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2章 奇妙な事件

23話 死線 (回想) 4

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~瑛翔視点~

  この紙に描かれてるのは……治癒魔法の魔法陣だ。京雅きょうがに渡されていたのをスッカリ忘れていた。一度しか使えないから、使い時は見極めろと言われた。

「今がその時だ」

  血を一滴、その紙に垂らす。その瞬間、体全体を淡い緑色の霧のようなものが覆う。

「体が……動く!」

  僕は足に力を入れて思い切り走り出す。

  本来なら絶対に間に合わなかった。きっと神様がミリフィアさんを助けるために、僕の味方をしてくれているんだ。なら、僕はそれに報いなければ!

「はぁぁああああ!!!」

「んなっ!?」

  間一髪、間に合った。僕の蹴りでルレインは横によろめいた。

「大丈夫ですか、ミリフィアさん」

「…………なぜです?なぜ助けてくれたのです?あなたには私を守る義務はありませんのに」

  僕はその問に答えない。僕はその答えを持ち合わせてないから。 

「………少し離れていてください」

  守りながらはさすがに戦えない。そもそも、体の状態は回復しても、記憶自体は無くならない。あの痛みをもう一度味わう。はっきりと言って嫌だ。できるならもう二度とあんな痛みを味わいたくない。でも、やらないと……僕が。

「君、面倒だな。一撃で沈めてやろう」

「スピードには自信があるんですよ」

「『叩圧血斬インヘール・スラッシュ』」

  速い!想像を遥かに超える速度に体が一瞬に反応できなかった。でも、京雅の方が更に速かった。

「うっ……」

  危なかった。何とか横に回避………あ。

「クハッ!?」

「お子様はさっさと寝ていろ」

  腹が……。まともに呼吸が……。

「少し遊んでやった程度で図に乗るな。君は本来、私の前で一秒と立てぬ存在だ」

  呼吸を……体勢を……マズイ。意識が薄れてきた。

  せっかく、京雅のおかげで力を手に入れたのに……立ち上がれたのに、結局これなのか?

「アガッ!?」

「お遊びはおしまいだ。腕一本で勘弁してやろう」

  足に感覚がない。動けない。怖い。死にたくない死にたくない死にたくない!

  腕一本だと?そんな痛みを伴いながら僕は死なないといけないのか?嫌だ、やめてくれ。僕は死にたくない。嫌だ、そんなもの振り下ろさないでくれ!お願いだから!

「やめてッ!!」

  あれだけの速度で振り下ろした腕が一瞬で止まる。声の主はミリフィアさんだ。

「目的は私ですよね?なら、私だけ殺してください。その人は何も関係ないので」

  また……また守られるのか?僕は……何も変わってない。

「そうですね。でもまぁ、ここに逃げ場はありませんからね。彼を殺してからでも遅くはないでしょう」

「そん、な……僕は……死にたくない、お願いしますから……お願いします……もう、やめてください」

「……醜いな。興が冷めた」

  僕は……生き残った、んだ。

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~ミリフィア視点~

「さすがは王女様。最後の最後まで他者を助けるとは、泣けますね」

「準備は出来てますよ」

「では、せめて楽に殺して差し上げましょう」

  私はソッと、目を瞑った。

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  回想、ついに終わりました。予定ではあと三話程度で二章完結、と言う感じですね。今週中に二章完結を目指し、書いていきたいと思います。

  拙い部分もありますが、是非最後までこの作品をよろしくお願いします。
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