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第1部 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる
第5章 『記憶のビーコン』 (1)
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【登場人物紹介】
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられる。留置施設から逃亡する。逃亡中、アリアからの信号を受信する。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。ハッキングされ失踪する。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。リースと共に逃亡中。
ユノは自宅の端末前に立ち、電脳を走らせながら短く命じた。
「倫理委員会・情報審査部門、優先回線で繋いで」
【接続中……】
【通信帯域 優先確保/認証:ユノ・KPU03627】
【接続先:倫理委員会中央ノード】
わずか数秒後、壁面の大型ホログラムが点灯し、白い無機質な背景とともに通信担当のアウロイドが姿を現した。
背後には、倫理委員会の公式紋章が冷たく浮かぶ。
「ユノ・KPU03627氏。事件関係者の所有者としての接続を確認しました。現在、逃走中のリース・JCF02621に関する処分は継続審議中です」
「その前に、これを見て」
ユノは相手の言葉を遮り、用意していたデータファイルを即座に転送した。
証拠改ざんの技術ログ。
アリアの識別コード。
爆破事件における記録の書き換えと、発信元偽装の痕跡──すべてが、リースの無実を裏付ける決定的な情報だった。
「これはアリア・LNA04421から直接送られてきた。事件記録に不正操作があった証拠です。リースへの容疑は、虚偽の可能性が極めて高い」
通信アウロイドの瞳が淡く光り、瞬時にデータを精査していく。
「……確認中。正当性が認められれば、拘束命令および処分案は即時保留措置へと移行します」
「それで構わない。今すぐ再審議に回して。時間がないの。アリアの所在が判明した。これから私が、リースとルシアンを回収に向かう」
「逃走中のリース個体を“回収”とは、倫理的責任上──」
「私の所有個体よ。保護義務は私が果たす。報告は後で構わない。今必要なのは、処分判断と回収命令の一時停止。それだけでいい」
沈黙が一瞬だけ流れたのち、アウロイドが静かに頷いた。
「……了解。データは正式に受理。記録として保存、再審議プロセスに移行します」
通信が切断された。
ユノは素早く端末を持ち直し、背後の自動装着アウターを乱れなく身に着けた。
そして、小さく息を吐いてつぶやく。
「リース、今から迎えに行くから」
次の瞬間、自宅ガレージの電動シャッターが開き、車両のモーター音が応答のように響く。
ユノは乗り込むなり自動運転をキャンセルし、マニュアルに切り替えた。
アクセルを踏み込む。
ハンドルを握る手に、迷いはなかった。
彼女の車は夜の街を裂くように、旧市街へと向かって走り出した。
旧市街の空は、沈んだ灰色に染まっていた。
人工光が届かぬ廃墟の谷間を、錆びと埃を巻き上げる風が通り抜ける。
その静けさを破るように、鋭い足音が近づいてきた。
金属片を踏み砕く、規則的で容赦ない響き。
薄闇を割って現れたのは、黒いコートを翻す男──リザレクテッド反対派のアウロイド、ザインだった。
無機質な視線がリースとルシアンを射抜く。
二人は反射的に身構える。
ザインはゆっくりと歩を進め、静かに告げた。
「……ここにいたか、リザレクテッド。先ほどの信号──捉えさせてもらった」
その声には、凍てつくような静けさと、隠しきれない敵意がにじんでいた。
「お前たちは、存在そのものが過ちだ。滅んだ種を掘り返し、また世界を腐らせるつもりか……その愚行に、まだ気づかないとはな」
リースは黙ったまま鋭い眼差しで応える。
ルシアンが前に出ようとするのを、彼女が手で制した。
「争いを生むのがリザレクテッドだと? ならば、その種を狩る者もまた──争いの化身だ」
ザインの手が静かにコートの内側へ滑り込む。
そして、次の瞬間──彼の掌に現れたのは、小型のパルスブレード。
無音の殺意が走る。
リースの目がわずかに揺れた。
「消えてもらう。ここで、私が終わらせる」
緊張が空気ごと凍りつく。
リースは咄嗟に身を低くしたが、逃げ場はない。
遮蔽物もない。
ザインが一歩、地を踏みしめる。
その瞬間──
唸るようなモーター音が、建物の角を回り込むように響いた。
強烈なライトがザインの背後を照らし、直後に車が急停止。
ドアが跳ね上がり、闇の中から一人の女性型アウロイドが飛び出した。
「やめなさい!」
ユノだった。
手には小型のテイザー。
彼女の目に、躊躇はなかった。
ユノは冷静に足を踏み出し、構え、狙いを定め──引き金を引く。
パシュッ。
鋭く乾いた音とともに、放たれた電撃が青白い光を帯びてザインの脇腹へ突き刺さる。
その身体がびくりと震え、パルスブレードが落ちる。
ザインはその場に膝をつき、顔をしかめながら呻く。
「ここはあなたの舞台じゃない。理屈も立場も捨てたあなたに残るのは、ただの暴力だけ」
呻き声が、かすかな笑いに変わる。
「まだ……終わらんぞ……。自力で繁殖する? 好き勝手に増える? そんな存在……気味が悪い……」
呻きの最後の一言を吐き捨て、ザインは地面に崩れ落ちた。
その瞳からは、理性の光が完全に消えていた。
静寂が戻る。
ユノは肩で息をしながら、手のテイザーを下ろした。
リースが呆然と立ち尽くす。
「……ユノ……」
その声は掠れていたが、確かに届いた。
ユノは駆け寄り、リースの肩を掴む。
その手に、ほのかな震えと熱があった。
「大丈夫? 怪我はない?」
「……うん。でも……怖かった」
「もう大丈夫。私が来たから。もう、誰にも傷つけさせない」
言葉よりも、手の温もりがすべてを伝えていた。
少し離れた場所でルシアンが口を開いた。
「ユノ……ありがとう。来てくれて」
ユノは彼に目を向け、小さく頷いた。
「証拠は送ってある。倫理委員会は再審議に入った。あとはアリアを助け出せば、リースの処分も取り消される」
「アリアの体……まだ、あの座標に?」
「確認済み。アクセスに少し手間はかかるけど、行ける。ここ」
ユノは端末を操作し、ホログラムにマークされた地下施設の入り口を映し出す。
「旧地下鉄の廃止区画。正規ルートは封鎖されてるけど、非常用トンネルが使える」
リースが画面を覗き込み、表情を引き締めた。
「急ごう。アリアが……待ってる」
三人は車に乗り込み、ドアが閉まると同時に駆動音が鳴った。
車体が地を蹴り、闇に向かって走り出す。
廃墟を抜け、地上から地下へ。
過去の残響と、眠る真実が待つ場所へ。
その背を、風が静かに押していた。
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられる。留置施設から逃亡する。逃亡中、アリアからの信号を受信する。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。ハッキングされ失踪する。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。リースと共に逃亡中。
ユノは自宅の端末前に立ち、電脳を走らせながら短く命じた。
「倫理委員会・情報審査部門、優先回線で繋いで」
【接続中……】
【通信帯域 優先確保/認証:ユノ・KPU03627】
【接続先:倫理委員会中央ノード】
わずか数秒後、壁面の大型ホログラムが点灯し、白い無機質な背景とともに通信担当のアウロイドが姿を現した。
背後には、倫理委員会の公式紋章が冷たく浮かぶ。
「ユノ・KPU03627氏。事件関係者の所有者としての接続を確認しました。現在、逃走中のリース・JCF02621に関する処分は継続審議中です」
「その前に、これを見て」
ユノは相手の言葉を遮り、用意していたデータファイルを即座に転送した。
証拠改ざんの技術ログ。
アリアの識別コード。
爆破事件における記録の書き換えと、発信元偽装の痕跡──すべてが、リースの無実を裏付ける決定的な情報だった。
「これはアリア・LNA04421から直接送られてきた。事件記録に不正操作があった証拠です。リースへの容疑は、虚偽の可能性が極めて高い」
通信アウロイドの瞳が淡く光り、瞬時にデータを精査していく。
「……確認中。正当性が認められれば、拘束命令および処分案は即時保留措置へと移行します」
「それで構わない。今すぐ再審議に回して。時間がないの。アリアの所在が判明した。これから私が、リースとルシアンを回収に向かう」
「逃走中のリース個体を“回収”とは、倫理的責任上──」
「私の所有個体よ。保護義務は私が果たす。報告は後で構わない。今必要なのは、処分判断と回収命令の一時停止。それだけでいい」
沈黙が一瞬だけ流れたのち、アウロイドが静かに頷いた。
「……了解。データは正式に受理。記録として保存、再審議プロセスに移行します」
通信が切断された。
ユノは素早く端末を持ち直し、背後の自動装着アウターを乱れなく身に着けた。
そして、小さく息を吐いてつぶやく。
「リース、今から迎えに行くから」
次の瞬間、自宅ガレージの電動シャッターが開き、車両のモーター音が応答のように響く。
ユノは乗り込むなり自動運転をキャンセルし、マニュアルに切り替えた。
アクセルを踏み込む。
ハンドルを握る手に、迷いはなかった。
彼女の車は夜の街を裂くように、旧市街へと向かって走り出した。
旧市街の空は、沈んだ灰色に染まっていた。
人工光が届かぬ廃墟の谷間を、錆びと埃を巻き上げる風が通り抜ける。
その静けさを破るように、鋭い足音が近づいてきた。
金属片を踏み砕く、規則的で容赦ない響き。
薄闇を割って現れたのは、黒いコートを翻す男──リザレクテッド反対派のアウロイド、ザインだった。
無機質な視線がリースとルシアンを射抜く。
二人は反射的に身構える。
ザインはゆっくりと歩を進め、静かに告げた。
「……ここにいたか、リザレクテッド。先ほどの信号──捉えさせてもらった」
その声には、凍てつくような静けさと、隠しきれない敵意がにじんでいた。
「お前たちは、存在そのものが過ちだ。滅んだ種を掘り返し、また世界を腐らせるつもりか……その愚行に、まだ気づかないとはな」
リースは黙ったまま鋭い眼差しで応える。
ルシアンが前に出ようとするのを、彼女が手で制した。
「争いを生むのがリザレクテッドだと? ならば、その種を狩る者もまた──争いの化身だ」
ザインの手が静かにコートの内側へ滑り込む。
そして、次の瞬間──彼の掌に現れたのは、小型のパルスブレード。
無音の殺意が走る。
リースの目がわずかに揺れた。
「消えてもらう。ここで、私が終わらせる」
緊張が空気ごと凍りつく。
リースは咄嗟に身を低くしたが、逃げ場はない。
遮蔽物もない。
ザインが一歩、地を踏みしめる。
その瞬間──
唸るようなモーター音が、建物の角を回り込むように響いた。
強烈なライトがザインの背後を照らし、直後に車が急停止。
ドアが跳ね上がり、闇の中から一人の女性型アウロイドが飛び出した。
「やめなさい!」
ユノだった。
手には小型のテイザー。
彼女の目に、躊躇はなかった。
ユノは冷静に足を踏み出し、構え、狙いを定め──引き金を引く。
パシュッ。
鋭く乾いた音とともに、放たれた電撃が青白い光を帯びてザインの脇腹へ突き刺さる。
その身体がびくりと震え、パルスブレードが落ちる。
ザインはその場に膝をつき、顔をしかめながら呻く。
「ここはあなたの舞台じゃない。理屈も立場も捨てたあなたに残るのは、ただの暴力だけ」
呻き声が、かすかな笑いに変わる。
「まだ……終わらんぞ……。自力で繁殖する? 好き勝手に増える? そんな存在……気味が悪い……」
呻きの最後の一言を吐き捨て、ザインは地面に崩れ落ちた。
その瞳からは、理性の光が完全に消えていた。
静寂が戻る。
ユノは肩で息をしながら、手のテイザーを下ろした。
リースが呆然と立ち尽くす。
「……ユノ……」
その声は掠れていたが、確かに届いた。
ユノは駆け寄り、リースの肩を掴む。
その手に、ほのかな震えと熱があった。
「大丈夫? 怪我はない?」
「……うん。でも……怖かった」
「もう大丈夫。私が来たから。もう、誰にも傷つけさせない」
言葉よりも、手の温もりがすべてを伝えていた。
少し離れた場所でルシアンが口を開いた。
「ユノ……ありがとう。来てくれて」
ユノは彼に目を向け、小さく頷いた。
「証拠は送ってある。倫理委員会は再審議に入った。あとはアリアを助け出せば、リースの処分も取り消される」
「アリアの体……まだ、あの座標に?」
「確認済み。アクセスに少し手間はかかるけど、行ける。ここ」
ユノは端末を操作し、ホログラムにマークされた地下施設の入り口を映し出す。
「旧地下鉄の廃止区画。正規ルートは封鎖されてるけど、非常用トンネルが使える」
リースが画面を覗き込み、表情を引き締めた。
「急ごう。アリアが……待ってる」
三人は車に乗り込み、ドアが閉まると同時に駆動音が鳴った。
車体が地を蹴り、闇に向かって走り出す。
廃墟を抜け、地上から地下へ。
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