【R18】閨の指導を異世界で~風俗嬢は王子様の教育係(夜)になりました~

塔野明里

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2章 侍女編

第二十八話〜ケイン〜

 第二十八話~ケイン~

 マリアに会いたい。

 おかしいだろ。好きだと伝える前は毎日のように会えたのに、伝えてからのほうが会えなくなるなんて。


 舞踏会のために到着した貴族たちを出迎えていた俺は、来客よりも隣に立つ兄貴のことばかり見ていた。今日になっても相手の名前すら誰にも教えず、親父も問いただすのを諦めた。

 しかしその令嬢が現れた瞬間、兄貴の顔が今までにないくらい優しくなった。隠す意味もないほど、兄貴は嬉しそうだ。

 アメジスト色の髪と更に深い紫色の瞳。薄いピンク色のドレスに身を包んだその令嬢は、華奢な体に似合わず芯の強そうな瞳をしていた。

「アルセイン様。またお会いできるのを楽しみにしておりました。」

「私もです。」

 アルバン公国公爵令嬢ララ・ステラファード。見つめ合う二人はどう見てもお似合いだし、正直わざわざ舞踏会を開く必要もなさそうだった。


「だからなんで俺が舞踏会に出なきゃならないんだ?」

 出迎えが終わると兄貴はさっそくステラファード嬢と中庭に出た。ますます明日の舞踏会の必要性が分からない。

「今回はアルセインの見合いという名目だが、もちろんお前にも縁談がきている。外交という意味でも参加する意味は大きい。今まで逃げていた分、しっかり働いてもらうぞ。」

「俺は誰とも踊らない。それだけは譲らないからな。」

 舞踏会はパートナー選びの場。昔からダンスは得意ではないし、マリア以外の女と踊るつもりはない。

「勝手にしろ。」

 部屋を出ようとしたとき、後ろから声がかかる。

「そういえば噂を聞いた。青騎士の副団長がマリアさんに夢中だと。ケイニアス、急がなければ横から攫われてしまうぞ?」

 思い切り扉を閉めた。ただでさえイライラしているのに、あの男の話は聞きたくない。


 騎士として認められるため、俺は赤の騎士団に戻り任務をこなした。ひとつ仕事をこなす度、彼女との時間に近づいている。それだけで何も苦にならなかった。

 一番嫌なのは、他の男からマリアの話を聞くことだ。

 別にアイツに限った話じゃない。マリアが侍女として働き出してから、彼女の話を聞かない日はなかった。春嬢だったこともすぐに広まり、一晩相手を頼んだら断られただの、わざとぶつかって体に触ろうかだの。

 聞くに耐えない話を耳にするたび、そいつを殺してやろうかと思った。彼女との関係がバレるから何なんだ。

 俺はマリアがいればいい。

 * * *

「ケイニアス様!どうかわたくしをお側においてくださいませ!」

 腰まで伸びた真っ直ぐな赤髪、薔薇のような真っ赤なドレス。この国では有り得ない、女からのアプローチ。絡められた腕を振り払いたいのを必死で堪えた。

「俺はまだ婚約するつもりはない。」

「かまいませんわ。いつまででもお待ちいたします。」

 このトリスト王国の遥か南に位置するナグリダ共和国の第二公女。ローゼリカという名前の通り派手な女だ。

「勝手に待たれても困る。」

 大人しく自分を出さない令嬢たちに嫌気が差したはずなのに、こういう女の自由さと図々しさが下品に見えるのは何なんだ。キツイ薔薇の香水の香りでむせそうになる。

 マリアが買ったハンドクリームの香り。優しく安らぐ香りだった。この薔薇の香水だって彼女がつければきっと違うんだろう。

 俺はなんでこんなところにいるんだ。


 舞踏会が始まってすぐ兄貴とステラファード嬢はダンスを踊り、誰がどう見ても舞踏会の主役はステラファード嬢になった。
 兄貴と令嬢の間にどんな会話があったのかは知らないが、上手くいっているようで良かった。

 しかし最悪なのはそこからだ。

 兄貴のパートナーが決まったと見ると、貴族たちは俺のところに令嬢を寄越し始めた。
 王族なら誰でもいいと言う魂胆が見え見えで、露骨なアピールをしてくる女たち。

 結局、淑やかさなんて関係ないのかもしれない。淑やかだろうが、積極的だろうが面倒くさいことには変わらない。

「ケイニアス。」

 最悪な状況から救ってくれたのは、この状況を作った元凶だった。赤い髪の女と向かい合う。同じ女なのに、何も感じない。

「悪い。諦めてくれ。」

 女の腕とキツイ匂いを振り払い、その場を離れた。兄貴の隣ではステラファード嬢が微笑んでいる。

「ケイニアス。お前、女性のあしらいが上手くなったな。」

 そんなことを褒められてもまったく嬉しくない。

「マリアさんのおかげでしょうか?」

「へっ?」

 なんでステラファード嬢からマリアの名前が出るんだ?

「申し遅れました。ララ・ステラファードと申します。」

「ケイニアス・トリストです。兄貴のことよろしくお願いします。」

 嬉しそうに微笑む二人を眺めながら、俺の頭は疑問でいっぱいだった。しかし、ある結論が浮かんだ。

「まさか‥‥‥。」

「多分そのまさかだ。彼女もマリアさんに会いたいらしい。」

 何なんだよ。俺が一番マリアに会いたいと思ってる。

「ぜひ、マリアさんとお話したいのです!ケイニアス様お願い致します!」

 お願いして会えるなら、俺が今すぐにでも会いに行く。

 それにしても、なんで公爵令嬢がマリアに会いたいんだ?

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