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プロローグ

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  空は赤黒く染まり、地は建物の残骸のみで埋め尽くされていた。

「この大陸で最も強い国と聞いて楽しみにしていたが、所詮は人間か。あまりにも弱すぎる」

  宙に浮かぶ一人の男。男は更地と化した元大陸最大の戦力を持つ国……ハレンドラ王国を嘲笑うように見下ろしていた。

「クソッ……あれほどに強いなんて……」

「我々人類ではもはや勝てないのか?」

  宙に浮かぶ男……魔を統べるその男の名はベルハルト。元人間にして現魔族の王だ。

  ベルハルトの脅威から、この国を守るために集まった精鋭たちは全てベルハルトに殺されたか、自力で動くことが出来ない状態にまで追い詰められていた……はずだった。

「変わり果てたな。ハル」

「………貴様、何者だ?」

  更地と化した地面に唯一自分の足でしっかりと立っている人物がいた。

  その男は古びたマントで全身を覆っていた。

「俺は……そうだな。テメェをぶっ潰す力を持つ……勇者、とでも言おうかな」

  男は腰から一本ナイフを取り出し逆手にして持つ。

「そんなボロボロのナイフで我と戦うというのか?」

「確かにボロボロだが……『斬れ味はかなり良い』んだよ」

  男が取り出したナイフは錆びているのか、既にボロボロになっていた。どう見ても斬れ味が良さそうには見えない。

  その今にも折れそうなそのナイフを片手に男は姿勢を前のめりにし戦闘態勢に移る。

「貴様が誰だろうと関係ないか。良かろう!その意気込みに免じて我も本気を出してやる!」

「うるせぇな」

「っ………なっ!?」

  ベルハルトが魔法を使おうと構えた瞬間だった。ほぼ同時に男は動き出して、ベルハルトの腕を切り落とした。

「どんな気分だ?ボロボロのナイフにやられた気分は?」

「き、貴様ァ!貴様だけは絶対に楽に死なせんぞ!」

  ベルハルトから黒いモヤのようなものが放出された。

  そのモヤが全身を覆っていく。すると、大気が揺れた。誰もが感じるほどに凄まじい圧力が周囲を支配する。

「貴様に我の恐ろしさを教えてやる!その余裕をかました顔を絶望で塗り潰してやる!『黒腕』」

  ベルハルトの背中から漆黒に染まった巨大な腕が生える。

  そして、先程切り落とされた腕も再生していた。

「我に恐怖しろ!」

  ベルハルトは男目掛けて拳を振るう。

「『消えろ』」

  男のその言葉に反応してか否か、この世界から二人を除いた全てが消えた。空間という概念すらも消え、二人は真っ白な世界に居た。

  男はただ呆然とし、ベルハルトを見つめていた。

「き、貴様……何をした!」

  我に戻ったベルハルトその男を空中から見下みくだしながらそう叫んだ。

「何もしてねぇよ。ただ、そうだな。今のでテメェの存在自体をことも出来るぜ?」

  平然とそう答える。あまつさえ、世界最凶と恐れられているベルハルトを脅す始末だ。

「っ……!!」

  ベルハルトは無意識にその男から距離を取った。

  本能レベルで感じ取っていたのだ、この男の脅威を。

「本当はテメェを殺したくはねぇんだがな……俺のために『死んでくれ』」

  その言葉を聞いた瞬間、ベルハルトは急に血を吐いた。

  魔法で宙に浮いていたベルハルトは魔法を制御しきれずに地面と思わしき場所に落下していく。

  地面と思わしき場所に落ちたベルハルトは心臓部を両手で抑えてその場で苦しみに悶えていた。

「あと『一分』もすればテメェは死ぬ。今までありがとな。ハル」

  ゆっくりとベルハルトに近付いた男は見下みくだすような視線を向ける。

「ま、まさか…き、貴様は!」

  男は苦しむベルハルトに更に近付いて屈む。

「久々だな、ハル」

  そして、男はボロボロのマントのフードを取り素顔を見せる。

  その姿を見たベルハルトは必死にその場を離れようともがく。

「はぁ……意味ないっての。あと少しで死ぬんだよ?」

「く、来るな!我に……この俺に近づくな!この化け物が!」

  そのやり取りをしてる時だけベルハルトは痛みや苦しみを忘れてひたすらに、必死に地面と思わしき場所を這って逃げようとした。

「化け物って………。魔族に堕ちた奴が何言ってんだよ?『戻ってこい』よ」

「あ……あぁ……ああぁぁぁぁぁぁああああああぁ!!!!!やめろ!もう、やめてくれ!頼むからもう一思いに殺してくれ!」

  ベルハルトの体はいつの間にかその男の方を向いており、目の前にはその男が屈みながら笑みを浮かべていた。

「そう言われるとなぁ……お前には『長生き』して欲しいなって思っちゃうよ」

「それ以上言葉を紡ぐな!口を開くな!魔法を使うな!」

「そんなに拒絶するなんて……元々は一緒に冒険してた仲だろ?」

「黙れ黙れ黙れっ!貴様と話す事などもうない!」

  地面に這いつくばりながらも威勢良くその男に告げるベルハルト。

  男は顔を歪ませてあからさまに悲しそうな顔をした。

「そっか。じゃあ、もうお別れか」

  そう呟くと男は立ち上がり、片手をベルハルトの方に向ける。

「お前は俺の親友だ。『楽に殺してやるよ』」

「っ…………」

  先程まで逃げようと必死にもがいていたベルハルトだが、急に複雑な顔になる。そして今度は、覚悟を決めたように目を力強く閉じる。

「最後に言いたいことはあるか?」

  その言葉でベルハルトは体をビクつかせる。

「良い………のか?」

「あるなら、な」

  そう聞き返すベルハルトに対して男はぶっきらぼうに返す。

  ベルハルトは少し時間を空けて口を開いた。

「…………すまんな、迷惑かけて……今までありがと」

「………急になんだよ?」

  急にシオらしくなったベルハルト。男もさすがに困惑を隠せずにいた。

「お前との旅は楽しかった。お前と対峙することになってスンゲェ悲しかった。お前の事を顔を見るまで忘れてた自分が悔しい。酷いことを言ったことに対しても………でも、こんな俺を止めてくれて………被害が拡大する前に止めてくれて………ありがとな、キョーガ」

  死にかけとは思えないほどの長文をゆっくりと、感情を込めて話していた。

  ベルハルトから紡がれる言葉を聞いて男は……キョーガは顔を逸らした。

「………神には気をつけろ」

「……………そうかよ。んじゃ『あばよ』」

  キョーガはベルハルトに向けていた方の手を、何かを潰すかのように握った。

  その後、真っ白な空間はチリとなり消え去る。そして、元通りの世界へとなっていく。

  全てが元通りの世界には戻っていたが、そこには力無く地面に倒れる親友魔王の姿と地面に零れた一粒の涙のみだけが残っており、キョーガの姿は既になかった。


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  ファンタジー系の作品を書いてみました。更新が遅い上に、まだ完結していない恋愛小説もあります。

  できる限り、週1でどちらかは更新していきたいと思っております。

  拙い文章ではありますが、これからよろしくお願いします!

  また、誤字脱字、質問や感想等あれば気軽にコメントお願いします。
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