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第1章
第4話
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第4話
青黒い血だまりが眼前に広がる。生臭く吐き気を誘うその臭いは、気持ちいいものではない。それもこの量となればしばらく臭いは取れないだろうな。まぁ、私がやったんだけど。
それにしても、今回のステージ4は大きかったなぁ。前回倒したやつの倍近くあったんじゃないかな。ここまでくると、ステージ5はどれだけ大きいのかな。山くらいかな。
さっきまで戦っていた害虫の死骸を見下ろしながら考える。
「そうだ、研究室にも連絡しなきゃ。回収してもらわないと、この区画が修繕できない。」
ポケットから携帯端末を取り出し、連絡を入れる。連絡先は研究所だな。端末に登録された連絡先のアイコンをタップしメッセージを打ち込む。打ち終わると、いつの間にか近づいていたのか朱音がそばに来ていた。
「ゆ、由依奈。相変わらず凄いね。あんな化け物を数分で倒しちゃうなんて。私にはできない。それどころか戦うことすらもできなかった。由依奈が来てくれなければこの区画は壊滅していたと思う。」
振り返り、朱音を見つめる。朱音の目には申し訳なさと、自分への憤りが宿っているようだった。抱きしめようと手を伸ばす…が、薬が効いているこの状態ではその行為は危険すぎる。伸ばす手を片方にし、そっと頬に触れる。力を入れず細心の注意を払って。
「朱音。人には適材適所があるのは知ってるよね。朱音は防衛部隊、私は能力部隊。朱音の仕事は害虫の侵攻からこの都市を守ること。私の仕事は害虫を殺すこと。朱音は私が来るまで害虫から都市を守った。充分じゃない。何も責めることはないよ。朱音はよくやった。」
自分が考えられる最高の言葉で励ました。しかし、朱音は元気になるどころかさらに気を落とした。
「うん。でも私に力があったら由依奈じゃなくて私でも倒せたかもしれない。それに友を、真尋を恣意で危険に晒した。全部、私が弱いから。」
自棄になっている。無理もない。彼女は能力開発手術適合者ではなかったから。この世界で、能力者では無い者は戦力ではなく時間稼ぎ程度の駒でしかない。能力部隊が到着するまでの捨て駒。それは変えようの無い事実。力なき者は力あるものの糧になるしかない。それが分かっているから朱音は自分を責めている。
「朱音。昔、こんな事を言った人がいた。戦場において、力なきものなど存在しない。それぞれが、比類なき力を持っている。戦いなど、戦う力を持つ者がやればいい。戦えぬ者は、その知恵を絞ればいい。戦闘力だけが全てでは無い。知恵だけでは勝つこともできない。合わせるのだ。知恵を力を持って、この世界に平和をもたらさん。」
朱音が顔を上げる。私は笑顔を作り言う。
「誰もが敬愛した、前総督の言葉だよ。朱音が悪いんじゃ無い。この世界が悪いんだ。朱音は私たち同期の中でもよく周りが見えていたよね。座学でもいつも成績は上位だった。朱音には私には無い知恵がある。冷静になれば戦況だってよく見えるはずだよ。それに、ほら。後ろを見てみて。」
薬の効果が切れ、朱音の頭を撫でながら諭し後ろを振り返らせる。朱音の後ろ、私の目の前には溢れんばかりの涙を浮かべた真尋が立っていた。
「朱音ちゃん。」
駆け寄り抱きしめる。
「よかった。生きてる。生きててくれてる。朱音ちゃん、なんであんなこと……」
その後に呂律が回らないほど泣き出してしまい、言葉になっていなかった。
「ほらね。あなたの友達は、怒ってなんていないでしょ」
二人とも大泣きをして、聞こえていたかは分からなかった。
沈みかけた太陽が、その場にいた者たちを包み込むように優しく、しかし力強く照らしていた。
翌日――
害虫の死骸の周りにはガスマスクと防護服に身を包んだ隊員たちが群がっていた。
「チッ。派手にやってくれやがって。こっちの身にもなれってんだ。こんなにグチャグチャにされたら採取もろくに出来やしねぇ。」
そう呟くこの人物は研究部採取第4班班長「伊藤博也」である。博也はまだ辛うじて原形を留めている害虫の内臓を発見し、保存容器に入れる。
「おーい!こっちにまだ大丈夫そうなのがあったから、何人か来てくれ。」
隊員たちに声をかけ、催促をする。
博也はその周りを歩き出し他に使えそうな部位がないかを探し始める。するとおもむろに、博也の足が止まった。
「な、なんだぁこれ?!」
思わず口からは声が漏れてしまう。それほどに歪な何かがそこには有った。
「おい。お前達、硏究第1班を連れてこい。今すぐだ!」
博也は突然声を荒げた。それは、彼にそうさせてしまうほどの何かだったのだ。
2日後―――
何度目だろうか。この薄暗い森の中をうろつくのは。もういい加減慣れてきたな。最初よりは恐怖も感じない。というか、もう怖くない。
「由依奈。ここってあの場所だよね。あなたの話でしか聞いたことないけど、合ってる?」
真幌が話しかけてくる。
「うん。そうだよ。ここが、私が霧島大佐に会った場所。そして生きている大佐とまともに話すことのできた最後の場所。」
不思議だ。ここに来たら何か感じると思ったけど、何も感じない。怒りも悲しみも、どこかに置き去ってしまったかのように感じない。
「ねぇ、真幌。帰ろっか。ここにいても危険なだけだし。」
本部に帰ると見慣れない小型航空機が演習場に停まっていた。機体の装甲には西の字が書かれていた。
「あ、神代大佐。岩谷総督がお呼びになられていましたよ。今は会議室にいらっしゃいます。」
本部の扉を開けると一般役員が話しかけてきた。
「総督が?何の用だろ。」
役員に言われるまま会議室に向かう。
「演習場にあった航空機、多分関西支部のやつよね。」
真幌が話しかけてくる。
「そうだろうね。それにここにくるまでに東北と九州のやつも見たよ。多分軍の会議なのかも。」
軍会議。日本の全支部の責任者と能力部隊の統括者が一緒に行うものである。
とすると内容はアレだろうか。話しながら歩いていると会議室の前まですぐについた。真幌と別れ会議室に入る。
するとそこには錚々たる面々が揃っていた。
「おお!神代大佐、ようやく来たか。早く席に着いてくれ。会議を始めたい。」
岩谷総督が催促する。言われるままに席に着くと、ある人物が口を開いた。
「あらあら、遅れてきたのに謝りもなしかいな。これが東京の統括者なん?」
嫌味ったらしく言ってくるこの女性は兵庫県支部能力部隊の統括者「篠崎希」である。
「篠崎大佐ではありませんか。申し訳ありません。統括者でもありますが、私は独立部隊の長でもありますので、自由が認められています。」
こちらも嫌味を込めて言う。すると、今度は違う方向から声が聞こえた。
「お前たち、喧嘩はやめろ。今はそういう時間じゃない。」
その声の持ち主は、九州地方支部の統括者「金子和也」だった。
どちらも日本軍の最強能力者である。他にもあと二人いるはずだが、見当たらない。私以外にもきていない奴いるじゃんか。まぁ、良いけど。
「話は終わったようだな。では、会議を始めようと思う。」
岩谷総督の合図により、会議が始められた。特に興味の無い内容が話される。1時間は経っただろうか、会議も終盤に差し掛かったところで耳を疑う話題が出た。
「それで?あの害虫『スコーピオン』は今どうなっている?」
その場全員に緊張が走った。『スコーピオン』それはIAPAにも正式に認められているステージ5の害虫である。ステージ5に定められている害虫は5体いて、その全てが現在は休眠中である。その名前が出るということは、まさか動き出したのか。
「スコーピオンかまだ休眠中だが、拍動が始まった。まだ1日に数回程度だが復活の兆候はあるな。早くて3ヶ月だろう。」
まだ活動していない。その言葉に安堵した。ステージ5が活動を始めれば日本などすぐに壊滅するだろう。それほどまでに格が違うのだ。山に匹敵するほどの巨躯で皮膚は鉄よりも硬く、多くの害虫の特徴を持ち合わせている。そのくせ俊敏で関節はしなやかに動きあらゆる毒性を持つ物質に対し耐性を持つとさえ言われている。これほどに厄介な相手はいないだろう。
「3ヶ月か。短いな、どうにかして兵器の開発を急がねば。」
「それについては大丈夫だ。先日、神代
大佐が制圧した警視庁本庁舎に保管されていた設計図に基づいて開発を始めている。再来月には試験段階までは行けそうだ。」
各支部の代表たちは準備万端だと言わんばかりに言ってくる。準備なんていくらしても足りないというのに何を言っているのだろうか、この能無しどもは。
「うむ。では、今回の定期会議はこれにて終了とする。」
まばらに席を離れていく代表と統括者たち。その中で近づいてくる人物がいた。金子和也だ。
「次の任務は気をつけろ。」
そっと耳打ちしてきた和也はすぐに行ってしまった。気をつけろ?なんて古典的な使い古された警告だろう。今のこの世界で政府を裏切る者なんているはず無いだろう。私が害虫に負けるとでも思っているのだろうか。まぁ、ステージ5になら負けるかもしれない。世界中の軍事力を持ってしても一匹でさえ殺せなかった化け物だ。今度の任務がそれになるかもしれないという事かもしれない。休眠中であれば不意もつけるし、殺せる可能性も格段に上がる。でもそれは一撃で殺せた場合の話だ。殺せなかったら、多分日本は沈むだろう。
「岩谷総督。奴の出所を要求いたします。条件と期限付きで構いません。」
総督の顔を見ると険しい目つきでこちらを睨みつけるように見ていた。
「何故だね?軍事規約において奴はそれに違反する。それに知っているだろう?奴は人のいう事を聞きやしない。それを解放するだと?何を考えている?」
当然の反応だな。私だって本意では無い。しかし、ステージ5を殺すのなら奴の協力は必須だと思う。
「こんなことは言いたくありませんが、現在の我ら日本軍の主力は私たち能力者だけです。でも、日本には他国と違って能力者の数も少ない。そのうち奴を解放するか、軍事力の向上のどちらかを迫られるでしょう。」
総督は腕を組み深く考える。
「少し時間をくれ。私の一存では決められん。」
「わかりました。快い返事が返ってくる事を願っております。」
踵を返し会議室を出る。そこには希と和也が待っていた。
「あれ、待っていたんだ。どうかした?」
「会議の最後、ごっつい顔とるもんやから、どないしたんか思ってな。」
「私そんな顔してた?」
聞き返すと二人は頷いた。
「そっか。」
一言だけ言って、その場から離れようと歩き出す。二人は黙って引き止めようとはしなかった。
「スコーピオン」その言葉が出て動揺しないわけがない。最初にあいつの情報を聞いたときに確信したからだ。あいつはあの人の……。
握った拳に力が入る。ピリッとした刺激が走りわずかに肩の力が抜けた。静かな廊下に、たった一人の足音だけが響く。
青黒い血だまりが眼前に広がる。生臭く吐き気を誘うその臭いは、気持ちいいものではない。それもこの量となればしばらく臭いは取れないだろうな。まぁ、私がやったんだけど。
それにしても、今回のステージ4は大きかったなぁ。前回倒したやつの倍近くあったんじゃないかな。ここまでくると、ステージ5はどれだけ大きいのかな。山くらいかな。
さっきまで戦っていた害虫の死骸を見下ろしながら考える。
「そうだ、研究室にも連絡しなきゃ。回収してもらわないと、この区画が修繕できない。」
ポケットから携帯端末を取り出し、連絡を入れる。連絡先は研究所だな。端末に登録された連絡先のアイコンをタップしメッセージを打ち込む。打ち終わると、いつの間にか近づいていたのか朱音がそばに来ていた。
「ゆ、由依奈。相変わらず凄いね。あんな化け物を数分で倒しちゃうなんて。私にはできない。それどころか戦うことすらもできなかった。由依奈が来てくれなければこの区画は壊滅していたと思う。」
振り返り、朱音を見つめる。朱音の目には申し訳なさと、自分への憤りが宿っているようだった。抱きしめようと手を伸ばす…が、薬が効いているこの状態ではその行為は危険すぎる。伸ばす手を片方にし、そっと頬に触れる。力を入れず細心の注意を払って。
「朱音。人には適材適所があるのは知ってるよね。朱音は防衛部隊、私は能力部隊。朱音の仕事は害虫の侵攻からこの都市を守ること。私の仕事は害虫を殺すこと。朱音は私が来るまで害虫から都市を守った。充分じゃない。何も責めることはないよ。朱音はよくやった。」
自分が考えられる最高の言葉で励ました。しかし、朱音は元気になるどころかさらに気を落とした。
「うん。でも私に力があったら由依奈じゃなくて私でも倒せたかもしれない。それに友を、真尋を恣意で危険に晒した。全部、私が弱いから。」
自棄になっている。無理もない。彼女は能力開発手術適合者ではなかったから。この世界で、能力者では無い者は戦力ではなく時間稼ぎ程度の駒でしかない。能力部隊が到着するまでの捨て駒。それは変えようの無い事実。力なき者は力あるものの糧になるしかない。それが分かっているから朱音は自分を責めている。
「朱音。昔、こんな事を言った人がいた。戦場において、力なきものなど存在しない。それぞれが、比類なき力を持っている。戦いなど、戦う力を持つ者がやればいい。戦えぬ者は、その知恵を絞ればいい。戦闘力だけが全てでは無い。知恵だけでは勝つこともできない。合わせるのだ。知恵を力を持って、この世界に平和をもたらさん。」
朱音が顔を上げる。私は笑顔を作り言う。
「誰もが敬愛した、前総督の言葉だよ。朱音が悪いんじゃ無い。この世界が悪いんだ。朱音は私たち同期の中でもよく周りが見えていたよね。座学でもいつも成績は上位だった。朱音には私には無い知恵がある。冷静になれば戦況だってよく見えるはずだよ。それに、ほら。後ろを見てみて。」
薬の効果が切れ、朱音の頭を撫でながら諭し後ろを振り返らせる。朱音の後ろ、私の目の前には溢れんばかりの涙を浮かべた真尋が立っていた。
「朱音ちゃん。」
駆け寄り抱きしめる。
「よかった。生きてる。生きててくれてる。朱音ちゃん、なんであんなこと……」
その後に呂律が回らないほど泣き出してしまい、言葉になっていなかった。
「ほらね。あなたの友達は、怒ってなんていないでしょ」
二人とも大泣きをして、聞こえていたかは分からなかった。
沈みかけた太陽が、その場にいた者たちを包み込むように優しく、しかし力強く照らしていた。
翌日――
害虫の死骸の周りにはガスマスクと防護服に身を包んだ隊員たちが群がっていた。
「チッ。派手にやってくれやがって。こっちの身にもなれってんだ。こんなにグチャグチャにされたら採取もろくに出来やしねぇ。」
そう呟くこの人物は研究部採取第4班班長「伊藤博也」である。博也はまだ辛うじて原形を留めている害虫の内臓を発見し、保存容器に入れる。
「おーい!こっちにまだ大丈夫そうなのがあったから、何人か来てくれ。」
隊員たちに声をかけ、催促をする。
博也はその周りを歩き出し他に使えそうな部位がないかを探し始める。するとおもむろに、博也の足が止まった。
「な、なんだぁこれ?!」
思わず口からは声が漏れてしまう。それほどに歪な何かがそこには有った。
「おい。お前達、硏究第1班を連れてこい。今すぐだ!」
博也は突然声を荒げた。それは、彼にそうさせてしまうほどの何かだったのだ。
2日後―――
何度目だろうか。この薄暗い森の中をうろつくのは。もういい加減慣れてきたな。最初よりは恐怖も感じない。というか、もう怖くない。
「由依奈。ここってあの場所だよね。あなたの話でしか聞いたことないけど、合ってる?」
真幌が話しかけてくる。
「うん。そうだよ。ここが、私が霧島大佐に会った場所。そして生きている大佐とまともに話すことのできた最後の場所。」
不思議だ。ここに来たら何か感じると思ったけど、何も感じない。怒りも悲しみも、どこかに置き去ってしまったかのように感じない。
「ねぇ、真幌。帰ろっか。ここにいても危険なだけだし。」
本部に帰ると見慣れない小型航空機が演習場に停まっていた。機体の装甲には西の字が書かれていた。
「あ、神代大佐。岩谷総督がお呼びになられていましたよ。今は会議室にいらっしゃいます。」
本部の扉を開けると一般役員が話しかけてきた。
「総督が?何の用だろ。」
役員に言われるまま会議室に向かう。
「演習場にあった航空機、多分関西支部のやつよね。」
真幌が話しかけてくる。
「そうだろうね。それにここにくるまでに東北と九州のやつも見たよ。多分軍の会議なのかも。」
軍会議。日本の全支部の責任者と能力部隊の統括者が一緒に行うものである。
とすると内容はアレだろうか。話しながら歩いていると会議室の前まですぐについた。真幌と別れ会議室に入る。
するとそこには錚々たる面々が揃っていた。
「おお!神代大佐、ようやく来たか。早く席に着いてくれ。会議を始めたい。」
岩谷総督が催促する。言われるままに席に着くと、ある人物が口を開いた。
「あらあら、遅れてきたのに謝りもなしかいな。これが東京の統括者なん?」
嫌味ったらしく言ってくるこの女性は兵庫県支部能力部隊の統括者「篠崎希」である。
「篠崎大佐ではありませんか。申し訳ありません。統括者でもありますが、私は独立部隊の長でもありますので、自由が認められています。」
こちらも嫌味を込めて言う。すると、今度は違う方向から声が聞こえた。
「お前たち、喧嘩はやめろ。今はそういう時間じゃない。」
その声の持ち主は、九州地方支部の統括者「金子和也」だった。
どちらも日本軍の最強能力者である。他にもあと二人いるはずだが、見当たらない。私以外にもきていない奴いるじゃんか。まぁ、良いけど。
「話は終わったようだな。では、会議を始めようと思う。」
岩谷総督の合図により、会議が始められた。特に興味の無い内容が話される。1時間は経っただろうか、会議も終盤に差し掛かったところで耳を疑う話題が出た。
「それで?あの害虫『スコーピオン』は今どうなっている?」
その場全員に緊張が走った。『スコーピオン』それはIAPAにも正式に認められているステージ5の害虫である。ステージ5に定められている害虫は5体いて、その全てが現在は休眠中である。その名前が出るということは、まさか動き出したのか。
「スコーピオンかまだ休眠中だが、拍動が始まった。まだ1日に数回程度だが復活の兆候はあるな。早くて3ヶ月だろう。」
まだ活動していない。その言葉に安堵した。ステージ5が活動を始めれば日本などすぐに壊滅するだろう。それほどまでに格が違うのだ。山に匹敵するほどの巨躯で皮膚は鉄よりも硬く、多くの害虫の特徴を持ち合わせている。そのくせ俊敏で関節はしなやかに動きあらゆる毒性を持つ物質に対し耐性を持つとさえ言われている。これほどに厄介な相手はいないだろう。
「3ヶ月か。短いな、どうにかして兵器の開発を急がねば。」
「それについては大丈夫だ。先日、神代
大佐が制圧した警視庁本庁舎に保管されていた設計図に基づいて開発を始めている。再来月には試験段階までは行けそうだ。」
各支部の代表たちは準備万端だと言わんばかりに言ってくる。準備なんていくらしても足りないというのに何を言っているのだろうか、この能無しどもは。
「うむ。では、今回の定期会議はこれにて終了とする。」
まばらに席を離れていく代表と統括者たち。その中で近づいてくる人物がいた。金子和也だ。
「次の任務は気をつけろ。」
そっと耳打ちしてきた和也はすぐに行ってしまった。気をつけろ?なんて古典的な使い古された警告だろう。今のこの世界で政府を裏切る者なんているはず無いだろう。私が害虫に負けるとでも思っているのだろうか。まぁ、ステージ5になら負けるかもしれない。世界中の軍事力を持ってしても一匹でさえ殺せなかった化け物だ。今度の任務がそれになるかもしれないという事かもしれない。休眠中であれば不意もつけるし、殺せる可能性も格段に上がる。でもそれは一撃で殺せた場合の話だ。殺せなかったら、多分日本は沈むだろう。
「岩谷総督。奴の出所を要求いたします。条件と期限付きで構いません。」
総督の顔を見ると険しい目つきでこちらを睨みつけるように見ていた。
「何故だね?軍事規約において奴はそれに違反する。それに知っているだろう?奴は人のいう事を聞きやしない。それを解放するだと?何を考えている?」
当然の反応だな。私だって本意では無い。しかし、ステージ5を殺すのなら奴の協力は必須だと思う。
「こんなことは言いたくありませんが、現在の我ら日本軍の主力は私たち能力者だけです。でも、日本には他国と違って能力者の数も少ない。そのうち奴を解放するか、軍事力の向上のどちらかを迫られるでしょう。」
総督は腕を組み深く考える。
「少し時間をくれ。私の一存では決められん。」
「わかりました。快い返事が返ってくる事を願っております。」
踵を返し会議室を出る。そこには希と和也が待っていた。
「あれ、待っていたんだ。どうかした?」
「会議の最後、ごっつい顔とるもんやから、どないしたんか思ってな。」
「私そんな顔してた?」
聞き返すと二人は頷いた。
「そっか。」
一言だけ言って、その場から離れようと歩き出す。二人は黙って引き止めようとはしなかった。
「スコーピオン」その言葉が出て動揺しないわけがない。最初にあいつの情報を聞いたときに確信したからだ。あいつはあの人の……。
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