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今度は推しをお守りします!
警備
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「エミール~。体調はどう?」
「元気です。お姉さまのおかげで」
私が頭をなでてやるようになってから、エミールの体調は少しずつ良くなっていた。
今日はベッドから出ていたらしく、明るいうちに庭を散歩していたようだ。
「白いお花を飾ってもらったのね」
「はい、ケリーが飾ってくれました。すごく綺麗で、部屋が華やかになった気がします」
ヴィヴィアンお師匠様の助言通り、屋敷に白い花を飾ることにした。父親はこの花を嫌がるのでエミールの行くところだけだが、エミールは嬉しそうだ。
花を飾るような余裕のある家ではないので、客間に飾ってあってもそれで和むような気持ちはなかったが、暗い中に白い花があると少しは穏やかな気持ちが持てるのかもしれない。
なんにしろ、エミールには良いようで、私は帰り際に真っ白な花束を購入することが増えた。庭に白の花を植えるのも良いかもしれない。我が家の庭園は芋や大根が埋まっているのだが、一部は花を植えてもいいだろう。
父親がおかしなお金の使い方を改めたので、少しずつ余裕はできている。
(今度のお休みに花の種でも買いに行こうかしら)
私はベッドで横になるエミールの金の髪をゆるりとなでた。
昼間は元気だったようだが、少しだけ顔色が悪い。
元気だと言うが、夜になって暗黒期の影響で負担が掛かり始めたのかもしれない。暗黒期も半ばに入り、まだ深夜にもなっていない時間なのに、外は黒のカーテンが見え始めていた。
いつもなら喜んで外に見に行くのだが、ヴィヴィアンお師匠様の話を聞いてから、エミールに影響があるのではと、気が気ではない。
エミールの髪をすくようになでながら、私はエミールに集まる暗黒の気を探した。気配を感じられればその気を払うにも役に立つ。まずはその気配をはっきり気付けるようにならなければならない。
暗黒の気を集めてしまうエミールの体質が私の練習に丁度いいというのも皮肉だが、今はエミールのおかげで暗黒の気について学ぶことができる。
リュシアン様にまとわりついた暗黒の気は消すことができなかった。あんなことがないように、私はこの力をものにしたい。
「さ、エミール。今日はもう眠りましょう。お姉様が側にいますからね」
「はい。おやすみなさい。お姉さま」
エミールはほのかに笑んで、瞼を閉じる。愛らしいエミールは私が守るべき、大切な天使だ。この子の幸せのために、私は頑張らなければならない。
手のひらに集中して、エミールが元々持っている暗黒の気を探す。エミールが集めた暗黒の気は散ってしまったが、元々持っている暗黒の気は消しにくいそうだ。
一定の暗黒の気は体内で生成してしまうというのだから、エミールの体が弱いわけである。それを全て消しても問題はなく、再び生成するまでエミールの体調も良くなるので、私はそれを探すことに専念した。
ぷくぷくと、湧き出す水のような音が聞こえる。
油田のように、汚泥から油のような黒いものがぽこりと膨らむのが見えた。
汽水のように、汚泥から吹いた気泡がインクのように滲んで周囲に混じっていく。
これが暗黒の気か。私はそこに手を伸ばすように意識を向けて、触れようとする。
暗黒の気は私の気配を嫌がって別の方向へ流れようとした。
(エミールから出て行きなさい!)
瞬間、水たまりのような汚泥が風に舞うように吹き飛んだ。
「エミール……?」
エミールはもう眠ったか、寝息を立てている。気分は悪くなさそうだ。穏やかな寝顔をしていた。
今ので少しは消えただろうか。私も少しずつ消し方が分かってきた気がする。
けれど時計を見ると意外に時間が掛かっていた。ヴィヴィアンお師匠様のように、ぱっと消すには引き続き練習が必要だ。
ウヌハスから放出された暗黒の力を消すとなれば、さらに精進しなければならない。
私はベッドから立ち上がると、カーテンを開いて外を見遣った。
真っ暗闇に黒の布がひるがえるように揺れている。暗黒期に見える黒のカーテンだ。
リュシアン様を弱らせる暗黒の気が強く集まったもの。エミールも同じように体調を悪くする、負のエネルギー。
「早く、この力を使えるようにならないと……」
私は呟いて、それを強く誓ったのだ。
「う~~~ん。いないわね……」
「おい、そこで何してるんだ?」
私が回廊の下をくぐりながら草むらを歩いていると、後ろからギーが声を掛けてきた。
この前ここで、嫌な感じのする黒い犬を見たので調べていたのだが、私がそれを説明すると、ギーは大きく顔をしかめて首を傾げた。
「なんで、城に犬がいるんだ? 馬房なら狩りの犬がいるだろうが、その辺歩いているなんてあるのかよ?」
「ないんですか?」
「野良犬だったら城の庭にいるわけないだろ。番犬だったら、首輪をしているはずだし、ここで見たことないぞ」
「首輪はしていなかったと思います」
「だったら野良犬じゃないか。どこから入ったんだ。野良犬は病気を持っているかもしれないし、もし王宮に入って王子にでも噛み付いたら大事だぞ」
それもそうだ。しかし、間違いなく犬がいた。細身であまり大きくはなかったが、痩せた犬である。
野良犬であれば警備騎士に伝えておいた方がいいだろうか。私はどうにもあの犬が気になっているのだ。
「嫌な感じがしたんですよね。一瞬見ただけなので、確かではないんですけれど」
「警備騎士に言って探させた方がいいだろう。なんでその時に伝えておかなかったんだよ」
「思い至りませんでした……」
「ばっか。そういうのはさっさと動いた方がいいんだ。ああ、丁度あそこに警備騎士がいる。ちょっと待ってろ」
ギーはさっさと近くにいた警備騎士に伝えに行った。
おかしいと思ったら、すぐに報告するのは当然だ。私は自分の至らなさにきゅっと唇を噛む。メイドの時でも何かに気付けば報告していた。聖騎士団であればなおさらだ。
何かあってからでは遅いのに。
(気を引き締めなきゃ。何が起きるのか分からないのだから)
ぺちぺちと頬を叩き、私は気を引き締める。
ギーは説明をしてこちらに戻ってきたが、少しだけ嫌そうな顔をしていた。
「あいつ、感じ悪い。警備騎士ってのは、聖騎士団を妬んでるやつしかいないのかよ」
「あれ、片方の茶髪は、前リュシアン様の文句言ってた輩の一人です」
二人組のうち一人が、よく見たらあの金髪のドナと一緒にいた茶髪の男だ。リュシアン様だけでなく、聖騎士団にも態度が悪いのか。もう一人は前にそのドナと一緒にいた上官のような人だ。
「そう、茶髪の方。うざい態度しやがって」
余程腹が立ったのか、ギーは青筋を立てて怒っている。ギーも私以上に喧嘩っ早そうだ。
そしていつも三人一緒にいるのか、あの金髪ドナと赤髪がやってきて、三人でこちらを睨んでくる。それに割って入るように、上官らしき男がこちらに頭を下げながら私たちから離れようと背を向けて歩かせていた。
「あの赤髪と茶髪はリスト入っていないんですよね。魔力がないとかで」
「入ってたが残ってない。リストにバツを付けられた」
リストには入ったのだから、リュシアン様や聖騎士団に態度が悪くて納得だ。
騎士団はみんな聖騎士団へ態度が悪いのかと思いたくもなる。前に町に行った時は敬意を表する人たちばかりだったのに。お城の外を守る騎士団とお城の中を守る騎士団とは所属が違うので、その所属によるのかもしれない。
「あの金髪、お前のことすごい睨んでたぞ。喧嘩売ったって何やったんだよ」
「え、股間を膝打ちしましたが?」
「ぶはっ!!」
ギーは吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。声にならない笑いだ。
「少々煽ったところ、すぐに頭に血を上らせて向かってきたんです。先にあちらが私の胸ぐらを掴んできたんですから、正当防衛ですよ」
「そりゃ、恨まれるに決まってるだろ。あー、笑える」
そんなことより、犬を探しにいきたい。警備騎士に頼んでくれたが、彼らは私たちを避けるように別の方向へ行ってしまった。ここで犬を見たのだから、こちらを探してほしいのだが。
「上に報告しないとできないんだろ。警備騎士は回る場所が決まっているから、すぐには動けないんだ」
なら、今時間のある自分が探した方が早そうだ。
「お前、授業じゃなかったのか?」
「お師匠様がまたお忙しいので、書庫で本読み予定だったんですけれど、こちらが気になってしまったので。そちらは?」
「俺は早番だったから、今日はこれで終わりなんだけど……」
私には早番などはないので、毎日同じ時間勤務だが、聖騎士団は城に常駐するため早番、遅番がある。帰るといっても、もう午後も遅い時間だが、昨夜から働いていたら疲れもあるだろう。
私たちはお互い顔を見合わせて、沈黙した。
「元気です。お姉さまのおかげで」
私が頭をなでてやるようになってから、エミールの体調は少しずつ良くなっていた。
今日はベッドから出ていたらしく、明るいうちに庭を散歩していたようだ。
「白いお花を飾ってもらったのね」
「はい、ケリーが飾ってくれました。すごく綺麗で、部屋が華やかになった気がします」
ヴィヴィアンお師匠様の助言通り、屋敷に白い花を飾ることにした。父親はこの花を嫌がるのでエミールの行くところだけだが、エミールは嬉しそうだ。
花を飾るような余裕のある家ではないので、客間に飾ってあってもそれで和むような気持ちはなかったが、暗い中に白い花があると少しは穏やかな気持ちが持てるのかもしれない。
なんにしろ、エミールには良いようで、私は帰り際に真っ白な花束を購入することが増えた。庭に白の花を植えるのも良いかもしれない。我が家の庭園は芋や大根が埋まっているのだが、一部は花を植えてもいいだろう。
父親がおかしなお金の使い方を改めたので、少しずつ余裕はできている。
(今度のお休みに花の種でも買いに行こうかしら)
私はベッドで横になるエミールの金の髪をゆるりとなでた。
昼間は元気だったようだが、少しだけ顔色が悪い。
元気だと言うが、夜になって暗黒期の影響で負担が掛かり始めたのかもしれない。暗黒期も半ばに入り、まだ深夜にもなっていない時間なのに、外は黒のカーテンが見え始めていた。
いつもなら喜んで外に見に行くのだが、ヴィヴィアンお師匠様の話を聞いてから、エミールに影響があるのではと、気が気ではない。
エミールの髪をすくようになでながら、私はエミールに集まる暗黒の気を探した。気配を感じられればその気を払うにも役に立つ。まずはその気配をはっきり気付けるようにならなければならない。
暗黒の気を集めてしまうエミールの体質が私の練習に丁度いいというのも皮肉だが、今はエミールのおかげで暗黒の気について学ぶことができる。
リュシアン様にまとわりついた暗黒の気は消すことができなかった。あんなことがないように、私はこの力をものにしたい。
「さ、エミール。今日はもう眠りましょう。お姉様が側にいますからね」
「はい。おやすみなさい。お姉さま」
エミールはほのかに笑んで、瞼を閉じる。愛らしいエミールは私が守るべき、大切な天使だ。この子の幸せのために、私は頑張らなければならない。
手のひらに集中して、エミールが元々持っている暗黒の気を探す。エミールが集めた暗黒の気は散ってしまったが、元々持っている暗黒の気は消しにくいそうだ。
一定の暗黒の気は体内で生成してしまうというのだから、エミールの体が弱いわけである。それを全て消しても問題はなく、再び生成するまでエミールの体調も良くなるので、私はそれを探すことに専念した。
ぷくぷくと、湧き出す水のような音が聞こえる。
油田のように、汚泥から油のような黒いものがぽこりと膨らむのが見えた。
汽水のように、汚泥から吹いた気泡がインクのように滲んで周囲に混じっていく。
これが暗黒の気か。私はそこに手を伸ばすように意識を向けて、触れようとする。
暗黒の気は私の気配を嫌がって別の方向へ流れようとした。
(エミールから出て行きなさい!)
瞬間、水たまりのような汚泥が風に舞うように吹き飛んだ。
「エミール……?」
エミールはもう眠ったか、寝息を立てている。気分は悪くなさそうだ。穏やかな寝顔をしていた。
今ので少しは消えただろうか。私も少しずつ消し方が分かってきた気がする。
けれど時計を見ると意外に時間が掛かっていた。ヴィヴィアンお師匠様のように、ぱっと消すには引き続き練習が必要だ。
ウヌハスから放出された暗黒の力を消すとなれば、さらに精進しなければならない。
私はベッドから立ち上がると、カーテンを開いて外を見遣った。
真っ暗闇に黒の布がひるがえるように揺れている。暗黒期に見える黒のカーテンだ。
リュシアン様を弱らせる暗黒の気が強く集まったもの。エミールも同じように体調を悪くする、負のエネルギー。
「早く、この力を使えるようにならないと……」
私は呟いて、それを強く誓ったのだ。
「う~~~ん。いないわね……」
「おい、そこで何してるんだ?」
私が回廊の下をくぐりながら草むらを歩いていると、後ろからギーが声を掛けてきた。
この前ここで、嫌な感じのする黒い犬を見たので調べていたのだが、私がそれを説明すると、ギーは大きく顔をしかめて首を傾げた。
「なんで、城に犬がいるんだ? 馬房なら狩りの犬がいるだろうが、その辺歩いているなんてあるのかよ?」
「ないんですか?」
「野良犬だったら城の庭にいるわけないだろ。番犬だったら、首輪をしているはずだし、ここで見たことないぞ」
「首輪はしていなかったと思います」
「だったら野良犬じゃないか。どこから入ったんだ。野良犬は病気を持っているかもしれないし、もし王宮に入って王子にでも噛み付いたら大事だぞ」
それもそうだ。しかし、間違いなく犬がいた。細身であまり大きくはなかったが、痩せた犬である。
野良犬であれば警備騎士に伝えておいた方がいいだろうか。私はどうにもあの犬が気になっているのだ。
「嫌な感じがしたんですよね。一瞬見ただけなので、確かではないんですけれど」
「警備騎士に言って探させた方がいいだろう。なんでその時に伝えておかなかったんだよ」
「思い至りませんでした……」
「ばっか。そういうのはさっさと動いた方がいいんだ。ああ、丁度あそこに警備騎士がいる。ちょっと待ってろ」
ギーはさっさと近くにいた警備騎士に伝えに行った。
おかしいと思ったら、すぐに報告するのは当然だ。私は自分の至らなさにきゅっと唇を噛む。メイドの時でも何かに気付けば報告していた。聖騎士団であればなおさらだ。
何かあってからでは遅いのに。
(気を引き締めなきゃ。何が起きるのか分からないのだから)
ぺちぺちと頬を叩き、私は気を引き締める。
ギーは説明をしてこちらに戻ってきたが、少しだけ嫌そうな顔をしていた。
「あいつ、感じ悪い。警備騎士ってのは、聖騎士団を妬んでるやつしかいないのかよ」
「あれ、片方の茶髪は、前リュシアン様の文句言ってた輩の一人です」
二人組のうち一人が、よく見たらあの金髪のドナと一緒にいた茶髪の男だ。リュシアン様だけでなく、聖騎士団にも態度が悪いのか。もう一人は前にそのドナと一緒にいた上官のような人だ。
「そう、茶髪の方。うざい態度しやがって」
余程腹が立ったのか、ギーは青筋を立てて怒っている。ギーも私以上に喧嘩っ早そうだ。
そしていつも三人一緒にいるのか、あの金髪ドナと赤髪がやってきて、三人でこちらを睨んでくる。それに割って入るように、上官らしき男がこちらに頭を下げながら私たちから離れようと背を向けて歩かせていた。
「あの赤髪と茶髪はリスト入っていないんですよね。魔力がないとかで」
「入ってたが残ってない。リストにバツを付けられた」
リストには入ったのだから、リュシアン様や聖騎士団に態度が悪くて納得だ。
騎士団はみんな聖騎士団へ態度が悪いのかと思いたくもなる。前に町に行った時は敬意を表する人たちばかりだったのに。お城の外を守る騎士団とお城の中を守る騎士団とは所属が違うので、その所属によるのかもしれない。
「あの金髪、お前のことすごい睨んでたぞ。喧嘩売ったって何やったんだよ」
「え、股間を膝打ちしましたが?」
「ぶはっ!!」
ギーは吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。声にならない笑いだ。
「少々煽ったところ、すぐに頭に血を上らせて向かってきたんです。先にあちらが私の胸ぐらを掴んできたんですから、正当防衛ですよ」
「そりゃ、恨まれるに決まってるだろ。あー、笑える」
そんなことより、犬を探しにいきたい。警備騎士に頼んでくれたが、彼らは私たちを避けるように別の方向へ行ってしまった。ここで犬を見たのだから、こちらを探してほしいのだが。
「上に報告しないとできないんだろ。警備騎士は回る場所が決まっているから、すぐには動けないんだ」
なら、今時間のある自分が探した方が早そうだ。
「お前、授業じゃなかったのか?」
「お師匠様がまたお忙しいので、書庫で本読み予定だったんですけれど、こちらが気になってしまったので。そちらは?」
「俺は早番だったから、今日はこれで終わりなんだけど……」
私には早番などはないので、毎日同じ時間勤務だが、聖騎士団は城に常駐するため早番、遅番がある。帰るといっても、もう午後も遅い時間だが、昨夜から働いていたら疲れもあるだろう。
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