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第2部 SF転生したけど、チートなし。人工子宮で未来を創ってみた
第4章 『折れた人形』 (3)
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人工重力に支配された回廊に、三つの足音だけが響いていた。
誰もいない通路の壁には、旧世界語による銘文がかすかに刻まれている。
頭上をおおう演算粒子ユニットが、青白い光を撒き散らしながら静かに回転していた。
先頭を歩くのはエルシア。
その背を、リースとレインが無言で追っていた。
やがて、重厚な扉が音もなく開き、三人の前に広がったのは──Astra-EOSの中枢空間。
かつて人類の意志を模倣するために作られ、今なお沈黙の演算を続ける、冷たい聖域だった。
「……ここなら、監視は届かない。だから話す。全部、正直に」
振り返ったエルシアの声は静かだった。
けれどその瞳は、何かを決定的に変える熱を帯びていた。
「私が、リースとレインをここに連れてきた理由。それは──あなたたちが、“本来の人間”だから」
空気が張り詰める。
リースが小さく息をのみ、レインの肩がわずかに震えた。
「あなたたちは、生殖能力を持っている。単なる模倣体じゃない。“未来を生み出す可能性”を、実際に宿している。……今この世界で、それができるのは、あなたたちだけなんだ」
「……それがどうしたの。そんな理由で、私たちを連れてきたの?」
リースの声には怒りと困惑が混ざっていた。
だが、エルシアは静かに首を振る。
「違う。それは“理由”じゃない。“根拠”だよ」
言葉に熱がこもる。
その視線が、真っ直ぐにリースとレインを射抜く。
「私はね、この世界を“奪い返したい”と思ってる。分類されて、不要とされて、忘れられた私たちが──もう一度、“人間”として立ち上がれる世界を」
拳が、わずかに震えていた。
だが、その手はすぐに右手へと伸び、彼女は中指にはめられたリング状の装置に触れた。
──それは、遺伝子ビーコン。
リザレクテッドである証明であり、同時に“人間ではない”という刻印でもある。
「けど、私はもう違う」
彼女はそれを、ためらいなく──外した。
そして、指先から滑り落ちたビーコンを、冷たい床に落とす。
──カチン。
乾いた音が、広い空間に響いた。
「私はリザレクテッドじゃない。私は……“人間になる”」
その言葉は、宣言だった。
過去を断ち切り、未来に向けて自らを定義する言葉だった。
沈黙の中で、レインが小さくつぶやく。
「……その気持ちは、分かるよ。僕もずっと“居場所がない”って思ってた。誰の記憶にも残ってない、誰からも必要とされない、そんな存在だって」
リースも続ける。
彼女の声には、優しさと苦さが混ざっていた。
「でも、今は違う。アウロイドの中にも、私たちを“今の存在”として見てくれる人たちがいた。だから、もう“人間の誇り”なんて言葉に縛られるつもりはない。私は、今を生きてる。それだけで十分」
「じゃあ、そんな“今”を選んだ君たちが、正しいってこと?」
静かに問いかけるエルシアに、リースは首を横に振った。
「違う。私はただ、過去も未来も壊したくないだけ。どんなに“本物”でも、破壊の先に居場所なんてない」
粒子演算ユニットのかすかな回転音だけが空間を満たす。
エルシアは、ゆっくりと目を閉じた。
「……やっぱり、私はズレてるんだね。私は、“前の世界”に取り残されたままなのかもしれない。……だけど、たった一人でも信じていたいの。“あの頃”の命が、まだ生きられるって」
リースも、レインも、しばらく何も言わなかった。
ただ、その場にいた三人の胸には、確かに──同じ願いが、静かに灯っていた。
《人間として、もう一度意味を持ちたい》
それぞれの思いを胸に、三人は再び歩き出す。
かつて“神の座”と呼ばれた中枢で。
それぞれの信じる未来に向かって。
Astra-EOS本拠地・中枢ホール。
漆黒の床に反射する青白い光。
演算核の正面に立つエルシアが、制御端末にそっと手を添えると、静かに波紋のような脳波信号が空間へ広がっていった。
それが起点となり、端末に絡む幾層もの旧プロトコルが自動展開されていく。
「──接続開始。中央倫理委員会、応答を」
次の瞬間、空間がかすかにねじれ、淡い発光とともに半球状の通信ウィンドウが生成される。
その奥に現れたのは、灰白の虚空に並ぶ七体の審問官アウロイドたち。
光学フィルターの奥に宿る瞳は、どれも感情を欠いた“観察者”のそれだった。
「エルシア・KRS03680。許可なき接続は第五条に抵触します。直ちに回線を遮──」
「──黙って、聞いて」
低く、冷たく、鋼を引くような声。
ホールの空気が張りつめ、わずかに振動する。
並列AIの中枢そのものが、彼女の意志に共鳴していた。
「今この場で、私は要求する。リザレクテッドに対し、完全な人権の承認と、生殖能力の無制限解放を──貴機関に求める」
一瞬、時間が止まったような静けさ。
続く彼女の声には、静かな決意と抗いがにじんでいた。
「私たちは、模倣ではない。誰かの代わりでもない。再び生まれ、呼吸し、愛を知り、傷を抱き、それでも未来を信じる“命”そのもの。あなたたちの“管理”のために存在しているわけじゃない」
映像の中で、審問官たちの眼光がわずかに動いた。
七つの思考領域が協調し、一つの結論を生成する。
その応答は、凍るような平坦さで返された。
「要求を拒否する。リザレクテッドは危険因子を内包し、生殖の解禁は倫理的にも統治制度的にも容認不可能。完全な人権の付与は、支配構造を崩壊させるリスクがある。──ゆえに、不適合と判断する」
その瞬間、エルシアの表情が一変した。
「……ならば、これは宣戦布告。私たちは、あらがう」
手が端末から離れる。
空気が震えた。
中枢を囲うドーム全体が共鳴し、衛星軌道上のAI兵装群がいっせいに起動。
世界を包む網のような遺構防衛ラインが、戦闘態勢へと移行していく。
【中央倫理委員会・地下戦略中枢】
──光なき中枢。
完全無照明の空間に、赤い警戒ホログラムが次々と浮かび上がる。
電子の霧が満ちる静けさの中、空気は0.1℃単位で管理され、人の“熱”が一切感じられない戦争の心臓部だった。
《警告:対象エルシア・KRS03680──交渉破綻》
《並列AIとの協調動作を検出》
《敵対意思、確認》
《封印コード“CradleFall”:発動承認待機》
システム音が無感情に空間を貫く。
「コードα全群──即時実戦モードへ移行」
「並列AI制圧プロトコル《CradleFall》──発動」
「中枢戦闘ブロックを開放。超域型制圧兵装、全機起動を許可」
──次の瞬間、床が音もなく裂け、鏡面仕上げのプラットフォームがすべるようにせり上がる。
その上には、精緻な曲面装甲におおわれた無人戦術機が整列していた。
制御アームによって構造が組み上がりながら移動し、青白い粒子を帯びて自動展開されていく。
その様子は、まるで工業的な神殿の儀式のようだった。
──敵を“破壊”するのではなく、“最適化”する。
それが最新兵装の哲学だった。
精神干渉に特化したE-パルス機体、情報戦用の高速演算ドローン群、触れずして神経遮断を行う拡張制圧フレーム──それらが、全て演算同期された単一の意思のもとに動き始める。
「都市圏制御層、干渉フェーズへ。インフラ遮断コード、書き換え完了」
「避難経路ルートD1、D3を優先開放。D2、隔離指定」
金属光沢のある無人機が、浮遊状態で戦略回廊を通過していく。
足音もなく、命令もなく、戦場へと“すべる”ように向かっていくその様子は、人類が作り出した理性の暴力だった。
一人の参謀型アウロイドが、冷却煙の中でつぶやく。
「……相手は並列AI。すなわち、過去そのものだ。……なら、これは未来による処刑だ」
彼の言葉に、誰も答えなかった。
映像スクリーンの端で、青いスフィア型の戦術核兵装が光を放つ。
それは衛星規格すら超える高出力重力圧縮弾──対象の存在定義すら消去可能な“エリミネーター”。
「超対話対象コード エルシア・KRS03680、殲滅優先度──最上位へ更新」
「出撃開始まで、T-00:40」
そして、人工の神々は、無言で地上へと降り立つ準備を始めた。
世界は、言葉では止まらないフェーズに──入った。
誰もいない通路の壁には、旧世界語による銘文がかすかに刻まれている。
頭上をおおう演算粒子ユニットが、青白い光を撒き散らしながら静かに回転していた。
先頭を歩くのはエルシア。
その背を、リースとレインが無言で追っていた。
やがて、重厚な扉が音もなく開き、三人の前に広がったのは──Astra-EOSの中枢空間。
かつて人類の意志を模倣するために作られ、今なお沈黙の演算を続ける、冷たい聖域だった。
「……ここなら、監視は届かない。だから話す。全部、正直に」
振り返ったエルシアの声は静かだった。
けれどその瞳は、何かを決定的に変える熱を帯びていた。
「私が、リースとレインをここに連れてきた理由。それは──あなたたちが、“本来の人間”だから」
空気が張り詰める。
リースが小さく息をのみ、レインの肩がわずかに震えた。
「あなたたちは、生殖能力を持っている。単なる模倣体じゃない。“未来を生み出す可能性”を、実際に宿している。……今この世界で、それができるのは、あなたたちだけなんだ」
「……それがどうしたの。そんな理由で、私たちを連れてきたの?」
リースの声には怒りと困惑が混ざっていた。
だが、エルシアは静かに首を振る。
「違う。それは“理由”じゃない。“根拠”だよ」
言葉に熱がこもる。
その視線が、真っ直ぐにリースとレインを射抜く。
「私はね、この世界を“奪い返したい”と思ってる。分類されて、不要とされて、忘れられた私たちが──もう一度、“人間”として立ち上がれる世界を」
拳が、わずかに震えていた。
だが、その手はすぐに右手へと伸び、彼女は中指にはめられたリング状の装置に触れた。
──それは、遺伝子ビーコン。
リザレクテッドである証明であり、同時に“人間ではない”という刻印でもある。
「けど、私はもう違う」
彼女はそれを、ためらいなく──外した。
そして、指先から滑り落ちたビーコンを、冷たい床に落とす。
──カチン。
乾いた音が、広い空間に響いた。
「私はリザレクテッドじゃない。私は……“人間になる”」
その言葉は、宣言だった。
過去を断ち切り、未来に向けて自らを定義する言葉だった。
沈黙の中で、レインが小さくつぶやく。
「……その気持ちは、分かるよ。僕もずっと“居場所がない”って思ってた。誰の記憶にも残ってない、誰からも必要とされない、そんな存在だって」
リースも続ける。
彼女の声には、優しさと苦さが混ざっていた。
「でも、今は違う。アウロイドの中にも、私たちを“今の存在”として見てくれる人たちがいた。だから、もう“人間の誇り”なんて言葉に縛られるつもりはない。私は、今を生きてる。それだけで十分」
「じゃあ、そんな“今”を選んだ君たちが、正しいってこと?」
静かに問いかけるエルシアに、リースは首を横に振った。
「違う。私はただ、過去も未来も壊したくないだけ。どんなに“本物”でも、破壊の先に居場所なんてない」
粒子演算ユニットのかすかな回転音だけが空間を満たす。
エルシアは、ゆっくりと目を閉じた。
「……やっぱり、私はズレてるんだね。私は、“前の世界”に取り残されたままなのかもしれない。……だけど、たった一人でも信じていたいの。“あの頃”の命が、まだ生きられるって」
リースも、レインも、しばらく何も言わなかった。
ただ、その場にいた三人の胸には、確かに──同じ願いが、静かに灯っていた。
《人間として、もう一度意味を持ちたい》
それぞれの思いを胸に、三人は再び歩き出す。
かつて“神の座”と呼ばれた中枢で。
それぞれの信じる未来に向かって。
Astra-EOS本拠地・中枢ホール。
漆黒の床に反射する青白い光。
演算核の正面に立つエルシアが、制御端末にそっと手を添えると、静かに波紋のような脳波信号が空間へ広がっていった。
それが起点となり、端末に絡む幾層もの旧プロトコルが自動展開されていく。
「──接続開始。中央倫理委員会、応答を」
次の瞬間、空間がかすかにねじれ、淡い発光とともに半球状の通信ウィンドウが生成される。
その奥に現れたのは、灰白の虚空に並ぶ七体の審問官アウロイドたち。
光学フィルターの奥に宿る瞳は、どれも感情を欠いた“観察者”のそれだった。
「エルシア・KRS03680。許可なき接続は第五条に抵触します。直ちに回線を遮──」
「──黙って、聞いて」
低く、冷たく、鋼を引くような声。
ホールの空気が張りつめ、わずかに振動する。
並列AIの中枢そのものが、彼女の意志に共鳴していた。
「今この場で、私は要求する。リザレクテッドに対し、完全な人権の承認と、生殖能力の無制限解放を──貴機関に求める」
一瞬、時間が止まったような静けさ。
続く彼女の声には、静かな決意と抗いがにじんでいた。
「私たちは、模倣ではない。誰かの代わりでもない。再び生まれ、呼吸し、愛を知り、傷を抱き、それでも未来を信じる“命”そのもの。あなたたちの“管理”のために存在しているわけじゃない」
映像の中で、審問官たちの眼光がわずかに動いた。
七つの思考領域が協調し、一つの結論を生成する。
その応答は、凍るような平坦さで返された。
「要求を拒否する。リザレクテッドは危険因子を内包し、生殖の解禁は倫理的にも統治制度的にも容認不可能。完全な人権の付与は、支配構造を崩壊させるリスクがある。──ゆえに、不適合と判断する」
その瞬間、エルシアの表情が一変した。
「……ならば、これは宣戦布告。私たちは、あらがう」
手が端末から離れる。
空気が震えた。
中枢を囲うドーム全体が共鳴し、衛星軌道上のAI兵装群がいっせいに起動。
世界を包む網のような遺構防衛ラインが、戦闘態勢へと移行していく。
【中央倫理委員会・地下戦略中枢】
──光なき中枢。
完全無照明の空間に、赤い警戒ホログラムが次々と浮かび上がる。
電子の霧が満ちる静けさの中、空気は0.1℃単位で管理され、人の“熱”が一切感じられない戦争の心臓部だった。
《警告:対象エルシア・KRS03680──交渉破綻》
《並列AIとの協調動作を検出》
《敵対意思、確認》
《封印コード“CradleFall”:発動承認待機》
システム音が無感情に空間を貫く。
「コードα全群──即時実戦モードへ移行」
「並列AI制圧プロトコル《CradleFall》──発動」
「中枢戦闘ブロックを開放。超域型制圧兵装、全機起動を許可」
──次の瞬間、床が音もなく裂け、鏡面仕上げのプラットフォームがすべるようにせり上がる。
その上には、精緻な曲面装甲におおわれた無人戦術機が整列していた。
制御アームによって構造が組み上がりながら移動し、青白い粒子を帯びて自動展開されていく。
その様子は、まるで工業的な神殿の儀式のようだった。
──敵を“破壊”するのではなく、“最適化”する。
それが最新兵装の哲学だった。
精神干渉に特化したE-パルス機体、情報戦用の高速演算ドローン群、触れずして神経遮断を行う拡張制圧フレーム──それらが、全て演算同期された単一の意思のもとに動き始める。
「都市圏制御層、干渉フェーズへ。インフラ遮断コード、書き換え完了」
「避難経路ルートD1、D3を優先開放。D2、隔離指定」
金属光沢のある無人機が、浮遊状態で戦略回廊を通過していく。
足音もなく、命令もなく、戦場へと“すべる”ように向かっていくその様子は、人類が作り出した理性の暴力だった。
一人の参謀型アウロイドが、冷却煙の中でつぶやく。
「……相手は並列AI。すなわち、過去そのものだ。……なら、これは未来による処刑だ」
彼の言葉に、誰も答えなかった。
映像スクリーンの端で、青いスフィア型の戦術核兵装が光を放つ。
それは衛星規格すら超える高出力重力圧縮弾──対象の存在定義すら消去可能な“エリミネーター”。
「超対話対象コード エルシア・KRS03680、殲滅優先度──最上位へ更新」
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そして、人工の神々は、無言で地上へと降り立つ準備を始めた。
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