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1章 クズ勇者の目標!?

クズ勇者、自分語りをする 1

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「クソッ……何でだよ……」

 俺は、俺はなんでこんな事も出来ねぇんだ……。ゴミを切り捨てるだけの簡単なものなのに。

  リョーマは両膝を地面に着け、正座のように地面に座り込んだ。

  天を見上げるその顔は絶望や失望で染めあげられていた。

  頬を伝い涙が一粒落ちた。

「俺は……俺は人間ゴミとなんら変わらないのか……?」

 自分の信念すら貫けないゴミ虫どもと同じなのか?認めたくない。あんな奴らと一緒にしないでくれ。

 俺は、俺は勇者だぞ?下等な人間とは比べ物にならぬほど崇高な存在なんだ。

  リョーマの一撃は当たるはずだった。回避のしようがない完璧な突き。

  だが、もう少しのところで手は急停止。木の枝を握る手は力が抜けていき、そして落ちた。

  そのままフィールは尻もちをついていた。

  リョーマはそんな自分に失望し、力無く地面に座り込んでいった。

 人間はただのゴミだ。ゴミに感じるものなんてない。

 なのに俺はなぜ今、それを感じているのだ。今更人間はゴミじゃないと言うのか?

 あれだけ虐げられてきて、コイツらは大丈夫だと言うのか?

 それはザコドラと同じことだ。

 俺はこの世界の人間をコイツらしか知らない。それなのに人間に期待している。

「はっ……」

 なんて滑稽なんだな。俺は自分の信念すらも、今捨てようとしてるんだな。

  リョーマは自嘲気味に笑った。

 今の俺じゃ人は殺せない。どれほどクズな人間でも希望があると感じてしまうだろう。

 だが、ここで俺の考え自体を否定してしまえば、今までの俺自体を否定することになる。

 今俺が、人間はそんなにゴミじゃないと認めてしまえば昔の俺はどうなる?

 俺は自分の信念を曲げない。ここで曲げれば俺は俺としての人格を形成することが出来なくなる。

 俺は人間に期待するし希望を見出したい。だが、依然として人間はゴミだ。それは変わらない。師匠から習ったんだ。

 結局人間は土壇場で卑怯にも逃げると。信じられるのは自分だけ、他の者はただのゴミに過ぎないと。

「立てるか、フィール」

「えっ、あっ、うん。ありがと」

  手を差し伸ばしてフィールの手を掴んだ。

  どうやら足を捻り立ち上がろうにも立ち上がれない状況だったようだ。

「なんか、スッキリしたみたいだね」

「どういう意味だ?」

「そのまんまだよ」

「そうか。まぁ、なんだ。俺こそありがとな」

 俺は人間を信頼するんじゃない。この二人だから信頼するんだ。

   そう自分に言い聞かせることで、リョーマの精神状態は少しずつ落ち着いていった。

「リョーマ。一つ聞いても良い?」

「テメェごときが俺に質問だと?死にてぇのか?」

 信頼はする。だが、結局はゴミだ。それに今更対応を変えるのはなんだか癪だしな。

「なんでそんなに人間にも敵対視するの?」

「ア”ァ?敵対視だと?テメェらは俺の敵にすらならねぇゴミクズどもだろうが。調子乗んな、カス」

「えぇ……じゃあさ。なんでそんなに強いの?」

「ゴミが人間よりも強いと思ってんのか?」

 俺は強い。だが、それ以上にコイツらは貧弱で脆く、とてつもなくザコいだけだ。

「他の人間に怨みでもあるの?」

「怨み、か」

俺が人間に対して持つこの気持ちは怨みなのか?

 いや、もっと強い。怨みなんて比じゃない。根本的な何か。

 その何かが分からねぇが、怨みとは何か違う気がする。

「良かったらさ、昔話しない?もしかしたら何か分かるかもしれないしさ」

「テメェに話す話なんてねぇよ」

  リョーマはファニの方へ向かい歩き出した。

  ファニが寝てる目の前まで来るとリョーマは座り込んであぐらをかいた。

  手を伸ばしてファニの頭に乗せた。そしてそっと頭を撫で始めた。

  そんなリョーマの姿を後ろから見ていたフィールは唖然として立っていた。

 俺は嬉しかったのかもな。もしかして、俺は自分のことを誰かに話したかったのかもしれない。

 きっと心が弱ってるからだ。色んな事がありすぎて不安定になってんだな。

 弱音を吐きたくて仕方がない。誰かになんでも良いから話したい。

  リョーマはそんな欲求に強くかられた。

「フィーラもこっちに座れよ。少しなら話してやるよ」

 ファニコイツの髪を撫でてると何だか安心する。

  恐る恐る、フィールはリョーマの隣に座った。

  それを横目で確認したリョーマは視線をファニに向け、口を開いた。

「さて、どこから話したものか」
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