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第28話 敗者の思惑
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山頂へと辿り着き――一人の男を前にして、体が震えた。
ああ、わかる。目の前にして、確信した。こいつは間違いなく十三人が英雄の一人――不立のトヴィーだ。武器は鉄篭手。純粋な肉弾戦を好む戦闘狂だが、英雄譚の中で使う魔法が明らかになっていない二人の内の一人だ。
ジン曰く――気が付いた時には倒れていた、と。十中八九、魔法による攻撃だろう。まずはそれを解き明かさなければ。
「死臭がするな。それも酷く腐った汚物のような死臭だ。次なる挑戦者よ。貴様――人を殺したことがあるな?」
それが嗅覚なのか野生の勘なのかわからないが、この場この状況で戦わずに帰れるはずが無い。
「クローバーさん。ローブをお願いします」
「うん。気を付けて」
「心得ています」
脱いだローブをクローバーに預けて、トヴィーの前に立った。
「挑戦者よ、名を名乗れ」
「ロロです。そちらは十三人が英雄の一人、トヴィーで間違いありませんか?」
「その通りだ。我は強者との戦いを望む。貴様は強いのか?」
纏う雰囲気はヴァイシュにも似ているが、それ以上の風格を感じる。とはいえ、一筋縄でいかないのは今に始まったことでは無い。
「強いかどうかはわかりませんが――一つ、質問があります。約十年ほど前、東の山中にて行商の馬車を襲ったことは憶えていますか?」
「十年前? 馬車……男女の行商か。もちろん、憶えている。我らのため犠牲になった者のことは、全員な」
「全員、か。罪悪感は?」
「あろうはずがない。むしろ糧になったことを誇るべきだ。しかし、もしもその者共に家族が居たのならば、我らはその復讐の対象として存在するのも当然だろう。つまり、我を殺す者はそういう者であると考えている」
「だとすれば、とうの昔に殺されていて然るべきじゃないのか?」
「殺せる実力がある者には、だ。弱き者にその資格は無い」
話が噛み合わないのはわかっていたことだ。本当に、英雄という奴は――こちらの感情を逆撫でてくる。
「じゃあ、俺にその資格があるのかどうか――試してみよう」
ナイフを抜いて駆け出せば、トヴィーは構える仕草すら見せない。
油断と慢心――それなら遠慮なく首を狙わせてもらう。
「甘い」
一本目のナイフが弾かれた瞬間に拳を引いたトヴィーを見て、全身の血の気が引いた。
「ふんっ!」
振り抜かれた拳はナイフで受けて、同時に体も退いたから衝撃はそれなりに殺せたはずだが、それでも腕が痺れている。さすがは肉弾戦好きの戦闘狂といったところか。
「だが、この程度――っ……なんっ――」
一歩踏み出した時、立っていられずに片膝を着いた。
視界が歪む。脳が揺れる。違和感に鼻を拭えば血が付いた。これが気が付いた時には倒されている、か。喉から何かが込み上げてくる感覚に振り返れば、クローバーとジンは何事も無くこちらに視線を送っている。
考えろ――この攻撃が魔法なのは間違いないだろうが、詠唱無視の魔法なのか肉体強化なのかはわからない。少なくとも外側に影響を及ぼすものなのは確かだが……平衡感覚が狂っているってことは音波か何かか? いや、後ろの二人に影響が無いということは波状的に広がる攻撃ではないはずだ。
どんな魔法を使っているのか突き止めなければ対処のしようも無いが、この程度ならまだ動ける。まだ戦える。大抵の違和感は、痛みで打ち消すことが出来る。
「はぁ――っ!」
握ったナイフの柄でこめかみを殴れば、一瞬だけ飛んだ意識を引き戻して立ち上がった。
「ほう。立つか。だが、そんな者は貴様だけでは無い」
「だろうな。この程度の攻撃、お前の前に殺した四人の英雄の足元にも及ばない」
「……その言が事実かどうか、確かめてやろう」
意趣返しという意識もないのだろうが、どうでもいい。
ナイフを仕舞うのと同時に取り出した八本の投げナイフを、それぞれが違う角度から同時に突き刺さるように飛ばした。
避けられないタイミングで、全てを防ぐことは出来ない。さぁ、どうする?
「浅知恵を――ふんっ!」
トヴィーが握った拳で鉄篭手同士をぶつけた瞬間、広がった魔力の波紋が投げナイフを空中で弾き返した。なるほど、振動か。魔法の正体さえわかれば、戦いに問題は無い。
「改めて――不立のトヴィー、お前は俺が殺す」
「改める必要は無い。貴様では不可能だ」
その言葉を言い終わるのと同時に駆け出して握ったナイフを振った。今度は大振りではなく的確に急所を突くように。
それでも全て拳で弾かれる。ナイフが瞬間的に接する程度では振動が来ることは無い。なら、手数で攻める。そして、空いた脇腹に全力の蹴りを入れた。
「っ――」
まるで大木――いや、ただの鉄の塊を蹴った感覚だ。その時、退く間もなく蹴った脚を掴まれた。
「これで終いだ」
振り下ろされた拳を受けた瞬間に掴んでいた脚を放され、地面に手を着いて起き上がるのと同時に再び斬り掛かればトヴィーが慌てたように防いだのを見て、次の手を出す。
脳が揺れて視界が歪むが、来ることがわかっていれば耐えられないほどでは無い。
それまで一歩も動いていなかったトヴィーの足が下がったのを見逃さず、ナイフを弾いた腕に横から膝蹴りを入れ――その腕に飛び付き脚を絡めて肘関節を極めた。
「片腕貰うぞっ!」
メキメキと骨の軋む音を感じながら腕に力を込めれば、途端に棒のように動かなくなった。
「甘いな。我の魔法は肉体にも作用する」
骨ではなく筋肉を振動させて刺激し、無理矢理に動かしているってわけか。
腕と一緒に体を持ち上げられ――叩き付けられる直前に掴んでいた腕を放して地面に手を付き起き上がった。
どれだけ追い込もうにも立て直す体幹――虚を衝いても揺らぐことのない強さ。今のままの状態ではどう転んでも勝ち目は無い。
ならば、やることは決まっている。
歪む視界に吐き気を覚えながら、倒れないように握ったナイフに力を込めた。遮蔽物の無いこの場所で速さは武器に出来ない。だから、真正面から突っ込む。
「《千手――芯》」
突き出すように空を切った拳から衝撃波が放たれた。投げナイフを弾いた時のような波紋状では無く直線的な軌道。避けることは容易いが、その先にはクローバーとジンがいる。受け切るしかない。
受け止めるようにナイフを構えれば、腕を通過して衝撃が体内を貫いた。
「っ――ゴホッ」
内臓が揺れる。咳と同時に吐き出した血がどす黒く濁っているのは、どこかの臓器が壊れたからかもしれない。
踏み出す足が重い。揺れる――揺れる。意識が、保っていられない。
「ロロくん!」
クローバーの声が遠くに聞こえた瞬間に、傾いた体が地面に倒れ込んだ。
――――
意識が戻ってきた時、体の怠さは残りつつも痛みは消えていた。ナチュラル・ギフトの恩恵に感謝しておこう。
「起きたかぁ、小僧」
その声に体を起こせばベッドの横で椅子に座るジンが居た。
「ジンさん……ここは?」
「ニコウ山の麓にある町の宿だぁ」
山を登る前に宿泊予約をした宿か。
「クローバーさんはどこに?」
「食いもんを調達しに行った。お前の様子をオレに見とけとよぉ」
「そうですか。僕はもう大丈夫ですが、ジンさんの怪我は?」
「問題ねぇ。こんなもんすぐに治る」
とりあえず状況を整理しよう。負けたことは別にいい。というか、状況を鑑みて負けるように動いていたから、今の状態は想定していた通りだ。
トヴィーの魔法についてはわかったし、あとは勝ちの線を探すだけ。それが最も面倒なわけだが、どの英雄にも弱点はある。
「よぉ、小僧ぉ。お前、本気で今日負けた英雄を殺せると思ってんのかぁ?」
「それは問題ないと思います。殺すこと自体は……まぁ、そんなに難しくないです。いくつかの懸念はありますが」
「懸念ん?」
「はい。それについてクローバーさんが戻ってきてから――」
その時、ドアの外に人の気配を感じたがジンと共に警戒することは無かった。
二度のノックの後、入ってきたクローバーは僕を見て驚いたように目を見開いた。
「ロロくん! もう大丈夫なの!?」
「体は大丈夫です。クローバーさんは?」
「私は何も。ロロくんを運ぶのはジンさんも手伝ってくれたから」
「そうでしたか。ジンさんもありがとうございました」
「いんや、オレぁ何もしてねぇよ」
「とりあえず……ご飯、食べる?」
「そうですね。食事にしましょう。ジンさんも一緒に」
本来であれば圧縮魔法で持ってきている食べ物で済むところを買ってきたってことは、ジンに魔法を明かしていないということ。まぁ、正しい選択だ。
パンと干し肉と乾燥豆――いつも通りの食事をしつつ、一息吐いた。
「明日のことについて話しましょうか」
そう言えば、ジンは豆を齧りながら首の骨を鳴らした。
「明日ぁ? なんだ、またトヴィーの下に向かうのかぁ?」
「はい。今日は上手く負けることが出来ましたが……おそらく、トヴィーにこちらを殺す意志はありません」
「ん? どういうこと? 英雄だし、ロロくんが四人も殺したことを知ったんだから、向こうも殺す気で来るんじゃない?」
「いえ、それなら今日のうちに殺されています。何よりも、ここにいるジンさんと頂上へ続く道に倒れていた冒険者たちがその証拠です。ジンさんは何度トヴィーに挑んでいますか?」
「数え切れねぇなぁ。何度となく挑戦しては負けちまっている。そうそう語ることでもねぇけどなぁ」
「力試しに来る冒険者だけでなく、殺しに来ている冒険者も殺していない。トヴィーは強者との戦いを求めていると言っていました。つまり、この先に強くなる可能性がある者を殺すはずはない、ということです」
「それが、殺せる理由?」
「それが、というわけではありません。今日の戦いでトヴィーは僕よりも格上だと確信したはずです。故に今日の明日では油断することでしょう。そして、僕はまだ本気で戦っていないので、明日は最初から全力で行きます」
「はぁ……そんなことで勝てるならオレぁ負けてねぇよぉ。奴の強さは油断してようが慢心していようが関係ねぇ。そもそもなぁ、オレぁお前が英雄四人を殺したってことすら信じていねぇんだけどなぁ」
「信じる信じないはどっちでも構いません。ですが、岩砕のジンさん。明日はあなたの力も貸して頂きたい」
「オレの魔法がどんなもんかも知らねぇのにかぁ?」
「二つ名は魔法を元に付けられると聞きました。凡その予想は付いています」
「……まぁ、いい。それはそれとしてぇ、お前は自分が英雄を殺すんじゃねぇのかぁ?」
「僕にとって重要なのは英雄を殺すことです。僕が英雄を殺すことでは無い。必要とあらば誰であろうとなんであろうと利用させてもらいます。クローバーさんも、よろしくお願いします」
「うん。私はいつでもロロくんに手を貸すよ」
頷くクローバーと目を合わせ、視線をジンに向けた。
「オレぁ、手を貸さねぇとは言ってねぇ。まずは話を聞かせろぉ。どうするかはそれから決める」
「はい。どうするかはジンさんにお任せします」
ルール七・目的のための手段を間違えるな――手はいくらでもある。その中から何を選択するのか。実際のところ方法はどうでもいい。何を犠牲にしても、英雄を殺せさえすれば。
ああ、わかる。目の前にして、確信した。こいつは間違いなく十三人が英雄の一人――不立のトヴィーだ。武器は鉄篭手。純粋な肉弾戦を好む戦闘狂だが、英雄譚の中で使う魔法が明らかになっていない二人の内の一人だ。
ジン曰く――気が付いた時には倒れていた、と。十中八九、魔法による攻撃だろう。まずはそれを解き明かさなければ。
「死臭がするな。それも酷く腐った汚物のような死臭だ。次なる挑戦者よ。貴様――人を殺したことがあるな?」
それが嗅覚なのか野生の勘なのかわからないが、この場この状況で戦わずに帰れるはずが無い。
「クローバーさん。ローブをお願いします」
「うん。気を付けて」
「心得ています」
脱いだローブをクローバーに預けて、トヴィーの前に立った。
「挑戦者よ、名を名乗れ」
「ロロです。そちらは十三人が英雄の一人、トヴィーで間違いありませんか?」
「その通りだ。我は強者との戦いを望む。貴様は強いのか?」
纏う雰囲気はヴァイシュにも似ているが、それ以上の風格を感じる。とはいえ、一筋縄でいかないのは今に始まったことでは無い。
「強いかどうかはわかりませんが――一つ、質問があります。約十年ほど前、東の山中にて行商の馬車を襲ったことは憶えていますか?」
「十年前? 馬車……男女の行商か。もちろん、憶えている。我らのため犠牲になった者のことは、全員な」
「全員、か。罪悪感は?」
「あろうはずがない。むしろ糧になったことを誇るべきだ。しかし、もしもその者共に家族が居たのならば、我らはその復讐の対象として存在するのも当然だろう。つまり、我を殺す者はそういう者であると考えている」
「だとすれば、とうの昔に殺されていて然るべきじゃないのか?」
「殺せる実力がある者には、だ。弱き者にその資格は無い」
話が噛み合わないのはわかっていたことだ。本当に、英雄という奴は――こちらの感情を逆撫でてくる。
「じゃあ、俺にその資格があるのかどうか――試してみよう」
ナイフを抜いて駆け出せば、トヴィーは構える仕草すら見せない。
油断と慢心――それなら遠慮なく首を狙わせてもらう。
「甘い」
一本目のナイフが弾かれた瞬間に拳を引いたトヴィーを見て、全身の血の気が引いた。
「ふんっ!」
振り抜かれた拳はナイフで受けて、同時に体も退いたから衝撃はそれなりに殺せたはずだが、それでも腕が痺れている。さすがは肉弾戦好きの戦闘狂といったところか。
「だが、この程度――っ……なんっ――」
一歩踏み出した時、立っていられずに片膝を着いた。
視界が歪む。脳が揺れる。違和感に鼻を拭えば血が付いた。これが気が付いた時には倒されている、か。喉から何かが込み上げてくる感覚に振り返れば、クローバーとジンは何事も無くこちらに視線を送っている。
考えろ――この攻撃が魔法なのは間違いないだろうが、詠唱無視の魔法なのか肉体強化なのかはわからない。少なくとも外側に影響を及ぼすものなのは確かだが……平衡感覚が狂っているってことは音波か何かか? いや、後ろの二人に影響が無いということは波状的に広がる攻撃ではないはずだ。
どんな魔法を使っているのか突き止めなければ対処のしようも無いが、この程度ならまだ動ける。まだ戦える。大抵の違和感は、痛みで打ち消すことが出来る。
「はぁ――っ!」
握ったナイフの柄でこめかみを殴れば、一瞬だけ飛んだ意識を引き戻して立ち上がった。
「ほう。立つか。だが、そんな者は貴様だけでは無い」
「だろうな。この程度の攻撃、お前の前に殺した四人の英雄の足元にも及ばない」
「……その言が事実かどうか、確かめてやろう」
意趣返しという意識もないのだろうが、どうでもいい。
ナイフを仕舞うのと同時に取り出した八本の投げナイフを、それぞれが違う角度から同時に突き刺さるように飛ばした。
避けられないタイミングで、全てを防ぐことは出来ない。さぁ、どうする?
「浅知恵を――ふんっ!」
トヴィーが握った拳で鉄篭手同士をぶつけた瞬間、広がった魔力の波紋が投げナイフを空中で弾き返した。なるほど、振動か。魔法の正体さえわかれば、戦いに問題は無い。
「改めて――不立のトヴィー、お前は俺が殺す」
「改める必要は無い。貴様では不可能だ」
その言葉を言い終わるのと同時に駆け出して握ったナイフを振った。今度は大振りではなく的確に急所を突くように。
それでも全て拳で弾かれる。ナイフが瞬間的に接する程度では振動が来ることは無い。なら、手数で攻める。そして、空いた脇腹に全力の蹴りを入れた。
「っ――」
まるで大木――いや、ただの鉄の塊を蹴った感覚だ。その時、退く間もなく蹴った脚を掴まれた。
「これで終いだ」
振り下ろされた拳を受けた瞬間に掴んでいた脚を放され、地面に手を着いて起き上がるのと同時に再び斬り掛かればトヴィーが慌てたように防いだのを見て、次の手を出す。
脳が揺れて視界が歪むが、来ることがわかっていれば耐えられないほどでは無い。
それまで一歩も動いていなかったトヴィーの足が下がったのを見逃さず、ナイフを弾いた腕に横から膝蹴りを入れ――その腕に飛び付き脚を絡めて肘関節を極めた。
「片腕貰うぞっ!」
メキメキと骨の軋む音を感じながら腕に力を込めれば、途端に棒のように動かなくなった。
「甘いな。我の魔法は肉体にも作用する」
骨ではなく筋肉を振動させて刺激し、無理矢理に動かしているってわけか。
腕と一緒に体を持ち上げられ――叩き付けられる直前に掴んでいた腕を放して地面に手を付き起き上がった。
どれだけ追い込もうにも立て直す体幹――虚を衝いても揺らぐことのない強さ。今のままの状態ではどう転んでも勝ち目は無い。
ならば、やることは決まっている。
歪む視界に吐き気を覚えながら、倒れないように握ったナイフに力を込めた。遮蔽物の無いこの場所で速さは武器に出来ない。だから、真正面から突っ込む。
「《千手――芯》」
突き出すように空を切った拳から衝撃波が放たれた。投げナイフを弾いた時のような波紋状では無く直線的な軌道。避けることは容易いが、その先にはクローバーとジンがいる。受け切るしかない。
受け止めるようにナイフを構えれば、腕を通過して衝撃が体内を貫いた。
「っ――ゴホッ」
内臓が揺れる。咳と同時に吐き出した血がどす黒く濁っているのは、どこかの臓器が壊れたからかもしれない。
踏み出す足が重い。揺れる――揺れる。意識が、保っていられない。
「ロロくん!」
クローバーの声が遠くに聞こえた瞬間に、傾いた体が地面に倒れ込んだ。
――――
意識が戻ってきた時、体の怠さは残りつつも痛みは消えていた。ナチュラル・ギフトの恩恵に感謝しておこう。
「起きたかぁ、小僧」
その声に体を起こせばベッドの横で椅子に座るジンが居た。
「ジンさん……ここは?」
「ニコウ山の麓にある町の宿だぁ」
山を登る前に宿泊予約をした宿か。
「クローバーさんはどこに?」
「食いもんを調達しに行った。お前の様子をオレに見とけとよぉ」
「そうですか。僕はもう大丈夫ですが、ジンさんの怪我は?」
「問題ねぇ。こんなもんすぐに治る」
とりあえず状況を整理しよう。負けたことは別にいい。というか、状況を鑑みて負けるように動いていたから、今の状態は想定していた通りだ。
トヴィーの魔法についてはわかったし、あとは勝ちの線を探すだけ。それが最も面倒なわけだが、どの英雄にも弱点はある。
「よぉ、小僧ぉ。お前、本気で今日負けた英雄を殺せると思ってんのかぁ?」
「それは問題ないと思います。殺すこと自体は……まぁ、そんなに難しくないです。いくつかの懸念はありますが」
「懸念ん?」
「はい。それについてクローバーさんが戻ってきてから――」
その時、ドアの外に人の気配を感じたがジンと共に警戒することは無かった。
二度のノックの後、入ってきたクローバーは僕を見て驚いたように目を見開いた。
「ロロくん! もう大丈夫なの!?」
「体は大丈夫です。クローバーさんは?」
「私は何も。ロロくんを運ぶのはジンさんも手伝ってくれたから」
「そうでしたか。ジンさんもありがとうございました」
「いんや、オレぁ何もしてねぇよ」
「とりあえず……ご飯、食べる?」
「そうですね。食事にしましょう。ジンさんも一緒に」
本来であれば圧縮魔法で持ってきている食べ物で済むところを買ってきたってことは、ジンに魔法を明かしていないということ。まぁ、正しい選択だ。
パンと干し肉と乾燥豆――いつも通りの食事をしつつ、一息吐いた。
「明日のことについて話しましょうか」
そう言えば、ジンは豆を齧りながら首の骨を鳴らした。
「明日ぁ? なんだ、またトヴィーの下に向かうのかぁ?」
「はい。今日は上手く負けることが出来ましたが……おそらく、トヴィーにこちらを殺す意志はありません」
「ん? どういうこと? 英雄だし、ロロくんが四人も殺したことを知ったんだから、向こうも殺す気で来るんじゃない?」
「いえ、それなら今日のうちに殺されています。何よりも、ここにいるジンさんと頂上へ続く道に倒れていた冒険者たちがその証拠です。ジンさんは何度トヴィーに挑んでいますか?」
「数え切れねぇなぁ。何度となく挑戦しては負けちまっている。そうそう語ることでもねぇけどなぁ」
「力試しに来る冒険者だけでなく、殺しに来ている冒険者も殺していない。トヴィーは強者との戦いを求めていると言っていました。つまり、この先に強くなる可能性がある者を殺すはずはない、ということです」
「それが、殺せる理由?」
「それが、というわけではありません。今日の戦いでトヴィーは僕よりも格上だと確信したはずです。故に今日の明日では油断することでしょう。そして、僕はまだ本気で戦っていないので、明日は最初から全力で行きます」
「はぁ……そんなことで勝てるならオレぁ負けてねぇよぉ。奴の強さは油断してようが慢心していようが関係ねぇ。そもそもなぁ、オレぁお前が英雄四人を殺したってことすら信じていねぇんだけどなぁ」
「信じる信じないはどっちでも構いません。ですが、岩砕のジンさん。明日はあなたの力も貸して頂きたい」
「オレの魔法がどんなもんかも知らねぇのにかぁ?」
「二つ名は魔法を元に付けられると聞きました。凡その予想は付いています」
「……まぁ、いい。それはそれとしてぇ、お前は自分が英雄を殺すんじゃねぇのかぁ?」
「僕にとって重要なのは英雄を殺すことです。僕が英雄を殺すことでは無い。必要とあらば誰であろうとなんであろうと利用させてもらいます。クローバーさんも、よろしくお願いします」
「うん。私はいつでもロロくんに手を貸すよ」
頷くクローバーと目を合わせ、視線をジンに向けた。
「オレぁ、手を貸さねぇとは言ってねぇ。まずは話を聞かせろぉ。どうするかはそれから決める」
「はい。どうするかはジンさんにお任せします」
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