17 / 41
1章 春嬢編
第十六話
第十六話
「始めまして、マリアと申します。」
いつもより念入りにメイクをした私はピンク色のドレスに身を包み温室に向かった。昨日と同じテーブルで待っていたのは、驚くほど背の高い男性だった。
「アルセイン・トリストです。本日はお越しくださって本当にありがとうございます。」
茶色の髪を刈り上げ、優しく微笑む目元は優しげで緑色の瞳が印象的だ。握手を交わすその手は大きくて私の両手がスッポリと収まってしまう。
「いつまで握手してんだよ。」
なぜか同席することになったケインはものすごく不機嫌だ。三人で鮮やかなティーセットの用意がされたテーブルにつく。
「女神が現れたのかと思いました。噂以上に美しい方で驚いています。」
嫌味のないお世辞をさらっと言ってしまうところは見た目だけでなくケインとはまったく似ていないみたい。
「ありがとうございます。」
第一王子にまで届いている私の噂って一体なんなんだろう。知らないのは噂の張本人だけだ。
「ケイニアスの教育係だとお聞きしました。弟は何か失礼をしてはいませんか?」
「先日国王陛下からも同じ質問をされました。ケインはとても優しいです。」
不機嫌そうな横顔が少し赤くなった。
「羨ましいです。貴女のような方と出逢えた弟が。」
アルセイン様は誰かを思い浮かべているようだった。微笑みがとても優しい。
その言葉に私は少し胸が痛む。もう少しで私はここから居なくならないといけないのだから。
「アルセイン様も素敵な方と出逢えたのではないのですか?」
私の言葉にアルセイン様は驚いた様子だった。
「なんでそんなこと分かるんだよ。」
「女の勘…かな。」
「意味わかんねぇ。」
ケインとの軽口にアルセイン様は笑っている。
「ケイニアスをケインと呼ぶことにも驚きましたが、弟とこんなに楽しそうに話す女性は初めてです。」
面倒見のいいお兄さんの顔がのぞく。もしかしたらこういうところもお母さん似なのかもしれない。
「マリアさんの言う通りです。私はアルバ公国で素晴らしい女性と出逢いました。」
この見た目で気遣いと優しさがあってモテないわけがない。
「しかし、どうしても彼女に想いを伝える前に解決したいことがあるのです。私はそのために戻ってきました。」
俯いたその顔は真剣で、今日私が呼ばれた理由が分かった。
「私にできることなら協力させてください。」
「ダメだ!話すだけだからな!それ以上はダメだ!」
「ケインはちょっと黙ってて!」
ケインは一体何をしにきたのか。お兄さんがこんなに悩んでるのに。
「しかし、こんな話を女性にしてもいいのかどうか。」
「それは大丈夫だ。こいつに淑やかさなんてないからな。」
「もうケイン本当にうるさい!話が進まないでしょ!黙ってて!」
そういうと彼はそっぽを向いてしまった。本当に何しにきたんだろう。
「マリアさんは仮面舞踏会をご存知ですか?」
舞踏会?一般人の私には縁のない単語だ。
「すみません。なにか特別な舞踏会なのですか?」
「私もこの国を出て初めて知ったのですが。いわゆる出逢いの場といいますか…貴族同士が一夜の相手を探す舞踏会なのです。」
仮面で顔を隠し、男女で話が合えば会場に設えられた個室に消えていく。なるほど貴族たちはそうやって夜遊びするのか。
「この国にはそういう会はありません。でも私はどうしても…経験したかったのです。」
きっとそれはケインが私に会いに来たのと同じ理由。
「初めての仮面舞踏会で声をかけてくれた女性と気が合い、その人と個室に入りました。」
きっと娼館なんかとは比べられないほど豪華な部屋なんだろうな。
「そこで初めてをしようとしたのですが…。」
「…ですが?」
沈黙。ケインもお兄さんの様子を窺っている。
「は……。」
「は?」
「入らなかったんです!」
突然の告白。アルセイン様の顔は真っ赤だ。
「えっと、それは…アルセイン様のが大きくてということですか?」
「多分そうだと思います…。」
それはなかなか誰にも言えない話だな。この国では特に。
「結局その夜は出来ずに終わりました。その後も何度か試しましたがやはり同じ結果だったんです。」
そんなに…。それはちょっと辛い。大きければいいってわけではないもの。
「その後、王子として参加した夜会で知り合った女性と恋に落ちました。いずれその方をこの国に迎えたいと思っているのですが…。」
「なるほど…、それは心配ですね。」
他国の女性でも貴族令嬢となるとそういう知識は難しいかもしれない。私は一生懸命知恵を絞る。
「だからってマリアはダメだ。」
「そうだな。私が間違っていたよ。」
何やら兄弟で話しているみたい。何を話しているのか聞こえなかった。
「たとえばなんですが、道具を使ってみるのはどうでしょう?」
「ど、道具ですか?」
「はい、ローションとか…。」
兄弟揃って顔がポッと赤くなった。そこは似てるんだ。
「ば、お前…。そういうことをさらっと言うな。」
「ケインも使ってみたい?」
なぜかケインだけでなく、アルセイン様まで赤面がひどくなった。
「ケイン、お前いつもそんなことを…。」
「してない!いや、……してないわけじゃない…。」
結局仲良し兄弟だ。
「アルセイン様が心配されるのはよく分かります。失敗したことがあると尚更ですよね。
でもあまり心配しすぎなくていいと思いますよ?大切な人と少しずつ絆を深めるように体を重ねるのは女性にとっても嬉しいことですから。」
私の言葉を噛み締めるように、アルセイン様は頷いていた。
「彼女の前で恥をかきたくないという思いが強いのかもしれません。一緒にしていくことの大切さを考えたことはありませんでした。」
アルセイン様に想われる人はきっと幸せだろう。
「まず彼女に私の気持ちを正直に伝えてみようと思います。その…、夜のことも含めて。」
「きっと大丈夫だと思います。アルセイン様の優しさはしっかり伝わってきますから。」
「ありがとうございます、マリアさん。どうか弟をよろしくお願いします。」
私は…微笑みを返すことしかできなかった。
「始めまして、マリアと申します。」
いつもより念入りにメイクをした私はピンク色のドレスに身を包み温室に向かった。昨日と同じテーブルで待っていたのは、驚くほど背の高い男性だった。
「アルセイン・トリストです。本日はお越しくださって本当にありがとうございます。」
茶色の髪を刈り上げ、優しく微笑む目元は優しげで緑色の瞳が印象的だ。握手を交わすその手は大きくて私の両手がスッポリと収まってしまう。
「いつまで握手してんだよ。」
なぜか同席することになったケインはものすごく不機嫌だ。三人で鮮やかなティーセットの用意がされたテーブルにつく。
「女神が現れたのかと思いました。噂以上に美しい方で驚いています。」
嫌味のないお世辞をさらっと言ってしまうところは見た目だけでなくケインとはまったく似ていないみたい。
「ありがとうございます。」
第一王子にまで届いている私の噂って一体なんなんだろう。知らないのは噂の張本人だけだ。
「ケイニアスの教育係だとお聞きしました。弟は何か失礼をしてはいませんか?」
「先日国王陛下からも同じ質問をされました。ケインはとても優しいです。」
不機嫌そうな横顔が少し赤くなった。
「羨ましいです。貴女のような方と出逢えた弟が。」
アルセイン様は誰かを思い浮かべているようだった。微笑みがとても優しい。
その言葉に私は少し胸が痛む。もう少しで私はここから居なくならないといけないのだから。
「アルセイン様も素敵な方と出逢えたのではないのですか?」
私の言葉にアルセイン様は驚いた様子だった。
「なんでそんなこと分かるんだよ。」
「女の勘…かな。」
「意味わかんねぇ。」
ケインとの軽口にアルセイン様は笑っている。
「ケイニアスをケインと呼ぶことにも驚きましたが、弟とこんなに楽しそうに話す女性は初めてです。」
面倒見のいいお兄さんの顔がのぞく。もしかしたらこういうところもお母さん似なのかもしれない。
「マリアさんの言う通りです。私はアルバ公国で素晴らしい女性と出逢いました。」
この見た目で気遣いと優しさがあってモテないわけがない。
「しかし、どうしても彼女に想いを伝える前に解決したいことがあるのです。私はそのために戻ってきました。」
俯いたその顔は真剣で、今日私が呼ばれた理由が分かった。
「私にできることなら協力させてください。」
「ダメだ!話すだけだからな!それ以上はダメだ!」
「ケインはちょっと黙ってて!」
ケインは一体何をしにきたのか。お兄さんがこんなに悩んでるのに。
「しかし、こんな話を女性にしてもいいのかどうか。」
「それは大丈夫だ。こいつに淑やかさなんてないからな。」
「もうケイン本当にうるさい!話が進まないでしょ!黙ってて!」
そういうと彼はそっぽを向いてしまった。本当に何しにきたんだろう。
「マリアさんは仮面舞踏会をご存知ですか?」
舞踏会?一般人の私には縁のない単語だ。
「すみません。なにか特別な舞踏会なのですか?」
「私もこの国を出て初めて知ったのですが。いわゆる出逢いの場といいますか…貴族同士が一夜の相手を探す舞踏会なのです。」
仮面で顔を隠し、男女で話が合えば会場に設えられた個室に消えていく。なるほど貴族たちはそうやって夜遊びするのか。
「この国にはそういう会はありません。でも私はどうしても…経験したかったのです。」
きっとそれはケインが私に会いに来たのと同じ理由。
「初めての仮面舞踏会で声をかけてくれた女性と気が合い、その人と個室に入りました。」
きっと娼館なんかとは比べられないほど豪華な部屋なんだろうな。
「そこで初めてをしようとしたのですが…。」
「…ですが?」
沈黙。ケインもお兄さんの様子を窺っている。
「は……。」
「は?」
「入らなかったんです!」
突然の告白。アルセイン様の顔は真っ赤だ。
「えっと、それは…アルセイン様のが大きくてということですか?」
「多分そうだと思います…。」
それはなかなか誰にも言えない話だな。この国では特に。
「結局その夜は出来ずに終わりました。その後も何度か試しましたがやはり同じ結果だったんです。」
そんなに…。それはちょっと辛い。大きければいいってわけではないもの。
「その後、王子として参加した夜会で知り合った女性と恋に落ちました。いずれその方をこの国に迎えたいと思っているのですが…。」
「なるほど…、それは心配ですね。」
他国の女性でも貴族令嬢となるとそういう知識は難しいかもしれない。私は一生懸命知恵を絞る。
「だからってマリアはダメだ。」
「そうだな。私が間違っていたよ。」
何やら兄弟で話しているみたい。何を話しているのか聞こえなかった。
「たとえばなんですが、道具を使ってみるのはどうでしょう?」
「ど、道具ですか?」
「はい、ローションとか…。」
兄弟揃って顔がポッと赤くなった。そこは似てるんだ。
「ば、お前…。そういうことをさらっと言うな。」
「ケインも使ってみたい?」
なぜかケインだけでなく、アルセイン様まで赤面がひどくなった。
「ケイン、お前いつもそんなことを…。」
「してない!いや、……してないわけじゃない…。」
結局仲良し兄弟だ。
「アルセイン様が心配されるのはよく分かります。失敗したことがあると尚更ですよね。
でもあまり心配しすぎなくていいと思いますよ?大切な人と少しずつ絆を深めるように体を重ねるのは女性にとっても嬉しいことですから。」
私の言葉を噛み締めるように、アルセイン様は頷いていた。
「彼女の前で恥をかきたくないという思いが強いのかもしれません。一緒にしていくことの大切さを考えたことはありませんでした。」
アルセイン様に想われる人はきっと幸せだろう。
「まず彼女に私の気持ちを正直に伝えてみようと思います。その…、夜のことも含めて。」
「きっと大丈夫だと思います。アルセイン様の優しさはしっかり伝わってきますから。」
「ありがとうございます、マリアさん。どうか弟をよろしくお願いします。」
私は…微笑みを返すことしかできなかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。