1week 魔法少女の卒業試験

石嶺経

文字の大きさ
17 / 46
水曜日

「ちょっと、嫉妬しちゃったな」(1)

しおりを挟む
「ナナと気まずい」

 机に突っ伏したままだったから、相当にくぐもった声になってしまった。これでは心底嫌そうに聞こえたに違いない。確かに現状は嫌なのだが、だからといって、イコールでナナが嫌い、と捉えられては困る。……困る? 何でだ? アイツに対してはそもそも、好きも嫌いもないじゃないか。

「そうなんだ」

 上体を起こして確認したわけでは無いが、恐らく本を読んでいるだろう、君野がゆったりと言う。視界ゼロの今、君野の声はやたらと耳に残る。
 西日が差し込む放課後の教室で、俺と君野は何故か二人きりだった。いつもなら、帰宅部の奴らが何人か残って、惚れた、腫れた、だのくだらない話に花を咲かせているはずだが、運良く今日は誰も居ないみたいだった。

「駄目だよ、喧嘩なんかしちゃ」

「喧嘩、では無いけど……何だろうな」

 いや、喧嘩で良いのか。相手が俺じゃないってだけで。そして、その結果如何によって故郷を追われるってだけで。どちらかというと身内同士の諍いに俺が巻き込まれたって形になるのかな? ……それだと薄情すぎるか。スペードの言いじゃないけど、既に関わってしまっているのも事実だし。折り合いというか落としどころを探るぐらいの事はするべきなんだろうか? と言ってもなぁ。昨日は取り乱したけど、向こうの言い分も分からないでは無いんだよな……。やっぱり薄情だ、俺は。

「彰彦くんは」

 考えをまとめようとして、却ってごちゃごちゃになってしまった俺に君野が話かけてくる。耳を凝らして続く言葉を待つが、語り出す気配も無い。今のは聞き間違いだったのかと思いつつ顔を上げると、君野と目が合った。

「やっと、こっち向いた」

 目の前の席に座っている君野は、普段見たことも無いような締まりの無い笑顔を俺に向けていて、何だか見てはいけないものを見たような不思議な気分に陥った。

「なんつー顔してんだよ、お前」

「んーと、愛しいものを見る顔、かな?」

 慌てて目を逸らし、組んでいた腕を伸ばす。
 よくもまあ、こんな歯の浮くような台詞が出てくるな。君野のこういうところが小さい頃からずっと苦手だった。他人である俺に対して、剥き出しの好意を向けてくる。そんなことをすれば勘違いする輩もいるだろうに、なぜそんなことをするのか。俺の様な小市民には理解しがたい。

「誰にでもするわけじゃないからね」

「何だよ。お前も読心術かよ」

「わかるよぉ、長い付き合いだもん。……お前も?」

 おっと、失言失言。
 今、アイツ等の事をべらべらと喋る気にはなれん。

「それで、俺が何だって?」

「うん。彰彦くんは、ナナちゃんの味方をしないと駄目だよ」

 ……なんだそれ。

「ちょっと意味が分からんのだが」

「うん。私も分かんないけど、ナナちゃんが来てから、彰彦くんすっごく楽しそうなんだもん。お礼を言いたいくらい。だから二人の間に何があったか分かんないけど、ナナちゃんを責める様なことしちゃ、だめ」

 ちょっと強引な気もするが、言わんとすることはわかる。何かから逃げるようにこの高校に入って以来、がむしゃらに生活費を稼いで、精神に蓋をして生きていたようなものだ。君野は随分と心配してくれていたと思う。

「二人で話してるとき、私も、多分花白さんでも見たこと無いような表情してたんだよ、彰彦くん。ちょっと、嫉妬しちゃったな」

「……辞めてくれ。俺のライフはもうゼロだ」

 再び自分の腕に顔を埋める。ここ数日、感情をかき乱されてばかりだ。それというのも全部ナナのせいだ。

「まあ、仕方ないよね。ナナちゃん、妹さんにそっくりだもんね」

「ん……」

 考えたことも無かったが、確かにそうかもしれない。生意気な口利きとか、それでも許してしまうオーラとか、似ていると言えば似ているかもしれない。俺の妹の胸は大きくなかったが。

「妹、妹か。久し振りに思い出したような気がする」

「もー、駄目じゃない。駄目駄目じゃない。ナナちゃんの事が一段落着いたら会いに行きなさい!」

 君野が珍しく大きな声を出す。こいつが声を張り上げているのは大体、自分でなく俺の事である。そして……。

 安芸津あきつあき。我が妹が苛められていた時も、身を挺して、声を張り上げていた。要するに俺と空の二人はこいつの庇護下にあったってわけだ。そしてそれは今もそうらしい。今、空に会えたら何て言うのだろうか。

「空、ねぇ……。申し訳なくて、何だかな。会って良いのかな」

「良いに決まってるじゃない。兄弟が会うのに、理由なんていらないよ」

 そんなもんか。……うん、そうだな。

「良し。ナナの事が片付いたら会いに行くとよう」

「その意気だよ。なんならナナちゃんと一緒に行くといいよ」

「何で……ああ、いや。別に良いか、それでも」

「良いのかよっ」

 良いのかよっ?
 今、君野に突っ込まれた? 何で? 

「あはははは。彰彦くん、変な顔」

 呆気にとられている俺を指さして笑う君野。何なんだ、一体。
 何で自分から突っ込んでそこまで笑えるんだ。

「あはははは! あー駄目だ、止まんない。あはははは」

「……っぷ」

 だけど、そんな君野を見ていたら、どうでも良くなってきた。俺はさっきまで何をうじうじ悩んでいたんだってぐらいの気分だ。
 ……割とデリケートな話もあったんだけどな。

「あー……。やっと落ち着いてきた。……ふふっ」

「収まってないじゃん」

「だって面白かったんだもん。彰彦くん、随分ゆっくりしているけど、バイトは良いの?」
「ん。もう少ししたら行く。そうだな、あの二人にもいつかちゃんとお礼しとかなきゃだな」

 我ながら随分と恥ずかしいことを言っている。後で思い出して大声出しながら足をばたつかせるパターンの奴だ、これ。

「そうだよ。花白さんにも、店長さんにも、そしてナナちゃんにもお礼を言わなきゃだよ。彰彦くんはいつも一言足りないんだよ」

「いや。それについては本当に申し訳ない、それに」

 ぴと。
 言い訳じみた言葉を紡ごうとする俺の口を君野の人差し指が制す。

「ううん、良いよ。でも一つだけ約束してほしいかな」

「おう。今の俺は何だってほいほい安請け合いしちゃうぜ。言ってみろ」

「いつか。私にもお礼を言ってほしいかな」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...