【R18】閨の指導を異世界で~風俗嬢は王子様の教育係(夜)になりました~

塔野明里

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2章 侍女編

第三十二話

 第三十二話

 「ケイン…?」

 2週間ぶりに許された逢瀬。いつから待っていたのか、部屋に入ったとき彼はベッドですやすやと寝息を立てていた。

 その手はマメだらけで血が滲んでいるものもある。その全てが私のためだと思うのは、自惚れすぎだろうか。

 そっと頬に触れるとピクピクと瞼が動き、うっすらと目を開けた。

「疲れてる?無理しなくていいよ?」

 ガバっと身体を起こした彼の髪の右側にだけ寝癖がついている。

「マリア!」

 ぎゅっと抱きしめられたその腕がすこし逞しくなった気がする。温かく安心するにおいがした。

「会いたかった。」

「私も。」

 言いたいことはたくさんあって、伝えなきゃいけないこともたくさんある。でも全てを伝えてしまったら彼を失望させてしまうかもしれない。

「…ん……。」

 重ねた唇が熱い。何度も何度も口づけを交わした。

「…行くのか?」

 ケインの瞳は不安げに揺れていた。誰から伝わったのだろう。
 ミシェル婦人からの提案も、ララさんからの誘いにもまだ返事はしていない。それでも私の心は決まっていた。

 その前に私には彼に言わないといけないことがある。

「私ね、一回死んだの。」

 その青い瞳が大きく見開かれた。

「ここじゃない世界で一回死んで、気づいたらこの世界にいたの。そう言ったら信じてくれる?」

 誰にも言わないつもりだった。信じてもらえるとも思っていなかった。
 でも初めて伝えたいと思った。誰にも言えなかった私の事を。

 日本という国。この歳までどうやって生きてきたか。なんで死んだのか。ありのまま全てのことを話した。彼は何も言わず、ただ私の話を聞いてくれていた。

「…だからマリアは他のやつと違うんだな。」

「信じてくれるの?」

「当たり前だろ。むしろいろんなことに納得した。」

 疑いもせずケインは笑ってくれる。彼に話して良かった。嬉しくて涙が出た。

「泣くなよ。そんなに俺信用ないのか?」

 怖かった。誰にも言えなかった。それでも信じてほしかった。でないと自分自身も分からなくなるときがある。私が誰なのか。

「ごめんね。だから私、この世界の普通にはなれない。ただ待ってるなんてできない。嫌なの、ケインに守られてるだけなんて。貴方とちゃんと対等になりたい。」

 自分にできることを全てやりたい。全部やってそうして初めて胸を張って彼の横に立てる。

「嫌だ。マリアと離れるなんて。」

 マメだらけの指が涙を拭ってくれる。

「一番嫌なのは、ガキみたいに駄々こねることしかできない。そんな俺が一番嫌だ。」

 前に涙を拭ってくれたときより頼もしく思えるのはきっと気のせいじゃない。

「マリアが好きだ。ずっと側にいたい。やっぱり俺はお前が一番大事で、地位も家族も捨ててもいいと思ってる。」

 ぎゅっと彼を抱きしめる。初めて会ってからまだほんの少しなのに、それでもこんなに好きになってしまった。

「でもマリアが大切に思ってくれるものを俺も大事にしたい。俺も強くなる、必ず。」

 彼は私の最後の人。もう迷ったりしない。

「ケインが好き。絶対貴方の隣にいくから。少しだけ待ってて。」

 その夜は久しぶりに一緒にお風呂に入った。どれだけ話しても足りなくて、ずっとずっと夜が明けないでほしかった。



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