廃妃のセカンドライフ〜皇妃になったその夜に皇帝が殺されまして〜

奏千歌

文字の大きさ
17 / 35

17 価値と意味

しおりを挟む
 誰か戻ってくるのかと、少しの間は一人で待っていた。

 でも、誰も戻ってくる様子はなかったから帰ろうと思い、馬車を降りた場所に行こうと足を向けると、その途中にセオドアが待っていた。

 その姿はなんとなく怒っているように見えた。

 ほとんど表情なんかないのに。

「お前が妹と話したいと思ったのなら別だが、余計な気を回すな。皇宮には近付くな」

「あまり、セオドアを困らせたくなかったから……でも、ナデージュを怒らせてしまって。私、失敗したかな……?」

「無理にあいつらの機嫌を取らなくていい。それに、俺はお前よりはるかに器用に要領良く生きられる。余計な心配はいらない。帰るぞ。送っていく」

 セオドアが歩き出したから、ついて行く。

 やっぱり怒っているように見える背中に話しかけた。

「ナデージュは、カーティスのことが好きなんだ」

「そうみたいだな」

 どうでもいいと言いたげだ。

 でも、喋ってはくれるみたい。

「セオドアは、カーティスとどれくらい一緒にいるの?」

「十年にはなる」

「じゃあ、ナデージュもそれだけカーティスと一緒にいたの?」

「ずっとではないな。カーティスが滞在していた場所に、あの王女が遊びに来ていた」

 カーティスの話をする時も淡々としている。

「セオドアは、いくつなの?」

「22。それよりは上じゃない。生まれた日を知らないからな。俺がいた所は、全員同じ日に年齢を一つ加算する」

「そうなんだ……ごめん……」

 それで、人に対して冷めている理由がわかった気がした。

「なんで、お前が謝る」

「セオドアだって、これまで色々あったはずなのに」

 私みたいなのの面倒を見なければならないのだから。

「お前の中に、それだけ大事なものがあったんだろ。それが失われて、立てなくなるのは当たり前だ」

「大切なもの、セオドアにはない?」

「ない」

 きっぱりと、あっさりと、答えられる。

 どちらがいいのか、私にはわからない。

 喋るのをやめて、セオドアの後ろを黙って歩いていた。

 しばらく無言で、もう、出口が近いと思った所でだった。

 ふと誰かに見られている気がして、立ち止まって辺りを見回した。

「フィルマ、いいから来い」

「うん」

「気にするな」

「うん。わかった」

 気のせいではなかったようで、セオドアが気にするなと言うのなら、それに従う。

 二人で一緒に馬車に乗ったわけだけど、動き始めたらすぐにウトウトしてしまって、その後もほとんど会話の無いまま屋敷に到着して、気付いたらセオドアはいなくなっていた。

 その日が終わる頃には、ナデージュと会ったことなど私の中ではあまり思い出されることもなくなっていて、特に気にすることなく、いつものように就寝した。



 私が知らない間に何かが起きようとしていたのは、日付が変わった後のことのようで。

 暗い夜明け前に目が覚めた。

 何か聞こえた気がしたから。

 ベッドの上で、ゆっくりと上体を起こす。

 部屋の周囲はしーんとしているから、外からの物音かもしれない。

 ベッドから降りて、扉まで移動した。

 扉の隙間からそっと廊下を覗く。

 窓のカーテンはまだ閉められている。

 誰もいない。

 元々人は少ないけど、ここまで気配がない事はない。

 暗くて、静か。

 不気味なくらいに。

 扉を開けて、体を半分出した。

「まだ早い。寝てろ」

 その途端に、声が飛んでくる。

 足音を立てずに近付いてきたのは、セオドアだ。

「何かあったの?」

「何もない」

 すぐに否定するセオドアの表情にも変化はないけど……

 血の匂い……

 それは、セオドアからだ。

 セオドアが怪我をした様子はないから、他の知らない誰かがたくさん死んだのかも。

「中にいた方がいいんだね」

「そうだな」

「また、後で来てくれる?」

「様子を見にくる」

「ケガ、しないでね」

 余計な言葉だと言われるかなと思ったけど、

「わかった」

 そう返事すると、セオドアは私を部屋に戻して扉を閉めた。

 寝てろと言われたからベッドに戻る。

 横になって耳を澄ましてみても、何も聞こえてはこない。

 外が明るくなるまで、ベッドから動かなかった。

 いつも通りにメイドさんが起こしに来るまでは。

 私の周りにいた人達には、なんの変化も見られない。

 いつも通りの人がいつも通りに起こしにきてくれた。

 何かを思っても何かを聞ける雰囲気ではなくて、朝の支度を済ませて、朝食を食べ終えた頃にセオドアは戻ってきた。

 ちゃんと休めたのかと心配にはなったけど、そんな思いなど無用だと言うように、部屋に戻った私に何があったのかを淡々と話し始めた。

「夜中に、屋敷に近付く不審な奴らがいた。拘束して取り調べた結果、南部の貴族が雇ったものだった。誰かがフィルマの情報を流したようだ」

 随分と控えめに報告してくれたのだと思う。

 何人も死ぬことになって、拘束された人達は情報を引き出すために拷問されることにもなっただろうし。

 これから先、私の周りでどれだけの人が死んでいくのかな。

 そんな必要があるのかと考えていると、まさにその答えをセオドアが言った。

「お前はカーティスの妹だからな。利用価値があると判断されている間はエクルクスが守る」

「利用価値……」

「資源に乏しいエクルクスは、帝国の広大な土地から得られる物がほしい。だから、カーティスに協力している。俺に与えられた領地すら、今のエクルクスにしてみれば多くの価値があるものだ」

 じゃあ私は、どこの時点で用済みになるのかな。

 得られるものが得られたらなのか、カーティスがいなくなったらなのか。

 その時が来たらどうなるのか。

 セオドアを見た。

「どうした?」

 その判断は、真っ先にセオドアが行うのかな。

 セオドアは、いつかエクルクスに帰るのか。

 それとも、最後までカーティスと一緒にいるのか。

 どちらにせよ、私とずっと一緒にいるわけではない。

 複雑な思いだった。

「何でもない……」

「自分が狙われているとなると不安だろうが、ここにいれば大丈夫だ」

 そうじゃないけど、今はまだ、ここにいればセオドアは戻ってきてくれる。

「また、何かあればお前に知らせる。その方が安心するだろ」

「うん……」

 私の返事を聞いたセオドアは、もう用は無いとばかりにさっさといなくなっていた。

 敷地内にいれば安全だからと言われたので、いつもの場所に移動して座る。

 死んだように生きるなって言ったくせに。 

 怒っているのか、哀しんでいるのか。

「セオドアに価値が無いと判断されたら、生きてる意味があるのかな……」

 自分の中にあるものを、空に向けて問いかけていた。





しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...