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2章 侍女編
第二十八話〜ケイン〜
第二十八話~ケイン~
マリアに会いたい。
おかしいだろ。好きだと伝える前は毎日のように会えたのに、伝えてからのほうが会えなくなるなんて。
舞踏会のために到着した貴族たちを出迎えていた俺は、来客よりも隣に立つ兄貴のことばかり見ていた。今日になっても相手の名前すら誰にも教えず、親父も問いただすのを諦めた。
しかしその令嬢が現れた瞬間、兄貴の顔が今までにないくらい優しくなった。隠す意味もないほど、兄貴は嬉しそうだ。
アメジスト色の髪と更に深い紫色の瞳。薄いピンク色のドレスに身を包んだその令嬢は、華奢な体に似合わず芯の強そうな瞳をしていた。
「アルセイン様。またお会いできるのを楽しみにしておりました。」
「私もです。」
アルバン公国公爵令嬢ララ・ステラファード。見つめ合う二人はどう見てもお似合いだし、正直わざわざ舞踏会を開く必要もなさそうだった。
「だからなんで俺が舞踏会に出なきゃならないんだ?」
出迎えが終わると兄貴はさっそくステラファード嬢と中庭に出た。ますます明日の舞踏会の必要性が分からない。
「今回はアルセインの見合いという名目だが、もちろんお前にも縁談がきている。外交という意味でも参加する意味は大きい。今まで逃げていた分、しっかり働いてもらうぞ。」
「俺は誰とも踊らない。それだけは譲らないからな。」
舞踏会はパートナー選びの場。昔からダンスは得意ではないし、マリア以外の女と踊るつもりはない。
「勝手にしろ。」
部屋を出ようとしたとき、後ろから声がかかる。
「そういえば噂を聞いた。青騎士の副団長がマリアさんに夢中だと。ケイニアス、急がなければ横から攫われてしまうぞ?」
思い切り扉を閉めた。ただでさえイライラしているのに、あの男の話は聞きたくない。
騎士として認められるため、俺は赤の騎士団に戻り任務をこなした。ひとつ仕事をこなす度、彼女との時間に近づいている。それだけで何も苦にならなかった。
一番嫌なのは、他の男からマリアの話を聞くことだ。
別にアイツに限った話じゃない。マリアが侍女として働き出してから、彼女の話を聞かない日はなかった。春嬢だったこともすぐに広まり、一晩相手を頼んだら断られただの、わざとぶつかって体に触ろうかだの。
聞くに耐えない話を耳にするたび、そいつを殺してやろうかと思った。彼女との関係がバレるから何なんだ。
俺はマリアがいればいい。
* * *
「ケイニアス様!どうかわたくしをお側においてくださいませ!」
腰まで伸びた真っ直ぐな赤髪、薔薇のような真っ赤なドレス。この国では有り得ない、女からのアプローチ。絡められた腕を振り払いたいのを必死で堪えた。
「俺はまだ婚約するつもりはない。」
「かまいませんわ。いつまででもお待ちいたします。」
このトリスト王国の遥か南に位置するナグリダ共和国の第二公女。ローゼリカという名前の通り派手な女だ。
「勝手に待たれても困る。」
大人しく自分を出さない令嬢たちに嫌気が差したはずなのに、こういう女の自由さと図々しさが下品に見えるのは何なんだ。キツイ薔薇の香水の香りでむせそうになる。
マリアが買ったハンドクリームの香り。優しく安らぐ香りだった。この薔薇の香水だって彼女がつければきっと違うんだろう。
俺はなんでこんなところにいるんだ。
舞踏会が始まってすぐ兄貴とステラファード嬢はダンスを踊り、誰がどう見ても舞踏会の主役はステラファード嬢になった。
兄貴と令嬢の間にどんな会話があったのかは知らないが、上手くいっているようで良かった。
しかし最悪なのはそこからだ。
兄貴のパートナーが決まったと見ると、貴族たちは俺のところに令嬢を寄越し始めた。
王族なら誰でもいいと言う魂胆が見え見えで、露骨なアピールをしてくる女たち。
結局、淑やかさなんて関係ないのかもしれない。淑やかだろうが、積極的だろうが面倒くさいことには変わらない。
「ケイニアス。」
最悪な状況から救ってくれたのは、この状況を作った元凶だった。赤い髪の女と向かい合う。同じ女なのに、何も感じない。
「悪い。諦めてくれ。」
女の腕とキツイ匂いを振り払い、その場を離れた。兄貴の隣ではステラファード嬢が微笑んでいる。
「ケイニアス。お前、女性のあしらいが上手くなったな。」
そんなことを褒められてもまったく嬉しくない。
「マリアさんのおかげでしょうか?」
「へっ?」
なんでステラファード嬢からマリアの名前が出るんだ?
「申し遅れました。ララ・ステラファードと申します。」
「ケイニアス・トリストです。兄貴のことよろしくお願いします。」
嬉しそうに微笑む二人を眺めながら、俺の頭は疑問でいっぱいだった。しかし、ある結論が浮かんだ。
「まさか‥‥‥。」
「多分そのまさかだ。彼女もマリアさんに会いたいらしい。」
何なんだよ。俺が一番マリアに会いたいと思ってる。
「ぜひ、マリアさんとお話したいのです!ケイニアス様お願い致します!」
お願いして会えるなら、俺が今すぐにでも会いに行く。
それにしても、なんで公爵令嬢がマリアに会いたいんだ?
マリアに会いたい。
おかしいだろ。好きだと伝える前は毎日のように会えたのに、伝えてからのほうが会えなくなるなんて。
舞踏会のために到着した貴族たちを出迎えていた俺は、来客よりも隣に立つ兄貴のことばかり見ていた。今日になっても相手の名前すら誰にも教えず、親父も問いただすのを諦めた。
しかしその令嬢が現れた瞬間、兄貴の顔が今までにないくらい優しくなった。隠す意味もないほど、兄貴は嬉しそうだ。
アメジスト色の髪と更に深い紫色の瞳。薄いピンク色のドレスに身を包んだその令嬢は、華奢な体に似合わず芯の強そうな瞳をしていた。
「アルセイン様。またお会いできるのを楽しみにしておりました。」
「私もです。」
アルバン公国公爵令嬢ララ・ステラファード。見つめ合う二人はどう見てもお似合いだし、正直わざわざ舞踏会を開く必要もなさそうだった。
「だからなんで俺が舞踏会に出なきゃならないんだ?」
出迎えが終わると兄貴はさっそくステラファード嬢と中庭に出た。ますます明日の舞踏会の必要性が分からない。
「今回はアルセインの見合いという名目だが、もちろんお前にも縁談がきている。外交という意味でも参加する意味は大きい。今まで逃げていた分、しっかり働いてもらうぞ。」
「俺は誰とも踊らない。それだけは譲らないからな。」
舞踏会はパートナー選びの場。昔からダンスは得意ではないし、マリア以外の女と踊るつもりはない。
「勝手にしろ。」
部屋を出ようとしたとき、後ろから声がかかる。
「そういえば噂を聞いた。青騎士の副団長がマリアさんに夢中だと。ケイニアス、急がなければ横から攫われてしまうぞ?」
思い切り扉を閉めた。ただでさえイライラしているのに、あの男の話は聞きたくない。
騎士として認められるため、俺は赤の騎士団に戻り任務をこなした。ひとつ仕事をこなす度、彼女との時間に近づいている。それだけで何も苦にならなかった。
一番嫌なのは、他の男からマリアの話を聞くことだ。
別にアイツに限った話じゃない。マリアが侍女として働き出してから、彼女の話を聞かない日はなかった。春嬢だったこともすぐに広まり、一晩相手を頼んだら断られただの、わざとぶつかって体に触ろうかだの。
聞くに耐えない話を耳にするたび、そいつを殺してやろうかと思った。彼女との関係がバレるから何なんだ。
俺はマリアがいればいい。
* * *
「ケイニアス様!どうかわたくしをお側においてくださいませ!」
腰まで伸びた真っ直ぐな赤髪、薔薇のような真っ赤なドレス。この国では有り得ない、女からのアプローチ。絡められた腕を振り払いたいのを必死で堪えた。
「俺はまだ婚約するつもりはない。」
「かまいませんわ。いつまででもお待ちいたします。」
このトリスト王国の遥か南に位置するナグリダ共和国の第二公女。ローゼリカという名前の通り派手な女だ。
「勝手に待たれても困る。」
大人しく自分を出さない令嬢たちに嫌気が差したはずなのに、こういう女の自由さと図々しさが下品に見えるのは何なんだ。キツイ薔薇の香水の香りでむせそうになる。
マリアが買ったハンドクリームの香り。優しく安らぐ香りだった。この薔薇の香水だって彼女がつければきっと違うんだろう。
俺はなんでこんなところにいるんだ。
舞踏会が始まってすぐ兄貴とステラファード嬢はダンスを踊り、誰がどう見ても舞踏会の主役はステラファード嬢になった。
兄貴と令嬢の間にどんな会話があったのかは知らないが、上手くいっているようで良かった。
しかし最悪なのはそこからだ。
兄貴のパートナーが決まったと見ると、貴族たちは俺のところに令嬢を寄越し始めた。
王族なら誰でもいいと言う魂胆が見え見えで、露骨なアピールをしてくる女たち。
結局、淑やかさなんて関係ないのかもしれない。淑やかだろうが、積極的だろうが面倒くさいことには変わらない。
「ケイニアス。」
最悪な状況から救ってくれたのは、この状況を作った元凶だった。赤い髪の女と向かい合う。同じ女なのに、何も感じない。
「悪い。諦めてくれ。」
女の腕とキツイ匂いを振り払い、その場を離れた。兄貴の隣ではステラファード嬢が微笑んでいる。
「ケイニアス。お前、女性のあしらいが上手くなったな。」
そんなことを褒められてもまったく嬉しくない。
「マリアさんのおかげでしょうか?」
「へっ?」
なんでステラファード嬢からマリアの名前が出るんだ?
「申し遅れました。ララ・ステラファードと申します。」
「ケイニアス・トリストです。兄貴のことよろしくお願いします。」
嬉しそうに微笑む二人を眺めながら、俺の頭は疑問でいっぱいだった。しかし、ある結論が浮かんだ。
「まさか‥‥‥。」
「多分そのまさかだ。彼女もマリアさんに会いたいらしい。」
何なんだよ。俺が一番マリアに会いたいと思ってる。
「ぜひ、マリアさんとお話したいのです!ケイニアス様お願い致します!」
お願いして会えるなら、俺が今すぐにでも会いに行く。
それにしても、なんで公爵令嬢がマリアに会いたいんだ?
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