16 / 41
1章 春嬢編
第十五話
第十五話
第一王子帰都の祭りまであと二週間。祭りの主役であるアルセイン・トリストが王城に到着した。
王子の到着に城下町もいよいよ盛り上がり、祭りの準備が着々と進んでいる。
王城では使用人や護衛騎士が総出で王子を出迎え、城内も明るい雰囲気に包まれていた。
「アルセイン・トリストただいま帰城致しました。」
国王の執務室。母親に似た茶色い髪を短く刈り上げ、一年前よりも精悍な顔つきになって帰ってきた息子を国王陛下は満足そうに見つめていた。その横には第二王子であるケイニアスが立つ。
「よく戻った。予定より早かったな。」
「天気に恵まれ、予定よりだいぶ早く着くことができました。父上、お元気そうで何よりです。」
明るい緑色の瞳、国王や第二王子であるケイニアスよりも頭ひとつ背の高いアルセイン。その姿にはすでに次期国王の風格が備わっているように見える。
「ケイニアスも、健勝で何よりだ。」
「馬鹿な兄貴のせいでこっちはいい迷惑だ。黙って出ていきやがって。」
「お前は相変わらずだな。」
憎まれ口を叩きながら第二王子も、兄の帰還を喜んでいた。
「それで?真実の愛とやらは見つかったのか?」
からかうような国王の口調。それとは対照的にアルセインの表情は暗い。
「父上、私はこの留学で様々なことを学びました。その中でも一番驚いたのは私自身のことです。」
「ふむ?どういう意味だ?」
「ずっと疑問に思っていました。自分は他人とは違うのではないかと、その疑問の答えがようやく分かってきたのです。」
アルセインの告白に、国王も第二王子も首を傾げた。
「すまないが、もう少し分かるように話してくれないか。イマイチ理解できないのだが。」
唇を噛み締めるアルセインは、言葉を探すように黙りこんだ。
「いま…この城下町に男性たちにとても人気のある女性がいると噂を聞きました。美しくこの国の女性とは違い、とても積極的な方だと。」
思いがけない兄の言葉に息を飲んだのは、第二王子のケイニアスだった。
「その方にぜひとも一度お会いしたいのです。そうすればきっと私の悩みも……。」
「ダメだ!」
声を荒らげたのはもちろんケイニアスだ。
「ケイニアス、もう少しアルセインの話を聞け。お前は…。」
「マリアは俺の教育係だろ!たとえ兄貴でも駄目なものはダメだ!」
二人のやり取りに驚いたのはアルセインの方だ。
「たしかにその人の名はマリアだと聞いています。しかし、教育係とはどういうことですか父上?」
「はぁ…ややこしくなってきたな。説明する前にひとつ確認したい。お前は彼女に会ってどうするつもりなんだ?」
するとアルセインの顔がポッと赤くなる。
「いえ…その…できれば、あの…閨の指導を…。」
「ダメに決まってるだろう!なんだよ、真実の愛を探すとか言いながら帰ってくるなり何だそれ!絶対ダメだ!」
思いもよらない展開に国王は頭を抱えた。
「アルセイン。そのマリアという女性は今この城内にいる。ケイニアスの教育係という形で私が雇ったのだ。」
思いがけなかったのはアルセインも同じだったようだ。国王の言葉に目を白黒させている。
「まさか…そんなことが…。彼女にならどうにかしてもらえるかと思ったのですが。」
「まず、そのお前の悩みとやらを聞かせて貰えないか?それが分からないと判断ができないだろう。」
「判断ってなんだよ?!どんな理由でもダメに決まってる!」
しかしアルセインは口をつぐんだまま、話す気はないようだ。
「分かった…。とりあえず彼女に会って話してみればいい。話すだけだ。それならお前もいいだろう?」
「…話をするだけだからな!たとえ兄貴でもアイツに触ったら容赦しない。」
昨日まで彼女と喧嘩していた奴がよく言う。国王は呆れ顔だ。
「アルセイン、その悩みが解決すればお前はもう留学など言い出さないんだな?」
「はい、この国で後継者としての責務を全うするつもりです。」
その言葉に国王はため息を吐いた。
「彼女は昨日まで体調が優れずに寝込んでいたんだ。だからお前が彼女に会うのは明日にしよう。わかったな?」
「はい!」
彼女との面会が認められたアルセインは嬉しそうに頷き、反対にケイニアスは複雑な表情で兄を見つめていた。
* * *
「アルセイン様と面会ですか?」
アゼルさんから伝えられたのは明日またあの温室でアルセイン様とお茶を共にするという話だった。今回はお誘いではなく、決定事項のようだ。
「あの、それはケイニアス様の教育係ですと挨拶するということでいいんでしょうか?」
「そうだと思います。とくに陛下から伺ってはおりませんが…。」
弟であるケインの教育係です。夜のほうの。言いづらい、ものすごく言いづらい。
「アルセイン様はお優しい方ですから、心配されなくても大丈夫ですよ。」
目を赤く腫らして戻ってきた私を、アゼルさんは何も聞かずに迎えてくれた。どれだけ感謝してもしたりない。
「わかりました。心配するのはやめます!アゼルさん一緒に食べませんか?」
昼間、ケインから可愛らしいマカロンを受け取った。城下で人気の菓子店からわざわざ取り寄せてくれたそうだ。
「それはダメです。ケイニアス様がマリア様のために送られたものですから。」
この世界にきて初めて食べたマカロンは柔らかくとても甘かった。
第一王子帰都の祭りまであと二週間。祭りの主役であるアルセイン・トリストが王城に到着した。
王子の到着に城下町もいよいよ盛り上がり、祭りの準備が着々と進んでいる。
王城では使用人や護衛騎士が総出で王子を出迎え、城内も明るい雰囲気に包まれていた。
「アルセイン・トリストただいま帰城致しました。」
国王の執務室。母親に似た茶色い髪を短く刈り上げ、一年前よりも精悍な顔つきになって帰ってきた息子を国王陛下は満足そうに見つめていた。その横には第二王子であるケイニアスが立つ。
「よく戻った。予定より早かったな。」
「天気に恵まれ、予定よりだいぶ早く着くことができました。父上、お元気そうで何よりです。」
明るい緑色の瞳、国王や第二王子であるケイニアスよりも頭ひとつ背の高いアルセイン。その姿にはすでに次期国王の風格が備わっているように見える。
「ケイニアスも、健勝で何よりだ。」
「馬鹿な兄貴のせいでこっちはいい迷惑だ。黙って出ていきやがって。」
「お前は相変わらずだな。」
憎まれ口を叩きながら第二王子も、兄の帰還を喜んでいた。
「それで?真実の愛とやらは見つかったのか?」
からかうような国王の口調。それとは対照的にアルセインの表情は暗い。
「父上、私はこの留学で様々なことを学びました。その中でも一番驚いたのは私自身のことです。」
「ふむ?どういう意味だ?」
「ずっと疑問に思っていました。自分は他人とは違うのではないかと、その疑問の答えがようやく分かってきたのです。」
アルセインの告白に、国王も第二王子も首を傾げた。
「すまないが、もう少し分かるように話してくれないか。イマイチ理解できないのだが。」
唇を噛み締めるアルセインは、言葉を探すように黙りこんだ。
「いま…この城下町に男性たちにとても人気のある女性がいると噂を聞きました。美しくこの国の女性とは違い、とても積極的な方だと。」
思いがけない兄の言葉に息を飲んだのは、第二王子のケイニアスだった。
「その方にぜひとも一度お会いしたいのです。そうすればきっと私の悩みも……。」
「ダメだ!」
声を荒らげたのはもちろんケイニアスだ。
「ケイニアス、もう少しアルセインの話を聞け。お前は…。」
「マリアは俺の教育係だろ!たとえ兄貴でも駄目なものはダメだ!」
二人のやり取りに驚いたのはアルセインの方だ。
「たしかにその人の名はマリアだと聞いています。しかし、教育係とはどういうことですか父上?」
「はぁ…ややこしくなってきたな。説明する前にひとつ確認したい。お前は彼女に会ってどうするつもりなんだ?」
するとアルセインの顔がポッと赤くなる。
「いえ…その…できれば、あの…閨の指導を…。」
「ダメに決まってるだろう!なんだよ、真実の愛を探すとか言いながら帰ってくるなり何だそれ!絶対ダメだ!」
思いもよらない展開に国王は頭を抱えた。
「アルセイン。そのマリアという女性は今この城内にいる。ケイニアスの教育係という形で私が雇ったのだ。」
思いがけなかったのはアルセインも同じだったようだ。国王の言葉に目を白黒させている。
「まさか…そんなことが…。彼女にならどうにかしてもらえるかと思ったのですが。」
「まず、そのお前の悩みとやらを聞かせて貰えないか?それが分からないと判断ができないだろう。」
「判断ってなんだよ?!どんな理由でもダメに決まってる!」
しかしアルセインは口をつぐんだまま、話す気はないようだ。
「分かった…。とりあえず彼女に会って話してみればいい。話すだけだ。それならお前もいいだろう?」
「…話をするだけだからな!たとえ兄貴でもアイツに触ったら容赦しない。」
昨日まで彼女と喧嘩していた奴がよく言う。国王は呆れ顔だ。
「アルセイン、その悩みが解決すればお前はもう留学など言い出さないんだな?」
「はい、この国で後継者としての責務を全うするつもりです。」
その言葉に国王はため息を吐いた。
「彼女は昨日まで体調が優れずに寝込んでいたんだ。だからお前が彼女に会うのは明日にしよう。わかったな?」
「はい!」
彼女との面会が認められたアルセインは嬉しそうに頷き、反対にケイニアスは複雑な表情で兄を見つめていた。
* * *
「アルセイン様と面会ですか?」
アゼルさんから伝えられたのは明日またあの温室でアルセイン様とお茶を共にするという話だった。今回はお誘いではなく、決定事項のようだ。
「あの、それはケイニアス様の教育係ですと挨拶するということでいいんでしょうか?」
「そうだと思います。とくに陛下から伺ってはおりませんが…。」
弟であるケインの教育係です。夜のほうの。言いづらい、ものすごく言いづらい。
「アルセイン様はお優しい方ですから、心配されなくても大丈夫ですよ。」
目を赤く腫らして戻ってきた私を、アゼルさんは何も聞かずに迎えてくれた。どれだけ感謝してもしたりない。
「わかりました。心配するのはやめます!アゼルさん一緒に食べませんか?」
昼間、ケインから可愛らしいマカロンを受け取った。城下で人気の菓子店からわざわざ取り寄せてくれたそうだ。
「それはダメです。ケイニアス様がマリア様のために送られたものですから。」
この世界にきて初めて食べたマカロンは柔らかくとても甘かった。
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041