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1章 春嬢編
第一話
第一話
「…5、6、7……!よしっ今日も稼いだ!」
この辺りの春嬢の相場はだいたい金貨3枚から5枚。私は一晩金貨10枚。金貨一枚、一万円くらいだとして一回十万円。
正直、私としてはもっと安くてもいいと思ってる。さすがに高すぎてぼったくりみたいだし。しかし、娼館の主である女将はこの金額から下げるつもりはないみたいだ。
実際お客さんはこの金額でも来てくれるので、すごくありがたい。その分たくさんサービスすればいいだけだしね。
このトリスト王国にやってきて、そろそろ半年になる。まさか異世界にきても自分が風俗嬢をするとは思ってもみなかった。
田崎真理亜、24歳。日本で風俗嬢をしながら、いつか自分の店を持つために日々勉強をしていた。そんな矢先、交通事故に巻き込まれあっけなく死亡。
かと思いきや、なぜか異世界に飛ばされて風俗嬢をしているから人生ってよく分からない。
「それにしても…疲れたー。」
半年前、突然異世界で目覚めた私は右も左も分からずただただ生きるのに必死だった。私みたいな奴を住み込みで働かせてくれるところは全然無くて、結局日本でやっていた風俗嬢をここでもやっている。
女性は淑やかであれ。それが美徳とされるこの国でまさか自分みたいな春嬢が受け入れられるとは。
一晩でお客さんは2人か3人。私の取り分は売上の半分。できるだけ節約だ。なんの取り柄もない、頼る人もいないこの世界で稼げるときに稼いでおかないと何があるか分からない。
「マリアー?入ってもいい?」
「どうぞぉ。」
娼館は二階建て。一階で客は春嬢を選び、二階にある個室で夜を過ごす。私の部屋は二階の角部屋。この娼館で一番広い部屋だ。ベッドとソファくらいしかないけど。
赤い髪を一つに束ねた彼女は、同僚のリリス。背が高く人目を引く美女。
「相変わらず、すごい人気ね。女将も機嫌良くて助かるわ。」
この娼館の主をみんな女将と呼んでいる。リリス曰く、私がここに来てから女将の機嫌が良くて羽振りも良いらしい。
「私にはいつも不機嫌そうに見えるけど。」
「前はもっと凄かったのよ。マリアには感謝してるわ。」
女将はいつも口をへの字に曲げて、客を睨み付けている。
「ねぇマリア、このあと皆で呑みに行くんだけど一緒にどう?」
「うーん…やめとく。すっごい眠いし、私が行くと変な空気になっちゃう。」
リリスは首をかしげ、困ったように笑った。ここで私に優しく声をかけてくれるのは彼女くらいしかいない。
「別にマリアは悪いことしてるわけじゃないし、気にしなくていいと思うよ?」
女性は淑やかであれという教えは、この国の女性のなかに深く根強いている。それは春嬢であっても例外ではなかった。たとえ春を売っていても、女性は淑やかに。
そんな世界で、私みたいな女は受け入れられないみたいだ。客を取るためになんでもする女だと、陰口を言われていることはよく知っている。
「ありがとうリリス。でもやめとく。本当に眠いの。」
私の常識とこの世界の常識は違う。それはこの半年で嫌というほどわかった。
「また誘うわ。おやすみ。」
何度断っても、リリスは声をかけてくれる。それだけで私は嬉しかった。
* * *
その日は、店が開いた午後6時からすぐにお客さんがやってきた。一人目は常連さんで、私がここにきてすぐに指名してくれた人。
この世界では避妊のために魔法具と呼ばれる道具を使う。
この娼館では春嬢は避妊用のネックレスを付けて客を取る。そうすれば、避妊だけでなく感染症も防げるそうだ。とても便利。
「今日もありがとう、マリアちゃん。君のおかげでまた仕事頑張れるよ。」
たとえこの国の教えに反しても、お客さんに喜んでもらえたら嬉しい。常連さんを笑顔で見送った。
問題はそのすぐ後に起きた。
「おい!さっさと出せ!いるんだろ、噂の春嬢が!」
娼館の入り口からそんな大声が聞こえたのは、そろそろ日付が変わろうとする頃だった。
「金ならあるぞ!」
大声をあげながらその大男は金貨をバラまいている。どうやらひどく酔っぱらっているようだ。
「お客様、いま……。」
「早くマリアって女を呼んでこい!いつまで待たせる気だ!」
案内係の侍女を突き飛ばし、男は暴れ始めた。もう我慢できない。早足に階段を降りた。
「やめてください!マリアは私です!」
倒れ込んだ女の子を助け起こすと、額から血を流している。
「ほぉお、お前が噂の春嬢か。たしかに良いからだをしているなぁ。」
舐めまわすような視線。どんな客にも丁寧に接することを心がけてはいるが、目の前の男とは関わりたくなかった。
「お前を買ってやるよ。拾え、お前の代金だ。」
床に散らばった金貨を指差し、嫌らしく男は笑った。
「おい、さっさとしろ。時間がなくなるだろ。」
「……嫌です。」
男の顔色がみるみる赤くなっていく。
「なんだと?」
「嫌です!貴方のような人のお相手はできません!」
その瞬間、男が腕を振り上げ飛びかかってきた。侍女を庇い、目をつむる。
・・・・・・?
何も起こらない?
おそるおそる目を開けると、今さっきまで赤い顔をしていた男が床に倒れて白目を剥いていた。
男の立っていた場所には、どこから現れたのか見知らぬ男がいる。
その人の格好がまた変わっていた。頭から被った長いローブは膝下までを隠し、かろうじて見える顔にも真っ白な面を被っている。
暴力男をこの人が倒してくれたのか。しかし、新しく現れた男の格好に皆どうしたらいいか分からなかった。
「ここにこの国で一番の春嬢がいると聞いてきたんだが。」
私にとって今日は厄日なのかもしれない。どうして今日に限ってこんな客が続くんだろう。
しぶしぶ名乗り出ると、仮面に開いた穴の奥。青色の瞳と目が合った。
「あんたを買いたい。」
「…5、6、7……!よしっ今日も稼いだ!」
この辺りの春嬢の相場はだいたい金貨3枚から5枚。私は一晩金貨10枚。金貨一枚、一万円くらいだとして一回十万円。
正直、私としてはもっと安くてもいいと思ってる。さすがに高すぎてぼったくりみたいだし。しかし、娼館の主である女将はこの金額から下げるつもりはないみたいだ。
実際お客さんはこの金額でも来てくれるので、すごくありがたい。その分たくさんサービスすればいいだけだしね。
このトリスト王国にやってきて、そろそろ半年になる。まさか異世界にきても自分が風俗嬢をするとは思ってもみなかった。
田崎真理亜、24歳。日本で風俗嬢をしながら、いつか自分の店を持つために日々勉強をしていた。そんな矢先、交通事故に巻き込まれあっけなく死亡。
かと思いきや、なぜか異世界に飛ばされて風俗嬢をしているから人生ってよく分からない。
「それにしても…疲れたー。」
半年前、突然異世界で目覚めた私は右も左も分からずただただ生きるのに必死だった。私みたいな奴を住み込みで働かせてくれるところは全然無くて、結局日本でやっていた風俗嬢をここでもやっている。
女性は淑やかであれ。それが美徳とされるこの国でまさか自分みたいな春嬢が受け入れられるとは。
一晩でお客さんは2人か3人。私の取り分は売上の半分。できるだけ節約だ。なんの取り柄もない、頼る人もいないこの世界で稼げるときに稼いでおかないと何があるか分からない。
「マリアー?入ってもいい?」
「どうぞぉ。」
娼館は二階建て。一階で客は春嬢を選び、二階にある個室で夜を過ごす。私の部屋は二階の角部屋。この娼館で一番広い部屋だ。ベッドとソファくらいしかないけど。
赤い髪を一つに束ねた彼女は、同僚のリリス。背が高く人目を引く美女。
「相変わらず、すごい人気ね。女将も機嫌良くて助かるわ。」
この娼館の主をみんな女将と呼んでいる。リリス曰く、私がここに来てから女将の機嫌が良くて羽振りも良いらしい。
「私にはいつも不機嫌そうに見えるけど。」
「前はもっと凄かったのよ。マリアには感謝してるわ。」
女将はいつも口をへの字に曲げて、客を睨み付けている。
「ねぇマリア、このあと皆で呑みに行くんだけど一緒にどう?」
「うーん…やめとく。すっごい眠いし、私が行くと変な空気になっちゃう。」
リリスは首をかしげ、困ったように笑った。ここで私に優しく声をかけてくれるのは彼女くらいしかいない。
「別にマリアは悪いことしてるわけじゃないし、気にしなくていいと思うよ?」
女性は淑やかであれという教えは、この国の女性のなかに深く根強いている。それは春嬢であっても例外ではなかった。たとえ春を売っていても、女性は淑やかに。
そんな世界で、私みたいな女は受け入れられないみたいだ。客を取るためになんでもする女だと、陰口を言われていることはよく知っている。
「ありがとうリリス。でもやめとく。本当に眠いの。」
私の常識とこの世界の常識は違う。それはこの半年で嫌というほどわかった。
「また誘うわ。おやすみ。」
何度断っても、リリスは声をかけてくれる。それだけで私は嬉しかった。
* * *
その日は、店が開いた午後6時からすぐにお客さんがやってきた。一人目は常連さんで、私がここにきてすぐに指名してくれた人。
この世界では避妊のために魔法具と呼ばれる道具を使う。
この娼館では春嬢は避妊用のネックレスを付けて客を取る。そうすれば、避妊だけでなく感染症も防げるそうだ。とても便利。
「今日もありがとう、マリアちゃん。君のおかげでまた仕事頑張れるよ。」
たとえこの国の教えに反しても、お客さんに喜んでもらえたら嬉しい。常連さんを笑顔で見送った。
問題はそのすぐ後に起きた。
「おい!さっさと出せ!いるんだろ、噂の春嬢が!」
娼館の入り口からそんな大声が聞こえたのは、そろそろ日付が変わろうとする頃だった。
「金ならあるぞ!」
大声をあげながらその大男は金貨をバラまいている。どうやらひどく酔っぱらっているようだ。
「お客様、いま……。」
「早くマリアって女を呼んでこい!いつまで待たせる気だ!」
案内係の侍女を突き飛ばし、男は暴れ始めた。もう我慢できない。早足に階段を降りた。
「やめてください!マリアは私です!」
倒れ込んだ女の子を助け起こすと、額から血を流している。
「ほぉお、お前が噂の春嬢か。たしかに良いからだをしているなぁ。」
舐めまわすような視線。どんな客にも丁寧に接することを心がけてはいるが、目の前の男とは関わりたくなかった。
「お前を買ってやるよ。拾え、お前の代金だ。」
床に散らばった金貨を指差し、嫌らしく男は笑った。
「おい、さっさとしろ。時間がなくなるだろ。」
「……嫌です。」
男の顔色がみるみる赤くなっていく。
「なんだと?」
「嫌です!貴方のような人のお相手はできません!」
その瞬間、男が腕を振り上げ飛びかかってきた。侍女を庇い、目をつむる。
・・・・・・?
何も起こらない?
おそるおそる目を開けると、今さっきまで赤い顔をしていた男が床に倒れて白目を剥いていた。
男の立っていた場所には、どこから現れたのか見知らぬ男がいる。
その人の格好がまた変わっていた。頭から被った長いローブは膝下までを隠し、かろうじて見える顔にも真っ白な面を被っている。
暴力男をこの人が倒してくれたのか。しかし、新しく現れた男の格好に皆どうしたらいいか分からなかった。
「ここにこの国で一番の春嬢がいると聞いてきたんだが。」
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