【R18】閨の指導を異世界で~風俗嬢は王子様の教育係(夜)になりました~

塔野明里

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1章 春嬢編

第二話

 第二話

 「先ほどはありがとうございました。」

 私の部屋に案内しても、男はフードを目深に被ったまま。仮面を取る気配もない。

「問題ない。」

 口数も少ないし、一体何者なんだろう。普段はあまりお客さんのことを聞いたりはしないけど、さすがにこの格好は気になる。

「あの…上着預かりますか?」

「あっ…ああ、そうだな。」

 ローブを脱ぐと、鮮やかなオレンジ色の髪がのぞいた。少し癖のある髪を右側だけ刈り上げた髪型は日本の不良みたいだ。

 思っていたより若いかもしれない。背は高いし体もガッチリしているけど、なんとなく私より年下に見えた。

「それは取らないんですか?」

「これは取りたくない。問題あるか?」

 真っ白な仮面は少し不気味だった。しかし、それほどまで仮面を取りたくないのにはなにか理由があるんだろう。

「大丈夫ですよ。キスはできませんけどいいですか?」

「きっ!?」

 途端、男の仮面の横にのぞく耳と首もとが真っ赤になった。

「…キスしたいですか?」

「しっ、はぁっ?いや、した……まっ!?」

 思っていた以上の反応に私も驚いてしまう。しかし、その赤い耳につい吹き出してしまった。

「ふふっ、ごめんなさい。まさかそんなに赤くなるなんてっ。ふふふ。もっとすごいことしにきたんじゃないんですか?」

 仮面を両手で押さえ、男はソファに座り込んだ。

「噂は本当なんだな。そんなことを言う女は初めてだ。」

 この娼館で働き始めてすぐ、下ネタのような際どい話をするとお客さんに驚かれた。ベッドの中だけでなく、この国の女性は淑やかだ。

「嫌ですか?不快に思われたならやめます。」

 ワイングラスを手に彼の横に腰掛けると、青い瞳がこちらを見つめていた。

「嫌なわけじゃない……。驚いただけだ。」

 赤ワインを注ぐと、仮面の下で器用に飲み干した。

「ひとつ聞いてもいいか?」

 さっきの名残か赤ワインのせいか、彼の耳はまだ赤い。

「なんでしょうか?」

「なんで春嬢をしてるんだ?」

 本当によく聞かれる質問だった。この世界に来てからは特に。誤魔化すこともできるけど、なんとなく彼には嘘が見抜かれそうな雰囲気だ。

「ものすごく正直に言えば、やっぱりお金ですかね。いつか自分の店を持ちたいんです。」

「店?」

「はい、私は家族もいなくて。今のうちにたくさん稼いで自分のお店を持って、自活できるようになりたいです。」

 日本に帰りたいと思ったこともある。でも私の記憶では交通事故で死んだことは確かで、ここに来た理由も方法も分からないのに帰る方法が分かるはずもなかった。

「なんの店をやりたいんだ?」

「そうですねぇ。小さい頃はお花屋さんになりたかったし、その後はお菓子屋さんにも憧れました。いまは宿屋とか酒場もいいかなぁなんて思ってます。」

「なんだそれ、決まってないってことじゃんか。」

 仮面の奥の目が細められる。初めて笑ってくれた。

「申し遅れました。マリアと言います。なんてお呼びしたらいいですか?」

「ケイン。ケインと呼んでくれ。敬語も敬称もいらない。」

 一瞬の間があった。きっと偽名。よく見ると服も高価な物だし、位の高い貴族か何かだろうか。

「ケインはどうしてここに来たの?」

 見た目は怪しいけど悪い人ではなさそうだし、私も答えたのだからこのくらいは許されるだろう。

「噂を聞いた。珍しい春嬢がいるって…。」

「えっ、それだけ?」

 さっきまでの笑顔は消え、なにやら俯いてしまった。

「噂ってどんな噂なの?」

 するとまた彼の耳は真っ赤に染まった。

「珍しい黒髪黒目の女で、驚くほど積極的でサービスが良いって。それで……。」

「それで?」

「すげー気持ちいいって。ここに来れば天国が見れるらしい。」

 ・・・・・?

 ふふっ、ダメだ。笑っちゃいけない。普段自分がなんて言われてるかなんて気にしてもいなかった。まさかそんな…。

「ふふっ、ごめんなさい。ふふふ。」

「俺が言ったんじゃないからな!」

「でも、天国って…、おかしくって。」

 自分の接客が物珍しいだけだと思っていた。お客さんたちがそんな風に思ってくれていたなんて。嬉しいけど、ものすごく恥ずかしい。

「ケインも天国を見に来たの?ふふっ。」

 自分で言ってまた笑ってしまう。

「お前笑いすぎだろ。」

「ごめんなさいっ…、本当に知らなくて。」

 休みの日もここからほとんど出ない私には噂話なんて聞く機会がない。リリスは知っているんだろうか。今度聞いてみよう。
 両手で頬をぺちぺちと叩き、無理やり真顔に戻した。

「本当にそれだけのために来たの?」

 青い瞳が迷うように揺れた。踏み込みすぎてしまっただろうか。

「ごめんなさい。言いたくないならいいの。無理に聞きたいわけじゃ……。」

「教えてほしいんだ。」

 真っ直ぐに見つめられた瞳はとても真剣だった。こんな場所には相応しくないくらい綺麗な瞳。

「女のことを俺に教えてほしい。なにをしたら悦ぶのか、全部。教えてくれ。」

 白い仮面も素顔を見せないこともこんなにも怪しいのに、どうして私は彼の願いを叶えてあげたいなんて思ったのだろう。


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