英雄殺しの復讐譚

化茶ぬき

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第17話 競り。そして特訓。

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「さぁさぁ、今宵もお待ちかねの競りの時間がやってきました! 本日は商人だけでなく冒険者の方も多いようですが、お楽しみは最後に取っておきましょう! それでは開始します! 一つ目の商品はこちら!」

 そうして、競りが始まった。

 商品は魔物の素材だけでなく鉱石や植物、珍味や遺物などなんでも有りだ。

「ねぇねぇ、これってどういう仕組みなの?」

 これまで何を見ていたのか訊きたくなる問いだが、知らない人にとってはそんなものだろう。

「前に座る商人が札を持っているのが見えますか? 司会者が金額を言っているのに合わせて、札を下ろせば競りから降りる。上げたままで最後の一人になれば入札です」

「へ~……皆、これを見てて楽しいの?」

「元も子もないような質問ですが、商人にとっても冒険者にとっても、どのような商品がどれだけの金額で取引されているのかを把握するのは大切なことです。それによって取り扱う商品や、冒険者が収獲してくるものに変化が起きるわけですから」

「あ、じゃあ私たちが面白半分で見るものじゃないんだ」

「確かに目的とは離れていますが、僕らも冒険者です。資金調達をする上では大切なことですよ」

「あ~、それもそっか」

 進んでいく競りを眺めていると、見覚えのある素材が出てきた。

「さぁ、今回の目玉商品! グラスライノゥのメスだ! 傷の無い蔓の纏った外皮、血抜き済みの肉、そして頭部! それぞれ金貨五枚からのスタートだ!」

「あれって私たちが持ってきたやつ?」

「そうです。解体されていますが」

「いくらになるのかな~」

 競りが進んだ結果――

「三倍ですか。つり上がりましたね」

 それぞれの部位が金貨二十枚の合計金貨六十枚。換金所で聞いた話によればその内の一割がこちらに返される、と。

「そんなに価値があるの?」

「武器に装備に食肉に、使い道は色々です」

 入札された商品は全ての競りが終わった後に受け渡しをされる。目玉商品が出たってことはそろそろ終わりのはずだが、ステージ上は慌ただしく動いている。

「それでは皆さんお待ちかね! ここからは特別イベントだ! 商品はクエスト! なんと明日よりこの街を訪れる十三人が英雄の一人、ラヴァナ様の護衛任務だ! 滞在期間は三日間! ご存知の通りラヴァナ様は『十三人の英雄譚』の著者であり――」

 長々とした紹介を聞きながら、自然と立ち上がっていた僕はクローバーに腕を掴まれていた。

「ロロくん、ダメ。落ち着いて」

「……ええ、わかっています」

 大きく深呼吸をして、椅子に腰を下ろした。

「――そしてなんと! ラヴァナ様に同行してヴァイシュ様も護衛としてやってくる! 英雄と共に働く栄誉を得るのはこちらが選んだ二十名のうち五名のみ! それでは紹介しましょう。まずはアルデゴが王都だった時代、近衛兵として王族を守っていた兵士長・リング! 続いて街一番の腕っぷし・ワンドル! お次は第四位の冒険者――」

 続々と兵士や冒険者がステージの上に出てくるのを見ていると、ようやく高鳴っていた鼓動が静まってきた。

「二人、か」

「さすがに同時は無理だよね?」

「そうですね。僕もそこまで驕っていません。あくまでも一人ずつを確実に殺すことを理想としていますが……やむを得ない場合は――」

「さぁ、二十名がステージに出揃いました! しか~し! ここで皆様に朗報です! この場に限り! この場にいる冒険者に限り! 飛び入り参加の権利が与えられます! ルールは簡単! 全ての挑戦者が一斉にステージ上で戦い、ステージを落ちた者は敗北! 相手を殺した者も敗北! そして、最後までステージに残っていた五人が、英雄様の護衛任務に就けるのです!」

 その言葉に、客席に座っていた冒険者たちが続々とステージに上がっていった。

「……行かないの?」

「僕はまだ目立つわけにはいきません。ここは静観します。少なくとも、三日の猶予はありますから」

 そんなことを言っている間に、ステージの上には参加者が集まったようだ。

「ステージ上には飛び入り参加も合わせて計三十二人が睨み合っている! それでは早速始めましょう! クエスト争奪サバイバル! 最後までステージに残っていた五人が勝者! 始め!」

 司会者がステージから飛び降りた瞬間――ここまで響くほどの雄叫びが聞こえてきた。

 殺しが禁止のせいか攻めあぐねている者もいるが、さすがに守ることが仕事の兵士のほうが戦い方が上手いな。

「ねぇ、ロロくんは誰が勝つと思う?」

「誰が、というか、実力は圧倒的ですよ」

「え、じゃあ誰が残るのかわかるの?」

「はい。まずは元近衛兵のリングという男。次に街一番の腕っぷしというワンドル。戦い慣れてます。あとは第五位の冒険者三人です」

「第四位も居るのに、勝つのは五位なの?」

「そうですね。紹介の時は順位と名前だけでしたが、おそらくキカンとミンとイワンは兄弟です。あれだけ息の合ったコンビネーションはチームを組んでいる以上の関係性かと」

「あ、そっか。五人の中に残ればいいんだから協力するのも有りなんだ」

「むしろ、それを前提とするためのサバイバルだと思いますよ。チームで受けるクエストというのは相性も大事ですから」

 そんなことを言っている間に、早速ステージ上では予想通りの五人が勝ち残ったようだ。

「決しました! 今、この場に残っている五名が名誉ある英雄護衛任務を勝ち取りましたァアア!」

 荒ぶる司会者に煽られて拍手が送られる中、僕らはただその光景を静かに見詰めていた。

「ロロくん、勝てそう?」

「五人まとめては難しいでしょうが、問題ありません。邪魔さえしなければ殺す必要もありませんから」

「手伝いは?」

「お願いするかもしれませんが、今は機を窺いましょう」

「――これにて本日の競りは終了! また明日お会いしましょう!」

 競りが終わり、僕たちも旧王城を後にした。

 気持ちが焦っている。だが、これまでと違って今回はちゃんと準備が出来る。まずは眠ろう。考えるのはそれからだ。


 ――――


 翌日、クローバーと共にギルドを訪れていた。

「……なんか、人少なくない?」

「おそらく英雄の見学にでも行っているのでしょう。ほとんどの冒険者にとっては憧れの存在ですから」

 人も疎らなギルド内ならクエスト掲示板を眺めるのに丁度いい。

 さすがに大きな街なだけあってクエストの数も多い。英雄のことも気掛かりではあるが、だからこそ、今はクローバーに経験を積ませよう。

「何系のクエストにするの? お金は結構あるけど……採取系?」

「いえ、討伐です。ワードッグはどうですか? 数は多いですがある意味、特訓には向いている魔物です」

「私が戦うの?」

「そうです。弓の技術、圧縮魔法、持ち得る全ての力を使って戦ってください。もちろん僕も共に行動しますので危険があればお手伝いします。如何ですか?」

「……うん。やってみる」

「では決まりです」

 依頼書をクローバーに渡し、カウンターへ。

「このクエストをお願いします」

「はい。ワードッグ三十匹の討伐ですね。依頼達成については認識票に記録される戦闘記録から判断するのでよろしくお願いします。クエストを受けるのは――クローバーさんと、ロロさんのお二人でよろしいですか?」

「はい、私たち二人でお願いします!」

「受諾しました。気を付けていってらっしゃいませ」

 さすがにクエストを受けたりするのは手慣れてきた。

「場所は……スワル大平原だって。わかる?」

「わかります。街の西側の門に集合するとして、必要なものを買い揃えましょう。僕はポーションなどを。クローバーさんは武器屋ですかね? 以前とは違い、今回は戦う魔物が決まっています。それを踏まえた上で装備を整えてきてください」

「ワードッグって、たしか群れで狩りをするんだっけ?」

「そうです。依頼はワードッグがこれ以上の群れになる前に退治することなので、戦うとしてもおそらく十匹ずつくらいかと」

「ん~……わかった!」

 戦い方の変わらない僕に関しては武器も装備も新たに整える必要はないけれど、穴の開いた防具は次の英雄と対する前に新調しないといけないな。

 使い切ったポーションと、念のためにデトックスポーションを多めに買って雑嚢に詰め、西門へと向かえば、すでにクローバーが待っていた。

「あ、来た!」

「早いですね。準備は?」

 その問い掛けに、ベルトのポケットを叩いて見せた。

「出来てるよ」

「では、行きましょう」

 手薄な門で、兵士に挨拶をして街を出ればそこには広大なスワル大平原があった。

「広っ! これだとワードッグを捜すだけでも大変そう……」

「そうとも限りません。ワードッグは湿地を好むので南側にある湿地帯に行きましょう」

「おーっ! ……平原じゃないの?」

「平原と湿地と森林の三地帯を合わせて大平原と呼ばれています」

「へぇ~」

 大平原というだけあって魔物も多くいるが、好戦的なものはそれほどいないから苦労はない。

 平原を抜けて湿地帯に入れば、一気に空気感が変わった。

「……いますね」

「魔物? どうすればいい?」

「そういうのも自分で考えていただきたいのですが……まず、囲まれる前に行動したほうがいいですね」

「先手必勝?」

「可能であれば」

 そう言えば、クローバーはポケットから取り出した巨大な岩を目の前に出現させて、その上によじ登り始めた。

「よいしょ、っと。ロロくんは?」

「僕はここで大丈夫です。見えますか?」

「……うん。ここからだとワードッグが五匹見える。もうやっていい?」

「いつでもどうそ」

 すると、弓と取り出したクローバーが矢を射った。

 ここからでもわかる。およそ二キロ先から迫ってきているワードッグに矢が突き刺さり、倒れていく。

 やはり精度が良い。練習もせずにこれだけの距離を矢一本で的確に急所に当てられるのは才能だろう。とはいえ、あくまでも魔物が相手ならば、というだけの話だ。

「――よしっ。十匹」

「それは良いですが、遠くだけでなく近くを警戒するのも忘れないでください」

 忠告した時には、すでに周りを囲むようにワードッグの群れが牙を剥き出しにしていた。

「えっ! いつの間に!?」

「群れで狩りをする、と言ったはずです。遠くから向かってきたのは陽動で、その間に息を殺して迫ってくるのが本命ですね」

「先に言ってよ!」

「僕も今、知りました。すべての魔物の生態に関して詳しいわけではないので。どう対処しますか?」

「ん~、まずは近寄らせない! 圧縮解除!」

 すると、周囲に岩が出現してワードッグの視界を遮った。

「良い案ですが――まぁ、反省会はあとにしましょう」

 クローバーは岩の間から飛び出してくるワードッグを矢で射抜いているが、さすがに手が足りないか。

 岩の陰からこちらに向かってきたワードッグにナイフを振り下ろし――五匹を殺した。

「これで二十匹? 残りも近くにいるのかな?」

 下りてきた岩を圧縮したクローバーが湿地の沼に足を踏み入れたのを見て、静かに溜め息を吐いた。まぁ、警戒心を身に付けるというのは口で言うほど容易いことでは無い。

「不用意に降りるべきではありませんでしたね」

 その瞬間、沼地の中から飛び出してきたワードッグが一斉に襲い掛かってきた。

「あっ! ――っしゅく解除!」

 咄嗟に放り投げた岩が大きくなりワードッグ六匹は潰れ、残り四匹。

 蹴り上げた一匹は宙を舞い、そこにクローバーが矢を放った。あとの三匹くらいは僕がやろう。

「っ――ふぅ……これで三十匹、ですね」

「……ロロくん、怒ってる?」

「いえ、特には。アルデゴに向かいつつ反省会をしましょう」

「あれ? ワードッグの素材はいいの?」

「ワードッグ自体数が多いのであまり価値がありません。死骸はこの場に放置すれば他の魔物が食べるので、血肉は循環させましょう」

「そっかぁ。じゃあ……反省会?」

「はい。反省会です」

 踵を返し、立ち並んで歩き出した。

「ん~……やっぱり警戒不足?」

「そうですね。ですが、警戒することは慣れれば自然と出来るようになります。それ以上に、今回は現時点での弱点が知れて良かったですね」

「……近寄られると弱い?」

「であれば、どういう対処をしますか?」

「対処? それは近寄られても戦えるようになるってことじゃないよね? なら、そもそも近寄らせない、とか」

「そうです。クローバーさんは弓の扱いにも長けていますし、せっかく圧縮魔法という使い勝手の良い魔法も使えるんです。それを駆使すれば魔物を近寄らせず遠巻きに弓で射ることが……」

「…………」

「…………」

 平原まで戻ったところで覚えた違和感に、二人同時に足を止めた。

「……ロロくん、気付いている?」

「はい。クローバーさんもですか?」

「うん。なんか……揺れてるよね?」

 しゃがみ込んで地面に手を付けば、突き上がってくる揺れを感じる。

「これは――地の底を這いずるような……ドラゴンワームでしょうか」

「魔物?」

「はい。ワーム種の中で、最も強いとされている魔物です。普段は地中にいる魔物を食べながら泳ぐように移動していて、こちらから刺激しない限りは攻撃してくることはありません。ですが、一度ひとたび暴れ出せば上位の冒険者でなければ相手にならないほどだと聞きます」

「じゃあ、ギルドに報告したほうがいいよね?」

「そうですね。依頼達成の報告ついでに――……クローバーさん、今の手持ちの中で最も大きな岩をください」

「おっきいの? それだと……これかな」

 差し出された石を受け取れば、ズシリとくるその重さに大きさが窺える。

「ありがとうございます。下がっていてください」

 揺れが少し離れた瞬間に跳び上がり、地面に向かって石を投げ落とせば、地中深くへと沈んでいった。

「今ので魔物が刺激されたりしない?」

「居ないタイミングを見計らったので大丈夫です。それよりも、クローバーさんの圧縮魔法は離れた場所でも圧縮解除することができますか? 見えていなくとも」

「ん~……うん。多分、大丈夫だと思う」

「では、アルデゴに戻りましょう。この事は内密に」

「ギルドには報告しないってこと? 理由は教えてくれる?」

「もちろんです。この計画の要はクローバーさんなので、全てをお話しします」

 とはいえ、これはあくまでも計画の一部――どころか保険のようなものだ。他の条件が全て揃った上で、初めて使うことになる。

 心を落ち着かせつつ、復讐を続けるとしよう。
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