩を上げる。
「いいから、さっさと眠れ。結界は破れない」
ガラスのような球状の結界。べたべたと雪はつかず、溶けるように消えてなくなる。魔物も弾かれたりするのだろうか。
こんな絶賛豪雪吹雪の雪景色の中、寝転がって眺めているのもさることながら、その隣にフェルナンが寝転がっていることが、なんとも奇妙な状況だった。
ムカデのような多足類系の化け物みたいな魔物が、空を飛んだ。
否、おそらく飛ばされたのだと思う。不遜な神官、ローディア・ヴェランデルが光を出した途端、そのムカデの群れが爆発に巻き込まれて弾け飛んだ。
「ひえっ!」
玲那の足元にそのムカデの魔物の頭部がどすんと落ちてくる。緑色の体液が土を汚して、シュウ、と音を立てて植物を溶かした。
酸性の体液なのか、こんなものを飛ばさないでほしい。その声が耳に届いたかのように、ローディアが玲那を横目で見て、にっこり笑顔を作った。心の声、聞こえる人ですか?
「おら、下がってろ!」
料理長がまだ生きていたムカデの魔物の体に剣を突き刺した。なんで体がばらばらなのに、足がカサカサ動いているのか。みみずのように体が離れてもすぐに死んだりしないらしい。しかも、そこから新しい頭が出てきて尻尾も出てくるのだとか。そうなる前に飛んできたムカデの魔物を刺し殺す。止めを刺すようにすかさずフェルナンやオレードたちが燃やしているのも見える。
先に燃やせばいいのにと思ったが、簡単に燃える魔物ではないらしい。断裁してから燃やすしかないそうだ。殻は燃えにくいのだとか。見た目は石のように硬い殻をしている。甲殻類の殻ではなく、貝殻の殻のようだった。
カルシウムになりそうな殻だなあ。あの量あれば、セメントとか作れそう。石灰石と粘土。川に粘土質の土はあるだろうか。それから、ケイ石、はごみ焼却した灰でまかなって、あとなにが必要だろうか。
じっと見ていると、食えないぞ。と料理長に注意される。いつも食えるかを算段していると思わないでほしい。コンクリート作りでもできるかと考えていただけだ。
「あれは食えないからなあ。そのくせ群れでやってくる。湿ったところに増えるから、数も多いんだ」
料理長の説明に、昆虫系に見える魔物は食べられないのだと理解する。どちらにしても、虫っぽいものは食べたくない。ひっくり返ってヒクヒクと足を動かしているムカデの魔物を見て、寒気がした。足を動かすカサカサ音は、巨大化するとカチカチキチキチ、金属のような音がする。B級映画だ。
足の動きを見ていると、ムカデではなく、黒い悪魔を思い出させる。
あのサイズでGいたらやだなあ。
「時折うまいやつはあるんだがなあ。身がぷりっとしていて、歯応えがある。茹でて食べるんだ」
「ぷり」
「そう、ぷりっ」
蟹系だろうか。蟹や海老が這って出てきても驚かない。そしてきっと巨大なのだろう。生態系どうなっているんだろうか。蟹が巨大化して現れるのは勘弁してほしい。
朝から魔物退治ということだが、やはり玲那もついて行くことになった。食べられそうなものを採取する役目である。そんな簡単に食べられる物など見つからないというのに。
泊まった建物から先、奥の方へ進めば進むほど、強力な魔物が出る。そのため、三つのグループに分かれつつも、付かず離れず、近くの獲物を狩ることになっている。場合によっては協力して一つの魔物を倒すことになるそうだ。さきほどのムカデの魔物のように、群れで移動するものもいるため、大人数で混乱し、対応できなくなるのを避ける作戦である。
大きな恐竜のような魔物など、個体が一匹の場合、数人で囲んで止めを刺す。すかさず料理長がやってきて、わーっと解体して、他の人たちがわーっと箱に収める。臭いが外に漏れない特別な箱に入れて、そこへ放置だ。帰りに持って帰る予定である。臭いが漏れると他の魔物たちが集まってきてしまうが、その箱に入れておけば数日保つので、後で取りに来れば良いとか。少しだけ雪を入れておけば保冷されるので、問題ないのだろう。
その様を眺めながら、玲那は周囲の木や根本を確認した。この辺りは比較的木が少ない。あるにはあるが、ところどころ薙ぎ倒されていたりする。いかにも大きなものが通った跡があった。低木が多いのも、そういった手合いが木を倒してしまうため、育ちが悪いのだろう。魔物がいる場所であるゆえに、草木も進化しているのか、何度踏んでもしなだれるだけで折れずにいる柔軟な枝を持っていた。
「やな感じだわあ」
それはそれは、嫌な感じだ。つまり巨体がばっこしているわけなのだから。
周囲を気にしつつ、地面を掘る。低木自体も持って帰りたい。しなやかなのだから、繊維とか多いのでは?
せめて雪がない時ならば、もう少し食べられそうなものを見つけられると思うのだが、雪がない時にまた来たいとは思わない。落ち着いて探索もできない。少し歩けば奇妙な風を切る音が突然聞こえる。
「あわわ」
急いで邪魔にならなそうなところへ隠れる。音が聞こえた方から離れるように、玲那は走った。
飛行機が近くを通り過ぎるような風の音。空気を切り裂くような轟音。
「上だ!」
突如、巨大なコウモリのようなものが急降下してきた。
「うわあっ!」
一斉に兵士が散らばる。騎士たちが魔法を放った。一人が魔物の足に引っかかったが、足に当てられた魔法でかろうじて地面に転がり、命からがら逃げおおせる。
魔法が飛び交い、皆がそちらに集中した。巨大コウモリは上昇しては急下降して、そのスピードで獲物を狩るように足を広げた。引っ掛かったら終わりだ。再び一気に上昇するので、掴まれて空を飛ばれれば、その重力で気を失うだろう。
雪。雪。雪。暗闇なのに、銀色がキラキラ光って、幻想的だけれども、あまりに暗闇すぎて、雪男か雪女が出てくるシチュエーション。それ以上の化け物、魔物の雄叫びが遠くから聞こえてきて、びくりと肩を上げる。
「いいから、さっさと眠れ。結界は破れない」
ガラスのような球状の結界。べたべたと雪はつかず、溶けるように消えてなくなる。魔物も弾かれたりするのだろうか。
こんな絶賛豪雪吹雪の雪景色の中、寝転がって眺めているのもさることながら、その隣にフェルナンが寝転がっていることが、なんとも奇妙な状況だった。
ムカデのような多足類系の化け物みたいな魔物が、空を飛んだ。
否、おそらく飛ばされたのだと思う。不遜な神官、ローディア・ヴェランデルが光を出した途端、そのムカデの群れが爆発に巻き込まれて弾け飛んだ。
「ひえっ!」
玲那の足元にそのムカデの魔物の頭部がどすんと落ちてくる。緑色の体液が土を汚して、シュウ、と音を立てて植物を溶かした。
酸性の体液なのか、こんなものを飛ばさないでほしい。その声が耳に届いたかのように、ローディアが玲那を横目で見て、にっこり笑顔を作った。心の声、聞こえる人ですか?
「おら、下がってろ!」
料理長がまだ生きていたムカデの魔物の体に剣を突き刺した。なんで体がばらばらなのに、足がカサカサ動いているのか。みみずのように体が離れてもすぐに死んだりしないらしい。しかも、そこから新しい頭が出てきて尻尾も出てくるのだとか。そうなる前に飛んできたムカデの魔物を刺し殺す。止めを刺すようにすかさずフェルナンやオレードたちが燃やしているのも見える。
先に燃やせばいいのにと思ったが、簡単に燃える魔物ではないらしい。断裁してから燃やすしかないそうだ。殻は燃えにくいのだとか。見た目は石のように硬い殻をしている。甲殻類の殻ではなく、貝殻の殻のようだった。
カルシウムになりそうな殻だなあ。あの量あれば、セメントとか作れそう。石灰石と粘土。川に粘土質の土はあるだろうか。それから、ケイ石、はごみ焼却した灰でまかなって、あとなにが必要だろうか。
じっと見ていると、食えないぞ。と料理長に注意される。いつも食えるかを算段していると思わないでほしい。コンクリート作りでもできるかと考えていただけだ。
「あれは食えないからなあ。そのくせ群れでやってくる。湿ったところに増えるから、数も多いんだ」
料理長の説明に、昆虫系に見える魔物は食べられないのだと理解する。どちらにしても、虫っぽいものは食べたくない。ひっくり返ってヒクヒクと足を動かしているムカデの魔物を見て、寒気がした。足を動かすカサカサ音は、巨大化するとカチカチキチキチ、金属のような音がする。B級映画だ。
足の動きを見ていると、ムカデではなく、黒い悪魔を思い出させる。
あのサイズでGいたらやだなあ。
「時折うまいやつはあるんだがなあ。身がぷりっとしていて、歯応えがある。茹でて食べるんだ」
「ぷり」
「そう、ぷりっ」
蟹系だろうか。蟹や海老が這って出てきても驚かない。そしてきっと巨大なのだろう。生態系どうなっているんだろうか。蟹が巨大化して現れるのは勘弁してほしい。
朝から魔物退治ということだが、やはり玲那もついて行くことになった。食べられそうなものを採取する役目である。そんな簡単に食べられる物など見つからないというのに。
泊まった建物から先、奥の方へ進めば進むほど、強力な魔物が出る。そのため、三つのグループに分かれつつも、付かず離れず、近くの獲物を狩ることになっている。場合によっては協力して一つの魔物を倒すことになるそうだ。さきほどのムカデの魔物のように、群れで移動するものもいるため、大人数で混乱し、対応できなくなるのを避ける作戦である。
大きな恐竜のような魔物など、個体が一匹の場合、数人で囲んで止めを刺す。すかさず料理長がやってきて、わーっと解体して、他の人たちがわーっと箱に収める。臭いが外に漏れない特別な箱に入れて、そこへ放置だ。帰りに持って帰る予定である。臭いが漏れると他の魔物たちが集まってきてしまうが、その箱に入れておけば数日保つので、後で取りに来れば良いとか。少しだけ雪を入れておけば保冷されるので、問題ないのだろう。
その様を眺めながら、玲那は周囲の木や根本を確認した。この辺りは比較的木が少ない。あるにはあるが、ところどころ薙ぎ倒されていたりする。いかにも大きなものが通った跡があった。低木が多いのも、そういった手合いが木を倒してしまうため、育ちが悪いのだろう。魔物がいる場所であるゆえに、草木も進化しているのか、何度踏んでもしなだれるだけで折れずにいる柔軟な枝を持っていた。
「やな感じだわあ」
それはそれは、嫌な感じだ。つまり巨体がばっこしているわけなのだから。
周囲を気にしつつ、地面を掘る。低木自体も持って帰りたい。しなやかなのだから、繊維とか多いのでは?
せめて雪がない時ならば、もう少し食べられそうなものを見つけられると思うのだが、雪がない時にまた来たいとは思わない。落ち着いて探索もできない。少し歩けば奇妙な風を切る音が突然聞こえる。
「あわわ」
急いで邪魔にならなそうなところへ隠れる。音が聞こえた方から離れるように、玲那は走った。
飛行機が近くを通り過ぎるような風の音。空気を切り裂くような轟音。
「上だ!」
突如、巨大なコウモリのようなものが急降下してきた。
「うわあっ!」
一斉に兵士が散らばる。騎士たちが魔法を放った。一人が魔物の足に引っかかったが、足に当てられた魔法でかろうじて地面に転がり、命からがら逃げおおせる。
魔法が飛び交い、皆がそちらに集中した。巨大コウモリは上昇しては急下降して、そのスピードで獲物を狩るように足を広げた。引っ掛かったら終わりだ。再び一気に上昇するので、掴まれて空を飛ばれれば、その重力で気を失うだろう。
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