【R18】閨の指導を異世界で~風俗嬢は王子様の教育係(夜)になりました~

塔野明里

文字の大きさ
22 / 41
1章 春嬢編

第二十一話

 第二十一話

 「ふっ…んっ…。」

 ケインの手が、唇が、触れたところが熱い。お願いだから、優しくしないで。

「好きだ、マリア。」

 彼の腕の中で泣きながら何度も好きと囁く。抱き締められながら、いつの間にか眠るように目を閉じた。
 

 彼の寝息が聞こえてきた頃、私は息を殺しゆっくりと目を開けた。
 ずっと側に居られたら、彼の隣で笑っていたい。でもそれがケインのためにならないことくらい分かっている。

 絶対に彼を起こさないように…、そっと起き上がった。

 もうここには戻らない。遠くへ行こう。絶対に彼が追いかけて来られない所まで。

「…っ……。」

 寝言を言っているのかな。彼の寝顔を見るのもきっと今日が最後だ。

 大好き。すぐに赤くなるその顔も、口ではうるさいと言いながら私の話を聞いてくれるところも、たまに見せる子どもみたいな笑顔も。
 貴方を好きになって良かった。ここに来なければ、私は私の人生を見つめ直すこともきっとなかった。

「ありがとう…。」

 ゆっくりベッドを降りると、手早く身支度を整える。
 この豪華な部屋に私のものは何一つない。いまはその身軽さが有り難かった。

「バイバイ。」

 ドアノブに手をかけ、扉を開ける。その瞬間―――


 リーン、リーン………リーン…!


 部屋中に鈴の音が鳴り響いた。高く澄んだ音。驚きで体が止まった。

「やっぱりな。」

 ビクッと体が跳ねる。

「俺はもう離さないって決めたんだ。簡単に逃げられると思うなよ。」

 リン、リンと鳴りやまない鈴の音。ケインが自分の右耳に触れると、スッと音が止んだ。

「これは護身用の魔法具だ。誰かが部屋に侵入すればすぐに分かる。逆に出ていくやつもな。」

 彼がいつもしているピアスがそんな魔法具だなんて知らなかった。

「ケイン、私は…。」

「こないだは変装用の魔法具だったから気にしてなかっただろ?俺の作戦勝ちだな。」

 扉を背にした私は、ケインの腕に阻まれ退路を断たれた。口調は軽いのに彼の目はまったく笑ってない。

「おかしいと思った。俺のことが好きだって言いながら全然納得してない顔して、まったく別のこと考えてただろ?」

 何も言い返せなかった。全部、図星だったから。

「俺は馬鹿だけどな、惚れた女の気持ちに気づけないほどバカじゃないつもりだ。」

 優しく頬を撫でられるとまた涙が出そうになる。

「頼むから逃げないでくれ。時間がほしい。お前を説得する時間を。」

 * * *

 「今日はどうしたのかな?皆揃って。」

 私の赤く腫らした瞳に国王陛下は気づかないフリをしている。陛下の執務室には、ケイン、アルセイン様、執事のクリスさん、そして国王陛下。

「先日の件は私からも謝罪しよう。貴女が無事で何よりだ。」

「ありがとうございます…。」

 私が勝手に城下へ行ったことも特に気にされている様子はない。

「契約期間も残り一週間か。そろそろ…。」

「俺はマリアが好きだ。」

 そこにいる誰も驚いた素振りを見せない。重い沈黙が落ちる。

「それで?だから何だと言うんだ?」

 冷えきった陛下の声。今まで聞いたこともない声色に身がすくむ。

「彼女を俺の妻にしたい。」

「いい加減にしろ!」

 震える私の手にケインの手が重なった。

「マリアが平民だからか?」

「決まっているだろう!お前は自分の立場が分かっているのか!」

 ただの平民なら、まだ良かったのかもしれない。それでも春嬢である私を後悔なんてしたくなかった。


「好きな女と一緒にいられないなら立場なんていらない。俺は王位継承権を放棄する。」


 バンっ!と大きな音をたて、陛下が立ち上がる。握っていた万年筆が真っ二つに折れていた。

「お前、いい加減に…!」


「いい加減にして!!!」


 思っていた以上に大きな声が出た。それでも言葉が止まらなかった。

「なんでそんなこと簡単に言うの?私はそうなるのが嫌だから出ていこうとしたの!そうすれば私が喜ぶと思ったら大間違いだよ!」

 私の剣幕に誰一人口を挟まない。

「家族を捨てるようなこと簡単に言わないで!私はケインが好き。でも家族から引き離してまで一緒にいるなんて嫌なの!」

 怒りながらまた涙が出た。最近、わたしの涙腺は壊れているらしい。

「私はもう二度と家族に会えない。好きな人にそんな思いさせたくないの。お願いだから、馬鹿な事言わないで…。」

 わぁっと声をあげて泣いた。日本で死んで突然異世界にやってきた。色んなものが込み上げてくる。
 毎日嗅いでいた潮のにおい。私が上京するのを最後まで反対していた父と母。海辺の町を出たあの日から一度も会わないまま、私はここにいる。過去のことで後悔していることは、ただそれだけ。


 手で涙を拭いグスグスとしゃくりあげる。泣いて少しだけスッキリした。
 気持ちが落ち着いてくると、ものすごい勢いで後悔に襲われる。こんな場で大声をあげて泣くなんて。顔をあげるのが怖い。

「マリアさんのご両親は亡くなられているのですか?」

 アルセイン様の優しい声。なんと答えようか迷った。

「多分、生きていると思います。でももう会うことはできません。」

 特別仲が良い家族ではなかった。それでも最後に一度でも会っておけばよかった。

「ごめん。俺マリアを泣かせてばっかりだ。」

「本当だよ。ケインはもっと反省して。」

 ふふふっと吹き出したのはアルセイン様だった。

「父上。私からもお願いします。きっとケインをこんなに思ってくれる女性はマリアさんしかいません。私は弟にしあわせになってほしい。」

 すると今まで気配を消していたクリスさんがハンカチを差し出してくれた。

「こんなに涙を流していらっしゃる女性にハンカチも差し出せないケイニアス様を想ってくださる方なんて他にはきっとおりません。」

 真っ白なハンカチからは香水の微かな香りがする。

「それに陛下はこうなることが分かっていらっしゃった。違いますか?」

 見ると国王陛下はバツが悪そうな顔をして、後ろを向いた。

「条件は二つだ。」

 その声は私の知っている陛下の声だ。

「まずアルセイン。元はと言えばお前にも責任がある。年内に王太子妃を決め、王位を継ぐ準備を始めろ。」

「かしこまりました。」

 今度は私からケインの手を握った。

「ケイニアス。お前はあまりにも未熟だ。彼女がお前に頼らないのも当然。
 私にお前が成長した証を見せろ。騎士として男として、この国のためになると証明するんだ。そうすれば方法を考えてやる。」

「わかっ……。かしこまりました。父上。」

 振り返った陛下は私を見つめていた。

「年内だ。あと8ヶ月で結果を出せ。でなければこの話は無しだ。
 それまで彼女には侍女として働いてもらう。いいな?」



感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041