本当の気持ち

KOU

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本当の気持ち

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『俺…お前の事が好きなんだ』



夕日が差し込む放課後の教室。

開いたままの窓から風が吹き込み、大きくカーテンを揺らした。


『え……?』


『あ………いや、勘違いするなよ?』


そう言って小さく苦笑したこいつの、こんなにも無理して作った笑顔を

俺は初めて見た…。


『尊敬してるって意味でだよ』






---------------------


高校を卒業してから、数ヶ月がたった。
通い始めた大学にも慣れてきて、来週には夏休みに入る。
卒業式直前に親友から言われた言葉の真意が分からずあの日以来ギクシャクしたまま、俺達は進路を別にした。
卒業してから一度も合っていない。
俺からも連絡はとっていないが、あいつも何となく距離をとっているのを感じていた。
俺達の胸に小さな刺を残して無情にも時間は進み、俺はあの時の事が頭から離れないまま、ただ毎日を過ごしていた。

小学生の頃からの幼馴染である淳太じゅんたとは、その後中学、高校と同じ学校に通い、ほぼ毎日を共に過ごしていた。

あの日は、放課後の教室で日誌を書いていた俺を待っていた淳太と他愛の無い話をしていた。
どんな内容だったのかは忘れてしまうぐらいいつもと変わらない雑談をしていた筈なのだが、ふと真面目な表情になった淳太は俺の事を好きだと言い、その後直ぐに冗談だと笑ってみせた。

しかしそんなのは嘘だという事は分かっている。
あんな苦しそうな笑顔は初めて見る。
何年一緒に居ると思っているんだ。本音を隠している顔に違いない。


なら、俺は………?
俺は淳太をどう思ってるんだ?


卒業してから毎日毎日、自問自答の繰り返し。

そんなある日。

俺の家へ一本の電話がかかってきた。



「はい、もしもし」

『もしもし………貴文たかふみ君?』


受話器から聞こえてきたのは、淳太の母親の声だった。


「あ、おばさん。お久しぶりです。……どうかしましたか?」

『急にごめんなさいね。あの、実は』


……おばさんの声、震えてる?
何かあったのかと、受話器を耳に押し当てた。


『淳太が交通事故にあってーーー』

「え…………?」


おばさんの言葉に、俺の頭の中は真っ白になった。
 

(淳太が、事故…?)


受話器の向こうではおばさんがまだ何かを言っているが、全く頭に入ってこない。指先から血の気が引いていくのを感じ、バクバクと心臓が立てる大きな音で、ますます聞き取れないでいた。

『それで、○○病院の××号室にーーー』

辛うじて病院名と部屋番号だけを聞き取り、俺は直様病院に向かった。

家を出て自転車に跨り漕ぎ出す。気付くと漕ぐスピードが段々と速くなっていた。

背中を嫌な汗が伝っていく。
嫌な想像が次々と膨らんでいく。

病院に着くと少々乱暴に自転車を止め、入口横の木にとまった蝉の鳴き声を背に病院に駆け込んだ。
病院の中は冷房が効いているのか、じっとりと汗をかいた俺の身体を一気に冷ます。
階段を見付けると転びそうになりながら駆け上り、一つ一つ部屋番号のプレート確認しながら早足に進んで行った。


「あった!」


おばさんから聞いた部屋番号を見付け、切らせた息をそのままに、扉に手をかけ勢いよく開けた。


「淳太!!!!!」


室内にはベッドが一つ置かれており、そこに淳太が横たわっていた。
腕に点滴が繋がれている事から、淳太が死んでいないという事は分かった。





…………死





(淳太が、死ぬ?)   




その考えが頭を過ぎった途端。
俺は無性に怖くなった。


淳太のいない世界。
そんなもの………考えられない。


愕然としたまま立ち尽くしていると、後ろの扉が開いた。


「あら、貴文君?」

「おば……さん」


振り向くと、淳太のおばさんが立っていた。


「ありがとう、来てくれたのね」


おばさんは少し疲れた顔で微笑み病室に入ってきて、持っていた花の活けてある花びんを窓際の棚の上に置いた。


「淳太…大丈夫なんですか?」


俺の問いにおばさんはビクリと反応し、俯く。


「一昨日ね、何を考えてたのかこの子、赤信号なのに横断歩道を渡ったらしいの。相手の話だと、咄嗟に鳴らしたクラクションにも気付く様子もなくそのまま接触してしまったらしくて」


ゆっくりと事故の状況を説明してくれるおばさんの声は震えていた。


「身体のあちこちを打った様だけど、お医者様が仰るには幸い命に別状は無いそうよ」

「っそうですか」


しかしホッと胸を撫で下ろした俺に、おばさんは続けた。


「だけど………まだ、意識が戻らないの」

「え……?」

「いろいろ検査もしてもらったんだけど、脳にも異常はないそうで、原因はわからないと言われてしまったわ」

ベッドの横に歩み寄ったおばさんは淳太の額を軽く叩く様な真似をして苦笑した。

「全く!昔から寝坊助で、高校までは毎朝貴文君に起こしてもらってて。大学に入ってからはやっと自分で起きる様になったと思ったけど、何もこんな時に寝坊しなくても良いのにね」


そう言って包帯の巻いてあるおでこを優しく撫でると、おばさんは俺を振り返り気丈に笑ってみせた。


「そうそう!それで、貴文君にお願いがあってね。入院に必要な荷物を取りに行ってる間、淳太の様子を見ていてほしいのよ」

「あ、はい、それは大丈夫です」

「ごめんなさいね。頼れるのが貴文君しか思い浮かばなかったものだから」

「いえ、そんな…」

「ふふっ、昔から淳太ったら貴文君の事大好きだったから、きっと喜ぶわ」

「……………っ」




ーーー俺…お前の事が好きなんだ




「じゃあ宜しくね」

「はい…….」


病室からおばさんが出て行き、淳太と二人きりなった。
俺はベッドに近付き、脇に置いてあった椅子に腰掛け、淳太の顔をじっと見つめた。

淳太、こんなに細かったか?
目の下クマ出来てるし、それに随分とやつれてる…。

淳太の腕に繋がれた点滴が、一つ…また一つと、規則的に落ちていった。

開いた窓から入ってきた夏の風があの日の様にカーテンを揺らし、ベッドに横たわる淳太の髪が一房目元を覆ってしまった。
俺は腕を伸ばし、その髪を優しくすき上げる。



ーーー俺…お前の事が好きなんだ。あ……いや、勘違いするな。尊敬してるって意味でだよ



「嘘つけ………昔っから俺の事大好きなくせに、バレバレなんだよ」


おれはそのまま、目を覚まさない淳太の額に軽く唇を落とす。
最近は苦しそうに笑ったあの日の淳太の顔ばかり思い出す。そんな顔をさせたのは俺だ。俺が自分の気持ちにちゃんと向き合わなかったから…。
俺は昔から屈託無く笑う淳太の顔が好きだったのに、何をやってたんだか。


「ごめんな淳太。俺、気付くの遅いよな」


ーーーーー淳太を失いたくない。
この気持ちが何よりも明白な答えだ。



掛け布団から出ていた淳太の手を取り強く握った。
淳太の笑った顔を早く見たい。



「早く…目を覚ませ。淳太」




握った手が、わずかに動いた気がした…――



END

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