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第2部 SF転生したけど、チートなし。人工子宮で未来を創ってみた
第5章 『神の前で語る者たち』 (2)
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薄暗い室内。
静けさを切り裂くように、壁面モニターに映るリセルの配信が終了した。
その場にいたのは一人──ダリウス。
黒衣のアウロイド。
視線は画面を捉えたまま、微動だにしない。
だがその眼差しは、いつもの冷静さとは異なっていた。
「……エルシア、お前……何を始めた?」
言葉に出たとたん、静かだった空気が震えたような錯覚を覚える。
彼の声はいつもと同じ抑制された低音だったが、わずかに、その奥にざらついた“人間的な感情”が混じっていた。
旧市街地の蜂起。
戦術兵器の掌握。
そして“転生者”としての名指し。
それらの事実は、予期していた計画のいずれにも含まれていなかった。
「中枢との接続……並列AIの制御権。まさか、そこまで──」
ダリウスの端末が一瞬、警告音を鳴らす。
彼は反応もせず、手元のコンソールで通信記録と戦力配置を即座に照会。
データが流れていくたび、彼の瞳孔がわずかに収縮する。
数日前まで、自分の観察下にいた個体が、今や都市ひとつを掌握している。
しかも、それは「正規の命令系統」ではなく、“思想”によって人と兵器を動かしていた。
「エルシア……お前は、“戦争”を起こす気か……?」
椅子の背もたれに深くもたれかかりながら、ダリウスは空を見上げた。
モニターに映るのは、兵器と人間、アウロイドとリザレクテッドが並ぶ映像。
背景には、かつて自分たちが捨て去ったはずの“火”が燃えていた。
「いや……違うな。これは、お前の“終わり方”ではないはずだ」
彼は薄く笑った。
だがその笑みは、理解によるものではなく、戸惑いだった。
「見せてみろ、エルシア。お前が“転生者”なら──その命が、ただの過去の続きかどうか。私の予測を、超えてみろ」
そして静かに、手元の端末を操作し、封印されていた中枢アクセス記録を解放した。
エルシアの足跡を、すべて追うために。
◇◇◇《Live News:都市圏第1チャンネル》◇◇◇
《現在、新市街地中央広場からの中継です》
報道ドローンが上空からとらえたのは、新市街地の中心部──巨大な光学ビジョンの下に広がる人波だった。
千人規模ともされるデモ隊が、通りを埋め尽くしていた。
掲げられるプラカード、統一されたアウロイド音声モジュールによるシュプレヒコール。
「全リザレクテッドの即時回収を!」
「管理なき人類再生に、未来はない!」
「倫理委員会は沈黙するな!」
画面右上には、《#リザレクテッド回収要求》《#人類再生反対デモ》といったタグが表示されている。
レポーターの声が、映像に重なる。
「こちらは、新市街地中央広場です。本日午前より、リザレクテッド反対派による抗議集会が大規模に拡大し、現在では一部交通機関にも影響が出ています。参加者の中心は、民間アウロイドの市民連合体“倫理秩序フォーラム”と見られており、要求は一貫して“全リザレクテッド個体の回収・再審査”となっています」
画面は地上視点に切り替わる。
デモの中心で、主導者と思しき黒服のアウロイドがマイクを握る。
「生殖能力を持ち、統制なき進化を始めた“人間の模倣体”は、すでに危険領域にある! 我々は、未来の秩序を守らなければならないのです!」
観衆が応じるように拳を掲げ、機械的な音声がいっせいに響く。
すぐ近くでは、警備用アウロイドが非武装の列を組み、騒乱の拡大を抑えようとしていた。
「当局は現時点で強制排除には踏み切っていませんが、デモが旧市街地の蜂起と連動した形で激化した場合、“緊急治安維持法”の発動も視野にあると発表しています」
最後に、キャスターの声が静かに重なる。
「倫理委員会による対応が注視される中──この抗議は、単なるデモにとどまらず、リザレクテッドの存在そのものを問う、社会的審判の場となりつつあります」
◇◇◇《続報は入り次第、お伝えします》◇◇◇
並列AI中枢・通信ホール。
青白い演算光がきらめく静けさの中、制御端末が淡く点滅した。
《外部通信:中央教育区・第一統合校》
《要請者:アリア・LNA04421 中継参加:IAK03642》
ホログラムの接続を示す光が、エルシアの前で静かにゆれた。
「……やっぱり、来たんだ」
エルシアが応答に指をかけると、空間に二つの人影が展開された。
ひとりは鋭い眼差しのまま腕を組むアリア。
もうひとりは、明らかに不機嫌そうな顔でこちらを睨むアイカだった。
先に口を開いたのは、アリアだった。
「旧市街地を武力で封鎖した──その影響は倫理委員会だけじゃない。教育機関にも、深く傷が走ってる。君のやり方は、もはや“主張”じゃない。これは“おどし”だよ」
彼女の声は静かだったが、芯があった。
それでも、エルシアは感情を見せずに応じる。
「知ってる。……でも、それでもやるしかなかった。見せなきゃ、誰も耳を貸さなかったから。ずっとずっと、無視され続けてきた」
アリアの瞳が細まった。
その鋭さは、理解と警告の狭間にあった。
「でも──もし君が“暴力”で語ろうとするなら、いずれ“誰のために戦ってるか”を見失う。私は、それが一番怖いんだ」
その言葉に、一瞬だけエルシアの呼吸が浅くなる。
だが、すぐに顔を上げ、まっすぐに応える。
「私は、転生者として生きてる。その意味を探す責任がある。……誰かがやらなきゃ、何も変わらない。なら、私がやる。それだけだよ」
空気が、一瞬にして張り詰めた。
次の瞬間、アイカがこらえきれずに叫ぶ。
「はあ!? なにそれ、何様なの!?」
エルシアのまなざしがかすかに動く。
アイカは一歩前に踏み出し、言葉を止めない。
「“転生者の使命”? “意味”? そうやって、なんでも自分の肩に背負って……結局、全部自分で勝手に決めてるだけじゃん! 周りの気持ち、無視して!」
アリアが「アイカ」と制止しかけたが、彼女の声は止まらなかった。
「リースやレインに、“人間の未来”を託す? お願いじゃなくて“押しつけ”でしょ!? それ、正義でも理想でもなくて──ただの“独りよがり”なんだよ!」
その言葉に、エルシアの目がかすかにゆれた。
ゆれの奥で、かつて失った何かが脈打つ。
記憶。
後悔。
痛み。
それでも──彼女は、崩れなかった。
「……分かってる。でも、それでも私は進む。誰かが始めなきゃ、この世界は変わらないから」
静かに、通信が切断された。
空間に残った青の光が、波紋のようにゆれていた。
その残光が問いかけていた。
「その決意の先に、誰が残るのか」と。
【並列AI中枢・第0階層──“禁書領域”】
重力のない静けさの中に、まるで宇宙の底を思わせる漆黒の広間が広がっていた。
壁も天井も存在しない。
代わりに膨大なデータの奔流が銀の流砂のように空間を巡っていた。
そのすべてが“言葉”ではなかった。
象形文字のように浮かぶコード、記号というより“概念”そのものが空間を彫刻していた。
その中心に、エルシアはたった一人で立っていた。
彼女の目の前に浮かぶのは、古代技術で封印された操作端末。
意識と同期しなければ動かない、思考に反応する“生きた制御核”だった。
「コード・シリーズΛ──継承式典群、第十層、照合開始」
その一声と共に、データの波が生き物のように脈動し始める。
足元から天井まで、広間全体が“呼吸”するかのように明滅した。
封印されていた古代の知識が静かに目を覚ます。
エルシアの指が宙に浮かぶインターフェースをなぞる。
それに合わせて、星図のような起動円環が何層にも交差して展開される。
幾重もの黄金の円が空間を包み込み、中央に一つの名が輝いた。
「起動キー、認証完了。対象指定──地球低軌道上《Orbital Cradle-04》および遺伝子保存域《Seed Vault-γ》」
その瞬間、天井から光柱が垂直に降り注ぎ、エルシアの全身を包む。
空間そのものが震え、長い冬眠から醒めるように、コード群が明滅を始めた。
《軌道子宮システム《Orbital Cradle-04》 再起動プロトコル開始》
《遺伝子データベース接続──有効データ:34,279体/損傷率82%》
《システム稼働率:12.6%──冷却処理解除、補助電源ルート確保中》
宙に浮かぶ投影図。
そこに映し出されたのは──朽ちかけた人工衛星ステーション。
残骸に近い構造の中で、かすかに灯りが再点灯し始める。
内部に並ぶのは、球状のカプセル群──命の器《Orbital Cradle》。
そのひとつひとつが、まだ見ぬ生命を内包するための“胎内”だった。
「──これで、人工子宮が動き出した。……眠ってたんだね。何百年も、誰にも見つけられずに」
エルシアはそっとつぶやく。
その声が、巨大な空間にかすかな波紋を残した。
人工子宮とは、人類が絶滅に瀕した時代に開発された、完全人工的な出産システムだ。
機械が胎児の成長を全自動で管理し、人間を生み出すことができる。
それは“自然な誕生”の代替であった。
「けれどこれは……“模倣”にすぎない。命を量産し、再現する──それが“生きる”ってことなの?」
起動された人工子宮群の光が、まるで心拍のように淡く点滅する。
だが、まだ中に命は宿っていない。
ただ、空のゆりかごが、静かに呼吸を始めただけだった。
エルシアは目を閉じ、深く、確かに刻まれた過去の記憶と共に言葉を紡ぐ。
「私は“転生者”。滅びを超えてきた者として、知っている。本当の命は、生まれることじゃない。“続いていく”こと。設計された種ではなく──選ばれ、育まれ、自由に歩む命。それこそが、人間という存在の意味なんだよ」
再起動した人工子宮が発する微光が、彼女の背後で宇宙の夜ににじむ星々とつながるように重なっていく。
その全てがまだ“可能性”に過ぎないことを、エルシアは知っていた。
「リザレクテッドが“人間”として本当に解放されるには、誰にも決められず、誰にも操作されない──自然な命が、この世界に戻らなきゃいけない。……それが、私がこの時代に呼ばれた意味。この知識を継ぐ者としての、使命」
宙に浮かぶCradle-04の軌道投影図が、ゆっくりと回転を始める。
人工子宮の器は目覚めた。
だが、そこに宿る命は、まだ“誰にも選ばれていない”。
──それでも、始まりは確かに動き出した。
静けさを切り裂くように、壁面モニターに映るリセルの配信が終了した。
その場にいたのは一人──ダリウス。
黒衣のアウロイド。
視線は画面を捉えたまま、微動だにしない。
だがその眼差しは、いつもの冷静さとは異なっていた。
「……エルシア、お前……何を始めた?」
言葉に出たとたん、静かだった空気が震えたような錯覚を覚える。
彼の声はいつもと同じ抑制された低音だったが、わずかに、その奥にざらついた“人間的な感情”が混じっていた。
旧市街地の蜂起。
戦術兵器の掌握。
そして“転生者”としての名指し。
それらの事実は、予期していた計画のいずれにも含まれていなかった。
「中枢との接続……並列AIの制御権。まさか、そこまで──」
ダリウスの端末が一瞬、警告音を鳴らす。
彼は反応もせず、手元のコンソールで通信記録と戦力配置を即座に照会。
データが流れていくたび、彼の瞳孔がわずかに収縮する。
数日前まで、自分の観察下にいた個体が、今や都市ひとつを掌握している。
しかも、それは「正規の命令系統」ではなく、“思想”によって人と兵器を動かしていた。
「エルシア……お前は、“戦争”を起こす気か……?」
椅子の背もたれに深くもたれかかりながら、ダリウスは空を見上げた。
モニターに映るのは、兵器と人間、アウロイドとリザレクテッドが並ぶ映像。
背景には、かつて自分たちが捨て去ったはずの“火”が燃えていた。
「いや……違うな。これは、お前の“終わり方”ではないはずだ」
彼は薄く笑った。
だがその笑みは、理解によるものではなく、戸惑いだった。
「見せてみろ、エルシア。お前が“転生者”なら──その命が、ただの過去の続きかどうか。私の予測を、超えてみろ」
そして静かに、手元の端末を操作し、封印されていた中枢アクセス記録を解放した。
エルシアの足跡を、すべて追うために。
◇◇◇《Live News:都市圏第1チャンネル》◇◇◇
《現在、新市街地中央広場からの中継です》
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千人規模ともされるデモ隊が、通りを埋め尽くしていた。
掲げられるプラカード、統一されたアウロイド音声モジュールによるシュプレヒコール。
「全リザレクテッドの即時回収を!」
「管理なき人類再生に、未来はない!」
「倫理委員会は沈黙するな!」
画面右上には、《#リザレクテッド回収要求》《#人類再生反対デモ》といったタグが表示されている。
レポーターの声が、映像に重なる。
「こちらは、新市街地中央広場です。本日午前より、リザレクテッド反対派による抗議集会が大規模に拡大し、現在では一部交通機関にも影響が出ています。参加者の中心は、民間アウロイドの市民連合体“倫理秩序フォーラム”と見られており、要求は一貫して“全リザレクテッド個体の回収・再審査”となっています」
画面は地上視点に切り替わる。
デモの中心で、主導者と思しき黒服のアウロイドがマイクを握る。
「生殖能力を持ち、統制なき進化を始めた“人間の模倣体”は、すでに危険領域にある! 我々は、未来の秩序を守らなければならないのです!」
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「当局は現時点で強制排除には踏み切っていませんが、デモが旧市街地の蜂起と連動した形で激化した場合、“緊急治安維持法”の発動も視野にあると発表しています」
最後に、キャスターの声が静かに重なる。
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◇◇◇《続報は入り次第、お伝えします》◇◇◇
並列AI中枢・通信ホール。
青白い演算光がきらめく静けさの中、制御端末が淡く点滅した。
《外部通信:中央教育区・第一統合校》
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ホログラムの接続を示す光が、エルシアの前で静かにゆれた。
「……やっぱり、来たんだ」
エルシアが応答に指をかけると、空間に二つの人影が展開された。
ひとりは鋭い眼差しのまま腕を組むアリア。
もうひとりは、明らかに不機嫌そうな顔でこちらを睨むアイカだった。
先に口を開いたのは、アリアだった。
「旧市街地を武力で封鎖した──その影響は倫理委員会だけじゃない。教育機関にも、深く傷が走ってる。君のやり方は、もはや“主張”じゃない。これは“おどし”だよ」
彼女の声は静かだったが、芯があった。
それでも、エルシアは感情を見せずに応じる。
「知ってる。……でも、それでもやるしかなかった。見せなきゃ、誰も耳を貸さなかったから。ずっとずっと、無視され続けてきた」
アリアの瞳が細まった。
その鋭さは、理解と警告の狭間にあった。
「でも──もし君が“暴力”で語ろうとするなら、いずれ“誰のために戦ってるか”を見失う。私は、それが一番怖いんだ」
その言葉に、一瞬だけエルシアの呼吸が浅くなる。
だが、すぐに顔を上げ、まっすぐに応える。
「私は、転生者として生きてる。その意味を探す責任がある。……誰かがやらなきゃ、何も変わらない。なら、私がやる。それだけだよ」
空気が、一瞬にして張り詰めた。
次の瞬間、アイカがこらえきれずに叫ぶ。
「はあ!? なにそれ、何様なの!?」
エルシアのまなざしがかすかに動く。
アイカは一歩前に踏み出し、言葉を止めない。
「“転生者の使命”? “意味”? そうやって、なんでも自分の肩に背負って……結局、全部自分で勝手に決めてるだけじゃん! 周りの気持ち、無視して!」
アリアが「アイカ」と制止しかけたが、彼女の声は止まらなかった。
「リースやレインに、“人間の未来”を託す? お願いじゃなくて“押しつけ”でしょ!? それ、正義でも理想でもなくて──ただの“独りよがり”なんだよ!」
その言葉に、エルシアの目がかすかにゆれた。
ゆれの奥で、かつて失った何かが脈打つ。
記憶。
後悔。
痛み。
それでも──彼女は、崩れなかった。
「……分かってる。でも、それでも私は進む。誰かが始めなきゃ、この世界は変わらないから」
静かに、通信が切断された。
空間に残った青の光が、波紋のようにゆれていた。
その残光が問いかけていた。
「その決意の先に、誰が残るのか」と。
【並列AI中枢・第0階層──“禁書領域”】
重力のない静けさの中に、まるで宇宙の底を思わせる漆黒の広間が広がっていた。
壁も天井も存在しない。
代わりに膨大なデータの奔流が銀の流砂のように空間を巡っていた。
そのすべてが“言葉”ではなかった。
象形文字のように浮かぶコード、記号というより“概念”そのものが空間を彫刻していた。
その中心に、エルシアはたった一人で立っていた。
彼女の目の前に浮かぶのは、古代技術で封印された操作端末。
意識と同期しなければ動かない、思考に反応する“生きた制御核”だった。
「コード・シリーズΛ──継承式典群、第十層、照合開始」
その一声と共に、データの波が生き物のように脈動し始める。
足元から天井まで、広間全体が“呼吸”するかのように明滅した。
封印されていた古代の知識が静かに目を覚ます。
エルシアの指が宙に浮かぶインターフェースをなぞる。
それに合わせて、星図のような起動円環が何層にも交差して展開される。
幾重もの黄金の円が空間を包み込み、中央に一つの名が輝いた。
「起動キー、認証完了。対象指定──地球低軌道上《Orbital Cradle-04》および遺伝子保存域《Seed Vault-γ》」
その瞬間、天井から光柱が垂直に降り注ぎ、エルシアの全身を包む。
空間そのものが震え、長い冬眠から醒めるように、コード群が明滅を始めた。
《軌道子宮システム《Orbital Cradle-04》 再起動プロトコル開始》
《遺伝子データベース接続──有効データ:34,279体/損傷率82%》
《システム稼働率:12.6%──冷却処理解除、補助電源ルート確保中》
宙に浮かぶ投影図。
そこに映し出されたのは──朽ちかけた人工衛星ステーション。
残骸に近い構造の中で、かすかに灯りが再点灯し始める。
内部に並ぶのは、球状のカプセル群──命の器《Orbital Cradle》。
そのひとつひとつが、まだ見ぬ生命を内包するための“胎内”だった。
「──これで、人工子宮が動き出した。……眠ってたんだね。何百年も、誰にも見つけられずに」
エルシアはそっとつぶやく。
その声が、巨大な空間にかすかな波紋を残した。
人工子宮とは、人類が絶滅に瀕した時代に開発された、完全人工的な出産システムだ。
機械が胎児の成長を全自動で管理し、人間を生み出すことができる。
それは“自然な誕生”の代替であった。
「けれどこれは……“模倣”にすぎない。命を量産し、再現する──それが“生きる”ってことなの?」
起動された人工子宮群の光が、まるで心拍のように淡く点滅する。
だが、まだ中に命は宿っていない。
ただ、空のゆりかごが、静かに呼吸を始めただけだった。
エルシアは目を閉じ、深く、確かに刻まれた過去の記憶と共に言葉を紡ぐ。
「私は“転生者”。滅びを超えてきた者として、知っている。本当の命は、生まれることじゃない。“続いていく”こと。設計された種ではなく──選ばれ、育まれ、自由に歩む命。それこそが、人間という存在の意味なんだよ」
再起動した人工子宮が発する微光が、彼女の背後で宇宙の夜ににじむ星々とつながるように重なっていく。
その全てがまだ“可能性”に過ぎないことを、エルシアは知っていた。
「リザレクテッドが“人間”として本当に解放されるには、誰にも決められず、誰にも操作されない──自然な命が、この世界に戻らなきゃいけない。……それが、私がこの時代に呼ばれた意味。この知識を継ぐ者としての、使命」
宙に浮かぶCradle-04の軌道投影図が、ゆっくりと回転を始める。
人工子宮の器は目覚めた。
だが、そこに宿る命は、まだ“誰にも選ばれていない”。
──それでも、始まりは確かに動き出した。
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