人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

文字の大きさ
134 / 196
第二章

57 雪の中

しおりを挟む
 どうしてこうなった。

 雪。雪。雪。暗闇なのに、銀色がキラキラ光って、幻想的だけれども、あまりに暗闇すぎて、雪男か雪女が出てくるシチュエーション。それ以上の化け物、魔物の雄叫びが遠くから聞こえてきて、びくりと肩を上げる。

「いいから、さっさと眠れ。結界は破れない」

 ガラスのような球状の結界。べたべたと雪はつかず、溶けるように消えてなくなる。魔物も弾かれたりするのだろうか。
 こんな絶賛豪雪吹雪の雪景色の中、寝転がって眺めているのもさることながら、その隣にフェルナンが寝転がっていることが、なんとも奇妙な状況だった。







 ムカデのような多足類系の化け物みたいな魔物が、空を飛んだ。
 否、おそらく飛ばされたのだと思う。不遜な神官、ローディア・ヴェランデルが光を出した途端、そのムカデの群れが爆発に巻き込まれて弾け飛んだ。

「ひえっ!」
 玲那の足元にそのムカデの魔物の頭部がどすんと落ちてくる。緑色の体液が土を汚して、シュウ、と音を立てて植物を溶かした。

 酸性の体液なのか、こんなものを飛ばさないでほしい。その声が耳に届いたかのように、ローディアが玲那を横目で見て、にっこり笑顔を作った。心の声、聞こえる人ですか?

「おら、下がってろ!」
 料理長がまだ生きていたムカデの魔物の体に剣を突き刺した。なんで体がばらばらなのに、足がカサカサ動いているのか。みみずのように体が離れてもすぐに死んだりしないらしい。しかも、そこから新しい頭が出てきて尻尾も出てくるのだとか。そうなる前に飛んできたムカデの魔物を刺し殺す。止めを刺すようにすかさずフェルナンやオレードたちが燃やしているのも見える。
 先に燃やせばいいのにと思ったが、簡単に燃える魔物ではないらしい。断裁してから燃やすしかないそうだ。殻は燃えにくいのだとか。見た目は石のように硬い殻をしている。甲殻類の殻ではなく、貝殻の殻のようだった。

 カルシウムになりそうな殻だなあ。あの量あれば、セメントとか作れそう。石灰石と粘土。川に粘土質の土はあるだろうか。それから、ケイ石、はごみ焼却した灰でまかなって、あとなにが必要だろうか。
 じっと見ていると、食えないぞ。と料理長に注意される。いつも食えるかを算段していると思わないでほしい。コンクリート作りでもできるかと考えていただけだ。

「あれは食えないからなあ。そのくせ群れでやってくる。湿ったところに増えるから、数も多いんだ」
 料理長の説明に、昆虫系に見える魔物は食べられないのだと理解する。どちらにしても、虫っぽいものは食べたくない。ひっくり返ってヒクヒクと足を動かしているムカデの魔物を見て、寒気がした。足を動かすカサカサ音は、巨大化するとカチカチキチキチ、金属のような音がする。B級映画だ。
 足の動きを見ていると、ムカデではなく、黒い悪魔を思い出させる。
 あのサイズでGいたらやだなあ。

「時折うまいやつはあるんだがなあ。身がぷりっとしていて、歯応えがある。茹でて食べるんだ」
「ぷり」
「そう、ぷりっ」

 蟹系だろうか。蟹や海老が這って出てきても驚かない。そしてきっと巨大なのだろう。生態系どうなっているんだろうか。蟹が巨大化して現れるのは勘弁してほしい。
 朝から魔物退治ということだが、やはり玲那もついて行くことになった。食べられそうなものを採取する役目である。そんな簡単に食べられる物など見つからないというのに。

 泊まった建物から先、奥の方へ進めば進むほど、強力な魔物が出る。そのため、三つのグループに分かれつつも、付かず離れず、近くの獲物を狩ることになっている。場合によっては協力して一つの魔物を倒すことになるそうだ。さきほどのムカデの魔物のように、群れで移動するものもいるため、大人数で混乱し、対応できなくなるのを避ける作戦である。

 大きな恐竜のような魔物など、個体が一匹の場合、数人で囲んで止めを刺す。すかさず料理長がやってきて、わーっと解体して、他の人たちがわーっと箱に収める。臭いが外に漏れない特別な箱に入れて、そこへ放置だ。帰りに持って帰る予定である。臭いが漏れると他の魔物たちが集まってきてしまうが、その箱に入れておけば数日保つので、後で取りに来れば良いとか。少しだけ雪を入れておけば保冷されるので、問題ないのだろう。

 その様を眺めながら、玲那は周囲の木や根本を確認した。この辺りは比較的木が少ない。あるにはあるが、ところどころ薙ぎ倒されていたりする。いかにも大きなものが通った跡があった。低木が多いのも、そういった手合いが木を倒してしまうため、育ちが悪いのだろう。魔物がいる場所であるゆえに、草木も進化しているのか、何度踏んでもしなだれるだけで折れずにいる柔軟な枝を持っていた。

「やな感じだわあ」
 それはそれは、嫌な感じだ。つまり巨体がばっこしているわけなのだから。

 周囲を気にしつつ、地面を掘る。低木自体も持って帰りたい。しなやかなのだから、繊維とか多いのでは?
 せめて雪がない時ならば、もう少し食べられそうなものを見つけられると思うのだが、雪がない時にまた来たいとは思わない。落ち着いて探索もできない。少し歩けば奇妙な風を切る音が突然聞こえる。

「あわわ」
 急いで邪魔にならなそうなところへ隠れる。音が聞こえた方から離れるように、玲那は走った。
 飛行機が近くを通り過ぎるような風の音。空気を切り裂くような轟音。

「上だ!」
 突如、巨大なコウモリのようなものが急降下してきた。
「うわあっ!」

 一斉に兵士が散らばる。騎士たちが魔法を放った。一人が魔物の足に引っかかったが、足に当てられた魔法でかろうじて地面に転がり、命からがら逃げおおせる。
 魔法が飛び交い、皆がそちらに集中した。巨大コウモリは上昇しては急下降して、そのスピードで獲物を狩るように足を広げた。引っ掛かったら終わりだ。再び一気に上昇するので、掴まれて空を飛ばれれば、その重力で気を失うだろう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...