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第一章
12話
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12話
約束の時間、スイートルームのドアの前に立ち、私は呼吸を整える。気合いを入れて、持っている服の中で一番高いワンピースを着てきた。昨日は緊張でほとんど寝られなかったので、その分ものすごい時間をかけて、身支度をしてきた。これからの私の人生が今日決まるのだから。
『コンコンっ』
部屋のドアをノックするのと、ほぼ同時にドアが開いた。
「アヤさんっ!」
笑顔のギルさんに手を引かれ、部屋のなかに入る。すると入れ替わるように付き人の2人が部屋から出ていった。田中さんはすごい顔でこちらを見てたけど……。
この間と同じように応接室のソファに、彼と並んで座った。
「昨日は眠れませんでした。アヤさんの事ばかり考えていたんです。」
「……わたしもです。いろんなことを考えていました。」
ギルさんのこと、仕事のこと、千春のこと、これからのこと、考えても考えても、どうしようもないことは分かっていたけれど考えずにはいられなかった。あぁ、私は自分が思っている以上に自分の人生が、生活が気に入っていたのだと気づいた。それでも、私は………。
「ギルさん」
彼の目を見つめ、はっきりと伝える。
「私はギルさんが好きです。一緒にいた時間は多くはないですが、気持ちは変わりません。こんなわたしで良かったら、結婚していただけませんか?」
そういって小さく頭を下げた。
なにも言葉が返ってこないので、おそるおそる顔をあげると、すぐそこに彼の顔があり、唇を塞がれ、ソファに押し倒された。甘いキス、彼の手が私の身体をゆっくりと撫でていく。それだけで身体の奥が疼いてしまう。唇を離すと、そのまま耳から首筋、ワンピースの開いた胸元にゆっくりとキスをされた。
「アヤさん、これから何があっても貴方を守り、永遠に愛します。どうかずっと側にいてください。」
そのまま唇を塞がれた。嬉しさで自然と涙が溢れた。
どれくらいそうしていただろう。ドアのノックの音で私たちは慌てて起き上がった。
「このままだと、自分を抑えられる自信がありません。まだ今は貴女を抱けない。」
「?それは、ギルさんが魔王であることと関係があるんですか?」
「そのことも含めて、これからのことを話しましょう。」
* * *
ドアの外に声をかけると、2人が部屋に戻ってきた。
「喜んでくれ、彼女が私のプロポーズを受けてくれた。」
2人の顔は、対照的なものだった。
「はぁ……正直言って、最悪の選択です。」
「やったな!これでこのくだらない嫁探しから解放される!」
言うまでもないが、前者が田中さん、後者が佐々木さんだ。
「じゃあ、この社長ごっこも終わりでいいな。改めて、佐々木こと、サッシャ・ケーマンだ。これからよろしく頼む。」
言うやいなや目を閉じ、体をぶるぶると震わせる。すると頭から犬のような耳が生え、腰の辺りから尻尾が生えた。
「俺は狼の獣人だ、ギルとは幼なじみで、まぁボディーガードみたいなもんだな。」
そういって佐々木さん改め、サッシャさんは不敵に笑った。明るい茶色の毛並み?切れ長な目と鋭い牙。狼と言われたらたしかにそうかも。
「こっちの田中は本名だ、田中いつき。死霊だから見た目は変わらない。こいつも幼なじみで魔王付きの秘書。」
獣人に死霊?私の頭はついていけるだろうか。すると、ギルさんが私の腰に手を回し、ぐっと体を引き寄せた。
「まずは我々の住む魔界について、説明しますね。分からないことがあればなんでも聞いてください。
魔界は主に3つの国から成り立っています。私の住む城がある、魔人たちの暮らす国アルデバラン、サッシャのような獣人の暮らす国ビスティア、田中と同じ死霊が住む国ゴシカ。ビスティアとゴシカにはそれぞれ宰相がいます。こちらでいう総理大臣みたいなものでしょうか。そして、それら3つの国をまとめるのが魔王である私の仕事です。」
改めてギルさんが魔王なのだと実感する。私はすごい人のプロポーズを受けてしまったのかも。
「魔人とは、私のように黒い翼と尖った耳を持つ者のことを言います。人間界では悪魔と呼ばれることが多いですね。獣人はサッシャを見ればわかる通り、獣の耳と尻尾を持つ者たちです。あとは死霊ですが…これは少し説明が難しいですね。」
「?幽霊とは違うんですか?」
すると田中さんに鼻で笑われた。
「ふんっ。あんなものと一緒にしないでいただきたい。あれは人間が作った想像の産物です。」
そうは言っても、ちがいが分からない。
「アヤさんのいう幽霊とは、死んだ人間が愛しい人に会いに来たり、逆に恨みを持つ人を呪ったり、そういうイメージでしょうか。残念ながら、そのような幽霊は存在しません。生き物の魂は死ぬと必ず輪廻の輪に戻ります。そこで生まれ変わりを待つのです。例外はありません。しかし、時に強い想いを持ちながら死ぬと、魂からその強い想いだけが離れ、意思を持つことがあります。それが死霊です。彼らは人間界にいると実体を持ちませんが、魔界に入れば体を持つことができます。その体を持った死霊たちの国がゴシカです。」
分かったような分からないような。
「実際に彼らに会えば、よく分かると思いますよ。」
そう言われて、田中さんをじっと見つめる。黒髪黒目、白い肌。見た目はまったく人間と変わらないようにみえる。
「我々魔界の住人は、人間界ではこうして擬態しています。そうして人間に紛れて生活しているものも多くいます。」
「どうして人間界にいるのですか?」
「それは私たちの魔力に関係があります。」
「魔力?」
そこでギルさんは言いにくそうに口ごもった。
「ははっ、堅物のギルには言いにくいか!いまさら恥ずかしがることじゃねーだろ。
俺ら魔界のやつらは、生きるのに魔力ってのがいる。魔界の空気には魔力が含まれていて、だいたいのやつは魔界にいるだけで魔力に困ることはない。でも、それだけじゃ足りないやつらもいる。魔力が生まれつき強いやつや、獣の力、死霊の力が他のやつより強いやつとかな。そういうやつは魔力を補給するために人間界に来る。」
魔力の補給?どういう意味だろう。
「人間は魔力なんて持ってない。でもそのかわりに持ってるもんがある、欲だ。」
「欲?欲望の欲ですか?」
「そうだ、その欲を俺たちは体内に取り込んで魔力に変える。そいつは魔界で感じる魔力の数倍の強さを持つんだよ。人間界に来るやつはそいつの魅力に取りつかれてるやつらさ。」
欲を身体に取り込む……それってつまり。
「気づいたか?そうだ、簡単に言えば人間とセックスして、俺らは魔力を得る。性欲はだいたいのやつが持ってる強い欲だからな。」
サッシャさんは言いながら、私の体を見つめている。目が笑ってない。
「サッシャ。彼女に手を出したら、お前でも容赦しない。」
ギルさんが睨み付けると、ひらひらと手をあげ、降参のポーズを見せる。
「冗談だよ。俺はそこまでバカじゃねー。
でも、この魔力については例外がある。あんたの隣にいるギルがその筆頭だ。」
私はギルさんの顔をみた。彼は困ったように笑う。
「ギルは生まれつき、魔力の強さが半端じゃなかった。子どもの頃はまだマシだったが、成人したらもうダメだ。魔界にいるだけじゃまったく足りなくなった。で、人間界に来たがそれもダメだった。」
「ダメだった?どういうことですか?」
「人間から魔力を得ても、それでも足りなかった。逆に相手から欲を奪いすぎて、廃人にしかけたこともある。」
驚いて、ギルさんの顔を覗きこんだ。彼は悲しげな顔で私に触れる手に力をこめる。
「お伝えできなくて、すみません。」
あの夜、ギルさんが私を拒んだ理由が分かった。私を傷つけないようにしてくれていたのだ。今更ながらなんて軽率なことをしてしまったのだろう。
「あの、私のほうこそ、あの日…」
言いかけた私に彼はそっとキスをする。
「アヤさんが謝ることは何もありません。全て私が望んだことですから。」
「でも……」
「いいんです。私にとって大切な夜になりました。」
見つめあう私たちに
「なぁ、俺らまた外に出たほうがいいか?」
サッシャさんから呆れた声がかかった。
約束の時間、スイートルームのドアの前に立ち、私は呼吸を整える。気合いを入れて、持っている服の中で一番高いワンピースを着てきた。昨日は緊張でほとんど寝られなかったので、その分ものすごい時間をかけて、身支度をしてきた。これからの私の人生が今日決まるのだから。
『コンコンっ』
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「昨日は眠れませんでした。アヤさんの事ばかり考えていたんです。」
「……わたしもです。いろんなことを考えていました。」
ギルさんのこと、仕事のこと、千春のこと、これからのこと、考えても考えても、どうしようもないことは分かっていたけれど考えずにはいられなかった。あぁ、私は自分が思っている以上に自分の人生が、生活が気に入っていたのだと気づいた。それでも、私は………。
「ギルさん」
彼の目を見つめ、はっきりと伝える。
「私はギルさんが好きです。一緒にいた時間は多くはないですが、気持ちは変わりません。こんなわたしで良かったら、結婚していただけませんか?」
そういって小さく頭を下げた。
なにも言葉が返ってこないので、おそるおそる顔をあげると、すぐそこに彼の顔があり、唇を塞がれ、ソファに押し倒された。甘いキス、彼の手が私の身体をゆっくりと撫でていく。それだけで身体の奥が疼いてしまう。唇を離すと、そのまま耳から首筋、ワンピースの開いた胸元にゆっくりとキスをされた。
「アヤさん、これから何があっても貴方を守り、永遠に愛します。どうかずっと側にいてください。」
そのまま唇を塞がれた。嬉しさで自然と涙が溢れた。
どれくらいそうしていただろう。ドアのノックの音で私たちは慌てて起き上がった。
「このままだと、自分を抑えられる自信がありません。まだ今は貴女を抱けない。」
「?それは、ギルさんが魔王であることと関係があるんですか?」
「そのことも含めて、これからのことを話しましょう。」
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ドアの外に声をかけると、2人が部屋に戻ってきた。
「喜んでくれ、彼女が私のプロポーズを受けてくれた。」
2人の顔は、対照的なものだった。
「はぁ……正直言って、最悪の選択です。」
「やったな!これでこのくだらない嫁探しから解放される!」
言うまでもないが、前者が田中さん、後者が佐々木さんだ。
「じゃあ、この社長ごっこも終わりでいいな。改めて、佐々木こと、サッシャ・ケーマンだ。これからよろしく頼む。」
言うやいなや目を閉じ、体をぶるぶると震わせる。すると頭から犬のような耳が生え、腰の辺りから尻尾が生えた。
「俺は狼の獣人だ、ギルとは幼なじみで、まぁボディーガードみたいなもんだな。」
そういって佐々木さん改め、サッシャさんは不敵に笑った。明るい茶色の毛並み?切れ長な目と鋭い牙。狼と言われたらたしかにそうかも。
「こっちの田中は本名だ、田中いつき。死霊だから見た目は変わらない。こいつも幼なじみで魔王付きの秘書。」
獣人に死霊?私の頭はついていけるだろうか。すると、ギルさんが私の腰に手を回し、ぐっと体を引き寄せた。
「まずは我々の住む魔界について、説明しますね。分からないことがあればなんでも聞いてください。
魔界は主に3つの国から成り立っています。私の住む城がある、魔人たちの暮らす国アルデバラン、サッシャのような獣人の暮らす国ビスティア、田中と同じ死霊が住む国ゴシカ。ビスティアとゴシカにはそれぞれ宰相がいます。こちらでいう総理大臣みたいなものでしょうか。そして、それら3つの国をまとめるのが魔王である私の仕事です。」
改めてギルさんが魔王なのだと実感する。私はすごい人のプロポーズを受けてしまったのかも。
「魔人とは、私のように黒い翼と尖った耳を持つ者のことを言います。人間界では悪魔と呼ばれることが多いですね。獣人はサッシャを見ればわかる通り、獣の耳と尻尾を持つ者たちです。あとは死霊ですが…これは少し説明が難しいですね。」
「?幽霊とは違うんですか?」
すると田中さんに鼻で笑われた。
「ふんっ。あんなものと一緒にしないでいただきたい。あれは人間が作った想像の産物です。」
そうは言っても、ちがいが分からない。
「アヤさんのいう幽霊とは、死んだ人間が愛しい人に会いに来たり、逆に恨みを持つ人を呪ったり、そういうイメージでしょうか。残念ながら、そのような幽霊は存在しません。生き物の魂は死ぬと必ず輪廻の輪に戻ります。そこで生まれ変わりを待つのです。例外はありません。しかし、時に強い想いを持ちながら死ぬと、魂からその強い想いだけが離れ、意思を持つことがあります。それが死霊です。彼らは人間界にいると実体を持ちませんが、魔界に入れば体を持つことができます。その体を持った死霊たちの国がゴシカです。」
分かったような分からないような。
「実際に彼らに会えば、よく分かると思いますよ。」
そう言われて、田中さんをじっと見つめる。黒髪黒目、白い肌。見た目はまったく人間と変わらないようにみえる。
「我々魔界の住人は、人間界ではこうして擬態しています。そうして人間に紛れて生活しているものも多くいます。」
「どうして人間界にいるのですか?」
「それは私たちの魔力に関係があります。」
「魔力?」
そこでギルさんは言いにくそうに口ごもった。
「ははっ、堅物のギルには言いにくいか!いまさら恥ずかしがることじゃねーだろ。
俺ら魔界のやつらは、生きるのに魔力ってのがいる。魔界の空気には魔力が含まれていて、だいたいのやつは魔界にいるだけで魔力に困ることはない。でも、それだけじゃ足りないやつらもいる。魔力が生まれつき強いやつや、獣の力、死霊の力が他のやつより強いやつとかな。そういうやつは魔力を補給するために人間界に来る。」
魔力の補給?どういう意味だろう。
「人間は魔力なんて持ってない。でもそのかわりに持ってるもんがある、欲だ。」
「欲?欲望の欲ですか?」
「そうだ、その欲を俺たちは体内に取り込んで魔力に変える。そいつは魔界で感じる魔力の数倍の強さを持つんだよ。人間界に来るやつはそいつの魅力に取りつかれてるやつらさ。」
欲を身体に取り込む……それってつまり。
「気づいたか?そうだ、簡単に言えば人間とセックスして、俺らは魔力を得る。性欲はだいたいのやつが持ってる強い欲だからな。」
サッシャさんは言いながら、私の体を見つめている。目が笑ってない。
「サッシャ。彼女に手を出したら、お前でも容赦しない。」
ギルさんが睨み付けると、ひらひらと手をあげ、降参のポーズを見せる。
「冗談だよ。俺はそこまでバカじゃねー。
でも、この魔力については例外がある。あんたの隣にいるギルがその筆頭だ。」
私はギルさんの顔をみた。彼は困ったように笑う。
「ギルは生まれつき、魔力の強さが半端じゃなかった。子どもの頃はまだマシだったが、成人したらもうダメだ。魔界にいるだけじゃまったく足りなくなった。で、人間界に来たがそれもダメだった。」
「ダメだった?どういうことですか?」
「人間から魔力を得ても、それでも足りなかった。逆に相手から欲を奪いすぎて、廃人にしかけたこともある。」
驚いて、ギルさんの顔を覗きこんだ。彼は悲しげな顔で私に触れる手に力をこめる。
「お伝えできなくて、すみません。」
あの夜、ギルさんが私を拒んだ理由が分かった。私を傷つけないようにしてくれていたのだ。今更ながらなんて軽率なことをしてしまったのだろう。
「あの、私のほうこそ、あの日…」
言いかけた私に彼はそっとキスをする。
「アヤさんが謝ることは何もありません。全て私が望んだことですから。」
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