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最初で最後の
「じゃあ、いい?僕が先に降りるから、アシーナは堂々としていればいいよ。いつもだけど、今日の君は特に誰よりも素敵な女性だ。非の打ち所がないよ。ダンスがとても楽しみだ」
今日のメルさんこそ、パーティー用の装いも相まって、いつもよりもさらに引き締まった印象を与えた。
そんな方にエスコートされながら馬車から降りて会場に向かう。
ふはぁ~、煌びやかな場所だなぁ。
腕に捕まって歩きながら、視線をあちらこちらに向けることをやめられなかった。
“うそっ、本当に結婚してたの!?”
“相手はどこの誰よ、見たことないわ”
“誰よ、クラム伯爵は男色だから女性に興味ないって言ったのは”
すれ違うたびに、特に女性たちのヒソヒソとした囁き声がさざなみのように広がっていく。
気にしていなかったけど、それは王族の入場が告げられるまで続いた。
王族の方々……
となると、あの方もいるはずなのだけど……国王陛下に続いて登場された方々の中にはいない。
王妃様と王太子様しかいない。
メルさんは知っていたのかな?王女様はいないって。
「アンディ王太子殿下とは、友人同士でもあるんだ。後で君のことを紹介したい」
王族の入場に合わせて下げていた頭を上げると、メルさんは私にピオルネを説明してくれた時と同じような表情を見せた。
自慢したいと思っているのは誰なのか。
私だと嬉しいな。
「メルキオール様ぁぁぁ!」
あ、出た。
その声を聞いた途端に、メルさんに緊張が走るのが腕越しに伝わってきた。
会場が一気にざわつき、声を上げた主に視線が集中する。
注目を集めていることも意に介さず、問題の王女殿下は、貴族用の出入口からずんずんと大股で入ってくると、前に立って、ビシッと音がするほど私を指差した。
「私、聞きましたわ。その女、目も耳も悪い欠陥だらけだそうじゃない!」
勝ち誇ったかのような笑いを向けてくる。
「そんな女を妻にして、きっと子供も同じような欠陥品が生まれるに違いないわ!今すぐ別れるべきよ!」
正直、王女殿下が私のことをどれだけ蔑んだ発言をしてきたところで、惨めだとは思わない。
人を指差して、悪口を叫ぶ人の方がよほど恥ずかしいからだ。
それも誤った知識と偏見を大声で言ってしまって、どれだけ自分自身を貶めていると思っているのかな。
王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、同じことだ。
陰口を叩けばいいのかと言えば、それはまた別の話だけど、扇子で口を隠しながら遠回しに言われたりした方が、もやもやしてそっちの方がダメージが大きそうなのに。
驚きあきれるばかりで、傷付く要素が全くない。
ある意味清々しい。
そもそも、自分自身が欠陥品って思っていたのだから、それではいけなかったのだ。
両親を始めとしたたくさんの人が私を愛してくれていたのに、自分で自分を否定してはダメだ。
もう、絶対に欠陥品だとかそんなことは思わない。
ただ、メルキオールさんに迷惑をかけてしまったことは、申し訳ないと思った。
私と一緒に笑われてしまうのは嫌だ。
せめて、ここで俯きたくはないから、背筋を伸ばして王女殿下を見据えた。
たったそれだけのことでも、王女殿下は怯んだ様子を見せる。
「アシーナ。大丈夫」
横に並ぶメルさんを見上げると、いつもと変わらない微笑を浮かべていた。
組んでいた腕を一度解くと、私の腰を抱き寄せ、凛とした声で言った。
「王女殿下にとって、僕達は招かれざる客のようですね」
「違うわ!メルキオール様は、違うのよ!」
「僕は国と王家に対し、忠誠を誓う貴族の端くれでありまして、国王陛下には大恩もあります。この場を乱したくはありません。しかしながら、僕の最愛の妻が侮辱を受けているのなら、僕もこれ以上この場に留まることはできません。失礼させてもらってもよろしいでしょうか」
「いや、君達が退場する必要はない。誰か、王女を連れていけ」
「お父様!?」
私が突っ立っている間に、目の前ではどんどんと話が進んでいく。
王女様がものすごく騒ぎながら、出口の方へと連れて行かれ、その間王妃様と王太子様は、慣れているかのように平然としていた。
社交界では、いつもこんなことがあったのかな?
そうなのかもしれない。
お騒がせ王女?
「飲み物はいかがですか」
場を取り持つように目の前にトレーが差し出されたので、グラスを受け取る。
周りを見ると、他の人達にも同じように配られていた。
キレイな黄金色をしていて、美味しそうだと思ったのだけど、グラスの縁を口に近付けたら、とても強いアルコールの匂いがした。
これは無理だ。
もともとお酒はほとんど飲めないのに、きっとこれを飲んだら倒れてしまう。
「アシーナ?何か困ってる?」
「これを受け取ったのですが、思ったよりもアルコール臭が強くて飲めそうになくて……」
「じゃあ、代わりに僕が飲むよ。アシーナは、こっちにしてみたら?」
メルさんがひょいと取ったのは、果実水のようだった。
「嫌なアクシデントはあったけど、夜会はまだまだこれからだ。楽しもう」
「はい」
「さっきは、王女様に酷いことを言われても、凛とした姿勢を崩さなかったから、かっこよかったよ」
「そうですか?せめて弱気にはならないでおこうと思っていました」
メルさんがまた微笑みかけてくれると、眩しいものを見るかのように、私を見つめてくれる。
そこで、唐突に思ったことがあった。
メルさんと家族になりたい。
メルさんは、私が離婚をせずに結婚を継続したいと言い出したら、どう思うのだろう。
困るかな。
嫌だと思っても、それを隠して私の希望を叶えようとするのかな。
聞かないとわからない。
「メルキオールさん。帰ってから、話したいことがあります」
「うん?わかった。どんな話でもちゃんと聞くよ。じゃあ、今日はお酒は控えておかないとね。僕は、これだけにしとくよ」
黄金色のお酒が入ったグラスを少しだけ掲げてみせた。
それを口に運ぶ。
私もグラスを口元に運び、それぞれの飲み物がコクンと飲み込まれていく。
「だめ、だめー!メルキオール様がそれを飲んじゃだめ!」
「えっ?」
遠くから聞こえた声に私が振り向くのと、メルさんが吐血するのは、同時のことだった。
今日のメルさんこそ、パーティー用の装いも相まって、いつもよりもさらに引き締まった印象を与えた。
そんな方にエスコートされながら馬車から降りて会場に向かう。
ふはぁ~、煌びやかな場所だなぁ。
腕に捕まって歩きながら、視線をあちらこちらに向けることをやめられなかった。
“うそっ、本当に結婚してたの!?”
“相手はどこの誰よ、見たことないわ”
“誰よ、クラム伯爵は男色だから女性に興味ないって言ったのは”
すれ違うたびに、特に女性たちのヒソヒソとした囁き声がさざなみのように広がっていく。
気にしていなかったけど、それは王族の入場が告げられるまで続いた。
王族の方々……
となると、あの方もいるはずなのだけど……国王陛下に続いて登場された方々の中にはいない。
王妃様と王太子様しかいない。
メルさんは知っていたのかな?王女様はいないって。
「アンディ王太子殿下とは、友人同士でもあるんだ。後で君のことを紹介したい」
王族の入場に合わせて下げていた頭を上げると、メルさんは私にピオルネを説明してくれた時と同じような表情を見せた。
自慢したいと思っているのは誰なのか。
私だと嬉しいな。
「メルキオール様ぁぁぁ!」
あ、出た。
その声を聞いた途端に、メルさんに緊張が走るのが腕越しに伝わってきた。
会場が一気にざわつき、声を上げた主に視線が集中する。
注目を集めていることも意に介さず、問題の王女殿下は、貴族用の出入口からずんずんと大股で入ってくると、前に立って、ビシッと音がするほど私を指差した。
「私、聞きましたわ。その女、目も耳も悪い欠陥だらけだそうじゃない!」
勝ち誇ったかのような笑いを向けてくる。
「そんな女を妻にして、きっと子供も同じような欠陥品が生まれるに違いないわ!今すぐ別れるべきよ!」
正直、王女殿下が私のことをどれだけ蔑んだ発言をしてきたところで、惨めだとは思わない。
人を指差して、悪口を叫ぶ人の方がよほど恥ずかしいからだ。
それも誤った知識と偏見を大声で言ってしまって、どれだけ自分自身を貶めていると思っているのかな。
王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、同じことだ。
陰口を叩けばいいのかと言えば、それはまた別の話だけど、扇子で口を隠しながら遠回しに言われたりした方が、もやもやしてそっちの方がダメージが大きそうなのに。
驚きあきれるばかりで、傷付く要素が全くない。
ある意味清々しい。
そもそも、自分自身が欠陥品って思っていたのだから、それではいけなかったのだ。
両親を始めとしたたくさんの人が私を愛してくれていたのに、自分で自分を否定してはダメだ。
もう、絶対に欠陥品だとかそんなことは思わない。
ただ、メルキオールさんに迷惑をかけてしまったことは、申し訳ないと思った。
私と一緒に笑われてしまうのは嫌だ。
せめて、ここで俯きたくはないから、背筋を伸ばして王女殿下を見据えた。
たったそれだけのことでも、王女殿下は怯んだ様子を見せる。
「アシーナ。大丈夫」
横に並ぶメルさんを見上げると、いつもと変わらない微笑を浮かべていた。
組んでいた腕を一度解くと、私の腰を抱き寄せ、凛とした声で言った。
「王女殿下にとって、僕達は招かれざる客のようですね」
「違うわ!メルキオール様は、違うのよ!」
「僕は国と王家に対し、忠誠を誓う貴族の端くれでありまして、国王陛下には大恩もあります。この場を乱したくはありません。しかしながら、僕の最愛の妻が侮辱を受けているのなら、僕もこれ以上この場に留まることはできません。失礼させてもらってもよろしいでしょうか」
「いや、君達が退場する必要はない。誰か、王女を連れていけ」
「お父様!?」
私が突っ立っている間に、目の前ではどんどんと話が進んでいく。
王女様がものすごく騒ぎながら、出口の方へと連れて行かれ、その間王妃様と王太子様は、慣れているかのように平然としていた。
社交界では、いつもこんなことがあったのかな?
そうなのかもしれない。
お騒がせ王女?
「飲み物はいかがですか」
場を取り持つように目の前にトレーが差し出されたので、グラスを受け取る。
周りを見ると、他の人達にも同じように配られていた。
キレイな黄金色をしていて、美味しそうだと思ったのだけど、グラスの縁を口に近付けたら、とても強いアルコールの匂いがした。
これは無理だ。
もともとお酒はほとんど飲めないのに、きっとこれを飲んだら倒れてしまう。
「アシーナ?何か困ってる?」
「これを受け取ったのですが、思ったよりもアルコール臭が強くて飲めそうになくて……」
「じゃあ、代わりに僕が飲むよ。アシーナは、こっちにしてみたら?」
メルさんがひょいと取ったのは、果実水のようだった。
「嫌なアクシデントはあったけど、夜会はまだまだこれからだ。楽しもう」
「はい」
「さっきは、王女様に酷いことを言われても、凛とした姿勢を崩さなかったから、かっこよかったよ」
「そうですか?せめて弱気にはならないでおこうと思っていました」
メルさんがまた微笑みかけてくれると、眩しいものを見るかのように、私を見つめてくれる。
そこで、唐突に思ったことがあった。
メルさんと家族になりたい。
メルさんは、私が離婚をせずに結婚を継続したいと言い出したら、どう思うのだろう。
困るかな。
嫌だと思っても、それを隠して私の希望を叶えようとするのかな。
聞かないとわからない。
「メルキオールさん。帰ってから、話したいことがあります」
「うん?わかった。どんな話でもちゃんと聞くよ。じゃあ、今日はお酒は控えておかないとね。僕は、これだけにしとくよ」
黄金色のお酒が入ったグラスを少しだけ掲げてみせた。
それを口に運ぶ。
私もグラスを口元に運び、それぞれの飲み物がコクンと飲み込まれていく。
「だめ、だめー!メルキオール様がそれを飲んじゃだめ!」
「えっ?」
遠くから聞こえた声に私が振り向くのと、メルさんが吐血するのは、同時のことだった。
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