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第1部 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる
第3章 『役割の更新』 (6)
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【登場人物紹介】
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられる。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。
──数時間後。
外の世界では、一本の動画が異様な速度で再生回数を伸ばしていた。
プラットフォーム上のトレンド欄には、すでにそれがトップに固定されている。
画面に映っているのは、きらびやかな照明に照らされた一人の人物。
長い赤髪に艶やかなリップ、左右非対称のピアス。
顔立ちは美しい。
だが、それは“人間”が持つ美しさではなかった。
人工的に整えられすぎて、現実感に乏しい。
まるでホログラムのような存在だった。
「みんな、昨日の爆発事件……もう知ってるよね?」
甘く、とろけるような声が、カメラ越しに響く。
「ニュースは“事故”って言ってる。でも……ほんとに、そう思う?」
視線はまっすぐカメラを射抜いているのに、どこか挑発的な笑みが滲んでいた。
背景のライトがわずかに点滅し、視聴者の注目を煽る。
「これはね、ある筋から入手した【超内部情報】なんだけど──」
言葉に“確証”の響きはない。
ただ、その不安定さが視聴者の好奇心をくすぐる。
画面が切り替わる。
少し粗い映像、学校の校庭。
制服姿の少女が遠巻きに映っている。
顔は──明らかに、リースだった。
「この子。名前は伏せておくけど、“特別な個体”なんだってさ。そう、生殖能力アリ。倫理委員会は、当然目を光らせてたわけ。だって“命を作る機能”を持った再生人間なんて……ねえ、怖いでしょ?」
コメント欄が一気に炎上する。
《これマジで特定?》《あの顔で爆破犯は草》《人間ってヤバすぎん?》《持ってるアウロイド誰?》《生殖可能って何?こわ……》
配信者は笑みを浮かべたまま、続きを語る。
「しかもね、事件の直前、彼女が倫理委員会の中枢データにアクセスしてたって噂もあるの。うーん、どう思う? “真相を暴こうとしていた正義の子”? それとも、“抹殺される前に、復讐を遂げた子”?」
話し方は慎重だ。
断言はしない。
だが、すべての言葉が“印象操作”の刃だった。
視聴者の頭に、物語の“構図”だけが静かに刷り込まれていく。
「ま、いずれにしても今は拘束中って話。次は“処分”かな? あるいは……また、誰かが爆破されるのかも。」
唇に指を添える。
その瞬間、背景照明が真紅に染まった。
舞台演出のように。
演出ではなく、見せ物だった。
「信じるかどうかは、あなた次第。でも、真実って──だいたい“見たい形”をしてるものだよね?」
映像は、ふっと暗転した。
だがその余韻は、止まらなかった。
切り抜き、引用、要約、憶測──。
動画はネットの海に散り、やがて事実の仮面を被った“物語”として拡散されていく。
リース・JCF02621という名前は、匿名の陰謀論と興奮の火種になった。
そして、彼女自身の手の届かない場所で、“真実”がひとり歩きしていく。
リースの拘束室は、夜の静けさすら押し殺すような光で満ちていた。
天井の明りは一秒の瞬きも許さず、眠りや安堵を拒むような白さを放っていた。
彼女は壁にもたれ、膝を抱えたまま動かない。
目はどこも見ておらず、すべてを拒んでいた。
(もう……誰も信じられない)
アリアの失踪の知らせは、彼女の心に最後のひびを入れた。
あの、どこまでも自由で、どこか強引で、でも信じられると思っていた“教師”が──いなくなった。
ガチャリ──。
乾いた音に、リースの身体がびくりと跳ねた。
だが、現れたのは制服の警備アウロイドではなかった。
小柄な影。
前髪の隙間からのぞく、真剣な瞳。
その姿を見た瞬間、リースの喉がかすかに震えた。
「……ルシアン?」
「声を抑えて。監視センサーは音にも反応する」
彼は小さな端末を片手に、手早くドアのフレームを操作した。
画面に浮かぶ“監視フレーム・固定”の文字。
映像が書き換えられた証拠だった。
「アリアが消えた。ユノも探してる。でも、時間が経てば……君は処分される」
リースはゆっくりと顔を上げた。
「分かってる」と言おうとしたその表情には、諦めと微かな祈りが混じっていた。
「……誰かが守ろうとしてくれてるのも知ってる。でも、みんな言うの。“嘘をつけ”“逃げろ”って。……それって、私のためじゃないよ。ただ生き延びろってだけ。……それって、本当に意味あるの?」
声は震えていなかったが、その静けさこそが限界の証だった。
ルシアンはそんな彼女を正面から見据えた。
その小さな胸に、確かな意思が宿っていた。
「だからこそ、君が決めて」
「僕は逃げ道を作る。でも、出るのかどうかは君が選んで」
「……選べって、私に?」
「うん。逃げた先で、誰かをもう一度信じられるか。それとも、ここで“もう十分だ”って思うか」
リースは数秒間、何も言わずに彼を見た。
やがて、静かに立ち上がる。
「……ほんと、無茶するよね、あんた」
「君に言われたくないな」
短く笑い合った。
だがその笑いは、もう後戻りしない者たちの笑いだった。
ルシアンは端末を取り出し、拘束具の制御コードを解除した。
リースの腕から、冷たいリングが外れる。
痕が、赤く残っていた。
「さあ、行こう」
その言葉と共に、二人は音も立てず、廊下へと滑り出る。
施設の死角、警備ロジックの抜け穴──ルシアンが密かに割り出していた経路を、無言で駆け抜ける。
(アリア……本当に、どこにいるの?)
走りながら、リースは心の中でその名前を呼んだ。
言葉にすれば崩れてしまいそうなほど、強くて、弱い願いだった。
やがて、重厚な隔壁の裏に辿り着く。
最後の扉が開くと同時に、冷たい夜風が二人の頬を撫でた。
目の前に広がっていたのは、旧市街地──かつて人間が栄え、滅び、そして再生された記憶の街。
それは、再び始めるための逃走だった。
逃げるのではなく、“取り戻す”ための始まりだった。
走る足音。
夜の冷たさ。
誰もいない通路。
(怖い──)
躊躇いが喉に張りつく。
でも、それ以上に、胸の奥で叫ぶ声があった。
(ここで立ち止まったら、私が私じゃなくなる)
誰のものでもない、自分の足で。
自分の意志で、生きていたかった。
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられる。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。
──数時間後。
外の世界では、一本の動画が異様な速度で再生回数を伸ばしていた。
プラットフォーム上のトレンド欄には、すでにそれがトップに固定されている。
画面に映っているのは、きらびやかな照明に照らされた一人の人物。
長い赤髪に艶やかなリップ、左右非対称のピアス。
顔立ちは美しい。
だが、それは“人間”が持つ美しさではなかった。
人工的に整えられすぎて、現実感に乏しい。
まるでホログラムのような存在だった。
「みんな、昨日の爆発事件……もう知ってるよね?」
甘く、とろけるような声が、カメラ越しに響く。
「ニュースは“事故”って言ってる。でも……ほんとに、そう思う?」
視線はまっすぐカメラを射抜いているのに、どこか挑発的な笑みが滲んでいた。
背景のライトがわずかに点滅し、視聴者の注目を煽る。
「これはね、ある筋から入手した【超内部情報】なんだけど──」
言葉に“確証”の響きはない。
ただ、その不安定さが視聴者の好奇心をくすぐる。
画面が切り替わる。
少し粗い映像、学校の校庭。
制服姿の少女が遠巻きに映っている。
顔は──明らかに、リースだった。
「この子。名前は伏せておくけど、“特別な個体”なんだってさ。そう、生殖能力アリ。倫理委員会は、当然目を光らせてたわけ。だって“命を作る機能”を持った再生人間なんて……ねえ、怖いでしょ?」
コメント欄が一気に炎上する。
《これマジで特定?》《あの顔で爆破犯は草》《人間ってヤバすぎん?》《持ってるアウロイド誰?》《生殖可能って何?こわ……》
配信者は笑みを浮かべたまま、続きを語る。
「しかもね、事件の直前、彼女が倫理委員会の中枢データにアクセスしてたって噂もあるの。うーん、どう思う? “真相を暴こうとしていた正義の子”? それとも、“抹殺される前に、復讐を遂げた子”?」
話し方は慎重だ。
断言はしない。
だが、すべての言葉が“印象操作”の刃だった。
視聴者の頭に、物語の“構図”だけが静かに刷り込まれていく。
「ま、いずれにしても今は拘束中って話。次は“処分”かな? あるいは……また、誰かが爆破されるのかも。」
唇に指を添える。
その瞬間、背景照明が真紅に染まった。
舞台演出のように。
演出ではなく、見せ物だった。
「信じるかどうかは、あなた次第。でも、真実って──だいたい“見たい形”をしてるものだよね?」
映像は、ふっと暗転した。
だがその余韻は、止まらなかった。
切り抜き、引用、要約、憶測──。
動画はネットの海に散り、やがて事実の仮面を被った“物語”として拡散されていく。
リース・JCF02621という名前は、匿名の陰謀論と興奮の火種になった。
そして、彼女自身の手の届かない場所で、“真実”がひとり歩きしていく。
リースの拘束室は、夜の静けさすら押し殺すような光で満ちていた。
天井の明りは一秒の瞬きも許さず、眠りや安堵を拒むような白さを放っていた。
彼女は壁にもたれ、膝を抱えたまま動かない。
目はどこも見ておらず、すべてを拒んでいた。
(もう……誰も信じられない)
アリアの失踪の知らせは、彼女の心に最後のひびを入れた。
あの、どこまでも自由で、どこか強引で、でも信じられると思っていた“教師”が──いなくなった。
ガチャリ──。
乾いた音に、リースの身体がびくりと跳ねた。
だが、現れたのは制服の警備アウロイドではなかった。
小柄な影。
前髪の隙間からのぞく、真剣な瞳。
その姿を見た瞬間、リースの喉がかすかに震えた。
「……ルシアン?」
「声を抑えて。監視センサーは音にも反応する」
彼は小さな端末を片手に、手早くドアのフレームを操作した。
画面に浮かぶ“監視フレーム・固定”の文字。
映像が書き換えられた証拠だった。
「アリアが消えた。ユノも探してる。でも、時間が経てば……君は処分される」
リースはゆっくりと顔を上げた。
「分かってる」と言おうとしたその表情には、諦めと微かな祈りが混じっていた。
「……誰かが守ろうとしてくれてるのも知ってる。でも、みんな言うの。“嘘をつけ”“逃げろ”って。……それって、私のためじゃないよ。ただ生き延びろってだけ。……それって、本当に意味あるの?」
声は震えていなかったが、その静けさこそが限界の証だった。
ルシアンはそんな彼女を正面から見据えた。
その小さな胸に、確かな意思が宿っていた。
「だからこそ、君が決めて」
「僕は逃げ道を作る。でも、出るのかどうかは君が選んで」
「……選べって、私に?」
「うん。逃げた先で、誰かをもう一度信じられるか。それとも、ここで“もう十分だ”って思うか」
リースは数秒間、何も言わずに彼を見た。
やがて、静かに立ち上がる。
「……ほんと、無茶するよね、あんた」
「君に言われたくないな」
短く笑い合った。
だがその笑いは、もう後戻りしない者たちの笑いだった。
ルシアンは端末を取り出し、拘束具の制御コードを解除した。
リースの腕から、冷たいリングが外れる。
痕が、赤く残っていた。
「さあ、行こう」
その言葉と共に、二人は音も立てず、廊下へと滑り出る。
施設の死角、警備ロジックの抜け穴──ルシアンが密かに割り出していた経路を、無言で駆け抜ける。
(アリア……本当に、どこにいるの?)
走りながら、リースは心の中でその名前を呼んだ。
言葉にすれば崩れてしまいそうなほど、強くて、弱い願いだった。
やがて、重厚な隔壁の裏に辿り着く。
最後の扉が開くと同時に、冷たい夜風が二人の頬を撫でた。
目の前に広がっていたのは、旧市街地──かつて人間が栄え、滅び、そして再生された記憶の街。
それは、再び始めるための逃走だった。
逃げるのではなく、“取り戻す”ための始まりだった。
走る足音。
夜の冷たさ。
誰もいない通路。
(怖い──)
躊躇いが喉に張りつく。
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1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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