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7話 夢~マキシム~
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7話 夢~マキシム~
正直に言おう。一目惚れだったんだ。
柔らかそうな茶色い髪を肩の辺りで切り揃え、同じ色の瞳は綺麗な二重。背が低いのも小さな顔も全てが好みだった。
なにより彼女は俺に怯えることなく目を見て話をしてくれた。それがどれだけ珍しいことか彼女は気づいていない。
* * *
俺は生まれたときからこんな顔をしていたわけじゃない。幼い頃はそれなりに可愛らしかった…はずだ。
しかし、人を刺し殺しそうなこの鋭い目つきだけは物心ついたときから変わっていないらしい。
この顔のせいで俺がどれだけ苦労してきたか。それを知っているのは両親と幼なじみのアーカスだけだろう。
12歳になり騎士学校に入学してすぐに目つきが生意気だと上級生に呼び出された。ロックスフォードという家名だけで嫌がらせをされることも知っていたので特に驚きはしなかった。
呼び出した上級生は少し痛めつけるだけのつもりだったらしい。その頃は俺も若かったし、そんな上級生たちのプライドなど知らなかったので、思い切り返り討ちにした。
それはもう、やり返せるだけやり返した。
その後卒業するまで、俺にちょっかいを出してくる奴はいなかった。
そんな俺には誰にも言えない秘密があった。それは小さくて可愛いらしいものが大好きだということだ。
小さな子ども、子犬や子猫などの小動物、そして背の低い女性など…。小さいものが好きで好きでたまらなかった。
しかし、好きなことと好かれることはまったくの別物だ。それに気づいたのは成人してすぐのことだった。
18歳で騎士学校を卒業し、王国の第4騎士団に配属された。その頃から俺のもとには縁談が舞い込むようになった。
ロックスフォードの家名目当てでも、両親の資産目当てでも何でも良かった。妻を持ち、子どもをもち、そしていずれは可愛いらしい孫と過ごす。そんな俺の夢を叶えてくれる相手が欲しかったのだ。
親友でもあるアーカスからは親父くさい夢だと笑われたが、それが一番の望みなのだから仕方ないだろう。
しかしその夢を叶えるのは容易ではなかった。
初めて見合いをしたときのことはよく覚えている。可愛いらしい栗鼠の獣人だった彼女は俺の顔を見るなり泣き出し、10分もしないうちに帰っていった。
5分も会話ができればいいほうで、俺の顔を見た途端逃げ出す。会話の途中で泣き出すなどなど。
両親もはじめは気にしていなかったが、そんなことが五回十回と続けば、さすがに気づいた。
うちの息子は結婚できないかもしれない。
両親の心配は現実になり、俺はもうすぐ30歳になろうとしていた。残念ながら一人息子だった俺は、両親が養子を取るかどうかと悩んでいるのを知っている。
この癖も良くない。可愛いらしいものを見ると顔がゆるみそうになるので、グッと眉間に力を入れるのが癖になっているのだ。その眼力だけで人を殺せそうだと部下たちに言われる。
そんなとき、彼女に出会ったのはまさに奇跡だった。なんとしても彼女に振り向いて欲しかった。
* * *
「お前は馬鹿か!惚れた女性に猪をプレゼントする男なんて聞いたこともない!」
彼女と出逢った日の夜、立派な猪を仕留め意気揚々と帰ってくるとアーカスが待っていた。
大雪崩の支援のためにサーシェルにやってきた第一王子のアーカス。その護衛のためにやってきた俺が仕事を放り出して何をしているのかと問い詰められた。
俺は今日あったことを話した。先見隊として雪崩の現場を見た帰り、森の中で可愛いらしい女性に出逢ったこと。身なりや言葉遣い、仕草から貴族であるはずなのに彼女は食べるものに困っていたこと。鶏を渡したら喜ばれたこと。
そして何より、俺の顔を見ても泣くことなくまっすぐに話をしてくれたこと。
「まさか…?!そんな女性がいるのか?お前が怖すぎて怯えていたんじゃないのか!」
「そんなことはない!彼女は怯えても泣いてもいなかった!」
何やら考え込んだアーカスは、彼女の家や家族について詳しく聞いてきた。
「幼い妹と弟がいた。屋敷は大きかったが、あまり手入れされていなかったな。」
俺は早く仕留めた猪の処理をしたかった。鮮度が落ちたものを彼女に食べさせたくないからな。
「食べ物に困っていたか…。それなら確かに猪でもいいが…。」
ぶつぶつと独り言を呟いているアーカス。こうやって考え込んでいるときは何を聞いても無駄だ。
「よし!それなら一緒に織物でも送れ!きっと着るものにも困っているだろう。いきなり宝石などを送られても不気味だからな。」
「織物か!それはいい!さすがアーカスだ!」
善は急げ。すぐに二人で贈るための織物を選びに行った。
おかげで、彼女は贈り物の礼をするために俺に会いに来てくれた。親友には感謝しかない。
正直に言おう。一目惚れだったんだ。
柔らかそうな茶色い髪を肩の辺りで切り揃え、同じ色の瞳は綺麗な二重。背が低いのも小さな顔も全てが好みだった。
なにより彼女は俺に怯えることなく目を見て話をしてくれた。それがどれだけ珍しいことか彼女は気づいていない。
* * *
俺は生まれたときからこんな顔をしていたわけじゃない。幼い頃はそれなりに可愛らしかった…はずだ。
しかし、人を刺し殺しそうなこの鋭い目つきだけは物心ついたときから変わっていないらしい。
この顔のせいで俺がどれだけ苦労してきたか。それを知っているのは両親と幼なじみのアーカスだけだろう。
12歳になり騎士学校に入学してすぐに目つきが生意気だと上級生に呼び出された。ロックスフォードという家名だけで嫌がらせをされることも知っていたので特に驚きはしなかった。
呼び出した上級生は少し痛めつけるだけのつもりだったらしい。その頃は俺も若かったし、そんな上級生たちのプライドなど知らなかったので、思い切り返り討ちにした。
それはもう、やり返せるだけやり返した。
その後卒業するまで、俺にちょっかいを出してくる奴はいなかった。
そんな俺には誰にも言えない秘密があった。それは小さくて可愛いらしいものが大好きだということだ。
小さな子ども、子犬や子猫などの小動物、そして背の低い女性など…。小さいものが好きで好きでたまらなかった。
しかし、好きなことと好かれることはまったくの別物だ。それに気づいたのは成人してすぐのことだった。
18歳で騎士学校を卒業し、王国の第4騎士団に配属された。その頃から俺のもとには縁談が舞い込むようになった。
ロックスフォードの家名目当てでも、両親の資産目当てでも何でも良かった。妻を持ち、子どもをもち、そしていずれは可愛いらしい孫と過ごす。そんな俺の夢を叶えてくれる相手が欲しかったのだ。
親友でもあるアーカスからは親父くさい夢だと笑われたが、それが一番の望みなのだから仕方ないだろう。
しかしその夢を叶えるのは容易ではなかった。
初めて見合いをしたときのことはよく覚えている。可愛いらしい栗鼠の獣人だった彼女は俺の顔を見るなり泣き出し、10分もしないうちに帰っていった。
5分も会話ができればいいほうで、俺の顔を見た途端逃げ出す。会話の途中で泣き出すなどなど。
両親もはじめは気にしていなかったが、そんなことが五回十回と続けば、さすがに気づいた。
うちの息子は結婚できないかもしれない。
両親の心配は現実になり、俺はもうすぐ30歳になろうとしていた。残念ながら一人息子だった俺は、両親が養子を取るかどうかと悩んでいるのを知っている。
この癖も良くない。可愛いらしいものを見ると顔がゆるみそうになるので、グッと眉間に力を入れるのが癖になっているのだ。その眼力だけで人を殺せそうだと部下たちに言われる。
そんなとき、彼女に出会ったのはまさに奇跡だった。なんとしても彼女に振り向いて欲しかった。
* * *
「お前は馬鹿か!惚れた女性に猪をプレゼントする男なんて聞いたこともない!」
彼女と出逢った日の夜、立派な猪を仕留め意気揚々と帰ってくるとアーカスが待っていた。
大雪崩の支援のためにサーシェルにやってきた第一王子のアーカス。その護衛のためにやってきた俺が仕事を放り出して何をしているのかと問い詰められた。
俺は今日あったことを話した。先見隊として雪崩の現場を見た帰り、森の中で可愛いらしい女性に出逢ったこと。身なりや言葉遣い、仕草から貴族であるはずなのに彼女は食べるものに困っていたこと。鶏を渡したら喜ばれたこと。
そして何より、俺の顔を見ても泣くことなくまっすぐに話をしてくれたこと。
「まさか…?!そんな女性がいるのか?お前が怖すぎて怯えていたんじゃないのか!」
「そんなことはない!彼女は怯えても泣いてもいなかった!」
何やら考え込んだアーカスは、彼女の家や家族について詳しく聞いてきた。
「幼い妹と弟がいた。屋敷は大きかったが、あまり手入れされていなかったな。」
俺は早く仕留めた猪の処理をしたかった。鮮度が落ちたものを彼女に食べさせたくないからな。
「食べ物に困っていたか…。それなら確かに猪でもいいが…。」
ぶつぶつと独り言を呟いているアーカス。こうやって考え込んでいるときは何を聞いても無駄だ。
「よし!それなら一緒に織物でも送れ!きっと着るものにも困っているだろう。いきなり宝石などを送られても不気味だからな。」
「織物か!それはいい!さすがアーカスだ!」
善は急げ。すぐに二人で贈るための織物を選びに行った。
おかげで、彼女は贈り物の礼をするために俺に会いに来てくれた。親友には感謝しかない。
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