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1章 超能力者の存在

19話 戦闘 3

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「クソッタレが……"思考鈍化デュレイ"!」

  京雅きょうがの方へ手を伸ばして超能力を使う。そして、もう片方の手でジャケットの内ポケットからフォールディングナイフを三つほど取り出した。

「"他物硬化"」

  ナイフ全体がほのかに光る。光ったことを確認した勝司しょうじは京雅目掛けて投げつける。

  その場で固まったように立ち尽くす京雅の腕に三本のナイフが刺さる。

「ッ……!」

  痛みで意識が戻った京雅はよろけて倒れそうになる。

「………なんてね」

  ふらついていた体をピタッと止めて怪しげに微笑んだ。

  勝司はその場で身構えて内ポケットから更にナイフを取り出す。京雅の次の動きを見逃さぬように注視する。どんな些細な動きにも対応できるように勝司は姿勢を低くした。

「…………………えッ?」

  京雅が横に重心をズラして体が傾いたと思った瞬間、勝司の視界から京雅は消えていた。

  勝司は焦って周囲を警戒するが、いつの間にか視線は傾いており、妙な浮遊感を感じた。

  その不快感すら覚える浮遊感の原因は、いつの間にか後ろに回っていた京雅からの回し蹴りによるものだった。京雅の一蹴りで勝司の足はすっかり床から離れ、体全体が宙に浮いている。

  京雅の蹴りによって鳴り響いた音はまるで鈍器で殴られたような鈍い音で、決して人間同士がぶつかって鳴る音ではなかった。

  瞬きをする暇もなく地面に叩きつけられた勝司の頭からは大量の血が流れており、体全体が痺れたように小刻みにピクピクして痙攣しているように見える。

  京雅はその場から勝司を見下みくだすような目を向けていた。その勝司を見る瞳には軽蔑や失望といった感情が含まれていた。

「テメェの部下の方が何倍もマシだったよ」

  そう吐き捨てると京雅は指を鳴らしす。

  その音に反応してか、しょうの家のリビングは瞬く間にキレイになる。壁や床に付着した大量の血もキレイさっぱりなくなって、床に転げてある二つの死体も灰も消えていた。

  薄暗く不気味な雰囲気だったリビングも普通の明るいリビングへとなって、全て元通りになった………勝司を除いて。

「まだ死んでないのか」

「…………」

  何の反応もなくその場に倒れ込んだままだ。

「せっかくキレイにしたのによ……」

「…………君の負けだよ」

「………はっ?」

  ドスの効いた声が京雅から発せられた。勝司は体を横に倒して仰向けになって天井を見つめる。

「君はまんまと罠にかかったってわけだよ」

「………」

「どっかでは分かってんじゃないのか、君」

「っ………お前、まさか……!」

  京雅の頭に想定していた最悪の事態が駆け巡る。

「まさか……そんなバカなッ!」

  京雅は頭を抱えてブツブツとその場で何かを言っていた。何を言ってるのか勝司にはさっぱり聞こえてないが、今がチャンスだと思った勝司は、痛む体を鼓舞して窓へと向かう。

  京雅から逃げて体制を立て直すつもりなのだろう。その様子に京雅は全く気が付く様子がない。

  床を這って移動して、あともう少しで窓に辿り着くと言うところまで来て京雅の声が不意にから聞こえた。

「逃がすと思うか?」

「…………」

  その声が聞こえて勝司は既に諦めていた。この悪魔からは逃げられないと察したのだ。

  京雅は勝司に冷徹な目を向けて最後に言い放った。

地球ここはテメェみてぇな人外が居て良い世界じゃねぇんだよ、クソ野郎共が」

  勝司の背中………心臓部目掛けてかかと落としをした。

  京雅のその一撃で勝司の心臓は完全に停止した。

「『異空倉庫トレランス』」

  京雅の顔の真横に楕円の形をした空間が元の空間を破って現れた。

  京雅は片手で勝司を持ち上げるとその空間へと放り投げた。

  京雅は最悪の事態が起きてないことを祈りながら、事実確認ともしもに備えるために学校へ戻ろうと踵を返す。それに合わせて異空倉庫トレランスはゆっくりと閉じていった。

「マズイな……予想が正しければ瑛翔えいとが危ない」
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