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1章 春嬢編
第八話~ケイン~
第八話~ケイン~
「勝手なことばっかり言いやがって。」
王城の裏口から厩舎に出る。馬たちの世話係を無視して愛馬に飛び乗った。城の裏手に広がる草原に走り出る。
嫌なことがあるとすぐ馬と逃げると兄貴からよく言われていた。
「誰も世話係なんて頼んでないだろ!」
マリアの笑顔が浮かんだ。たしかにもう一度会いたいとは思った。でもこんな形を望んだわけじゃない。
* * *
女性は淑やかであれ。母親がまさにそんな人だった。国王である親父を支え、決してでしゃばらず、いつも微笑みを絶やさない。
そんな母を父は愛していたし、俺たち兄弟もなに不自由なく育てられた。
しかし、幸せは続かなかった。十年前に母が病気で死んでから、なにかが確実に変わってしまったことは確かだ。
皇后である母が死んだことで、父の元にはその後釜を狙う縁談が山のように舞い込んだ。
母の喪が明けると、今まで一緒に悲しんでいるように見えたやつらが手のひらを返して、後妻を勧めてくる。貴族令嬢から、果ては息子である俺たちと変わらない年齢の娘まで担ぎ出された。
辟易した親父は全ての縁談を断り、次いで俺たちへの縁談も全て断った。
国王がダメなら王子にと娘を差し出す貴族たち。娘を道具のように扱うやつらに、当時十歳だった俺も嫌気が差していた。
なにより、道具のように扱われても何も反抗しない女たちが嫌いだった。
昨日まで父親の後妻になるためヘラヘラしていた女が、今日は俺や兄貴に取り入ろうと作り笑いを浮かべている。その頃から、極力女と関わるのをやめた。
12歳になった俺は騎士学校に入った。幼い頃から剣術は好きだったし、騎士学校は女人禁制だ。俺には都合が良かった。
自分のやりたいことだけができる生活は楽しかった。訓練は厳しかったが、やめたいと思ったことはない。王子だからと特別扱いされることもなく、仲間もできた。それが何よりも心地良かった。
18歳で学校を卒業し、そのまま騎士として騎士団に派遣された。俺は次男だし、兄貴のほうが有能なことは誰でも知っている。このまま騎士として過ごせると思っていた。
事件が起きたのは去年の春、ちょうど一年前だ。
兄貴が突然、真実の愛を探すために留学に行くと言い出した。
まったく意味がわからない。俺と同じで兄貴も女には辟易していると思っていたし、女の気配もなかった。
しかも真実の愛を探すって何なんだよ。結婚相手を探すにしても留学する必要があるのか?
しかしそんな俺たちの疑問には答えないまま、兄貴は隣国であるアルバ公国に留学に出た。言い出してから本当にあっという間の出来事で、これには親父も俺も貴族たちも驚いた。
兄貴は俺より四歳年上で結婚適齢期だった。貴族たちは娘を次期皇后にしようと虎視眈々と狙っていたのに、兄貴がいなくなったことでその慌てようは酷いものだった。
困ったのはおれも同じだった。このまま騎士として生きていこうと思っていたのに、すぐに王城に戻され帝王学から外交まで兄貴が受けていた教育を受けさせられた。
ただ留学に行くだけ、兄貴はいずれ戻ってくる。しかし、万が一に備えるのは当然のことだと俺の自由はなくなった。
それと同時に兄貴に向かうはずだった縁談が俺にやってくるようになったことが、さらに俺を苛立たせた。
母が死んだときと同じだ。結婚相手は誰でもいいんじゃないか。兄貴が帰ってくれば、また兄貴に媚を売るんだろう。
3ヶ月前に成人の儀を終えてから、貴族からの縁談の申し込みはさらに増えていた。
マリアの噂を初めて聞いたのはちょうどその頃だった。
* * *
「すげー可愛いらしいんだよ。しかもサービスが良いって気になるだろ?」
その頃は帝王学の講義、外交のための面会、縁談相手との見合い、全てを無視して城下町に出ていた。
その日は騎士の仲間たちと会い、早く騎士団に戻りたいと愚痴をこぼしていた。
「なんの話だ?」
「春嬢だよ!すげー可愛いうえに積極的で、淑やかさなんてお構い無しなんだってよ!」
女の話題に顔をしかめた。連日の見合い、淑やかさなのか知らないが自分の本心もしゃべらない女たち。金を出して女を買うなんて信じられない。
「だから!そこらへん女とは全然違うんだって!話も面白いらしいし、こういう下品な話もしてくれるって聞いたぞ。」
「女がか?そんなのただの噂だろ?」
「一晩金貨10枚だぞ?簡単に会って確かめられるわけないだろ。」
一晩で金貨10枚。たった一人の女にずいぶん強気な値段だ。それでも客は後を絶たないらしい。
「お前はいいよ。女なんて選び放題だろ?羨ましい。」
俺は女と付き合ったことも、コイツらのいうような経験もまったくない。興味がないと言えば嘘になるが、女への拒否感のほうが強かった。
「顔色窺ってばかりの女なんて興味ない。」
もしその女が噂通りなら面白いかもな。最初はそんな興味だった。
* * *
兄貴が帰都する日が決まった。どうやら真実の愛は見つからなかったらしい。
やっと帰ってくる第一王子のため、首都では祭りが行われることになった。
「アルセインが帰ってきたら、すぐに婚約者を決める。その次はお前だ。」
親父の決定に、貴族たちは歓喜の声をあげた。
「俺は関係ないだろ!兄貴が戻れば後継者は兄貴だ!俺は騎士団に戻る。」
「騎士団に戻るのはかまわん。しかし、婚約者は決めてもらう。アルセインのように突然いなくなられては堪らないからな。」
婚約者は人質か?俺たちが勝手に国を出たりしないための道具なのか?
「見損なった。親父も結局アイツらと同じなのかよ。」
そのまま城を飛び出し歓楽街に向かった。道具のような女を抱くくらいなら、噂の女に会ってみようと思った。
実際に会った彼女は噂以上の女だった。飾り気のない笑顔が心地よくて、ずっと話していたかった。
まさかその初めての夜を、父親に知られているとは思ってもみなかった。
「勝手なことばっかり言いやがって。」
王城の裏口から厩舎に出る。馬たちの世話係を無視して愛馬に飛び乗った。城の裏手に広がる草原に走り出る。
嫌なことがあるとすぐ馬と逃げると兄貴からよく言われていた。
「誰も世話係なんて頼んでないだろ!」
マリアの笑顔が浮かんだ。たしかにもう一度会いたいとは思った。でもこんな形を望んだわけじゃない。
* * *
女性は淑やかであれ。母親がまさにそんな人だった。国王である親父を支え、決してでしゃばらず、いつも微笑みを絶やさない。
そんな母を父は愛していたし、俺たち兄弟もなに不自由なく育てられた。
しかし、幸せは続かなかった。十年前に母が病気で死んでから、なにかが確実に変わってしまったことは確かだ。
皇后である母が死んだことで、父の元にはその後釜を狙う縁談が山のように舞い込んだ。
母の喪が明けると、今まで一緒に悲しんでいるように見えたやつらが手のひらを返して、後妻を勧めてくる。貴族令嬢から、果ては息子である俺たちと変わらない年齢の娘まで担ぎ出された。
辟易した親父は全ての縁談を断り、次いで俺たちへの縁談も全て断った。
国王がダメなら王子にと娘を差し出す貴族たち。娘を道具のように扱うやつらに、当時十歳だった俺も嫌気が差していた。
なにより、道具のように扱われても何も反抗しない女たちが嫌いだった。
昨日まで父親の後妻になるためヘラヘラしていた女が、今日は俺や兄貴に取り入ろうと作り笑いを浮かべている。その頃から、極力女と関わるのをやめた。
12歳になった俺は騎士学校に入った。幼い頃から剣術は好きだったし、騎士学校は女人禁制だ。俺には都合が良かった。
自分のやりたいことだけができる生活は楽しかった。訓練は厳しかったが、やめたいと思ったことはない。王子だからと特別扱いされることもなく、仲間もできた。それが何よりも心地良かった。
18歳で学校を卒業し、そのまま騎士として騎士団に派遣された。俺は次男だし、兄貴のほうが有能なことは誰でも知っている。このまま騎士として過ごせると思っていた。
事件が起きたのは去年の春、ちょうど一年前だ。
兄貴が突然、真実の愛を探すために留学に行くと言い出した。
まったく意味がわからない。俺と同じで兄貴も女には辟易していると思っていたし、女の気配もなかった。
しかも真実の愛を探すって何なんだよ。結婚相手を探すにしても留学する必要があるのか?
しかしそんな俺たちの疑問には答えないまま、兄貴は隣国であるアルバ公国に留学に出た。言い出してから本当にあっという間の出来事で、これには親父も俺も貴族たちも驚いた。
兄貴は俺より四歳年上で結婚適齢期だった。貴族たちは娘を次期皇后にしようと虎視眈々と狙っていたのに、兄貴がいなくなったことでその慌てようは酷いものだった。
困ったのはおれも同じだった。このまま騎士として生きていこうと思っていたのに、すぐに王城に戻され帝王学から外交まで兄貴が受けていた教育を受けさせられた。
ただ留学に行くだけ、兄貴はいずれ戻ってくる。しかし、万が一に備えるのは当然のことだと俺の自由はなくなった。
それと同時に兄貴に向かうはずだった縁談が俺にやってくるようになったことが、さらに俺を苛立たせた。
母が死んだときと同じだ。結婚相手は誰でもいいんじゃないか。兄貴が帰ってくれば、また兄貴に媚を売るんだろう。
3ヶ月前に成人の儀を終えてから、貴族からの縁談の申し込みはさらに増えていた。
マリアの噂を初めて聞いたのはちょうどその頃だった。
* * *
「すげー可愛いらしいんだよ。しかもサービスが良いって気になるだろ?」
その頃は帝王学の講義、外交のための面会、縁談相手との見合い、全てを無視して城下町に出ていた。
その日は騎士の仲間たちと会い、早く騎士団に戻りたいと愚痴をこぼしていた。
「なんの話だ?」
「春嬢だよ!すげー可愛いうえに積極的で、淑やかさなんてお構い無しなんだってよ!」
女の話題に顔をしかめた。連日の見合い、淑やかさなのか知らないが自分の本心もしゃべらない女たち。金を出して女を買うなんて信じられない。
「だから!そこらへん女とは全然違うんだって!話も面白いらしいし、こういう下品な話もしてくれるって聞いたぞ。」
「女がか?そんなのただの噂だろ?」
「一晩金貨10枚だぞ?簡単に会って確かめられるわけないだろ。」
一晩で金貨10枚。たった一人の女にずいぶん強気な値段だ。それでも客は後を絶たないらしい。
「お前はいいよ。女なんて選び放題だろ?羨ましい。」
俺は女と付き合ったことも、コイツらのいうような経験もまったくない。興味がないと言えば嘘になるが、女への拒否感のほうが強かった。
「顔色窺ってばかりの女なんて興味ない。」
もしその女が噂通りなら面白いかもな。最初はそんな興味だった。
* * *
兄貴が帰都する日が決まった。どうやら真実の愛は見つからなかったらしい。
やっと帰ってくる第一王子のため、首都では祭りが行われることになった。
「アルセインが帰ってきたら、すぐに婚約者を決める。その次はお前だ。」
親父の決定に、貴族たちは歓喜の声をあげた。
「俺は関係ないだろ!兄貴が戻れば後継者は兄貴だ!俺は騎士団に戻る。」
「騎士団に戻るのはかまわん。しかし、婚約者は決めてもらう。アルセインのように突然いなくなられては堪らないからな。」
婚約者は人質か?俺たちが勝手に国を出たりしないための道具なのか?
「見損なった。親父も結局アイツらと同じなのかよ。」
そのまま城を飛び出し歓楽街に向かった。道具のような女を抱くくらいなら、噂の女に会ってみようと思った。
実際に会った彼女は噂以上の女だった。飾り気のない笑顔が心地よくて、ずっと話していたかった。
まさかその初めての夜を、父親に知られているとは思ってもみなかった。
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