【R18】魔王陛下とわたし~キャバ嬢から魔王の妃に転職します~

塔野明里

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第一章

9話~ギルバート視点~

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 9話~ギルバート視点~

 目が覚めたとき、部屋に彼女の姿はなく、ベッドのサイドテーブルに携帯電話の番号が書かれたメモだけが置かれていた。もっと彼女と話したかったという思いと、きっと私を気遣って起こさずにいてくれた彼女の優しさに、すぐに電話を手に取った。
 しかし、夜の仕事の彼女はまだ眠っているだろうと思いとどまる。メモを丁寧に折り畳み、上着のポケットにしまった。

 体のベタつきに不快感をおぼえ、そういえばシャワーも浴びずに眠ってしまったことを思い出した。見るとベッドのシーツにはいろいろなシミができ、昨夜の情事の痕跡がありありと残っている。
 その時の自分のあられもない姿を思い出すと顔から火がでそうだ。女性の前であんなに乱れたのは初めてで、自分が自分ではないようだった。全てを彼女に見られていたと思うと、ひとりでに顔が赤くなる。次に会ったときどんな顔をしたらいいか分からなかった。
 恥ずかしさを振り払うようにバスルームに向かう。

 昨夜のことを彼女はどう思っただろう。まさかあんな風に、彼女と肌を重ねることになるとは思ってもみなかった。

 * * *

 初めて会った時から、彼女は今まで会ったどの女性とも違っていた。クラブ『アイリス』に初めて行った日、私は本当に疲れていた。いや、そのもっとずっと前から疲れ果てていたのだ。

 私の結婚相手を探すという目的でたくさんの国へ行き、たくさんの女性と会った。どの人も美しく、素晴らしい人だと紹介されたが、私からするとみな同じに見えた。どの人も私自身ではなく、私の立場やそれに付随するものを見てばかりで、誰一人もっと一緒に居たいと思える人はいなかった。
 そんな中で訪れた日本、私は本当に限界だった。このまま伴侶を見つけられず国に帰れば、私の立場も怪しくなる。そう言われても、私にはどうすることもできず、ただただ作業のように女性との見合いを続けていた。
 そんな中で、同行者の2人が、息抜きにと選んだのがクラブ『アイリス』だった。知り合いがオーナーを勤める店で、普段会わないタイプの女の子と話したら、なんか変わるかもしれないですよ!と言ったのは運転手の佐々木だった。

 店のVIP席に通され、隣に座ったのは店のナンバーワンだという女性だった。たしかに美しかったが、話すのはいつも見合い相手とするような話題ばかり。私の容姿を誉め、仕事を誉め、ニコニコしているだけ。

 同じことの繰り返しにうんざりしていた私の前に現れたのが、彼女、アヤだった。

 ナンバーワンの彼女に比べると、小柄で髪も服も控えめだったが、それが彼女自身によく似合っていた。隣に座った彼女はあまり笑わず、目があったときだけ微笑んだ。私だけでなく同行者2人にもさりげなく話題を振り、毎回しっかりと相づちをうつ。なるほど、こういう女性に話を聞いてほしいという男は多いだろうと思った。
 その後店でトラブルがあり、彼女と2人になったので、思ったことを聞いてみた。なぜあまり笑わないのかと。そして、彼女の答えに驚いた。

 私も結局、私の見合い相手たちと同じだったのだ。彼女を水商売の女と決めつけ、無意識に見下していたのだ。

 しかし、彼女は違った。しっかりと相手を観察し、なにを求めているのかを考え、行動する。その真摯な姿勢に感動すら覚えた。今まで会ったどの女性ともちがう、彼女に興味を引かれた。同じ女性にもう一度会いたいと思ったのは、生まれて初めてだった。
 本当なら初めて会った次の日にもお店に行きたかったが、秘書の田中に止められた。予定が詰まっていたし、店の女性に会うくらいなら見合いを優先しろということだった。私のことを思って言っていることはわかっていたし、私に拒否権はない。仕方なく次の来店は一週間後になった。
 しかし、譲れないことがあった、彼女と2人きりで会いたいということだ。田中は渋っていたが、知り合いの店ということもあり、店の外で待機してもらうことで納得してくれた。私はここ最近でこんなに早く時間が経ってほしいと思ったことはなかった。

 いざ彼女と会うと、なにを話していいか分からなかった。自分のことを全て話すのは難しく、結果彼女ばかりに話をさせてしまった。それでも、二回目に会った彼女はよく笑い、たくさんのことを話してくれた。他愛ないことばかりだが、私にはとても心地よかった。時間はあっという間に過ぎ、さらに彼女に会いたい気持ちが強くなった。来週も必ず来ようと心に決めた。

 そして三回目に会ったあの夜、彼女への思いは決定的なものになったのだ。

 三回目の来店の日、雨のせいか店に客は少なく、彼女とゆっくりと話をすることができた。距離感も近くなり、彼女も気を許ししはじめていると思った。
 しかし、彼女の口から私の見合いの話が出ると、私はどうしたらいいか分からなくなった。次々と見合いを繰り返す私は、彼女からどう見えているのだろう。口をつぐむ私に、彼女は突然「可愛い」と言った。官能的に握られる指の感覚と相まって、自分の顔が赤くなるのを感じた。

 彼女の目がいつもと違う熱を帯びているように見え、その瞳に見つめられると心のなかを見透かされているような落ち着かない気持ちになった。
 そして彼女の手が、私の太ももを撫でた瞬間に何かが弾けた。彼女の指の熱が、言葉が、私の中の誰も触れたことのないところに触れた気がした。彼女の質問に答えることも忘れ、私は店を出た。心臓が大きく脈打ち、心がざわつく。
 彼女の全てが私を離してくれない。そう気づいたときにはもう、どうすることもできなかったのだ。

 そして、昨夜。ついに一線を越えてしまった。もう後戻りはできない。

 * * *

 シャワーを浴び、着替えを終えると、少しだけ気分が落ち着いた。そろそろ2人が来る頃だろう。さすがにこのベッドは見せられない。かけ布団でシーツを隠し、寝室を出ると

『コンコンっ』

 ちょうどドアをノックする音が聞こえた。応接室のソファに腰掛け、声をかける。

「入ってくれ。」

「「失礼します。」」

 秘書の田中と、運転手の佐々木が部屋に入ってくる。田中はいつもの地味なスーツに、今日は銀縁のメガネをかけている。佐々木は明るい茶色の髪をなでつけ、ストライプの入ったグレーのスーツに、中に着たワイシャツは第三ボタンまで開けている。

「おはようございます。昨夜は大丈夫でしたか?」

 大丈夫か?は田中の口癖だ。ホテルのバーで女性と酒を飲むのに、どんな危険があるというのか。

「大丈夫もなにも、可愛い女の子とデートしただけでしょ。」

 佐々木の軽口はいつものことだ。

「無理を言ってすまなかった。おかげで彼女とゆっくり話せた。」
「それはかまいませんが……、なぜあの女にそこまで入れ込むのですか。」
「たーなーかー、あの女はないだろ。社長のお気に入りなのに。」

 田中は苦い顔で佐々木を見ると、ため息をついた。

「あなた分かっているんですか?あと二週間であちらに帰らなければいけないのですよ?これ以上時間を無駄にしてどうするんですか。」

(あと二週間……もうそれしか時間がないのか。)

 これ以上、結論を先伸ばしにはできない…。でも、彼女は…。

「ただの人間である彼女にいくら時間を割いても無駄です。どうにかして伴侶を連れ帰らなければ、陛下の立場が危ういかもしれないんですよ。あなたはもう少し真面目にやってください。」

 田中はいつもの小言を永遠に言い続け、佐々木が聞き流す。お決まりのパターンだ。

「分かってるけどさー、社長の意見も聞かないと。」
「佐々木、3人のとき、社長はやめてくれ。」

 何度言ってもきかないやつ。

「はいはい、てかさーギルはもう決めたんじゃないの?」

「「!?」」

「決めたってどういうことですか!」
「いやだから、アヤちゃんに決めたんでしょ。ちがうの?」

 私は驚きで声が出なかった。なぜ知っている。

「いや、この部屋、ってか寝室。すごいにおいだけど。いくら人間に擬態してても、気づくって。」

 この言葉に田中は寝室のドアを開け、ベッドのかけ布団を剥ぎとる。

「陛下、説明していただけますね?」
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