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1章 クズ勇者の目標!?

クズ勇者、違和感を覚える

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「なにがどうなってんだ?」

「驚いた?」

 おかしいだろ。ここは魔族の居る場所だろ。なのになんで……俺の脳もイカれちまったのか?

  扉を超えた先で、リョーマの視界に入ったものは先程とは全く違う場所だった。青々と生い茂る草原に大きなレンガ造りの家が建っていた。

  しかし、そんなことよりももっと驚くべき光景が広がっていた。

「……楽しそうだよね。やっぱり、魔族も人間も変わらないんだよ」

「………」

  人間の子供と魔族たちが楽しそうに追いかけっこをする姿がリョーマの目の前にはあった。

  結界ドアによって先程までは見えなかった光景がそこにはあった。

  そんな光景を見てリョーマは吐き気すら感じていた。

 な、なんなんだよ。なんでそんな風に居られんだよ。少し前までは殺しあって……命を奪い合ってたじゃねぇかよ。

 たった魔王と勇者が……人間の王が平和を築くと誓っただけでこれだと?

 今までの戦争アレはなんだったんだよ。

 そんな簡単な話だったのか?たったそれだけの事で仲良くなれるようなものなのか?

 有り得ねぇだろ。そう簡単な関係じゃなかっただろ。これじゃあ……勇者がバカみてぇだろ。いったいなんのための勇者なんだ?なんのための希望なんだ?

 ただの意識のすれ違いだったと?

 いや。でも……。なんでか分からねぇが、嫌な予感がする。人間は白状で上辺だけを見せ、本心は隠し通すような弱虫どもだ。

  この光景はリョーマに一種の恐怖を植え付けた。それと同時に大きな不信感も抱かせた。

「リョーマ。もう争わないで済むんだよ。もし、リョーマが元の時代に戻れたら、きっと……ううん、必ず変わってるよ」

「そんなわけ……」

「これも全部……リョーマのおかげだよ」

「はっ?」

 俺のおかげだと?俺はテメェを殺そうとしただけだぞ。お前の目標すらも絶とうとしたんだ。

 俺は……こんな人間に会ったことがねぇ。なんなんだよ、コイツは。コイツといるとだんだん俺の中の何かが変わっていく。

「リョーマがこの時代に来てくれたから……未来は変えられたんだよ」

「………ありえない」

 そんな簡単な話じゃねぇだろ。こればっかりは上手く言えねぇし、ぼんやりとして漠然としてるが、俺の直感が告げてんだ。平和これは意味がない、と。

 きっと未来は変わらねぇんだよ。

「本当はね、リザドラさんに会わせてあげたかったんだけど、この光景をリョーマに見せられただけでも充分だよ」

  満足気な顔をして踵を返すフィール。

  リョーマは更に浮かない顔をしてその場から離れようとしなかった。

 この空間、なんだか虚しいな。何もかもが作られたように感じる。誰も本心をみせてないような、変な感じだな。

  リョーマは手をズボンにあるポケットに突っ込み、フィールの後に着いて行った。

「私もお腹減ったし、さっきのお店で何か買おうよ。リョーマもお腹減ってるでしょ」

「テメェみてぇに何も考えてねぇで生きてる奴でも腹は減るんだな」

「それ、失礼じゃない?」

「テメェにはお似合いだろ?」

 なんだかすげぇモヤモヤする。俺は何かを見落としているのか?それとも大事な何かを忘れてるのか?

 クソッ。どうせ、答えなんて出てこねぇ。もう考えるのなんてやめよ。

「じゃあ早速行こう。今から楽しみだね」

「はっ。ホント、テメェの頭は花畑だな」

 でも……どうやったら、俺は元の時代に戻れるんだろうな。

 ま、あんな腐った世界よりもこっちの方が幾分マシだし、無理に戻る必要もねぇかな。

  フィールの後に続きドアを潜る。すると再び先程の活気のある街に戻ってきた。

  リョーマがドアを閉めるのを確認すると、フィールはリョーマの方を見つめる。

「そうだ。これあげるよ」

「あっ?なんだこれ?」

  フィールがリョーマに渡したのはミサンガだった。

「ほら、色々してもらったしさ」

  頬を僅かに朱色に染め、上目でチラチラとリョーマの表情を盗み見ながら、恥ずかそうに言葉を絞り出しいった。

  リョーマはフィールからもらったミサンガを握り締めた。

「何がしてぇんだ?」

「お礼、かな?」

  いつもの調子ではなく、リョーマも違和感を覚えていた。

「俺が貰うとでも?」

「じゃあさ、記念に貰ってよ。リョーマにはずっと覚えていて欲しいからさ」

「俺はテメェのことなんてキレイさっぱり忘れたいけどな」

「付けてあげるからさ」

「要らねぇよ!」

 こんなわけも分からねぇもん貰っても嬉しくねぇよ。

 まぁ、どんなものだろうと人間から貰い受けるものは嬉しくねぇがな。

「付けなくても良いから持ってて。それ以上は何も望まないから、私の自己満足だからさ」

「チッ……」

  リョーマは乱暴にそれをポケットに突っ込んだ。

「なんかこういうの照れくさいね」

「自業自得だ、ボケカスが」

「よし、たくさん食べるぞ!」

 こいつ、人の話を聞かねぇでよ。

  こんなことを思うリョーマだが、顔には笑みが浮かんでいた。
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