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1章 春嬢編
第十一話
第十一話
「で、クリス。あれから馬鹿息子は?」
天気のいい昼下がり。国王陛下の執務室には山のように書類が積まれています。それは全て第一王子アルセイン様への縁談の申し込みです。
第一王子の帰都が決まったらすぐこの状態。国王陛下をはじめ王子たちまでも貴族たちに嫌気が差すのも頷けます。
「はい、あの日から一週間。毎晩マリア様の元へ通われています。」
一瞬、陛下の手が止まりました。
「毎晩?」
「はい、毎晩欠かさずです。」
あんなに意地になっていたのは何だったのか。これも全てマリア様の手腕のおかげなんでしょうかね。
「毎晩か…。気になるな。」
「はい、ものすごく気になります。」
* * *
「お茶会ですか?」
王城にきて十日が経った日の午後。国王陛下からお茶会のお誘いがきた。
「お茶会というほど大きなものではございません。国王陛下とお茶をご一緒するだけですから。」
今朝早くケインは所属する騎士団の演習に出掛けていった。ちょうど明日まで何をして過ごそうかと思っていたところだ。
私がここにいること、何のために来ているのか。それは国王陛下、ケイン、その側近、そしてアゼルさんしか知らない。それもそうだ、私が春嬢であることを考えればおおっぴらに言えることではない。そのため日中はほとんどこの部屋から出ることができない。
「ぜひご一緒しますとお伝えください。」
アゼルさんにお願いし、私はすぐに着替えを始めた。
* * *
「お招きありがとうございます。」
そこは王城にある温室内の華々に囲まれた場所だった。薔薇のいい匂いがする。
「突然のお誘いで申し訳ない。さぁこちらへ。」
国王陛下の後ろには姿勢良く燕尾服をきた男性が立っている。
「初めまして、クリストファー・アグニスと申します。陛下とケイニアス様の執事をさせていただいております。」
「初めまして、マリアと申します。」
ダークブルーの髪を真ん中分けにした色白で背の高いクリストファーさん。ケインとはまた違うタイプの綺麗な顔をしている。
「クリストファーはアルセインやケイニアスと幼馴染みでね。アイツらのことは彼に聞くといい。」
「そうなんですか?ぜひ子どもの頃のお話を聞かせてください。」
「かしこまりました。私のことはぜひクリスとお呼びください。」
クリスさんは綺麗な手つきで紅茶を淹れ始めた。
「どうでしょう、愚息の様子は?最近は毎日のように貴女に会いにいっているようですが。」
「はい!とても元気です!私もきちんと仕事ができて良かったです。」
カシャッン。一本のティースプーンが床に落ちた。
「申し訳ございません。どうぞお気になさらずお話ください。」
クリスさんのような人でも国王陛下の前だと緊張したりするのだろうか。
「そ、それは良かった。貴女をお呼びした甲斐がありました。」
紅茶の良い香りが漂ってきた。一口飲むとふわっと広がる華やかな香り。アゼルさんの紅茶も美味しいけれど、何かコツがあるのだろうか。今度教えてもらいたい。
「マリアさん、その、初めてケイニアスと会ったときはどうでしたか?なにか粗相などはありませんでしたか?」
粗相…。仮面を被っていてだいぶ怪しかったことを除けば、特に変わったことはないと思う。
「いえ、そんなことはありませんでした。一晩の倍以上の代金をいただいてしまって驚きました。」
「ほぉ…アイツにそんな気遣いができるとは思いませんでした。」
その時、国王陛下は父親の顔で微笑んでいた。ケインは口悪く言うけど、親子の仲は悪くないように見える。
「私の方こそ王子様とは知らなくて色んなことを言ってしまって。」
「例えばどんなことを?」
若干、国王陛下が前のめりなのは気のせいかな。
「いえ、そんな大層なことではなくて。将来の夢の話とか、お金のこととかです。」
あまりに正直に話してしまって少し後悔した。そのせいで代金をたくさんくれたのかとも考えてしまったし。
「あとは…一緒にお風呂に入ったくらいで、変わったことはありません。」
・・・?一瞬空気が固まったみたい。国王陛下だけじゃなく、クリスさんまで動きが止まってしまった。
「風呂……ですか?」
「あっ狭いですけど、決して不潔とかではないです。ちゃんと掃除はしてますし…。」
「ち、ちなみに狭いというのは…。」
「二人入るのがギリギリくらいの広さです。こんなお城に住んでいるような方と…すみません。」
俯いてしまった陛下。やはりまずかっただろうか。知らなかったとはいえ、王子を娼館なんかのお風呂に入らせるなんて。
「羨ましい……。」
「…?陛下?なにか仰いましたか?やっぱりダメですよね、本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、なんでもありません。ダメだなんて決まりはありませんから、お気になさらず。」
国王陛下が優しい方で良かった。
「あの、ひとつ質問してもよろしいですか?」
「はい、なんなりとお答えしましょう。」
ずっと聞きたかったことを聞いてもいいだろうか。ケインに聞いても答えてもらえないから。
「どうして教育係が必要だったのですか?ケインに何度聞いても答えてもらえなくて。」
「あぁ、実はアルセインが帰都したあと、王子二人にはそれぞれふさわしい婚約者を決めることになっています。」
婚約者…。一瞬反応ができなかった。しかしすぐに納得した。当然だ、成人している王子に婚約者がいないほうがおかしい。
「しかしケイニアスは女性経験はおろか、女性とまともに話したこともない。このままではいけないと思い、貴女にお願いした次第です。」
「そうだったんですね。貴族のご令嬢に失礼があったら大変です!これからも頑張ります!」
必死に笑顔を作りながら、やはりケインは違う世界の人なんだと実感する。たった1ヶ月の出逢い。それ以上、決して踏み込んではいけない。
そう思うとなぜか胸が痛んだ。
「で、クリス。あれから馬鹿息子は?」
天気のいい昼下がり。国王陛下の執務室には山のように書類が積まれています。それは全て第一王子アルセイン様への縁談の申し込みです。
第一王子の帰都が決まったらすぐこの状態。国王陛下をはじめ王子たちまでも貴族たちに嫌気が差すのも頷けます。
「はい、あの日から一週間。毎晩マリア様の元へ通われています。」
一瞬、陛下の手が止まりました。
「毎晩?」
「はい、毎晩欠かさずです。」
あんなに意地になっていたのは何だったのか。これも全てマリア様の手腕のおかげなんでしょうかね。
「毎晩か…。気になるな。」
「はい、ものすごく気になります。」
* * *
「お茶会ですか?」
王城にきて十日が経った日の午後。国王陛下からお茶会のお誘いがきた。
「お茶会というほど大きなものではございません。国王陛下とお茶をご一緒するだけですから。」
今朝早くケインは所属する騎士団の演習に出掛けていった。ちょうど明日まで何をして過ごそうかと思っていたところだ。
私がここにいること、何のために来ているのか。それは国王陛下、ケイン、その側近、そしてアゼルさんしか知らない。それもそうだ、私が春嬢であることを考えればおおっぴらに言えることではない。そのため日中はほとんどこの部屋から出ることができない。
「ぜひご一緒しますとお伝えください。」
アゼルさんにお願いし、私はすぐに着替えを始めた。
* * *
「お招きありがとうございます。」
そこは王城にある温室内の華々に囲まれた場所だった。薔薇のいい匂いがする。
「突然のお誘いで申し訳ない。さぁこちらへ。」
国王陛下の後ろには姿勢良く燕尾服をきた男性が立っている。
「初めまして、クリストファー・アグニスと申します。陛下とケイニアス様の執事をさせていただいております。」
「初めまして、マリアと申します。」
ダークブルーの髪を真ん中分けにした色白で背の高いクリストファーさん。ケインとはまた違うタイプの綺麗な顔をしている。
「クリストファーはアルセインやケイニアスと幼馴染みでね。アイツらのことは彼に聞くといい。」
「そうなんですか?ぜひ子どもの頃のお話を聞かせてください。」
「かしこまりました。私のことはぜひクリスとお呼びください。」
クリスさんは綺麗な手つきで紅茶を淹れ始めた。
「どうでしょう、愚息の様子は?最近は毎日のように貴女に会いにいっているようですが。」
「はい!とても元気です!私もきちんと仕事ができて良かったです。」
カシャッン。一本のティースプーンが床に落ちた。
「申し訳ございません。どうぞお気になさらずお話ください。」
クリスさんのような人でも国王陛下の前だと緊張したりするのだろうか。
「そ、それは良かった。貴女をお呼びした甲斐がありました。」
紅茶の良い香りが漂ってきた。一口飲むとふわっと広がる華やかな香り。アゼルさんの紅茶も美味しいけれど、何かコツがあるのだろうか。今度教えてもらいたい。
「マリアさん、その、初めてケイニアスと会ったときはどうでしたか?なにか粗相などはありませんでしたか?」
粗相…。仮面を被っていてだいぶ怪しかったことを除けば、特に変わったことはないと思う。
「いえ、そんなことはありませんでした。一晩の倍以上の代金をいただいてしまって驚きました。」
「ほぉ…アイツにそんな気遣いができるとは思いませんでした。」
その時、国王陛下は父親の顔で微笑んでいた。ケインは口悪く言うけど、親子の仲は悪くないように見える。
「私の方こそ王子様とは知らなくて色んなことを言ってしまって。」
「例えばどんなことを?」
若干、国王陛下が前のめりなのは気のせいかな。
「いえ、そんな大層なことではなくて。将来の夢の話とか、お金のこととかです。」
あまりに正直に話してしまって少し後悔した。そのせいで代金をたくさんくれたのかとも考えてしまったし。
「あとは…一緒にお風呂に入ったくらいで、変わったことはありません。」
・・・?一瞬空気が固まったみたい。国王陛下だけじゃなく、クリスさんまで動きが止まってしまった。
「風呂……ですか?」
「あっ狭いですけど、決して不潔とかではないです。ちゃんと掃除はしてますし…。」
「ち、ちなみに狭いというのは…。」
「二人入るのがギリギリくらいの広さです。こんなお城に住んでいるような方と…すみません。」
俯いてしまった陛下。やはりまずかっただろうか。知らなかったとはいえ、王子を娼館なんかのお風呂に入らせるなんて。
「羨ましい……。」
「…?陛下?なにか仰いましたか?やっぱりダメですよね、本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、なんでもありません。ダメだなんて決まりはありませんから、お気になさらず。」
国王陛下が優しい方で良かった。
「あの、ひとつ質問してもよろしいですか?」
「はい、なんなりとお答えしましょう。」
ずっと聞きたかったことを聞いてもいいだろうか。ケインに聞いても答えてもらえないから。
「どうして教育係が必要だったのですか?ケインに何度聞いても答えてもらえなくて。」
「あぁ、実はアルセインが帰都したあと、王子二人にはそれぞれふさわしい婚約者を決めることになっています。」
婚約者…。一瞬反応ができなかった。しかしすぐに納得した。当然だ、成人している王子に婚約者がいないほうがおかしい。
「しかしケイニアスは女性経験はおろか、女性とまともに話したこともない。このままではいけないと思い、貴女にお願いした次第です。」
「そうだったんですね。貴族のご令嬢に失礼があったら大変です!これからも頑張ります!」
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