余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

文字の大きさ
72 / 91

70話 プール 3

しおりを挟む
「海斗、任せた!」

「任せろ、ここで決めてやるぜ!」

  海斗はそう言って垂直跳びをする。バレーはできると言うだけあって、スパイクのフォームがキレイだ。

「オラよっ!」

「甘いね!」

  海斗の渾身のスパイクは亮によって難なく拾われ、そのまま陽斗のスパイクが俺らの陣地へと刺さる。

「くぁぁ……少しは手加減しろよな」

「あははは……まぁ、これでチャラにするよ。ね、陽斗?」

「そうだな。これぐらいにしてるぜ、蓮」

「あぁ、そうしてくれるとありがたいな」

  今、俺らは四人で室内にあるビーチで遊んでいた。ネットやボールがあったからこうしてビーチバレーをしていた。

  女子はみんな流れるプールに居る。どうやら、これからの方針について女子だけで話し合いたいらしい。まぁ、いわゆる作戦会議だな。どんな内容かもだいたいは検討がついている。

「よし、じゃあいくぞ」

  亮から先程とは違う、フワンとしたボールが飛んでくる。どうやら、さっきまでのは俺に対する『お返し』だったらしい。海斗だけでなく、亮と陽斗にも気が付かれているとは。露骨過ぎたとは思うけど、そんなにバレるような事をした記憶はない。

  長年付き合いだからかもしれない。そう思うと、なんだか嬉しいな。

「蓮!」

「うぇっ?」

  感傷に浸っていると、目の前にボールが飛んで来ていた。俺はそのボールに対して、何も出来ずに顔面にもろに受ける。

  優しいボールだったから痛みはないが、びっくりした。

「おい、ボォッとするなって」

「あぁ、すまん。ボケっとしてた。じゃあ行くぞ」

  俺はボールを拾って軽くボールの後ろを叩く。フワッと浮いたボールが狙い通り、陽斗の方へと飛んでいく。

「おっ待たせ!」

  那乃が手を振りながらこっちに歩いてきた。その後ろからは楽しそうな顔をした瑠魅が歩いてくる。そして、またその後ろに、瑠魅の陰に隠れて、頬を微かに赤らめた冬華が恥ずかしそうに歩いてきた。

  俺らはバレー中止して那乃たちの方へと近づく。すると、那乃が冬華の背中を押しながら亮の前まで歩かせた。

「あ、えと……その、亮くん。わ、私と……あの、ウォ、ウォータースライダー……乗らない?」

「っ………!」

  亮の顔がみるみる赤くなる。隣から見ていても、冬華の表情は破壊力がやばかった。美少女の恥ずかしそうな上目遣いと言うだけでも理性が飛びそうだが、その上今にも泣いてしまいそうな潤んだ瞳は、なんと言うか、ズルい。

  理性がゴリゴリ削られる感覚さえ自覚できる。彼氏である亮ならば尚更だろう。

「あ、うん……分かった。じゃ、じゃあ……今から、行く?」

  恥ずかしそうに冬華の方へと手を差し伸べた。相当恥ずかしいのか、冬華の顔を直視できていない。

「うん!」

~~~~

「うぅ……楽しかったぁ!」

「そうだな。かなり遊んだな」

  流れるプールで那乃と二人で浮き輪に乗って流される。亮と冬華は窓から入る夕日に照らされたながらビーチに座っている。陽斗は一人でウォータースライダー、海斗と瑠魅は疲れたからと近くの休憩スペースで休んでいる。

  昼時ぐらいはかなり混んでいて、流れの悪かった流れるプール。でも、今は人も減ってスイスイ進む。人にぶつかる心配もそんなにしなくて良いからゆっくりと流れられる。

「陽斗とは上手くいった?」

「うん。お陰様でね。ありがと」

「ほとんど何もしてないけど、元通りになれたんなら嬉しいよ」

  浮き輪でプカプカを浮かびながら今日のことを振り返る。あともう少しすればこの時間も終わる。

「……………」

「……………」

  二人で静かにプールを流れる。周りに音があるせいか、はたまた相手が那乃だからなのか、この沈黙が苦にならない。ずっとこの時間が続いて欲しいとさえ思ってしまう。

「蓮くんは………夏祭り、誰と行くか決めてるの?」

「………あぁ」

  沈黙を破った那乃の声は微かに震えていたように聞こえる。俺も那乃も真正面を向いたまま、お互いに顔を合わせない。

「そっか。海斗くん達?」

「…………まぁな」

「だよね。わたしも行くからさ、会ったらよろしくね」

  那乃がどんな表情をしているかなんて分からない。何かを必死に我慢しているかもしれないし、笑顔を取り繕っているかもしれない。もしかしたら、泣いているかも……。

  そう思うと、ダメだと分かっているのに、自分の中でちゃんも答えを出したはずなのに、心がキュッと締め付けられる。俺は、自分が思っている以上に那乃に甘い、無駄で、ダメな程に……。

  俺は無意識に口を開き、那乃に希望を見せてしまっていた。

「………何言ってんだ。俺は那乃と回りたいんだよ」

「ッ………ズルいよ、いつも」

  恥ずかしいと言う気持ちが湧き出る。この瞬間、俺はイケないと分かっていても、視界の片隅に映った驚いたような嬉しそうな、そんな那乃の横顔に見惚れてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

君の声を、もう一度

たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。 だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。 五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。 忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。 静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。

処理中です...