【R18】閨の指導を異世界で~風俗嬢は王子様の教育係(夜)になりました~

塔野明里

文字の大きさ
7 / 41
1章 春嬢編

第六話

 第六話

 「この国が祀る神が女神アルチェであることはご存知ですか?」

「はい、知っています。」

 女神アルチェ。愛と豊穣の女神で彼女の貞淑さからこの国の女性の習わしが始まったと言われているそうだ。

「実は女神アルチェには妹がいたんです。」

「妹ですか?」

 そんな話は聞いたことがなかった。しかも、妹が『いた』とはどういう意味だろう。

「名前はアーリ。彼女の神話は何百年か昔、歴史から消されてしまいました。」

 神様の歴史が消される。そんな大切なこと、どうして誰も知らないんだろう。

「アーリはとても恋多き女神で沢山の男神と恋をしました。そして最後に姉であるアルチェの夫にまで恋をしてしまうんです。」

 それはまたすごい女神だ。日本の神様やギリシャ神話なんかも意外とそういうドロドロした話が多かった気がする。

「しかしアーリの誘惑にも負けず、アルチェとアルチェの夫は愛を貫きました。その失恋でアーリは神をやめ、人間になったと言われています。」

 女神としてはどうかと思うけど、それだけならよくある神話に聞こえる。

「なぜアーリは歴史から消されてしまったのですか?」

「もう今は燃やされてしまって残っていませんが、その頃アーリの美しい姿絵が流行ったそうなんです。」

 姿絵?グラビアみたいなものかな。

「それのせいで国民たちの間で浮気や不倫が大流行してしまったらしいのです。美しいアーリの生き方に憧れる者が大勢いたそうです。」

「え?!」

「今では考えられませんが、そのせいでアーリの歴史は消されアルチェの貞淑を見習おうという訓示が生まれたのですよ。」

 あの習わしにそんな裏話があったなんて。

「しかし今ではそんな歴史は忘れられてしまった。習わしだけが根深く残り、女性たちはそれを頑なに守り続けているのです。」

 国王陛下の言い方では、まるでそのことを良く思っていないみたいだ。

「この習わしは我がトリスト王国にしかありません。習わしができた頃は他国との交流があまりなく人々の往来があまりなかった時代でしたからそれでも困りませんでした。」

 そうか習わしはこの国だけのものなんだ。だったら私は他国に行けば普通の春嬢として働けるのかな。

 顔を上げると陛下が私の顔を見つめていた。心のなかを見透かされているような気がする。

「しかし、これからはそうはいきません。他国との交流も増え、移民も増えています。他国の者との婚姻もどんどん増えていくでしょう。」

 話が大きくなってきた。それを私に聞かせるのは何故?

「私には2人の愚息がいます。長男は今隣国へ留学に行かせているのですが、この習わしのためにとても苦労をしているようなのです。主に恋愛関係で。」

 第一王子の名前は…たしかアルセイン様。王子様もそんなことで苦労したりするのか。

「長男はそろそろ帰都する予定です。心配ではありますが、まぁなんとかなるでしょう。」

 たしか誰かが来月アルセイン様のための祭りがあるって言ってた。留学から帰ってくるのをお祝いする祭りなんだ。

「私の心配は次男の方なのです。ついこの間成人したばかりなのですが…。そもそも恋愛ごとには疎くて。小さい頃から剣術や馬術ばかりやっていたせいか、とにかくガサツなんです。」

 第二王子…名前は…なんだっけ。

「お待ちください!いま陛下は来客中です!」

 そのときドアの向こうからなにやら言い争う声が聞こえてきた。バタバタと人の気配がする。

「そこをどけ!クソ親父に会わせろ!」

 なんだろう、この声。聞き覚えがある気がする。

「噂をすればですね。マリアさん今日貴女をお呼びしたのは、どうか私の願いを聞いていただきたいからなんです。」

「えっ…あの、私にですか?」

「はい、多分貴女にしかできないことです。」


 バンっ!!


 その時、謁見室の重そうな扉が思い切り開かれた。

「親父!なに勝手なことしてんだよ!」

 国王陛下と同じ金髪に青い瞳。背が高くガッチリした体格のその人は目元が国王陛下にそっくりだった。

「ケイニアス、来客中だと言っただろう。」

 ケイニアス・トリスト。第二王子はたしかにそんな名前だった。

 でも私はそれ以上に彼の瞳が気になった。髪の色も髪型も、まったくの別人。なのにどうしてだろう。昨日真っ白な仮面の奥で笑っていた彼の瞳にしか見えなかった。

「ケイン…?」

「おや、貴女の前ではケインと名乗ったのですか?それは愚息の幼い頃の渾名なのです。我々が呼ぶとすごく怒るのですがね。」

 するとみるみる彼の顔が真っ赤に染まった。

「なんで気づくんだよ?!」

「お前は本当に馬鹿だねぇ。春嬢には記憶力がとても大切なんだよ。マリアさんほどの売れっ子がこの美しい容姿だけでお客の人気を集めているわけないだろう。」

 豪華な玉座に頬杖をつき、国王陛下は呆れ顔だ。
 陛下は城下町の春嬢の事情にまで詳しいらしい。一国の王様とはそういうものなんだろうか。

「マリアさん、私のお願いというのはこの馬鹿息子のことなんです。」

 乱入者を完全に無視して、陛下は話の続きに戻った。

「女性になんてまるで無関心だったケイニアスがどうやら貴女の言うことなら聞きそうなんです。どうでしょう、この愚息の教育係になっていただけませんか?」

 突然の展開に頭がついていかなかった。教育係ってなに?

「別に勉強を教えてほしいわけではありません。貴女には閨の指導をしていただきたい。」

「馬鹿は親父のほうだろうが!なんだよ指導って!」

 さらに頭の中が疑問符で溢れた。

「期限は……そうですね。とりあえず来月の祭りまでの1ヶ月間でどうでしょう?報酬は貴女の一晩の値段の五倍を1ヶ月間分前金でお支払します。」

 五倍!?それだけあれば娼館の女将にお世話になった分の借金を返しても余るくらいの金額になる。

「もちろん、これはただのお願いなのでお断りいただいてもかまいません。」

 有無を言わせぬ笑顔。国王陛下の『お願い』を断れる一般人が一体どこにいるんでしょうか?

「本人抜きで話進めてんじゃねぇよ!」

「朝帰りしてから腑抜けたようにバカ面してた奴が何を言っているんだ?感謝しろ馬鹿息子。」

「馬鹿バカうるせぇ!余計なこと言うな!」


 …どうやら私、とんでもない人の初めてをもらってしまったようです。


感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。