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新しい恋の始め方
しおりを挟む「———あぁ、お前またフラれたんだ」
耳に当てた携帯電話から、呆れを含んだ声で聞こえて来る友人のその言葉に
「………はい」
俺は少し涙ぐみながら答える。
旅館の大浴場へと続く渡り廊下の途中で、風呂上がりの少し火照った身体を夜風で冷まそうと、木製の柵に寄り掛かりながら携帯で友人と話している。
内容は俺が今旅行をしている理由で、その理由とは、俺が彼女にフラれたための傷心旅行だった。
「——今年入って何人目?」
「三人目…です」
「——今回の彼女とは?」
「三週間………」
「——うっわ、お前最低だな」
うぅ……それは俺自身が一番分かってることだよ。
今まで自分から告白して付き合いだした事は一度も無いのだが、俺から別れを切り出した事も一度も無い。告白をしてくれた子とは全員と付き合ってきた。
来る者拒まず去る者追わずなこの性格。
周りからは取っ替え引っ替え遊んでいる様に見えるだろう事も分かっている。
しかし俺としては、一人一人と誠実に付き合って来たつもりだ。
しかし何故だか、歴代の彼女からは「本当に私の事好きなの?」とか「皆と同じじゃなくて私だけを見て!!」だとか、俺の想いを疑う様な事ばかり言われるのだ。
因みに今回の彼女からは「仕事と私どっちが大切なの!!」と、ド定番な言葉と共に別れを突きつけられた。
故に、友人の言葉がグサッと胸の奥深くにまで刺さり、激しくダメージを受けた俺は逆ギレと言う暴挙に出る。
「あーもーっ、うるさいっ!!」
「うわぁ!?」
ガシャッ
怒鳴ると同時に思わず携帯を持っていない方の腕を振り上げると、その腕が何か…いや、誰かにあたってしまった。
慌てた俺は友人に、またかけ直すと一言謝って通話を切り、腕をぶつけてしまった相手に駆け寄った。
「すみません!!大丈夫ですか!?どこか怪我とかしてませんか!?」
ぶつかった時に無機質な音が聞こえた気がしたが、どうやら相手は持っていた風呂桶を落としてしまっていたようで、その人はそれを拾おうとしゃがみ込んでいた。
角度から顔は見れないが、どうやら男性の様だ。浴衣の襟から覗く頸が彼も風呂上がりなのかほんのり赤く染まっている。
俺は桶からこぼれ出た風呂道具を拾うのを手伝う。
「あ、すみません大丈夫ですから」
男性にしては少し高いが、落ち着いた聴き心地の良い声だった。
「いやっ、俺のせいで落ちたので。ごめんなさい、ちょっと電話口で感情が昂ぶっちゃって……。あっ、怪我とかされてませんか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
俺の慌てた様子がおかしかったのか、お兄さんは細くて綺麗な指を口元に持っていき小さく笑った。怪我等は無いようで安心した。
「えーっと、これで最後かな」
俺は拾い上げた石鹸を風呂桶に入れ、持ち主に返した。
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言って受け取ったその人の顔が露わになり、それを真正面から見た俺は―――固まった。
(うわっ、めっちゃ綺麗な人ーー!!)
本当に綺麗な人だった。切れ長の瞳は一見冷たい印象を持つが優しく細められる事で和らぎ、スッと通った鼻筋に、心地の良い声が発せられるその唇は淡いピンク色で、厚すぎず薄すぎず程よく主張している。
浴衣から伸びた手足は、俺の様な筋肉質な物とは違いスラリ長く、襟や裾から覗く頸や足はちょっと目に毒だ……。
俺は言葉も無く彼の全身を眺めてしまったが、途中でと言うか、一通り舐め回す様に見惚れてからハッと自分が初対面の人に失礼な事をしてしまったことに気づく。
「あ、あの!!」
「え?あ、はい!」
いきなり声をかけられ驚いたのか、お兄さんは慌てて返事をした。
(あ、ヤベ…この人可愛すぎ)
心臓がドクドクと音をたてている。
今までこんなに他人を綺麗だ可愛いだと思った事があっただろうか。寧ろこんなにも人に興味を持った事なんてなかったかもしれない。そう思うと、これまで付き合ってきた歴代彼女に言われてきた「本当に私が好きなの?」と言う疑問も、強ち的外れでは無かったのかもしれない。
それほど、俺はこの人の事をもっと知りたいと思ってしまっているのだ。
どうしよう、何か言わないと。この場だけの関係で終わらせたくない!!
「えっと、そのー」
しかし今までの人生で自分からそう言った意味で人に声をかけた事が無いため、こう言う時は何とい言えば良いのか分からない。
いきなり、貴方可愛いですね等と言うのは余りにもおかしい。通報される。
良い夜ですね?キザ過ぎだろ。
ここには旅行に来たんですか?お一人で来てるんですか??お、何かそれっぽい良いかも!!
脳内でいろいろと考えていたせいで勢い余って彼の手を両手でガッと掴み、やっとの思いで口にしたのは
「お、お名前聞いてもいいですか!!?」
「え………….」
あ、終わった……絶対変なやつだと思われた。
全て飛び越えて、いきなり名前を聞いてしまった。
ナンパかよ。いや今時ナンパでもこんな事いきなり聞かないよ…。
掴んだ手も離せずに、自分で自分の言動にショックを受ける。
しかし気味悪がられて逃げ出されるか最悪通報でもされるのでは思ったのだが、一向に相手が動く気配がない。
恐る恐る相手の様子をうかがってみた。
「………………」
するとどうした事か、彼もまた俺と同じ様に固まっていた。
しかも耳まで真っ赤にして…。
(あ、これもしかして…)
彼の反応から一つの希望を見出した俺は
今度はしっかりと目を見て声をかけた。
「名前……聞いてもいいですか?」
新しい恋の始まり…?
END
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