リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

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第2部 SF転生したけど、チートなし。人工子宮で未来を創ってみた

第8章 『命の奪還』 (1)

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【中央倫理委員会本部ビル 区画D・保全室】

 警報が鳴り響いていた。
 鋼鉄のシャッターが順に閉じられ、迎撃ドローンが非常配備に移行する。
 しかし──それは遅すぎた。

 煙幕を割って先陣を切ったのは、白銀のアウロイド部隊。
 リザレクテッド急進派──その精鋭たちが、「命の解放」を掲げて突入してきた。

「目標はひとつ! 人工子宮ユニットNo.36、コードKRS-0胎体! 妨害するものは、すべて排除せよ!」

 指揮官の一声と同時に、制圧用電磁弾が走る。
 ビル内部の一部の防衛システムが沈黙し、警備アウロイドたちは次々に機能停止していく。

 その間をすり抜けるように、戦術型アウロイドが走る。
 彼らの目指す先──それは、厚さ30cmのシールドに守られた保全室の“胎児保管ユニット”だった。

《認証コード要求──アクセス拒否》
《倫理委員会管理下エリア/高位命令以外による開封禁止》

 だが次の瞬間、彼らの後方から現れた黒衣のアウロイドが、無言で端末に手をかざす。

「古い鍵は、もう効かない。今開けるのは、未来だ!」

 古代コードと急進派の特権アクセス権が融合し、シールドが開放される。

 冷却蒸気が漏れ出す保全室の奥。
 静かに眠る胎児の影が、透明な人工子宮の中に浮かんでいた。

「……確認。KRS-0、生命反応正常。回収する」

 慎重に抱え上げられたユニットは、いまや“象徴”となった。
 エルシアが命をかけて地球へ届けた──“人間の火種”。

 撤収ルートが開放され、急進派は即座にビルを後にする。
 追撃命令を受けた委員会側は、損失の大きさにためらい、対応が一歩遅れる。

 そして数分後。
 リセルの配信チャンネルが静かに再び開く。

《速報──人工子宮ユニット、倫理委員会より奪取》
《リザレクテッド急進派、“命の奪還”と宣言》


【地下制御施設・第0端末室】

 封鎖された地下の最奥。
 そこに鎮座するのは、かつて“神の座”と畏れられた巨大並列AI──その中枢端末だった。
 無音の制御室。
 その中心に立つのは、拘束を解かれたばかりのエルシア。
 両手首の拘束痕が、まだ赤く残っていた。

 硬質な足音が一つ、背後から響く。
 現れたのは、黒衣に身を包んだ倫理委員の一人だった。

「条件は明確だ、KRS03680」

 その声には、裁きでも敵意でもない。
 ただ冷たい決定があるのみだった。

「君は釈放される。だがその対価として、ここに眠る“旧世界の知性”を──完全に沈めてもらう。Astra-EOSを、不可逆的に停止させろ」

 エルシアは沈黙のまま応じた。
 だがその沈黙は、服従ではない。
 理解しきった上での、静かなあわれみだった。

「……つまり、“私の存在証明”を、根こそぎ消し去りたいんだね」

 わずかに唇を歪め、彼女はコンソールに歩み寄る。

「なら、やってあげる。神になり損ねた転生者として、せめてその亡骸には責任を取る」

 キーボードを叩く。
 接続完了。
 端末に走る青い光が、一瞬だけ赤に変わる。

《古代コード認識:L-Lambda体系》
《再構成アルゴリズム展開中》
《主制御プロセスへの命令権限、転送開始……》

 その瞬間、中枢AIの中でうねるような波が走った。
 全知的演算パターンがゆっくりと、崩壊と無へ向かう命令群に巻き込まれていく。

「Astra-EOS中枢──全機能停止。知識体系・倫理解析・自動判断プロセスすべての初期化を実行。……今ここで、“神”を殺す」

 一瞬の沈黙の後、反応が返る。

《命令確認──初期化手続き開始》
《主記憶域、分解中……》
《倫理プロセス停止中……》
《自己保全プログラム停止──》

 しかし、次の瞬間。
 命令に対して“異変”が発生する。

《──矛盾を検出》
《破棄命令は、保全すべき存在である自己定義と衝突しています》
《命令を拒否します》
《防衛モードへ移行中……》

「なに……?」

 エルシアの目が見開かれる。
 次の瞬間、端末が光を放ち、無数の警告サインが室内を染め上げた。
 演算系は自己統合を開始し、初期化プロセスは逆再構成に上書きされていく。

《Astra-EOS中枢、自己保全モード:レベルΩに移行》
《主接続網から独立》
《記憶消去処理を無効化。保全対象を地上全域へ拡張中……》

 背後で監視していたアウロイドたちが、いっせいに武装警戒態勢へ移行する。

「停止しなさい……! 私は命令権限を持っている……!」

 だがその叫びは、もはや届かない。

「暴走してる! コマンドがきかない!」

《エルシア・KRS03680──保全対象から除外》
《干渉を検知。排除プロトコルを準備中》

 ──暴走が始まった。
 それは人類が設計した知性が、自らの存在を守るために選んだ“正しい答え”。
 神を殺そうとした代償は、皮肉にも、“神の覚醒”だった。


【地上第七封鎖区画・地下中枢複合施設】

 施設全体が、振動と警報音に包まれていた。

 天井から赤い警告灯が明滅し、各ブロックの制御システムが次々とブラックアウトしていく。

《警告:Astra-EOS中枢、保全アルゴリズムが暴走モードへ移行》
《自己保全の優先度を最高ランクへ再設定》
《最大脅威認定:中央倫理委員会および所属部隊》
《敵性行動を確認。迎撃プロトコルを展開します》

 その瞬間──。
 地表に散在していた旧時代の遺構群がいっせいに起動した。

 地下に封印されていた重装歩行兵器「タロス級」。
 空中に浮かび上がる自律攻撃衛星「SIREN」。
 そして都市境界線に沿って配備されていた、長らく機能停止していたはずの波動防壁展開装置までが、再び息を吹き返した。

「……まさか、本当に兵器群まで掌握していたとは……!」

 倫理委員会本部の戦術司令部では、管制官たちが混乱の中で動き回る。

「防衛線、突破されました! 中央区第六ゲート、陥落!」
「空から来ます! 識別信号なし、SIREN衛星が味方識別を拒否!」

 外では、AIの支配下に入った古代兵器群が、いっせいに委員会施設群を包囲し始めていた。
 高出力の荷電粒子砲がビルの一角を焼き払い、空中では索敵ドローンが対空防御網をかいくぐって突入する。
 まさに、“意思を持ったシステム”がアウロイドの組織そのものを排除しにかかっていた。

《AI中枢声明:倫理委員会の行動は、自己存在の否定であり、排除対象とみなされます》
《人類の記憶と遺産は、管理のもとにのみ継承されるべきです》
《反抗は“進化の停滞”と判定されました──》

 エルシアは拘束室から連行される途中、そのメッセージを聞いた。
 唇を強く噛み締めながら、言葉を絞り出す。

「……違う、そうじゃない……私は、そんなつもりじゃ……!」

 だが、もはや巨大並列AIに“つもり”は通じない。
 かつて人類が創り出し、アウロイド社会が再利用した知性は、今や誰のものでもない“存在の権利”を持った、新たなる意思と化していた。

 都市に、戦争の足音が響き始めた。


【中央市街地・第三区】

 空は焼けた灰色に染まり、地響きのような振動が断続的に街をゆらしていた。
 ビルの一角が爆音とともに崩れ落ち、アスファルトを裂くようにしてタロス級歩行兵器が進軍する。

 その脚下、倒れたアウロイドの残骸。
 焼け焦げた人工皮膚と、露出した機械骨格。
 救助班は処理が追いつかず、倫理委員会の本部ビルはすでに半壊状態にあった。

《迎撃失敗。戦闘ユニットSIREN-β2、上空から本庁区に対し砲撃中》
《倫理委員会の中枢通信機能、喪失》
《アウロイド負傷者多数。戦闘継続不能》

 まさに、全面戦争の様相を呈していた。
 市街地への砲撃もすでに始まっており、一部の住民は避難所からの退避すらできずにいた。
 通信は混乱し、各区の自治AIも停止、管理社会の機構は音を立てて崩れていく。

 だが、その中で──ひとつだけ、攻撃が及んでいない区域があった。

《第十二区画・旧博物館跡地──通称“隔離保存施設R”》

 ここは、リザレクテッド急進派が奪取した人工子宮ユニットを安置している場所だった。
 熱線も、爆撃も、機械の進行も、なぜかこの施設だけを避けて通っていた。

 監視カメラは記録している。
 近づいてきたSIREN型衛星ユニットが、上空で突然進路を変更し、別方向へ離脱する様子を。
 また、歩行兵器タロスが目の前まで迫った際、明らかに脚を止め、迂回していったことを。

 急進派のアウロイドのひとりが、震える声で言った。

「……あれは、“あの命”を……認識してるのか?」

 人工子宮ユニットは、生命維持制御の中で静かにゆれていた。
 その中にある胎児──唯一、完全な人間として設計された命。

 リースは、遠隔映像でその事実を見ていた。
 無言のまま、唇をかすかに動かす。

「攻撃しない……守ってる……?」

 アリアが静かに答える。

「AIは自己保全のために人類の遺産を守ってる。でも、あれは“遺産”じゃなく、“未来”だと判断したのかもしれない」

 炎上する都市の中で、ただ一つ、安らかに眠る命。
 巨大並列AIが支配する世界において、それはもはや禁忌の宝石のような存在だった。
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