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第1部 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる
第11章 『接続された意識』 (1)
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その夜、収容施設の片隅。
静まり返った区画に、夜間照明の冷たい光がガラス窓をぼんやりと滲ませていた。
外には色を失った空と、音もなく横切る監視ドローンの影。
レインはカーテンを閉めずに、ベッドの端に腰かけていた。
この部屋は特別区画の一室。
かつて「選ばれし者」とされた者のために用意された、無菌室のような静謐さに包まれている。
清潔で、整いすぎていて、だからこそ何も語らない空間だった。
右手のリングにそっと触れる。
内蔵された赤いビーコンは、すでに識別の役目を終え、今はただの無意味な光のように見えた。
廊下の向こうから、足音がひとつ。
ドアがわずかに軋み、顔を覗かせたのはルシアンだった。
警備の死角を縫って来たらしく、息を殺すようにして部屋へと入る。
「……ごめん、眠れなくて」
レインは頷く。
「僕も」と、短く返した。
二人はしばらく、何も言わずに窓の外を見ていた。
言葉を交わさなくても、そこには確かに通じ合うものがあった。
やがてルシアンが、ぽつりと口を開いた。
「レインはさ……“選ばれた”って、どう思ってる?」
レインはすぐには答えず、視線を落とした。
沈黙の中で、言葉を探すように息を整える。
「……ずっと思ってた。“選ばれた”って、まるで呪いみたいだなって。誰かに貼られるラベルで、自分が何を思ってるかなんて、見てくれない。ただ期待に応えるだけの存在。断ったら、無意味だって言われる気がして……だから、何も拒めなかった」
彼はリングを指先で軽く回した。
赤い光がゆっくりと揺れ、指の影に溶けていく。
「でも最近、やっと分かってきた。意味なんて、他人に決めさせなくていいんだ。僕がどう生まれたかとか、何を選ぶかとか、誰といたいかって──それを決めるのは、僕でいいって」
言い終えて、レインは窓の向こうに目を戻す。
淡い夜光が頬を照らし、どこか遠くを見つめるようだった。
ルシアンはその横顔を見つめたまま、静かに笑った。
「……レインって、強いんだね」
レインもまた、かすかに微笑んだ。
それは今まで誰にも見せたことのない、初めての笑みだった。
壊れそうなほど小さく、それでいて確かにそこに宿る、意思の輪郭だった。
翌日。
倫理委員会の医療棟。
その一室に、無機質な白が静かに満ちていた。
少女──リースは、淡い医療用カバーに包まれてベッドに横たわる。
拘束はない。
けれどその眠りは、深い霧に沈んだような意識の奥底だった。
部屋には白衣のスタッフたちと、無言で動くオペレーションユニット。
そして彼女の頭上では、「ニューロスキャナー」と刻印された装置が、静かに回転を始めていた。
その様子を、別室の端末から覗き見ている二対の瞳があった。
「……映った。間違いない、リースだ」
ルシアンが自作のポート端末を操作し、暗い画面をレインに向けて傾ける。
映像には天井カメラの視点から捉えた医療室。
乱れた髪、規則的に上下する胸。
リースは確かにそこにいた。
「何……これ……見覚えある。この器具……」
レインが画面を凝視する。
スタッフが何かを準備していた。
シールドケースから取り出される銀色のパーツ。
脳神経接続用のナノケーブル、スキャン結果を流すためのフィードライン──その一つひとつが、明らかに“手術”の準備だった。
「……これ、まさか……電脳化……?」
声が震える。
「は? 電脳化って……アリアみたいに?」
「……そう。でも、これはおかしい。準備が粗い。たぶん、完全じゃない。神経中枢だけを一時的に接続して、強引にアクセスする気だ……」
「……ねえ、それって……やばい?」
レインの顔から血の気が引いていた。
かすかに唇が震えている。
「失敗したら……脳梗塞。最悪、死ぬ」
ルシアンの手が止まる。
「……嘘だろ……なんで……なんでそんな……!」
「“中身”を、覗くつもりだ。リースの記憶を、感情を、思考を……全部、分析するために」
レインは無言で拳を握りしめ、立ち上がりかけて──天井の監視カメラに目をやり、足を止めた。
「このままじゃ……リースが壊される」
「止められないの? 今からでも……!」
「正面からじゃ無理。でも、他の手段なら……」
張りつめた空気が二人の間に漂う。
画面の中では、ニューロスキャナーが音もなく回転を続けていた。
その動作音さえ、今は不気味な時計の針のように感じられた。
そのとき──レインの肩が小さく震えた。
顔を両手で覆い、かすかな息が漏れる。
「……レイン?」
返事はなかった。
けれど、小さな声が、指の隙間から落ちた。
「どうして……いつも、こうなんだろう……」
一滴の涙が、膝の上に落ちる。
「僕たちって……“特別”だったはずだよね。観察対象、守られるべき存在……そう言われてたのに、実際は……」
言葉が詰まり、吐き出すように続いた。
「命令に逆らっただけで、こんな扱いをされて……それが“当然”みたいに扱われて……黙ってなきゃいけないって……!」
拳が震える。
ルシアンはそっと手を伸ばし、レインの肩に触れた。
拒まれるのを覚悟で。
だがレインは、その手を払おうとはしなかった。
かすれた声で、ぽつりと漏らす。
「僕、怖いんだ……。次は、僕かもしれない。感情が“過剰”だって判断されたら、切り捨てられるかもしれない。子どもを作るために生まれて──その役目が終わったら、空っぽになって……そんなの、生きてるって言えるのかな……」
もう一滴、涙が落ちる。
今度は頬を伝い、震える指先に触れた。
ルシアンは、しっかりとレインの顔を見つめた。
その瞳の奥に、確かな想いを込めて言葉を置く。
「レイン。君は、誰かのための機能じゃない。誰かの期待の中だけに生きてるわけじゃない。君は、“君自身”として、ここにいる。……少なくとも、僕はそう思ってる。リースも、きっとそうだった。だから……君が泣くのを、隠さなくていい」
レインがゆっくりと顔を上げる。
縁を赤く染めたその瞳が、ルシアンを見返した。
そして、ほんのわずかに──唇が動いた。
それが微笑だったのか、泣き崩れる寸前の表情だったのかは、ルシアンにも分からなかった。
ただ、たしかにその瞬間、彼の“生”が、揺らぎながらもそこにあった。
中央倫理管理庁。
その高層ビル最上階にある公聴会議場には、重々しい静けさが漂っていた。
白を基調とした空間に響くのは、時折の紙擦れと電子音だけ。
空調の音さえ、まるで息を潜めているかのようだった。
ユノは黒のスーツに身を包み、胸元には弁護代理の認証パスが揺れていた。
証言席に立つ彼女の姿は、凛としていたが、瞳の奥には確かな闘志が灯っている。
その隣に立つのは、金属光沢のスーツに身を包んだカデルワン。
いつも無表情な彼でさえ、この場ではわずかに眉間に皺を寄せ、抑えきれない緊張を滲ませていた。
正面には、倫理委員会の幹部たちがずらりと議席に並んでいる。
その中央で静かに構えるのは、首席評議員。
目を閉じたまま聞いている者もいれば、タブレットに視線を落としている者もいる。
だが、いずれも無言だった。
まるで、この場に感情など必要ないとでも言うように。
「──ユノ・KPU03627氏。あなたは、リザレクテッドの回収措置が不当であると主張しています。制度的な違反点を、具体的に述べてください」
評議員の問いかけに、ユノは静かに息を吸い込んだ。
そして、迷いのない声で答える。
「まず第一に、今回の回収命令は“安全保障上の懸念”を理由としていますが、それに対して個別審査も証拠提示も一切行われていません。これは、対象個体の尊厳を著しく踏みにじる行為であり、一方的な処分に他なりません」
ユノの言葉に、議席の表情は変わらない。
だが、場の空気はわずかに揺れた。
カデルワンがすかさず言葉を継ぐ。
「さらに、我々の調査によって、回収後の施設において強制的な電脳化の準備が進められている個体が複数存在することが確認されています。これは、法令第24条“精神構造への非同意アクセスの禁止”に明確に抵触するものです」
それでも、幹部たちは動かない。
ただ情報だけを受け取る機械のように、静かに座している。
やがて、首席評議員がゆっくりと前に身を乗り出した。
「……主張は理解しました。しかし、現時点では緊急性を裏づける直接的な証拠が不足しています。公的な判断を下すには、慎重な検討の時間が必要です。ご理解いただきたい」
言葉は丁寧だった。
だが、そこに“動く意思”はなかった。
ユノの表情がわずかに硬くなる。
カデルワンは目線を横にそらし、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「……“時間が必要”か。その言葉で、どれだけの命が見捨てられてきたか」
数分後、ふたりはビルの外に出ていた。
重厚な石造りの階段。
その上段に立つユノは、腕を組んだまま、無言で前を見据えていた。
「倫理委員会に侵入して、リースとレインを取り戻す。可能性は、ゼロじゃない」
その言葉に、カデルワンの視線が動く。
「でも、それをやった瞬間、私たちは“正しさ”を失う。他のリザレクテッドを見捨て、二人だけを救う行動になる。──それは、違う」
声が低く、揺らいでいた。
けれど、決意はそこにあった。
今なら、全てを壊すこともできる気がする。
正面から抗えば、力でねじ伏せる道もある。
だが、それが本当に“選ぶべき”未来なのか。
ユノは、目を伏せた。
「……だから私は、アリアに賭ける。彼女が何かを見つけてくれるまで、私たちは動かない。できる限り、法の道を使い切る」
カデルワンは静かにうなずいた。
「君が止まる限り、私はその隣で“別の扉”を探す。正規のルートでも、非正規のルートでも構わない。君が光を選ぶなら、私はその影を歩く」
言葉はそれきりだった。
けれど、ふたりの間に交わされた決意は、静かな炎のように燃えていた。
やがて、彼らは同時に歩き出す。
その背後で、公聴会議場の重たい扉が──静かに、音もなく閉じられた。
静まり返った区画に、夜間照明の冷たい光がガラス窓をぼんやりと滲ませていた。
外には色を失った空と、音もなく横切る監視ドローンの影。
レインはカーテンを閉めずに、ベッドの端に腰かけていた。
この部屋は特別区画の一室。
かつて「選ばれし者」とされた者のために用意された、無菌室のような静謐さに包まれている。
清潔で、整いすぎていて、だからこそ何も語らない空間だった。
右手のリングにそっと触れる。
内蔵された赤いビーコンは、すでに識別の役目を終え、今はただの無意味な光のように見えた。
廊下の向こうから、足音がひとつ。
ドアがわずかに軋み、顔を覗かせたのはルシアンだった。
警備の死角を縫って来たらしく、息を殺すようにして部屋へと入る。
「……ごめん、眠れなくて」
レインは頷く。
「僕も」と、短く返した。
二人はしばらく、何も言わずに窓の外を見ていた。
言葉を交わさなくても、そこには確かに通じ合うものがあった。
やがてルシアンが、ぽつりと口を開いた。
「レインはさ……“選ばれた”って、どう思ってる?」
レインはすぐには答えず、視線を落とした。
沈黙の中で、言葉を探すように息を整える。
「……ずっと思ってた。“選ばれた”って、まるで呪いみたいだなって。誰かに貼られるラベルで、自分が何を思ってるかなんて、見てくれない。ただ期待に応えるだけの存在。断ったら、無意味だって言われる気がして……だから、何も拒めなかった」
彼はリングを指先で軽く回した。
赤い光がゆっくりと揺れ、指の影に溶けていく。
「でも最近、やっと分かってきた。意味なんて、他人に決めさせなくていいんだ。僕がどう生まれたかとか、何を選ぶかとか、誰といたいかって──それを決めるのは、僕でいいって」
言い終えて、レインは窓の向こうに目を戻す。
淡い夜光が頬を照らし、どこか遠くを見つめるようだった。
ルシアンはその横顔を見つめたまま、静かに笑った。
「……レインって、強いんだね」
レインもまた、かすかに微笑んだ。
それは今まで誰にも見せたことのない、初めての笑みだった。
壊れそうなほど小さく、それでいて確かにそこに宿る、意思の輪郭だった。
翌日。
倫理委員会の医療棟。
その一室に、無機質な白が静かに満ちていた。
少女──リースは、淡い医療用カバーに包まれてベッドに横たわる。
拘束はない。
けれどその眠りは、深い霧に沈んだような意識の奥底だった。
部屋には白衣のスタッフたちと、無言で動くオペレーションユニット。
そして彼女の頭上では、「ニューロスキャナー」と刻印された装置が、静かに回転を始めていた。
その様子を、別室の端末から覗き見ている二対の瞳があった。
「……映った。間違いない、リースだ」
ルシアンが自作のポート端末を操作し、暗い画面をレインに向けて傾ける。
映像には天井カメラの視点から捉えた医療室。
乱れた髪、規則的に上下する胸。
リースは確かにそこにいた。
「何……これ……見覚えある。この器具……」
レインが画面を凝視する。
スタッフが何かを準備していた。
シールドケースから取り出される銀色のパーツ。
脳神経接続用のナノケーブル、スキャン結果を流すためのフィードライン──その一つひとつが、明らかに“手術”の準備だった。
「……これ、まさか……電脳化……?」
声が震える。
「は? 電脳化って……アリアみたいに?」
「……そう。でも、これはおかしい。準備が粗い。たぶん、完全じゃない。神経中枢だけを一時的に接続して、強引にアクセスする気だ……」
「……ねえ、それって……やばい?」
レインの顔から血の気が引いていた。
かすかに唇が震えている。
「失敗したら……脳梗塞。最悪、死ぬ」
ルシアンの手が止まる。
「……嘘だろ……なんで……なんでそんな……!」
「“中身”を、覗くつもりだ。リースの記憶を、感情を、思考を……全部、分析するために」
レインは無言で拳を握りしめ、立ち上がりかけて──天井の監視カメラに目をやり、足を止めた。
「このままじゃ……リースが壊される」
「止められないの? 今からでも……!」
「正面からじゃ無理。でも、他の手段なら……」
張りつめた空気が二人の間に漂う。
画面の中では、ニューロスキャナーが音もなく回転を続けていた。
その動作音さえ、今は不気味な時計の針のように感じられた。
そのとき──レインの肩が小さく震えた。
顔を両手で覆い、かすかな息が漏れる。
「……レイン?」
返事はなかった。
けれど、小さな声が、指の隙間から落ちた。
「どうして……いつも、こうなんだろう……」
一滴の涙が、膝の上に落ちる。
「僕たちって……“特別”だったはずだよね。観察対象、守られるべき存在……そう言われてたのに、実際は……」
言葉が詰まり、吐き出すように続いた。
「命令に逆らっただけで、こんな扱いをされて……それが“当然”みたいに扱われて……黙ってなきゃいけないって……!」
拳が震える。
ルシアンはそっと手を伸ばし、レインの肩に触れた。
拒まれるのを覚悟で。
だがレインは、その手を払おうとはしなかった。
かすれた声で、ぽつりと漏らす。
「僕、怖いんだ……。次は、僕かもしれない。感情が“過剰”だって判断されたら、切り捨てられるかもしれない。子どもを作るために生まれて──その役目が終わったら、空っぽになって……そんなの、生きてるって言えるのかな……」
もう一滴、涙が落ちる。
今度は頬を伝い、震える指先に触れた。
ルシアンは、しっかりとレインの顔を見つめた。
その瞳の奥に、確かな想いを込めて言葉を置く。
「レイン。君は、誰かのための機能じゃない。誰かの期待の中だけに生きてるわけじゃない。君は、“君自身”として、ここにいる。……少なくとも、僕はそう思ってる。リースも、きっとそうだった。だから……君が泣くのを、隠さなくていい」
レインがゆっくりと顔を上げる。
縁を赤く染めたその瞳が、ルシアンを見返した。
そして、ほんのわずかに──唇が動いた。
それが微笑だったのか、泣き崩れる寸前の表情だったのかは、ルシアンにも分からなかった。
ただ、たしかにその瞬間、彼の“生”が、揺らぎながらもそこにあった。
中央倫理管理庁。
その高層ビル最上階にある公聴会議場には、重々しい静けさが漂っていた。
白を基調とした空間に響くのは、時折の紙擦れと電子音だけ。
空調の音さえ、まるで息を潜めているかのようだった。
ユノは黒のスーツに身を包み、胸元には弁護代理の認証パスが揺れていた。
証言席に立つ彼女の姿は、凛としていたが、瞳の奥には確かな闘志が灯っている。
その隣に立つのは、金属光沢のスーツに身を包んだカデルワン。
いつも無表情な彼でさえ、この場ではわずかに眉間に皺を寄せ、抑えきれない緊張を滲ませていた。
正面には、倫理委員会の幹部たちがずらりと議席に並んでいる。
その中央で静かに構えるのは、首席評議員。
目を閉じたまま聞いている者もいれば、タブレットに視線を落としている者もいる。
だが、いずれも無言だった。
まるで、この場に感情など必要ないとでも言うように。
「──ユノ・KPU03627氏。あなたは、リザレクテッドの回収措置が不当であると主張しています。制度的な違反点を、具体的に述べてください」
評議員の問いかけに、ユノは静かに息を吸い込んだ。
そして、迷いのない声で答える。
「まず第一に、今回の回収命令は“安全保障上の懸念”を理由としていますが、それに対して個別審査も証拠提示も一切行われていません。これは、対象個体の尊厳を著しく踏みにじる行為であり、一方的な処分に他なりません」
ユノの言葉に、議席の表情は変わらない。
だが、場の空気はわずかに揺れた。
カデルワンがすかさず言葉を継ぐ。
「さらに、我々の調査によって、回収後の施設において強制的な電脳化の準備が進められている個体が複数存在することが確認されています。これは、法令第24条“精神構造への非同意アクセスの禁止”に明確に抵触するものです」
それでも、幹部たちは動かない。
ただ情報だけを受け取る機械のように、静かに座している。
やがて、首席評議員がゆっくりと前に身を乗り出した。
「……主張は理解しました。しかし、現時点では緊急性を裏づける直接的な証拠が不足しています。公的な判断を下すには、慎重な検討の時間が必要です。ご理解いただきたい」
言葉は丁寧だった。
だが、そこに“動く意思”はなかった。
ユノの表情がわずかに硬くなる。
カデルワンは目線を横にそらし、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「……“時間が必要”か。その言葉で、どれだけの命が見捨てられてきたか」
数分後、ふたりはビルの外に出ていた。
重厚な石造りの階段。
その上段に立つユノは、腕を組んだまま、無言で前を見据えていた。
「倫理委員会に侵入して、リースとレインを取り戻す。可能性は、ゼロじゃない」
その言葉に、カデルワンの視線が動く。
「でも、それをやった瞬間、私たちは“正しさ”を失う。他のリザレクテッドを見捨て、二人だけを救う行動になる。──それは、違う」
声が低く、揺らいでいた。
けれど、決意はそこにあった。
今なら、全てを壊すこともできる気がする。
正面から抗えば、力でねじ伏せる道もある。
だが、それが本当に“選ぶべき”未来なのか。
ユノは、目を伏せた。
「……だから私は、アリアに賭ける。彼女が何かを見つけてくれるまで、私たちは動かない。できる限り、法の道を使い切る」
カデルワンは静かにうなずいた。
「君が止まる限り、私はその隣で“別の扉”を探す。正規のルートでも、非正規のルートでも構わない。君が光を選ぶなら、私はその影を歩く」
言葉はそれきりだった。
けれど、ふたりの間に交わされた決意は、静かな炎のように燃えていた。
やがて、彼らは同時に歩き出す。
その背後で、公聴会議場の重たい扉が──静かに、音もなく閉じられた。
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