廃妃のセカンドライフ〜皇妃になったその夜に皇帝が殺されまして〜

奏千歌

文字の大きさ
20 / 35

20 自業自得と罪悪感

しおりを挟む
 ここで誰と何をしていたのかはもう筒抜けのはずなのに、いつものメイドさんは表情一つ変えずに、いつもとは違うこの部屋に私の朝の支度をしに訪れた。

 脱ぎ散らかされていたドレス類が、拾い集められて椅子に置かれる。

「お身体で辛い所はありませんか?」

 でも、いつもと違ったのは、最初にそれを尋ねられたということ。

「特には……」

「皇族となる御子を宿したかもしれませんので、何か体調の変化がありましたらすぐにお申し付けください」

 その言葉を受けて、されるがまま温かいタオルで体を拭いてもらっている間、ぼんやりしながらも思っていたことがあった。

 もしも私の妊娠がわかったりしたら、皇宮よりも先にエクルクスに知らされるのか、と。

 その先は、何が起きるのか。

 それが、利用されるということなのかな。

「肩の傷はセオドアによるものですか?」

「違うよ」

「手当てをしますね」

 肩にお薬が塗られて、ガーゼがあてられると、包帯も巻かれて大袈裟な感じにはなった。

 お母さんから与えられた痛みはやわらいだ。

 でもやっぱり、私に与えられる安心なんかない。

 それもそのはずで、自業自得でもあるし、新たな罪悪感も生まれていた。

「セオドアはしばらく戻りませんので」

 着衣が済むと、メイドさんからそれが告げられた。

「どうして……」

 もう戻ってこないのではと、一瞬で不安が広がった。

「南部の監視に向かったのです。元々の予定にあったことです」

 安心させるように、というわけではないけど、メイドさんがちゃんと理由を教えてくれて、不安は小さくなる。

 大きくなったり、小さくなったり、私の中にあるものはいつか無くなってくれるのか。



 この数日後、南方で反乱が起きて、そのまま大規模な戦闘になったと聞いた。

 帝国南部の一部の領主が独立を宣言したとかで。

 南部は有数の穀倉地帯が広がっているのに、そこからの穀物の流通が止まるとどうなるのか。

 セオドアがその対処に向かったから、しばらく戻ってくる様子はなかった。

 そんな争いのど真ん中に行って、どう過ごしているのか。

 無事であるのか。

 危険な場所に赴いている人に、私の無茶な命令を聞いてどう思ったのかなんて聞けるわけもなく、帝国中が大きな動乱に飲まれかけている中、私の心配は結局、自分本位のことで。

「フィルマ様、王女殿下がお呼びです」

「ナデージュ?」

 上の空で過ごしていると、メイドさんから告げられた。

 もちろん、皇宮になど行きたくない。

 ナデージュは何の用事があるのかな。

「お母さんは、今は、どこに……」

「詳細はお伝えできませんが、宮殿からは遠く離れた場所に向かっています。今すぐに引き返しても、貴女と会うことはありませんので、ご安心を」

 カーティス以上に会いたくないのがお母さんだから、いない事が確実ならナデージュになら会いに行ってもいい。

 これも決定事項だったようで、程なくして屋敷の前に到着した馬車は、私を強制的に乗せて皇宮に向かった。

 私をお茶に誘ったとのことだけど、皇宮のサロンで待っていたナデージュの表情は穏やかなものではなかった。

「あなた、実の兄に色目を使っているのわかってる?」

 扉は開け放たれたまま、サロンに入るなり刺すような視線を向けられていた。

 先日の夜会のことを言っているのだと思う。

 私に言われても、本当に、そんなつもりは少しもないのに。

「それに、どうして私のドレスよりも貴女の方が高価なものだったのよ」

 それには首を傾げた。

 ドレスの値段などは、見ただけでは私には判断できない。

「カーティスが贈ってくれたものだから、わからない。ごめんなさい」

「なによ、それ!?」

 ナデージュは、私の答えに納得していない様子だ。

「私のだって、カーティス様が贈ってくれたものなのに」

 それは私にではなくて、贈り主のカーティスに直接聞くべきなのではと思うけど、また怒りそうだから言えなかった。

「聞いているの!?」

「ナデージュは、どうしてそんなに怒っているの?何が心配なの?私はもう結婚しているし、ナデージュも婚約しているよね?」

 カーティスの方はともかくとして、

「本当に私の方が、カーティスに何かをしたように見えたの?」

 問いかけると、ナデージュの視線が動揺するように彷徨った。

「カーティスと上手くいってないの?二人で話したりはしないの?」

「うるさいわね!!」

 何かを刺激してしまったのか、激昂したナデージュに、ティーカップのお茶を頭から浴びせられてしまい、髪からお茶がポタポタと垂れていく。

「ナデージュ!!何をしている!!」

 そこでどこからか現れたカーティスが駆け寄ってきたかと思うと、バシッと音がするほどにナデージュの頬を平手打ちした。

 その行動に、少なからず驚きを隠せなかった。

 頬を押さえたナデージュは、呆然と目を見開いてカーティスを見上げている。

 そして、両目に涙を浮かべて、小走りで部屋から出ていってしまった。

「大丈夫か、フィルマ。すぐに冷そう」

 カーティスの指示で近くにいたメイドが私に近付いてくるけど、それを制してカーティスに言った。

「どうして、ナデージュをぶったの?」

「フィルマに火傷させたからだ。痕が残ったら大変だ。冷やさないと」

「大丈夫。もう冷めていたから。カーティスはすぐにナデージュのところに行って」

「その必要はない」

「ナデージュのことを大切にしないと。ナデージュの国の協力がないと、困るのでしょう?」

「お前が傷付けられるのを容認しなければならないほどではない」

 カーティスの優先順位は絶対に間違っている。

 セオドアがいない状況で、こんなことで二人を拗らせたくない。

「帰る……また、ナデージュを怒らせてしまって……ごめんなさい……お願いだから、ナデージュに謝って」

「わかった。お前がそう言うのなら。だが、もう少しゆっくりしていってくれ、俺と」

「帰る。南部で大変なことが起こっているって聞いたよ。邪魔したくないから。ナデージュに、ごめんなさいって伝えて」

「ああ、わかった……」

 カーティスに背を向けて出口に向かうと、彼はその場から動かずにいたようだった。

 来た意味があったのか疑問に思いながらも、壁で囲まれた屋敷に帰れることに安堵していた。

 それから、ナデージュとカーティスがどうしていたかはわからない。

 さすがに暇であるはずもないカーティスは、南部への対応で忙しくしていたと、少しだけメイドさんから聞いた。

 ナデージュを怒らせてばかりの私は、エクルクスに制裁されたりはしないのかと、ほんの少しだけ思わなくもなかったけど、何もないままひと月以上が過ぎて、それはそのまま同じだけ、セオドアとも会えずじまいの日数が過ぎていた。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...