リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

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第1部 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

第4章 『駆け出す真実』 (2)

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【登場人物紹介】
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられる。留置施設から逃亡する。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。ハッキングされ失踪する。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。リースと共に逃亡中。


 ふと、ルシアンが急に黙り込んだ。
 目を伏せたまま、そっとポケットに手を差し入れる。
 その様子に、リースは小さく首を傾げた。

「……どうしたの?」
「見せておくべきだと思って」

 そう呟いて、ルシアンが取り出したのは親指ほどの小さな金属の筒だった。
 くすんだ銀灰色の外装には、指先ほどの微細な幾何学模様が彫り込まれている。
 まるで古代の封印具のように、沈黙をまとった存在感があった。

「それ……」
「プロトキー。“機密記録媒体”って言ってた。僕の所有者──セフィラが大事そうに保管してたやつ。たぶん、持ち出したのがバレたら相当まずい。でも……知りたくて」

 その声には、理性と好奇心と焦りが複雑に絡み合っていた。

「見たことは?」
「僕のビーコンじゃ反応するだけで開かない。中身は見られなかった。でも、ずっと感じてた。これは“過去”と“真実”を閉じ込めた鍵なんだって。……君のビーコンなら、開けられるかもしれない」

 リースは黙ってプロトキーを見つめた。
 手のひらに渡された瞬間、指輪型デバイス──遺伝子ビーコンが静かに脈を打ち始める。
 温度のない震え。
 だが、確かに“反応している”のが分かった。

「……試してみよう」
「本当にいいの?」
「“知らない”っていう選択肢、今の私たちにはもう残ってない」

 リースは右手を伸ばし、ビーコンをプロトキーの認証領域にかざす。
 数秒の沈黙。
 そして、金属筒の先端が鈍く光を放ち始めた。

  【認証中……】
  【遺伝子ビーコン:生殖型個体/アクセス権限:適合】
  【記録分類:極秘ランクα】
  【機密データ構造展開準備完了】

 次の瞬間、プロトキーから立体的なホログラムが広がった。
 空中に網のように展開されたデータ構造。
 暗い色彩の中、複数のフォルダが幾層にも重なり、そのひとつひとつに、封印された“何か”が潜んでいる気配があった。

  【記録名:種の終わり】
  【旧文明機密報告書/人類滅亡要因】
  【映像データ:交渉ログ/生態的崩壊報告/AIとの対話記録】
  【閲覧制限:生殖機能保有個体に限る】

「……これ、もしかして……」
「人間がなぜ絶滅したのか。その全てが、ここに……」

 ルシアンの声がかすれる。
 リースの指が震えながら、映像ファイルのひとつに触れかけた。

  《閲覧許可リクエスト承認》
  《再生開始──》

 だが、その直後。

  《アクセス違反検出》
  《閲覧禁止領域に接触》
  《プロトコル D-K_003 fragment 起動》

 ホログラム全体が激しくノイズを帯び、映像が崩れ、文字列が闇に溶けていく。
 電子音が耳を突き、プロトキーの筒身が微かに軋みをあげた。

「なに……!? データが……消えてく……!」

 ルシアンが端末を操作するが、反応はない。
 ホログラムは暴走し、真っ黒な渦に呑まれるように沈んでいく。

 そして、最後に──

  《DIOS》



 その瞬間、リースの体がびくりと跳ねた。
 まるで意識の奥に“誰か”が指を差し込んできたような──冷たく、粘つく思念が脳髄を這う。
 時間が歪み、思考が淀む。
 頭の内側に、静かに氷水が流れ込んでいく感覚。

「……入ってくる……! 何かが、私の中に……!」

 反射的に、リースは右手を引き寄せ、指にはめていた遺伝子ビーコンを勢いよく引き抜いた。

 直後。
 空気が震え、ホログラムが弾けるように爆散した。
 空中に散らばった光の断片は、まるで花弁のようにきらめき、何かを伝え残す前に、音もなく消えていった。

 プロトキーは完全に沈黙した。
 さっきまでリースを侵そうとしていた“存在”の気配も、熱も、何もかも──跡形もなく消え去っていた。

「……なんだったんだ、今のは」

 ルシアンが息をひそめるように言う。
 リースは肩で呼吸しながら、かすれた声で答えた。

「……分からない。でも確かに、“何か”が来てた。私の脳じゃない……もっと根本的な、感覚の深層に触れてきた……」

 ホログラムが残した“種の終わり”という言葉。
 その記録は、今や痕跡すら残っていなかった。

「壊れたのか?」

 ルシアンは慎重にプロトキーを拾い上げ、指先でその表面をなぞる。
 だが金属の筒は、もはや何の反応も示さない。

「……動きそう?」
「……いや。もう、完全に沈黙してる。まるで……中身ごと消されたみたいだ」

 彼は自分のビーコンを近づけてみる。
 けれど、プロトキーはただの“抜け殻”のように冷たく、沈黙を返すだけだった。

「“人類滅亡の理由”って……本当に、入ってたの?」
「冗談みたいだけど……でも、あれは確かに“禁じられた記録”だった。誰かに触れられたくなかった記憶。だから、壊された」

 そう言って、リースはそっとビーコンを元の指に戻した。
 ──その瞬間だった。

「……あれ?」

 リースは目を見開いた。
 指輪が、かすかに光を点滅させていた。
 一定ではない、不規則で、けれど“どこかに向かって”呼びかけるようなリズム。
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