冬瑠とメル~異世界で猫(?)に保護された男子高校生の話~

catpaw

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6 俺は旅人(という設定)

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遠くで、教会の鐘みたいなのが鳴る音が聞こえた。




すると、メルは急に立ち上がり、


「いけない、もう4時なの!? トール、私帰らなくてはいけないわ!」


と、俺の方を振り返った。


メルのふさふさしたしっぽの方に無意識で手を伸ばし、もう少しでしっぽに触りかけていた俺は、我に返った。


「うわっ、……あ、ああ! そ……そうなの?」


俺はその手を慌てて引っ込めて、後ろにまわした。


(あ……、危なっ! 女の子のしっぽに勝手に触るとか、犯罪だろ!)


混乱した頭でそんな事を考えたが、冷静になると、まずしっぽのある女の子は現実世界にはいないだろう、たぶん。
犯罪かどうかは置いといて、断りもなくしっぽに触るとメルは怒るんじゃないだろうか。


そういえば、さっき勢いで手を握ってしまったが、怒られなかったな。よかった。
でも、手としっぽはだいぶ違うんじゃないか?
手は握手とかするし、わりと公的なものという気がするけど、しっぽはプライベート感があるように思う。


「ーーーー……はどこなの? トール?……ねえ、トール?」


俺はしっぽのことばかり考えていたせいで、メルに話しかけられている事に気付くのが遅れた。


「ん?どこって何が?」


「おうちよ。トールのお家はどこにあるの?」


メルの質問に、俺はうわの空で答えた。


「俺のいえ? ここにはないんじゃないかな? あ、でもどうかな、夢だし、もしかして家があるかも」



二人の間に妙な沈黙が流れ、メルが困ったような顔になった。


「言っている事が良く分からないわ。夢って何のこと?」


(しまった、何も考えずに喋ってた)


何か、こう……、誤魔化すんだ俺!


「夢……夢って言うのは、……そう! メルと会って夢のような楽しい時間だったな~ってことで」


(く、苦しい……、フォロー出来ていそうもない)


「そうね、トール。私もとても楽しい時間を過ごせたわ」


(意外に大丈夫だった! メル嬉しそうだし!)


しかし、メルはまたすぐに、いぶかしげな表情に戻った。


「それで、家がないとか、あるかもしれないと言うのはどういうこと?」


(やっぱり、そこだよね……)


俺は、さっき決めた設定を持ち出すことにした。


「ええと…、俺は、旅人で、俺の家は、すごく遠くにあるんだ」


棒読みになっている。


「まあ、そうなの。トールはどこから来たの?」


「えっ……、そ、それは……、ものすごく遠い国から来たんだよ!」


(嘘をつく小学生かよ…!)


怪しさしかない俺の話をメルは素直に信じたようだった。人を疑うって事を知らない、本当に天使の様な女の子だ。
俺は設定なんてものを作って話している事を申し訳なく感じた。


「ここには、今日着いたばかりなのかしら?」


「う、うん、そうだね」


「分かったわ! これから泊まる場所を探す所なのね。それで、空いている宿があるかどうか分からないと言っていたのでしょう」


「そっ、そうそう! そう言いたかったんだよ! まだここの言葉に慣れて無くて、変な言い方になっちゃったんだ」


「いいえ、トール。母国語ではないのに、これだけ流暢に話せていたらすごいわ」


メルは心から褒めているようだった。
1つ嘘をつくと、その嘘がばれないように次から次へと嘘を塗り重ねる羽目になる。


(純粋なメルに嘘をつくのは胸が痛むなあ……)


ため息をついた俺を見て、メルが言った。


「トール、心配ないわ。私の家へいらっしゃいな。ゲストルームはたくさんあるのよ」


どうやらメルは、俺が宿の心配をしてため息をついたと思ったようだ。


「え、メルの家に行っていいの? ……。 でも……、急に泊まりに行ったら、メルのお父さんやお母さんがびっくりするんじゃないかな」


俺はメルのお招きにすぐさま飛びつきそうになったが、直後に『恐そうなおじさんに睨まれる自分』の光景が頭に浮かんでしり込みした。
お嬢様には厳格な父親がつきものだよな。


「私の両親はお客様を家に迎えてもてなすのがとても好きなのよ。お兄様とお姉様達も、いつも退屈しているものだから来客があると大喜びよ。だからトール、遠慮なく家にいらしてちょうだい」



(『お姉様達』)



「泊まらせてください」



俺は気がつけば即答していた。


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