1week 魔法少女の卒業試験

石嶺経

文字の大きさ
3 / 46
日曜日

「あたしは魔法少女」(3)

しおりを挟む
 ――同じバイト先の花白雪はなしろゆきだった。その名に恥じることのない白い肌は、それと対照的な濡羽色の髪と相俟って見るものに儚げな印象を与えるのだが、今の彼女はお酒が入っているのだろう、見るも無残に真っ赤になってしまっている。これでは台無しだ。尤も台無しと言えば酒癖の方も花白雪という人物像を貶めるものであり、大学三年となる彼女にはいまだに恋人の一人もいないのだった。酔っぱらいながらバイトして、その時によく愚痴を零している。

「あっれぇ? そっちの可愛い子は誰かなぁ。もしかして彼女? アタシを差し置いてそれは無いんじゃないの、彰彦ちゃぁああん」

 呂律も回ってないし足元も覚束ない彼女だが、それでも横にいる謎の少女に気付いたらしくそんな疑問を投げかける。

「あたしは魔法少女です。名前はまだありません」

 当の本人はまるで普通であるかのようにそう告げる。心なしかさっきの口上より語気を強めていて、自信があるかのように見える。一緒にいるこっちの立場が危ぶまれるそんなふざけた紹介を聞いて花白雪は――

「あっはっは。魔法少女かぁ。それはいいなぁ」

 と腹を抱えて自分の膝をばしばし叩きながら大声で笑うのだった。まあ、酔っ払いに何を言っても大丈夫か。ウィークの方も笑われて気を悪くしたようでもなさそうだ。

「それで花白さんは、」

「白雪先輩」

 急に真顔になった花白さん――白雪先輩は、自分の呼称について訂正する。こだわりがあるということを、二週間ぶりに会ったから忘れていた。

「いつも言ってるでしょ、白雪先輩って呼びなさーいってぇ。苗字にさん付けなんてよそよそしいじゃない。どうしてもっていうなら雪ちゃんでもいいよ」

「じゃあ、白雪先輩はまたこんな時間まで飲んでたんですか?」

 今更聞くまでもないことだったし、どころかまた愚痴に付き合わされるかもしれない最悪の愚問を俺は口にする。言ってからしまったと思う。なんか今日は調子が悪い。早く帰って寝た方がいいかもしれない。

「そうなのよねぇ。彰彦ちゃんの家の近くで飲んでたから、帰るのも面倒くさいし泊めてもーらおと思って家に行ったんだけど居ないじゃない? どこでなにしてたのよ? 女の子まで連れちゃって」

 泊めてもーらお、で勝手に決めないでほしい。俺は何を考えてるのか口に手を当てて俯くウィークを尻目に頭を掻く。

「花白さん、」

「白雪先輩」

「……白雪先輩がバイトに出ないから、ずっとシフト入ってたんですよ。やっと今帰るところです」

 おおっ、とおどけて見せる白雪先輩。どうやら本当に気付いていなかったらしい。店長合わせても三人しかいないというのに、この先輩は不真面目すぎる。それは店長も重々理解していて、俺は何度かバイト代を(雀の涙ほど)上げてもらっているが、白雪先輩の方は採用以来一度も上がっていない。必然的に俺の方が時給は高い。

「それで、そっちの女の子は?」

「俺の原付に悪戯したみたいなんです。それが原因で壊れたみたいなんで、弁償させようと連れ帰ってきたところです」

 ええっ、そうだったんですか、とウィーク。まあ嘘は言ってない。弁償云々は今思いつきで言ったけど、そうさせるのもありかもしれない。

「成程。持ち帰って体で払わせるわけね」

「いや、健全に働いて返してもらうつもりです」

 お堅いのねー、彰彦ちゃん、と白雪先輩。お堅いもクソもあるか。
 白雪先輩は向き直り、ウィークの方に話しかける。

「魔法少女ちゃんも、彰彦ちゃんのところに泊まっていくつもり?」

「はい。そのつもりです」

 え、そうなの? 何というか俺もウィークも思惑が相手に伝わっていない。というか俺の家をネットカフェ代わりにしないでほしい。駅前にいくらでもあるだろうに。

「でもねー魔法少女ちゃん。一人暮らしの男の下にふらふら行くもんじゃないと思わない?」

「それもそうかもしれませんね」

 どうでも良さそうに答えるウィーク。まあ、(魔法少女かは置いといて)先ほど見せたあの跳躍力と腕力、原付に轢かれて無傷という特性があるのは確かだし、仮に俺が襲い掛かっても、組伏せられるだろうと踏んでいるのかもしれない。というか連勤明けだから、大抵の生き物は俺を倒せるが。

「だからこのお姉さんが一緒に泊まって、守ってあげるってのはどう?」

「成程! それは名案ですね、お姉さん!」

 何が楽しいのか急に声を張り上げる。近所迷惑だ辞めてくれ。というかまず俺が迷惑してる。

「はい、決定! 彰彦ちゃんもそれでいいでしょ」

「ああ、はい……まぁ」

 正直言うと良くはないのだが、原付の弁償させるためと考えるなら、この住所不定無職っぽい少女を泊めて留めておくのはありかもしれない。その口実を作ったとなれば流石というところだが、なんだろう。全く褒める気がしない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...