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1章 クズ勇者の目標!?

クズ勇者、疑問に思う

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「テメェが魔王か?」

 確かに、他の野郎どもとは魔力の保持量は桁違いだ。だが、なんなんだこの違和感は?

 コイツからは戦意も敵意も感じられない。

『ハハッ。リギルには感謝しなければな』

  悲しそうな顔をしていた魔王。それを取り繕うかのように笑を零した。

『良く来たな、勇者。さぁ、人間の敵である我を殺せ』

  リザドラと名乗った魔王は両手を目一杯に横に広げ、殺せと言わんばかりにこちらを見てきていた。

『魔王様!』

  塔から沢山の魔族が出てきた。雰囲気からして皆かなり強い魔族だ。

『おぉ。すまぬな。我一人でろくに立つこともままならぬからな』

  リザドラに治療された老人側近のビランの代わりに三人の魔族が魔王の体を支えた。

「テメェ……何がしてぇんだ?」

  フィールとファニ、それにリョーマもこの状況に頭が追い付いていなかった。

『我は我を殺すことの出来る人間を待っていたのだ』

  清々しくそう言い放った魔王。後ろに居る魔族や魔王の体を支える魔族、ビランも顔を俯かせるだけだった。

  だが、対照的にフィールは目を大きく開かせ、驚きと喜びを孕んだ目を向けた。

「私は勇者。勇者フィールです」

  大きな一歩を踏み出し、そう告げた。

『そなたが……今こそ積年の恨みを晴らしてくれ』

  殺ってくれと遠回しに言い、ゆっくりと魔王は目を閉じた。

  だが、周りの魔族たちは臨戦態勢に入っていた。

「私に提案があるんです。どうか聞いてくれないでしょうか?」

「テメェ、急に何言ってやがる?」

  少しのをあけ意を決したような顔つきになったフィールは魔王の目に視線を合わせた。

「私は魔物、いえ、魔族の皆様と平和に共生していきたいんです」

  その提案を聞いた魔王は驚いていた。が、少しずつ顔が緩んでいき、最終的には高らかに笑った。

『平和とな?この好機を捨ててでも、そのような提案をするか!』

  立つのすら一人ではおぼつかない魔族が、豪快に笑った。その姿に魔王の面影は一切なかった。

『フィールさんはズレませんね』

  呆れ半分感心半分の目でフィールを見たファニ。

『……リギルの死は無駄ではなかったのだな』

  どこか遠くを見つめ、そう自分に言い聞かせるように呟いた魔王。

『面白い。その提案を受けよう』

  ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべフィールの方に手を差し伸べた。

『ほ、ホントに魔王様を殺さないのですよね!?』

「うん。約束する」

  魔王の体を支える魔族の一人が声を上げた。

『口を開くなと言ったではないか』

  優しく諭すように声を掛ける魔王。だが、その声すらもこの魔族の耳には届かなった。

『良かった……もう、もう誰も悲しまずにすむのですね』

  涙を零しながらそれだけ
を言い切った魔族。

  周囲の魔族たちの緊張もほぐれてるように見えた。

「やってらんねぇな」

  ほのぼのとする空間に耐えきれず、リョーマは横にズレた。

『あの魔王さん、多分フィールさんが患っていた病気と同じものを患ってますよ』

  リョーマの隣に移動してきたファニはそんな事を呟いた。

「そうかよ。なおさらつまんねぇな」

『治してあげたらどうです?』

「俺は死の救済しかしねぇ主義だからよ」

  ぼぉとフィールたちの方を見て言った。

「俺の知ってる展開じゃないな」

  そう独り言を漏らし空を見上げた。
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